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ー光ー 第十章 鬼使神差

第四十四話 消えゆく記憶

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「あとは玲瓏美国だけだ」


 とうとう、残りの国は玲瓏美国だけとなった。
 玲瓏美国ではいつ鬼神が現れてもおかしくない状況に迫り、国中が警戒している。
 また、残りは玲瓏美国だけということは逃げることが出来ない。勝たなければ命は無いのだ。


「行きますよ」


 天光琳たちは玲瓏美国へ向かった。
 とうとう鬼神が神界を支配する日がやってきた。


 玲瓏美国の空は急に曇りだし、雷が鳴り響いた。
 神々は顔を真っ青にし、騒ぎ出す。

 そして大きな雷鳴と共に、城の屋根に二神の姿が現れた。
 最初に見た神は大声を出し、他のものも目を向ける。
 間違えない。他の二神は......天光琳と鬼神だ。


「あ......現れたぞっ!!」

「皆の者、備えろっ!!」


 子供の神は屋内に隠れ、大人の神は先頭に備える。


「お母さん......私たち、死んじゃうの...?」

「死なないわ。私たちは勝つのよ!」


 神々を見ると、弦楽器を持っている神......だけではなく、扇子や金管楽器、何も持っていないが今にでも舞始めようとしている姿勢の神などが見える。

 本来ならばその国の人間の願いを叶える方法......玲瓏美国は弦楽器なのだが、弦楽器を覚えなくてはいけない。
 しかし今から覚えるとなるとかなり時間がかかってしまう。
 そのため、自国のやり方で良いと言うことになっているのだろう。

 二神は街を見渡した。
 シュヴェルツェはまだ勝っていないというのに嬉しそうに微笑んでいる。
 これで終わりだと思っているのだろう。
 随分余裕そうだ。天光琳も緊張の顔を見せない。むしろ、早く終わらせたいとだるそうな顔をしている。


「暴れますかねぇ」

「うん」


 もう城の方へ逃げる神はいない。逃げたってもう他国へ行けないのだから意味が無い。
 べトロたちは各地に現れ、城に注目していた街の神々は皆近くに現れたべトロたちに目を向ける。

 そしてべトロたちに集中していた神々の背後から、天光琳たちは攻撃する。
 得意な剣で攻撃したり、舞を舞ったり。
 容赦ない。


「天光琳様......許してくださいっ!!」

「ごめんなさい...ごめんなさい!」


 天光琳の目の前で腰を抜かした数名の神々が、泣きながら必死に謝っている。


「適当に謝ってんじゃねえよ」


 そう言って一番近くにいた女神を剣で刺した。 そばに居た神々は悲鳴をあげ、身を縮めた。
 恐怖で脚が動かない。これでは修行や稽古をした意味が無い。
 するとある神が大声で叫んだ。


「俺は何もしていない!なぜ殺されなきゃいけないんだよ!お前の悪口なんて一回も言ってねぇよっ!」


 勇気ある行動だ。他の神は驚き、その男神の方へむいた。
 男神は怒りと恐怖で震えながらも、しっかりと天光琳を見つめている。
 そして立ち上がり、天光琳に扇子を向けた。


「関係ないやつらも殺してんだよな?それってどうなんだよ。こん中にもお前の悪口を言ったことが一度もない神だっているはずだ。それでも殺すのか?」

「証拠はどこにある?」


 天光琳の低い声が響いた。
 これは信じて貰えないだろう。


「じゃあ逆に俺がお前の悪口を言ったって証拠はあるのかよ!?」

「神はみんな敵だ」


 質問とは違う返しがきて、男神はついに我慢の限界となった。天光琳に向かって大量の火の玉を放った。
 ......が。天光琳は片手で防御結界を張り、火の玉は結界に当たるとホッと一瞬で消えてしまった。


「みんな助けてくれない。みんな僕のことを嫌ってる。みんな僕なんていなければいいのにって思ってる!!」

「それはお前がこんなことしてるからだ!」

「なんでしてると思う!?」


 天光琳が大声をあげると、周りには無数の針が現れた。
 呼吸は乱れ、目を見開いている。


「僕は"アイツ"に......アイツ...に......」


 天光琳は言葉に詰まった。
 何を言おうとしたのだろうか。


「なんだよ、アイツって誰だ、何をされたんだ!俺たちが納得するように言ってみろ!!」

 (思い出せない......)


 そう言うと天光琳は手に力を入れた。
 すると周りにあった針はどんどん増えて行った。


「分からない!」

「分からないって......」


 そう言った瞬間、針は色んな方向へ飛んでいき、神々は急いで身を守ったが遅かった。
 バタバタと倒れていく神々。
 天光琳はゆっくりと呼吸を整えた。


「光琳様......私まで喰らうところでしたよ」

「ごめん」


 シュヴェルツェは手についた血を払いながら言った。
 急いで結界を張ったためなんとか防げたが、もう少し遅ければシュヴェルツェまで怪我......いや死んでいただろう。

 先程まで騒がしかった辺りは静かになった。
 じわじわと流れてくる血を見つめ、ため息をついた。


 (記憶が......消えていく......)


 天光琳は記憶がどんどん消えていくのに恐怖を感じている。
 いまや、なぜ自分がこんなことをしているのか忘れてしまった。
 そしていつか自分が何者なのか分からなくなってしまうのではないか......と思っている。


「なんで消えていくんだろう......」

「何が......ですか?」


 天光琳が呟くと、シュヴェルツェは首を傾げた。


「なんでもないよ」

「そうですか」


 天光琳はそう言って歩き出した。
 シュヴェルツェも後ろからついて行く。
 シュヴェルツェは......何故か今ニヤリと微笑んでいる。
 記憶を消しているのはシュヴェルツェだ。天光琳はそれに気づいていない。

 記憶を消していけば天光琳は完全に洗脳される。
 いや、記憶が全て消えれば天光琳は自分が何者なのか分からなくなり、今のように洗脳しなくても自分の意思で悪神として生き続けることが可能だ。シュヴェルツェはそれを狙っている。


 (計画は順調だ。......あと少しで......あぁ。あともう少しで光琳様は............)




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