144 / 184
ー光ー 第十章 鬼使神差
第百四十三話 幸せ......?
しおりを挟む「...ち......あき......?」
「......」
「千秋!!」
いくら呼んでも返事はなかった。
天光琳は左前目にかかっていた前髪を耳にかけ、立ち上がった。
服や頬には血がついていた。先程にはなかったものだ。
「光琳......今幸せなのか......そんなことして楽しいか......?」
「間違えなく前よりは楽しいよ。幸せだよ。僕を見たらみんな逃げていくんだもん。僕......ずっと憧れていたんだ。いつか強い神になるんだって。......へへ、僕、強いでしょ?最強でしょ?」
天光琳は幸せそうに微笑んだ。
しかし目には光がない。
心から笑っている感じではない。
「寂しくないのか」
「寂しい......ね。そんなの、どうだっていいよ。ずっと求めてきた"幸せ"を手に入れたんだ。幸せなら他のものはどうだっていい」
そう言っているものの、少し......いやかなり寂しそうに感じる。
果たしてこれは本当に幸せなのか?
「光琳にとって幸せってのはどんなのなんだ?今までそばにいて支えてくれた神がいない世界を......幸せだって言えるのか?」
「......うるさい...」
天光琳は首を横に振った。
神などいらない。必要ない。神が天光琳を苦しませた。なら神などいなくたってなんともない。
「その手首のものを外せ。外して外へ投げろ。そうすれば本当の"幸せ"に気づくだろう。今のお前は"幸せ"だと言わされているんだ。目を覚ませ。本当の自分に戻れ!」
「うるさいうるさいうるさいっ!」
そう言って天光琳は両手を広げた。すると京極庵の首もとに糸が絡みついた。
天光琳は握った手から血が流れてきそうなほど強く握りしめている。
そして天光琳の周りには黒い煙のようなものが広がっている。
恐らく鬼神の力が体内から溢れ出ているのだろう。
「何も喋るな。黙って消えろ」
「自分の手で幸せを奪ってどうする?お前は何を求めているんだ?」
「黙れっ!」
「黙らない。だが殺してくれ」
意外な返しに天光琳は目を大きく見開き、手を緩めてしまった。
しかししばらくするとまた手に力を入れ、ニヤリと微笑んだ。
「ははは、自分から言ってきた神は初めてだ」
そう言って天光琳は両手に力を入れ、首を絞めるのと同時に針を突き刺した。
天光琳の顔は......笑っている。
「やっ......と......」
何を言おうとしていたのか分からないが、京極庵はそう言いかけて目を閉じた。
その様子は少し嬉しそうに感じる。
目には涙が溢れているが、微笑んでいるように見える。
(幸せ......ね...)
天光琳は手首の鈴を見た。
この鈴は恐らく鬼神の力が詰まっているのだろう。
そういえばいつも疲れた時はシュヴェルツェが力を分けてくれていた。
この鈴はきっとシュヴェルツェの役割をしてくれている。
(すごいな、これ)
そう言って天光琳は病室をでた。
まだ生きている神は沢山いる。
廊下を歩いていると、突然、四方向から護衛神が現れた。
「天光琳!!」
「......」
あっという間に囲まれてしまった。
護衛神は威嚇しているライオンのように鋭い顔をしている。
当たり前だが殺す気なのだろう。
護衛神は扇子を持ち舞い始めようとした......が。
「!?」
なんと目の前に天光琳がいなかった。
「どこに行ったんだ!?」
「ここだよ」
声が聞こえた瞬間、天光琳の右側にいた護衛神の悲鳴が聞こえ、赤い液体が飛び散った。
それを見た護衛神たちは逃げようとする。
しかし顔をあげると目の前に天光琳がいた。
「...さっ......さっき......!」
そういった瞬間首が飛んだ。
そして他の護衛神たちの命も消えた。
何が起こったのか。
それは天光琳の新しい能力、瞬間移動の能力だ。
シュヴェルツェが持っていて、羨ましく思っていた能力......ついに手に入れたのだ。
しかしこの能力は二十メートル以内しか移動できない。思ったのと少し違った。
けれどさらに遠くまで移動できる能力があったとしても、鬼神の力はかなり消費するだろう。
(まぁいっか)
そう言って天光琳は余裕そうにスキップしながらシュヴェルツェがいる方へ向かった。
「おかえりなさい。光琳様」
「......光...琳...さん......?」
シュヴェルツェの所へ戻ると、シュヴェルツェはある神を殺す寸前だった。
この神には見覚えがある。しかし名前が出てこない。
「コイツが王みたいです。こいつを殺せば終わりですよ」
......燦爛鳳条国の王......鳳条眞秀だ。
鳳条眞秀は弱りつつ、顔をゆっくりと上げ天光琳を見た。
随分と変わってしまった天光琳を見て悲しそうな表情を浮かべる。
「光琳さんは......鳳条国を救ってくれた......英雄ではなかったのですか......?こんなこと...してはいけません......」
鳳条眞秀はもう歳だ。
他国の王より弱く感じてしまうが、若ければ強かっただろう。
鳳条眞秀は扇子を手からそっと離した。
もう戦うつもりは内容だ。
そばで倒れている側近の清之介。血だらけで倒れている神々。崩壊していく建物。曇った空。
鳳条眞秀は寂しそうに眺めながら呟いた。
「国を守れなかった私は......王失格だ......」
「そうだね」
天光琳はそう言って剣を作り出し、鳳条眞秀の首元に当てた。
どんどん力を入れていき、血がじわっと滲んでくる。
しかし鳳条眞秀はただ寂しそうな表情で国を見渡しているだけだった。
「痛くないの?」
「......ふふ...光琳さんらしいですね」
「?」
天光琳は首を傾げた。
「なんでもありませんよ」
わざわざ殺そうとしている者が痛くないのか聞くだろうか。そこが天光琳らしいと言っているのだろう。
本当は優しい神なのだ。
「......それに...ちっとも痛くありません...」
本当は痛い。しかし滅びる寸前の自国を見て、何も感じられないのだ。
痛みより悔しさ、悲しさが勝ってくる。
天光琳は手に力を入れ、鳳条眞秀の首を切り落とした。
ドサッと倒れる音と共に、天光琳は振り返り、シュヴェルツェの方を向いた。
「疲れた」
「お疲れ様です」
神を殺したというのに平気そうな顔をしている。
鳳条眞秀が殺されたということは、燦爛鳳条国は滅びたことになる。
「あとは三カ国ですね」
佳宵星国を除き、三百八十一カ国あった神界の国はもう三カ国だけになってしまった。
天光琳が知っている国で残っているのは......玲瓏美国のみだ。
恐らく玲瓏美国は最後に回しているのだろう。
避難した多くの神々は玲瓏美国にいる。
現在、天光琳に殺されないように必死に神の力を高めているだろう。
そのため、トップの国ということもあり、今まで倒してきた国より滅ぼすのに時間がかかる可能性がある。なので後回しだ。
他の国々を滅ぼして、同時に鬼神の力も上げていく。
それが二神の作戦だ。
「帰りましょうか」
滅びた国は数日か経つと自然に消えていく。
まるで何も無かったかのように、存在すら消えてしまうのだ。
二神はアタラヨ鬼神国へ戻って行った。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる