上 下
143 / 184
ー光ー 第十章 鬼使神差

第百四十二話 不器用

しおりを挟む
 数日後。


『そういえば眞秀様最近物忘れが多くない?』

『あーわかる。この前なんて俺の年齢間違えてたし』


 千秋は毎日病室に来て、京極庵と話をする。
 そして日が暮れると今度は四時間ほど修行と稽古をしに行き、家に帰るという生活を送っていた。

 京極庵の言った通り、千秋は息子のように可愛がられた。
 しかし千秋はなんだか申し訳ない気持ちになった。
 そのため、朝早くから城へ向かい、病室へ行き話をする。迷惑をかけないためにも、京極庵のためにも家にいる時間は少なかった。

 京極の両親は毎日病室へ来てくれるのだが、来るのは一時間ほど。
 愛されていない訳では無い。お見舞いにしてはこれが一般的、むしろ少し長いぐらいなのだ。
 しかし一生動くことが出来ない京極庵にとっては短く感じた。

 親ではなく友人の千秋は何時間もいて、話をしてくれるのに比べ、両親は一時間程度だ。
 さらに、千秋は両親に可愛がられている。
 少し心がモヤモヤとしていた。


 (こんな体ならあの時、伽耶兄と一緒に死んだ方が幸せだったかもしれない)


 しかし千秋は京極庵の気持ちを察している用で、家にいる時間は少なく、何も出来ない京極庵の傍で話して楽しませたり、励ましたりしていた。

 そしてある日のことだ。


『庵、千秋(ちあき)!桜雲天国が滅びたそうだ......!』


 ばんっと扉が開き、二神は驚いた。
 京極の両親だ。


『......え?』

『き...聞き間違え......では』


 二神は信じられないという顔をした。
 しかし京極の父は首を横に振った。
 隣にいる京極の母は......いい気味だと言っているかのような顔をしている。恐らく息子をめちゃくちゃにした天光琳が死んだと思っているからだろう。


『天国に鬼神が現れ......天国の神々は皆亡くなったそうだ』

『......』


 千秋は下を向いた。
 両親には何も言わずにここに来てしまった。
 嫌いだと思っていた両親だが......亡くなったと聞くと心が痛む。
 眉間に皺を寄せ、手を強く握っている。その手は震えている。
 京極の父は千秋の父と仲が良かったため、暗い顔をしている。
 また会えると思っていたのに、もう会えない。

 千秋に燦爛鳳条国にいると秘密にして欲しいと頼まれたため、言わなかったのだが、もし燦爛鳳条国にいると教えていれば......助かっていた可能性がある。


『鬼神はこれだけでは終わらないと思う。もしかしたら......他国も滅ぼす...いいや、神界ごと滅ぼすつもりなのかもしれない。......そうなると、鳳条国も例外では無い』


 京極の父は外を眺めながら言った。



 そして今日のことだ。


『なんだか外が騒がしいね』

『暗くないか......?』


 二神は異変に気づき、千秋は窓を開けた。
 すると、外は曇り、街の方は騒がしい。


『......えっ』


 千秋は目を丸くした。
 恐ろしいものを見たようだ。


『どうした......?』

『あれは......鬼神......』


 鬼神と聞いた瞬間、京極庵の心臓の音が大きくなった。
 鬼神が現れたら終わりだ。


『逃げよう』

『逃げる......?俺はどうやって......』

『か......担いでく』

『無理だろ』


 千秋は京極庵より身長は高いが、痩せ型体型で担ぐにしても難しそうだ。

 外からは悲鳴が聞こえてくる。もう時間が無い。どうするべきなのだろうか。千秋が焦っていると、京極庵は口を開いた。


『いいよ。俺はここに残る。お前だけ逃げろ』

『......え?』


 そういえば京極庵は焦っている感じがない。最初から逃げないつもりなのだろう。


『なんで......?』

『俺は逃げたって何も出来ねぇし、このまま生きていても神としてどうなのかなって思ってな。......それに...伽耶兄に会いたい』

『......』


 生きるのが幸せとは限らない。
 間違えなく京極庵にとって、何も出来ないのに生き続けるのはきついことだろう。


『それに......光琳が鬼神に取り憑かれてるって......聞いたからな』


 千秋はゆっくり椅子に座り、眉間に皺を寄せた。
 京極庵は動けなくなってしまったため、神の力が使えない。
 そのため、どの神とも連絡が取れず、他国の情報も聞くしかない。

