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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百四十五話 仲間

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「せめて夢華たちだけでも逃げられたら......」


 美梓豪は頭を抱えた。
 他国へ逃がすつもりだったのだが、もう他国へ避難することが出来ないため、前に言っていた計画は台無しだ。


「私たちがここで殺されれば......世界から神は消える......」


 美朝阳がそう言うと皆は黙り込んだ。
 神がいなくなると次に被害があるのは人間たちだ。
 願いを叶えて貰えなくなるだけではなく、世界から光が消えるだろう。
 世界は神が作り出したものだ。神がいなくなれば木々は枯れ、水はなくなり、神が与えた命そのものも無くなってしまう。


「大丈夫だ。玲瓏美国は簡単には滅びぬ」


 美梓豪がそう言うと突然、廊下からベタ...ベタ...という音が聞こえてきた。
 なんの音かと一神の護衛神が音が聞こえる方向へと向かった。
 すると......「うわぁぁあっ」という悲鳴が聞こえ、微かに生々しい音が聞こえたあと、直ぐに静かになった。
 美夢華は怖くなって美朝阳の手を握る。
 美暁龍と美雪蘭も美朝阳の後ろに隠れた。


「な......なにがあったの......?」


 そう言った瞬間。音が聞こえてくる方から、大きな影が見えた。そしてその影がどんどん大きくなっていき......ドロドロとした謎の生物が姿を現した。
 一体ではない、見たところ十体以上はいるだろう。

 美梓豪は皆の前にたち、扇子を持ってくるりと回った。
 そしてドロドロの生物......べトロたちに攻撃をした。
 美梓豪の一撃はとても威力が高かった。
 べトロたちの胸元を貫き、後ろの窓ガラスが割れた。

 ......が。穴の空いた胸元はじわじわと戻っていき、べトロたちは何事も無かったかのように美梓豪たちに近づいていく。


「に......逃げましょう!」


 美鈴玉がそう言うと皆は頷き、逃げ出した。
 美ルーナは護衛神に車椅子を押してもらい、皆と一緒に城の外へ出ようとした......が。


「うっ」


 美梓豪は瞬時に振り返った。
 美ルーナの声だ。


「!?」


 美ルーナと車椅子を押してくれていた護衛神には大きな針が刺さっていた。

 これはべトロたちの攻撃なのだろうか......。
 ......いや、違う。


「早く......行って......」

「......ルーナ......」

「早く!」


 美梓豪は歯を食いしばり、振り返って走っていた。
 愛する美ルーナを捨てて逃げる。どんなに辛いことだろうか。
 しかしここで一緒に殺されるより、生き残って欲しい、そういう思いで美ルーナが言ったのだから、立ち止まる訳にはいかない。


「梓豪様!私たちが時間を稼ぎます!」


 数名の護衛神たちはべトロたちの前に立った。


「すまない。......無事を祈る」

「はい!」


 そう言って護衛神たちは攻撃を始めた。
 美梓豪たちは急いで城から出ていく。


「神王様をお守りするぞ!この命をかけてでも!」

「へぇ」


 べトロたちが出す呻き声のような低い声とはまた違った、少し高くてどこかで聞いたことがあるような声が聞こえた。


「光琳......」


 地面に倒れている美ルーナがボソッと呟いた。
 護衛神たちの心臓の音は更に大きくなる。


「天光琳、どこだ!」

「でてこい!」


 すると、護衛神たちは数本の針に囲まれた。針の先は護衛神の方へ向いており、中に浮いて止まっている。
 いつ飛んできてもおかしくは無い。


「逃げろ!」と言った瞬間、針は光の速さで飛んできた。護衛神たちは次々と倒れていく。
 そして倒れたところを天光琳は剣で刺していく。一神一神丁寧に。


「光琳......やめて...お願い......」


 最後に美ルーナと目が合ったが、天光琳はそのまま剣で刺した。



 美梓豪たちが逃げている間、足止めをしてくれていた護衛神たちは皆一瞬でやられてしまった。べトロたちの威力もますます上がっていく。

 城の外を出ると、外にもべトロたちがそこら中にいて、どこを見ても殺されていく神々のことが目に入ってしまう。
 美朝阳は美夢華たちに目を隠すようにと言われ、三神は目を隠した。しかし神々の悲鳴やぐしゃぐしゃと嫌な音は耳に入ってくる。
 見ていて気分が悪くなってしまうほどだ。


