鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第四話 知りたい

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「鬼神王様に色々話したいことがある。メリーナ、少し外してくれないか?」


「了解で~す」


 メリーナは鬼神王が今まで着ていた服を持ち、サッと部屋から出て行った。
 話したいこととはなんだろう。
 鬼神王はシュヴェルツェの方を見た。


「鬼神王様。この国のことや前の貴方のこと、まだ何も教えていませんでしたよね」

「確かに」


 そういえばまだ何も知らない。
 王であるのにこの国の名前すら知らないのだ。


「ここの国はアタラヨ鬼神国と言います。国名は貴方が考えたのですよ」

「そうなんだ......」


 全く覚えていない。
 覚えているのであれば是非由来を教えていただきたいぐらいだ。


「私たちは鬼神。人間を不幸にさせるために鬼神の力をつかっていきます」


 鬼神王はなるほど......と頷いた。
 人間を不幸にさせる......とは良いことなのだろうか。
 よく分からなかった。......きっと悪いことでは無いのだろう。
 それより......


「人間ってなに?」


 そう言うと、シュヴェルツェは目を大きく見開いた。
 そうか。皆人間とは当たり前のように知っているようなことだろう。
 それなのに忘れてしまったのだ。
 記憶を消すならこういう大切な記憶は消さないで欲しかったものだ。
 もし前の自分と話せるならば『名前やこの世界のことは消さないで』と伝えたい。


「人間とは神という"悪神"が作り出した生き物です。当然人間も悪」


 神......とは悪神のことだったのか。通りで先程的にされていたわけだ。


「この世界は神界と人間界に別れております。神界は私たちが住むところ。人間界は先程説明した人間がするところです」

「なんで神界っていうの?鬼神界......じゃなくて......?」


 鬼神王がそう言うとシュヴェルツェは眉間に皺を寄せた。
 聞いてはいけないことだったのだろうか。


「それは......複雑な理由があるのです。記憶を全て失った鬼神王様に話すと恐らく混乱してしまうと思うので、また今度話しますね」

「分かった」


 鬼神王は頷いた。


「他になにか知りたいことはありますか?」

「えっと......しゅ......しゅべ......しゅべるちぇ......?」


 鬼神王が言いにくそうにしているとシュヴェルツェはクスッと肩を震わせて笑った。


「シュ、ヴェ、ル、ツェ、です。呼びにくいですよね」

「しゅ...ヴぇる......つぇ.........うーん......ヴェルって呼んでもいい?」

「どうぞ」


 シュヴェルツェはまたクスッと微笑んだ。
 名前が上手く言えなくて笑ったのは分かるが、今回は何故笑ったのだろう。
 鬼神王はよく分からなかったが、それより聞きたいことがあるため、気にしないことにした。


「ヴェルは何者なの?あと......メリーナは?」

「私は鬼神王様のおかげで目覚めた一番目の鬼神です。メリーナはただの側近ですよ」


 鬼神王は首を傾げた。


「一番目の...鬼神?じゃあ僕は?」


 シュヴェルツェが一番目なら自分は何者なのだろう。これは忘れてはいけないことだと思うが......文句を言うなら前の自分に言ってくれ。そう思った。


「あぁ...えっと......貴方も鬼神ですよ」


 シュヴェルツェは目を泳がせながら言った。
 何故はっきりと言わないのだろう。余計にややこしくなった。


 (僕がこの世界で一番最初に誕生した鬼神で......シュヴェルツェは僕が誕生させた一番目の鬼神ってことでいいのかな......?)


 分からないかそういう事だということにしておこう。話の流れ的にこうなるだろう。


「あっ......あと、なんで僕には皆みたいな角がないの?」


 鬼神王は自分の頭をつんつんとさせながら言った。


「それは......何故でしょうね。王だから......じゃないですか?」

「ヴェルにも分からないんだ。僕も角欲しいな......」


 鬼神王はシュヴェルツェの角を眺めながら言った。
 皆の角の形は様々でかっこいい。中には角の部分に飾りをつけたりしてオシャレをしているものもいる。そんなかっこいい角が自分にはない。
 羨ましく思った。


「しかし鬼神王様には体にかっこいい模様があるじゃないですか」

「でもこれは傷を隠すためなんでしょ?そうだ、なんで僕の体には大きな傷があるの?あとなんで右腕が無かったの?」


 そう聞くと、シュヴェルツェの顔が一気に暗くなった。
 また聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと思った。


「知りたいですか......?」

「出来れば聞きたいかな......」


 前の自分が記憶を消したとはいえ、何があって記憶を消したのかは知らない。
 今の自分が知りたいと思っているのだから、出来るのであれば知りたい。


「首から脇腹まで繋がっている大きな傷は......私がつけてしまったものなのです」

「......え...?」


 それは予想外だった。まさかこんな優しそうなシュヴェルツェが自分の体に傷を残したのだと?
 何があったのだろうか。想像がつかない。


「戦いの時に......私が誤って鬼神王様に攻撃してしまったのです......私はなんてことを......」


 シュヴェルツェは心から反省しているようで、鬼神王の前で跪いた。


「罰なら受けます。鬼神王様、どうかお許しください......」

「そんなの......正直に言わなくても良かったのに......」


 もちろん許す。前の自分がどうだったのかは知らないが、今の自分は許す。
 もしここでシュヴェルツェが傷つけたのは他の鬼神で......などと嘘をついても鬼神王は信じていた。
 それなのに本当のことを言うということは......かなり反省しているのだろう。