 千秋は天光琳が鬼神に取り憑かれた......と言うことは、桜雲天国が滅んでから三日後に知った。
 しかし京極庵にはあえて言わなかった。
 これ以上、辛い思いをさせたくないからだ。


『いつ知ったの......?』

『最近だよ』


 どうやら千秋が修行と稽古をしに行っている間、両親に聞いたようだ。
 両親は天光琳のことが嫌いだ。
 殺されてたまるかと歯を食いしばりながら言ったそうだ。


『俊熙も麗華様も光琳に殺されたってことだから、俺が何を言っても意味がないと思うが、やってみなければ分からない。オレが光琳を止めてみせる』


 やってみなければ分からない......というものの、失敗したら命は無い。
 それでもやるのだ。
 成功したら英雄。失敗したら......天国。
 京極庵にとっては......良いことなのかもしれない。


『分かった。僕も残る』

『え...?お前は逃げろよ』

『逃げない。光琳を助けたいんだ』


 千秋は外を見た。


『僕......光琳をいじめてたんだ......』

『え?』


 千秋は今までのことを全て話した。
 睿たちといじめていたこと。
 心のどこかで良くないと分かっていたのだが、睿たちが怖かった。
 そのため一緒にいじめていた......ということも。


『お前は周りに流されやすいもんな』

『もう少し......器用に生きられたら......』


 自分は不器用な神なのだと心の中で強く思っている。

 桜雲天国に来たばかりの時、周りの目を気にしすぎて馴染めず、ひとりぼっちだった。
 そんな時、声をかけてくれたのが天光琳だった。
 それから千秋の生活は変わった。
 仲間が増え、毎日が楽しくなった。

 天光琳が神の力さえ使えれば......変わることは無かった。
 けれど天光琳はひと一倍努力していた。
 神の力が使えないのは天光琳自身が悪い訳では無い。

 それなのに虐められていた。
 それを止めなかった。見ていることしか出来なかった。......というより、いじめていた。

 しかし天光琳を庇えば自分もみなからいじめられるかもしれない。

 恩神(おんじん)よりも自分のことを優先してしまった。天光琳は自分を犠牲にして他神を助ける性格なのに......。

 どうすれば良かったのか......今考えたって意味がない。

 もしもっと早く天光琳に声をかけていれば......
 そう考えていた次の瞬間......扉が開いた。

 そこに居たのは......天光琳だ。


















 四神は息を飲んだ。
 そうなると一番危険なのは..



 グサッと骨を通る音と、べちゃっと液体が飛び散る音が病室内に響いた。京極の心臓はどくんと大きく鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻

季邑 えり
恋愛
 幼くして両親を亡くした雪乃は、遠縁で幼馴染の清隆と結婚する。だが、貧しさ故に清隆は兵士となって村を出てしまう。  待っていろと言われて三年。ようやく帰って来る彼は、旧藩主の娘に気に入られ、村のために彼女と祝言を挙げることになったという。  雪乃は村長から別れるように説得されるが、諦めきれず機織りをしながら待っていた。ようやく決心して村を出ようとすると村長の息子に襲われかけ―― *和風、ほんわり大正時代をイメージした作品です。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【R18】ロザリアの秘蜜〜最愛の姉が僕だけに見せてくれるもうひとつの顔〜

夏ノ 六花
恋愛
連載中の【奈落に咲いた花】がcomico様主催の『ロマンスファンタジー漫画原作大賞』で奨励賞を受賞しました!! 受賞記念としまして、ヒーローのシリウスが愛読していた【ロザリアの秘蜜】を掲載させていただきます! 是非、【奈落に咲いた花】もよろしくお願いいたします! 〜あらすじ〜 艶やかな水色の髪に澄んだ水色の瞳を持つ美しい娘…ロザリアと、鮮やかな赤髪と輝くような金眼を持つアイバン。 性格も趣味も真逆でありながら、二人は仲の良い姉弟で有名だった。 ロザリアが六歳になった日の夜… プレゼントを持って部屋に訪れていたアイバンからのプロポーズを、ロザリアはおままごとの延長として受け入れてしまう。 お遊びの誓いから始まった二人の秘密… 歳を重ね、二人だけの秘密が増える度に姉弟の関係はより密やかに…より淫らに変化していき…────? 【全15話、完結まで予約済、毎日更新】 ★HOT女性向けで29位にランクイン! ありがとうございます!\( ´ω` )/ ★人気ランキング89位にランクイン!!(´▽`)

処理中です...