「!」


 美梓豪はべトロと目が合ってしまった。
 べトロたちは美梓豪たちの方へ向かって歩いてくる。
 歩いてくると言っても、神からすると走っている速さだ。
 美梓豪は防御結界を張ったあと、べトロたちにむかって琵琶を使って攻撃をした。
 美梓豪が人間の願いを叶えるときに使う弦楽器は琵琶だ。
 しかしいくら攻撃しても無駄だった。
 どこか弱点はないのだろうか。
 首を狙っても頭を狙っても、すぐに治ってしまう。


「こいつらには攻撃が効きませんっ!父上、どうされますか!?」


 美梓豪は唇を噛んだ。
 まさかここまで強いとは思っていなかった。
 そしてあっという間に皆はベトロたちに囲まれてしまった。
 もう逃げられない。攻撃が効かないと言うのにどうすればよいのだろうか。

 すると、目の前に黒い煙が現れた。
 その煙はどんどん神の形へとなっていき......二神の後ろ姿が現れた。それは......天光琳とシュヴェルツェだ。


「......光琳......」

「お兄様!!」

「夢華!!」


 美朝阳の後ろで目を閉じていたはずの美夢華は突然走り出し、天光琳の方へ走ってきた。
 美朝阳は急いで追いかける。


「夢華!!」

「お兄様!!やめて!!殺しちゃダメ!!」


 美梓豪たちも美夢華を止めようと叫んだが、美夢華は聞かずにそのまま走っていく。
 天光琳はゆっくりと振り返った。
 そして振り返ると同時に
 美夢華の腹部を剣で突き刺した。


「っ!?」


 皆は衝撃で立ち止まった。
 美夢華の体を貫通した剣からはポタポタと紅の液体が流れている。


「......夢......華......?」


 美朝阳は目を大きく見開き、ゆっくりと近づいていく。


「......いたい......いたいよぉ......」

「光琳、夢華から離れろっ!」


 美夢華の泣きながら喋る弱々しい声が聞こえると美朝阳は走っていき、天光琳をつき飛ばそうとした......が。
 なんと、先程まで剣で刺されていた美夢華が、美朝阳を襲った。
 美朝阳は頬に冷たさを感じたと思ったら、じわりと血が流れてきた。


「!?」


 何が起こったのか分からない。
 美朝阳は少し離れ、血が流れる頬を抑えながら美夢華を見た。


「夢華......?!」


 美夢華の目は閉じている。しかし、手にはしっかりと小刀を握り、立っている。
 どういうことだろうか。
 天光琳を見ると、天光琳の手には糸が絡みついており、手を動かすと美夢華が動き出す。
 まるで操り人形のような動きをする美夢華。
 美朝阳は天光琳に操られていることに気づいた。


「やめろっ!」


 美朝阳は襲ってくる美夢華ではなく、天光琳に攻撃を始めた。美朝阳の手にあるのは三味線だ。三味線で音を鳴らして神の力を使い、攻撃をする。しかし攻撃しようとすると、美夢華が天光琳の前に立ち、当たってしまいそうになる。


「卑怯だ、夢華を盾にするな!」


 大人しい性格だった美朝阳だが、今は違う。
 すると後ろから美鈴玉が駆けつけてきた。
 美雪蘭たちも行こうとしているのだが、美梓豪に止められている。


「光琳さん、やめてください!」


 だが天光琳は聞かない。
 容赦なく美夢華を操り二神を攻撃する。
 美鈴玉は天万姫と同じだったハープを持ち、美しく、そして殺意のある音色を流していく。
 そして攻撃を喰らいそうになったら美夢華を盾にする。これでは二神は攻撃することができない。