「隠すなど出来ません。私のせいなのですから......」

「正直に言ったの、偉いぞ。よしよし」


 鬼神王がそう言って目の前で跪いているシュヴェルツェの頭を撫でると、シュヴェルツェは目を大きく見開き驚いている。


「......あれ?前の僕はそんなことしなかった?」

「......あー......そうですね......あ、いや、でも......していたかもしれません」


 なんだこのややこしい返し方は。
 まぁいい。過去の自分のことばかり考えていても意味が無い。


「ちなみに右手は"神"との戦いで斬られてしまったのです。私がそばにいておきながら何もできませんでした......」


 戦いとは神との戦いだったのか。まぁ敵は神しかいないのだが。

 シュヴェルツェは再び頭を下げた。しかし今鬼神王は生きている。恐らく自分が眠りについたあと、一神で残りを倒してくれたのだろう。
 鬼神王は先程と同じようにシュヴェルツェの頭を撫でた。


 ......そういえば。
 ふとあることが気になった。


「ねぇ、僕の名前ってなに?」

「名前?鬼神王様ではありませんか」

「じゃなくて、ヴェルやメリーナみたいな名前。なかったの?」


 鬼神王というのはあくまで呼び名だ。
 本来の名前ではないだろう。


「申し訳ありませんが、教えることは出来ません」

「え~、なんでー」


 シュヴェルツェは申し訳なさそうに言った。
 何故教えることが出来ないのだろうか。まさか記憶を消したのと関係があるのかもしれない。


「本来の名前と言うのは無くなった記憶と関係しております。本来の名前を知ると、無くなった記憶は全て元に戻ってしまうのです」


 やはりそうだったか。


「これに関してはどうしても教えることはできません。今の貴方が良くても、前の貴方が記憶を消したいと言って消したのです。それほど苦しい過去だったのですよ」

「そうなんだ......」


 知りたかったのだが、そういう理由があるのなら聞かない方が良いだろう。
 別に名前がなくても、『鬼神王』という呼び名があるため不便ではないだろう。

 特に今は名前が欲しいという訳でもない。
 欲しくなったら考えればいいだけだ。

 すると鬼神王の頭にふと気になることが一つ浮かんだ。


「あっ......最後にひとつ!」

「なんでしょう?」


 シュヴェルツェはいくらでもどうぞという顔をしている。
 むしろあと一つで良いのか、まだ聞きたいことがあるのではないかと思っているぐらいだ。


「僕って何日ぐらい眠っていたの?」

「そうですねぇ。......何日......レベルではありませんよ。十二年です」


 それを聞いた途端、鬼神王は「えっ」と声を出して驚いた。
  

「十二年も!?」

「えぇ」


 二三日ほどだと思っていた。そんなに眠っていたとは......。

 十二年も眠っていたということは......それはもう一度死んでいるのではないかと思ってしまう。
 なぜ目覚めるのにそれほど時間がかかってしまったのだろうか。


「鬼神王様は戦いで力を使いすぎました。そして致命傷を受けました。致命傷で済んだものの、鬼神王様の体はもう限界を越えていたため、深い眠りについてしまったのです。目覚めた時に湖にいましたよね。あそこは鬼神の力を回復させるために作られたところなのです。鬼神の力が回復すれば、傷も同時に癒えていきます。今はもうなんともないですよね?」


 鬼神王は頷いた。
 そういう事だったのか。
 通りで長く眠っていたわけだ。


「それと、鬼神王様が眠っていた十二年の間に鬼神たちは次々と誕生していったのですよ。鬼神王様は眠る前に鬼神の力を使って、人間たちが神へ対する怒りや不満の気持ちをたくさん増やして下さったため、これだけの鬼神たちが生まれたのです」

「なるほど......」


 鬼神王はコクコクと頷いた。
 確かにそうだ。昔の自分は鬼神たちと会ったことがないということは、眠っている間に誕生していたのだう。
 今考えると、最初に思っていた三、四日ぐらい眠っていただけではこんなに多く鬼神はいないだろう。
 鬼神の誕生には時間がかかるそうだ。


「それに鬼神王様が眠っている間も私や鬼神たちが人間に不幸を与えていたので、力はますます強くなっています。けれど鬼神王様には叶いませんよ、ふふ」


 自分の力の強さは何となくわかったが、他の鬼神がどれほどのレベルなのか知らないため、まだ自分の強さには疑っているところがある。


 (いつかみんなの力見てみたいな)


 鬼神王は外を眺めた。
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