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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百四十三話 幸せ......?

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「...ち......あき......?」

「......」

「千秋!!」


 いくら呼んでも返事はなかった。
 天光琳は左前目にかかっていた前髪を耳にかけ、立ち上がった。
 服や頬には血がついていた。先程にはなかったものだ。


「光琳......今幸せなのか......そんなことして楽しいか......?」

「間違えなく前よりは楽しいよ。幸せだよ。僕を見たらみんな逃げていくんだもん。僕......ずっと憧れていたんだ。いつか強い神になるんだって。......へへ、僕、強いでしょ?最強でしょ?」


 天光琳は幸せそうに微笑んだ。
 しかし目には光がない。
 心から笑っている感じではない。


「寂しくないのか」

「寂しい......ね。そんなの、どうだっていいよ。ずっと求めてきた"幸せ"を手に入れたんだ。幸せなら他のものはどうだっていい」


 そう言っているものの、少し......いやかなり寂しそうに感じる。
 果たしてこれは本当に幸せなのか?


「光琳にとって幸せってのはどんなのなんだ?今までそばにいて支えてくれた神がいない世界を......幸せだって言えるのか?」

「......うるさい...」


 天光琳は首を横に振った。
 神などいらない。必要ない。神が天光琳を苦しませた。なら神などいなくたってなんともない。


「その手首のものを外せ。外して外へ投げろ。そうすれば本当の"幸せ"に気づくだろう。今のお前は"幸せ"だと言わされているんだ。目を覚ませ。本当の自分に戻れ!」

「うるさいうるさいうるさいっ!」


 そう言って天光琳は両手を広げた。すると京極庵の首もとに糸が絡みついた。
 天光琳は握った手から血が流れてきそうなほど強く握りしめている。
 そして天光琳の周りには黒い煙のようなものが広がっている。
 恐らく鬼神の力が体内から溢れ出ているのだろう。


「何も喋るな。黙って消えろ」

「自分の手で幸せを奪ってどうする?お前は何を求めているんだ?」

「黙れっ!」

「黙らない。だが殺してくれ」


 意外な返しに天光琳は目を大きく見開き、手を緩めてしまった。
 しかししばらくするとまた手に力を入れ、ニヤリと微笑んだ。


「ははは、自分から言ってきた神は初めてだ」


 そう言って天光琳は両手に力を入れ、首を絞めるのと同時に針を突き刺した。
 天光琳の顔は......笑っている。


「やっ......と......」


 何を言おうとしていたのか分からないが、京極庵はそう言いかけて目を閉じた。
 その様子は少し嬉しそうに感じる。
 目には涙が溢れているが、微笑んでいるように見える。


 (幸せ......ね...)


 天光琳は手首の鈴を見た。
 この鈴は恐らく鬼神の力が詰まっているのだろう。
 そういえばいつも疲れた時はシュヴェルツェが力を分けてくれていた。
 この鈴はきっとシュヴェルツェの役割をしてくれている。


 (すごいな、これ)


 そう言って天光琳は病室をでた。
 まだ生きている神は沢山いる。


 廊下を歩いていると、突然、四方向から護衛神が現れた。


「天光琳!!」

「......」 


 あっという間に囲まれてしまった。
 護衛神は威嚇しているライオンのように鋭い顔をしている。
 当たり前だが殺す気なのだろう。
 護衛神は扇子を持ち舞い始めようとした......が。


「!?」


 なんと目の前に天光琳がいなかった。


「どこに行ったんだ!?」

「ここだよ」


 声が聞こえた瞬間、天光琳の右側にいた護衛神の悲鳴が聞こえ、赤い液体が飛び散った。
 それを見た護衛神たちは逃げようとする。
 しかし顔をあげると目の前に天光琳がいた。


「...さっ......さっき......!」


 そういった瞬間首が飛んだ。
 そして他の護衛神たちの命も消えた。

 何が起こったのか。
 それは天光琳の新しい能力、瞬間移動の能力だ。
 シュヴェルツェが持っていて、羨ましく思っていた能力......ついに手に入れたのだ。

 しかしこの能力は二十メートル以内しか移動できない。思ったのと少し違った。

 けれどさらに遠くまで移動できる能力があったとしても、鬼神の力はかなり消費するだろう。


 (まぁいっか)


 そう言って天光琳は余裕そうにスキップしながらシュヴェルツェがいる方へ向かった。





「おかえりなさい。光琳様」

「......光...琳...さん......?」


 シュヴェルツェの所へ戻ると、シュヴェルツェはある神を殺す寸前だった。
 この神には見覚えがある。しかし名前が出てこない。


「コイツが王みたいです。こいつを殺せば終わりですよ」


 ......燦爛鳳条国の王......鳳条眞秀だ。
 鳳条眞秀は弱りつつ、顔をゆっくりと上げ天光琳を見た。
 随分と変わってしまった天光琳を見て悲しそうな表情を浮かべる。


「光琳さんは......鳳条国を救ってくれた......英雄ではなかったのですか......?こんなこと...してはいけません......」


 鳳条眞秀はもう歳だ。
 他国の王より弱く感じてしまうが、若ければ強かっただろう。

 鳳条眞秀は扇子を手からそっと離した。
 もう戦うつもりは内容だ。
 そばで倒れている側近の清之介。血だらけで倒れている神々。崩壊していく建物。曇った空。
 鳳条眞秀は寂しそうに眺めながら呟いた。


「国を守れなかった私は......王失格だ......」

「そうだね」


 天光琳はそう言って剣を作り出し、鳳条眞秀の首元に当てた。
 どんどん力を入れていき、血がじわっと滲んでくる。
 しかし鳳条眞秀はただ寂しそうな表情で国を見渡しているだけだった。


「痛くないの?」

「......ふふ...光琳さんらしいですね」

「?」


 天光琳は首を傾げた。


「なんでもありませんよ」


 わざわざ殺そうとしている者が痛くないのか聞くだろうか。そこが天光琳らしいと言っているのだろう。
 本当は優しい神なのだ。


「......それに...ちっとも痛くありません...」


 本当は痛い。しかし滅びる寸前の自国を見て、何も感じられないのだ。
 痛みより悔しさ、悲しさが勝ってくる。

 天光琳は手に力を入れ、鳳条眞秀の首を切り落とした。
 ドサッと倒れる音と共に、天光琳は振り返り、シュヴェルツェの方を向いた。


「疲れた」

「お疲れ様です」


 神を殺したというのに平気そうな顔をしている。
 鳳条眞秀が殺されたということは、燦爛鳳条国は滅びたことになる。


「あとは三カ国ですね」


 佳宵星国を除き、三百八十一カ国あった神界の国はもう三カ国だけになってしまった。
 天光琳が知っている国で残っているのは......玲瓏美国のみだ。

 恐らく玲瓏美国は最後に回しているのだろう。
 避難した多くの神々は玲瓏美国にいる。
 現在、天光琳に殺されないように必死に神の力を高めているだろう。
 そのため、トップの国ということもあり、今まで倒してきた国より滅ぼすのに時間がかかる可能性がある。なので後回しだ。
 他の国々を滅ぼして、同時に鬼神の力も上げていく。

 それが二神の作戦だ。


「帰りましょうか」


 滅びた国は数日か経つと自然に消えていく。
 まるで何も無かったかのように、存在すら消えてしまうのだ。

 二神はアタラヨ鬼神国へ戻って行った。

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