「......うぅ...」


 美夢華は無理に体を動かされ、苦しそうにしている。まだ生きているのだ。
 二神は安心した......が、それは一瞬だ。
 死んだ方が楽なのではないか......と思うほど苦しそうにしている。


「夢華!」


 すると天光琳は右手をパチンとならし、扇を作り出した。
 そして片手で扇をひらひらと動かすと、天光琳の周りに四体の黒い霊が現れた。
 この黒い霊には角が生えており、顔は布で隠されている。右から順に壱、弐、参、肆と文字が描かれている。脚はなく、炎のように燃えている。

 そしてその霊の手にはいつの間にか糸が絡みついている。
 何をしているのか。
 二神が横を見たその時だった。
 周りで倒れている護衛神や殺された神々が起き上がった。
 皆目を閉じ、息をしていない。
 しかし糸で操られ、二神を襲う。
 そして天光琳が操っている美夢華も攻撃してくる。

 一撃が激しく、二神はもう限界に近づいてきた。
 美鈴玉は左脚を斬られ、フラついていると、今度は右肩を小刀で刺されてしまった。
 それを見て助けようとしている美朝阳の右腕にも小刀が刺さった。


「父上!!母上!!」「だめ!!逃げて!!」


 美雪蘭と美暁龍は美梓豪に掴まれながら一生懸命叫んだ。
 美梓豪は二神を離さない。恐らく美朝阳も来て欲しくないだろう。
 二神が来たところで、美朝阳たちでも叶わない相手なら犠牲者が増えるだけだ。
 美梓豪もそれをよく分かっている。
 しかし目の前で息子がやられていくところを目にしている。
 気分が良いものでは無い。眉間に皺を寄せ、二神を掴んでいる両手は震えている。


「光琳!姉上を殺して夢華と鈴玉まで殺そうとしているのか!?......いいかげんに......っ」


 美朝阳が言いかけた時だ。
 天光琳ばかり集中していたため、背後にいたことに気づかなかった。
 美朝阳は後ろから刺されてしまった。
 美鈴玉も美朝阳を心配し目を向け途端、操られている美夢華に刺されてしまった。

 二神は膝から崩れ落ち、刺されたところを震える手で抑えた。


「父上、母上!!」

「......っ!?お祖父様、何故行っては行けないのですか!?」


 美梓豪は二神の腕を強く掴んだ。
 美雪蘭、美暁龍は必死に払おうとしたが無理だった。
 美梓豪は......目を大きく見開き、二神を見つめている。
 すると美朝阳と美鈴玉が振り返った。


「逃げて」

「私たちのことはいいからね」


 そう言った瞬間、赤い液体が飛び散った。
 美雪蘭たちは思わず目を閉じてしまった。
 そしてすぐさま、美梓豪は二神の腕を掴み走り出した。


「お祖父様!!父上、母上、夢華は!?」

「......」


 美暁龍が必死に言っても、美梓豪は何も話さずただ前を見て走っていく。
 走る速さが違うため、美雪蘭たちは息を切らせ走りにくそうにしている。
 それも言いたいことがあるようで、美暁龍と美雪蘭は美梓豪に大声で怒鳴った。


「なんで助けないの!?叔父上は神王なのになんで助けないで逃げちゃうの!?」

「戻ろうよ!父上たちを助けてよ!!」


 しかし立ち止まってはいられない。どこに行ってもべトロたちがいる。 
 玲瓏美国にいる神々はほとんど殺されてしまった。
 走っている間、他に生きている神を一度も見ていない。

 残っているのはこの三神だけなのだろうか。

 走るたび、びしゃびしゃと水溜まりを踏んでいるような音がする。これは神々の血だ。
 血が跳ねて靴や服に飛び散る。
 体の下の方は赤色に染まってきている。


 ......と。

 突然、目の前に黒い煙が上がった。
 美梓豪は立ち止まり、一瞬で何が起こるのか予想した。
 そして振り返り、別の方向へ行こうとする。

 ......が。

 後ろにはなんと。
 先程死んだはずの美夢華、美朝阳、美鈴玉が立っていた。






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