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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百四十六話 右腕

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「母上!父上!夢華!」

「雪蘭!これはもう君たちが知っている神ではない!」


 そう言っていると、後ろから針が飛んできた。
 美梓豪は防御結界を張り、何とか防いだ......が、それは自分だけだった。
 いつの間にか美雪蘭たちは操られている美朝阳たちのそばに居たため、結界が届かず刺さってしまった。

 恐らく美雪蘭が走っていってしまい、それを止めに美暁龍も離れてしまったのだろう。
 二神はその場で倒れた。


「......そんな......」


 美梓豪は二神の所へ行こうとしたが、それどころでは無いことに気づいた。


「光琳!」


 遠くまで来たはずなのに目の前には天光琳たちがいる。

 天光琳たちはすぐさま三神を追ったのだ。
 天光琳のことだ。走ればすぐに追いつくのだが、少し離れた所へ移動できる能力を数回使って三神を追いかけた。使っている間は姿が見えなくなるため、三神が油断した時に狙える。
 ......が、さすが美梓豪だ。油断も隙も見せず、結界を張るのも早かった。


「"神王"。さすがだね」

「神王......」


 天光琳は美梓豪と話したいようで攻撃はしてこなかった。美梓豪は天光琳のあることに引っかかった。


「俺の名前は分かるか?」

「分からない。会ったことあったっけ?」

「......」


 天光琳はかなり記憶が消えているようで、美梓豪のこと......いや、玲瓏美国のことは全く覚えていなかった。


「思い出せ、このままでは完全に取り憑かれるぞ!」

「取り憑かれる...?誰に?」

「コイツだ」


 美梓豪はシュヴェルツェを指さした。
 シュヴェルツェは目を細め、腕を組んだ。


「俺が光琳様に取り憑いていると?」

「そんなはずない。これは僕の意思でやっている 」


 天光琳は否定した。
 取り憑かれているという自覚がないのだ。
 ......これはもう手遅れだ。
 関わりの深い神が入れば何とかなる可能性があるのだが......もうとっくに亡くなっている。
 どうするべきなのだろうか。


「んー......もういい?これで神界は滅びちゃうけど、最後に言いたいことない?」


 天光琳は剣を作り出し、美梓豪に向けた。


「これで滅びる......だと?」

「そう。お前を殺したらおしまいだ。他にもう居ないみたいだからね」


 天光琳は微笑んではいないが、自慢げに言った。


「そうか」


 先程まで下を向いていた美梓豪は顔を上げ、城の方を見た。
 天光琳たちもそちらに目を向ける。


 (城に何かあるのか?)


 いや、城にはべトロたちが沢山いる。残っているなどありえない。
 それにもう神の気配がない。
 鬼神の力を使い、神がいるかどうか確かめても美梓豪しか反応しない。
 これは油断させるための罠なのだろうか。


「......なにも感じないか」

「......どういうことだ」

「残念ながら、俺を殺したら最後と言う訳では無いのだぞ」

「!?」


 美梓豪がそう言った次の瞬間。

 天光琳の真横に何か小さな棒状のものが飛んできた。
 ギリギリで避け、当たらなかった。
 これは一体どこから飛んできたのだろうか。


「光琳様!」

「なっ」


 なんといつの間にか周りにはまだ生きている神々が立っていた。天光琳とシュヴェルツェはあっという間に囲まれてしまった。


「どういうことだ!」

「君でも分からなかったのか」


 美梓豪は下がり、神々のそばまで来た。
「梓豪様」と言って数名の神が美梓豪の前に立つ。


「どういうことか......それは神の力が元々高い者を集め、毎日神の力を高めていた。そしてそれと同時に特別な儀式を行い、気配を消す能力を新たに作り出した。ここにいる者たちはその能力を完璧に身につけた者たちなのだ」


 特別な儀式......それは多くの神の力が必要だ。
 新たに術を作り出す時、新たに国を作り出すときに使う儀式だ。

 一カ国の神を合わせても足りない。だが、現在の玲瓏美国には他国から避難してきた神々が沢山いる。
 そのため、特別な儀式を行うことが出来たのだ。
 王が決められた紋を描き、神々が呪文を唱える。五時間ほどかかる儀式だ。
 五時間ずっと呪文を唱え続けなければいけない。
 とても大変な儀式だ。

 そして特別な儀式は無事に成功した。
 新たに術を生み出せる。そして美梓豪は『気配を消す能力』を作り出した。
 作り出した能力は作り出した本神(ほんにん)が使うことが出来る。
 更に他の神が使えるようにするには、三日以内に百人以上の人間の願いを叶えなければ行けない。

 神は多くて一日十組ぐらいしか人間の願いを叶えることが出来ない。神の力が足りなくなってしまうからだ。
 そのため、百人以上の願いを叶えるにはまず、神の力を高めなければ行けないのだ。
 そして毎日欠かさず修行や稽古をし、人間の願いを沢山叶えていくことで、神の力はグンと上がる。

 そして神々はどんどん強くなっていき、新たに作りだした気配を消す能力を手に入れたものがどんどん増えて行った。
 見たところ、百神ほどいるだろう。
 多く感じるが、これでも少ない方だ。

 三日以内に百人とは相当きつい。
 いまここにいる神々たちでも神の力はギリギリで、今にでも倒れてしまいそうなほど顔色を悪くしていた神がいたそうだ。

 そんなギリギリのなか、天光琳やシュヴェルツェたちは鬼神の力を使い人間の願いを叶えることを邪魔していた。
 そのため、途中で倒れてしまったり、神の力が足りなくて出来なかった神が大勢いる。美朝阳たちもだ。
 だが、ここにいる神々は運良く邪魔されなかった者たちだ。

 そのため気配を消す能力を手に入れている。

 気配を消す能力を使う理由は、天光琳たちを油断させるためだ。

 鬼神たちは最後に国王を倒す。その噂が広まっており、美梓豪はある作戦が頭に浮かんだ。

 万が一自分だけが生き残った場合、鬼神たちは当たり前だが、自分にだけ目を向ける。
 ならば数名気配を消して、皆が自分に目を向けている間、後ろから数名の神が攻撃すれば良いのではないか......と。

 そのため特別な儀式を行い新たな能力を作り出した。

 そしてその能力を得た者は、鬼神が現れたら気配を隠しながら戦い、もし皆が殺されてしまったら美梓豪が襲われている時に現れる......という作戦を立てた。

 作戦は成功。......しかし勝たないと意味が無い。

 天光琳は剣ではなく扇を持ち、攻撃を始めた。
 神々も攻撃する。

 今まで戦ってきた神とは比べ物にならないぐらい強かった。
 奇跡の神天麗華よりは劣るが、かなり強いものだった。
 さらにその強い神が沢山いるという状況だ。天光琳だけでは勝てそうになく、シュヴェルツェやべトロまで加わってきた。


「光琳は殺すな、捕らえるだけでよい!」

「へぇ、随分と余裕だねぇ。僕を捕らえることすら出来ないと思うけど」


 天光琳の動きは素早く攻撃の一つ一つが重い。
 捕らえると言っても、天光琳の事なら簡単に逃げ出してしまいそうなため、殺さないというのはとても難しいことだ。
 手加減しなくてはいけないからだ。
 けれど天光琳たちは本気だ。手加減などするはずがない。


「っ!」

「光琳様!」


 天光琳はいつの間にか囲まれてしまい、後ろにいた神に右肩を針のようなもので刺されてしまった。


「かすり傷だ、はは、お返ししてあげるよ」


 天光琳の力は一気に上がった。
 天光琳は扇を持って中を浮きながら攻撃していく。
 その姿はとても美しいが、やっていることは残酷だ。

 神々は必死に防御結界で身を守り、攻撃することが出来なくなった。


「弱い弱い!」


 天光琳は火の玉をそこら中に放った。火の玉は地面や結界に触れると爆発する。
 結界は固かったが、天光琳の攻撃には耐えきれず、じわじわと壊れていく。
 そして壊れた者から狙って攻撃する。


「あはは、僕を捕らえようなんて、無理だよね!」


 天光琳がそう言った次の瞬間。


「!?」


 扇を持っていた右手が軽くなった。
 と思ったら、今までにない強い痛みが全身に走った。


「ああああっ!」


 天光琳は痛みに耐えきれず、その場でしゃがみ込んだ。
 シュヴェルツェはすぐさま天光琳の側へいき、確認する。


「光琳様......っ!腕が......」


 天光琳の右腕がなかった。
 右肩からは血がドッと大量に流れてきて、天光琳は苦しそうにしている。

 一体誰が......。


「アイツか!」


 シュヴェルツェが目を向けたのは......美梓豪だった。

 美梓豪は少し離れたところで......剣を持ち、二神を見ている。
 剣には血がついている。
 間違えない。美梓豪だ。


「よくも光琳様を!」

「それはこっちのセリフだ!!」


 シュヴェルツェが美梓豪に攻撃をした......と思ったら、目の前に神々が現れ攻撃を防いだ。


「梓豪様は天光琳を!」

「ここは俺たちが!」


 震えながらも必死に戦う神々。


「ありがとう」


 美梓豪は眉間に皺を寄せ、申し訳ない気持ちを抑えつつ例を言った。

 そして素早く天光琳の元へいく。

 天光琳は目に涙を浮かべもがきながら必死に右肩を抑えている。


「光琳!すまない!」

「......っ」


 天光琳は立ち上がり、左手で剣を持った。


「この状態で戦えば死ぬぞ!俺はお前を殺したいわけじゃない。だから剣を置いてくれ!」


 しかし天光琳は利き手とは反対の左手で美梓豪を攻撃する。
 美梓豪も剣を持ち、天光琳の剣を受け止めた。
 そして自分の剣で弾く。


「俺も昔草さんに教えてもらったからな、剣は一応出来るんだ」



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