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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百三十七話 罠

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「蒼海アジュール国って、こんな国だったんだ」


 天光琳は蒼海アジュール国の神々が攻撃してくる中、避けながらそう呟いた。
 神々は鼻が高く、顔立ちが少し違う。
 また、蒼海アジュール国は海に浮かぶ都市のようになっていて、そこらじゅうが青い。
 移動の際、桜雲天国や玲瓏美国は馬車か歩きだったが、蒼海アジュール国はほとんどボートを使っている。
 波の音がとても心地よい。
 しかし今はそれどころでは無い。
 神々の悲鳴と泣き叫ぶ声、鉄のような匂いが鼻に刺さる。


 (あの神と一緒に行ってみたかったな......)


 ん......?と天光琳は考え直した。
 "あの神"とは誰だ?
 思い出せない。"あの神"と言ったものの、名前も姿も浮かんでこない。


「おっと」

「......あ」


 天光琳の顔のすぐ横に、蒼海アジュール国の神が放った攻撃が通り過ぎて言った。
 落暗が攻撃をずらしたのだ。落暗がいなかったら、当たっていただろう。
 天光琳はずっと考えていたため、戦いには集中していなかった。


「考え事ですか?危ないですよ」

「ごめん」


 天光琳は考えるのをやめ、攻撃してくる神々をまとめて糸に絡めた。そして片手を動かすと地面から黒い針が出てきて、神々を突き刺した。


「また強くなりましたね」

「......」


 落暗は自分の息子が成長したかのように嬉しそうに微笑んだ。
 しかし天光琳は興味がなさそうに目を逸らし、こちらへ向かってくる蒼海アジュール国の神に目を向けた。


「天光琳!お前を殺す!」

「よくもアジュール国をめちゃくちゃにしたな!?」


 天光琳は扇を持ち、くるりと一回回った。
 すると黒い光の玉が沢山浮き上がり、素早く神たちに飛んでいく。
 そして当たると大きな音を立てて爆発した。
 当然、当たった神......いや、周辺にいた神々の命も散っていった。


「おや?また新しい能力!」

「うん」


 この能力の威力はとても高かった。
 鬼神の力の消費は大きいが、威力が高く、とても楽だ。
 それに、神を殺せば殺すほど高くなっていく鬼神の力は、国を一つ滅ぼせばかなり高くなる。
 そのため、既に数カ国滅ぼしている天光琳にとっては一カ国滅ぼすのに鬼神の力不足......というのはありえない。
 天光琳は容赦なく使っていく。


 勝ち目がないと悟った神々は皆攻撃をやめ、逃げ始めた。
 逃げている場所は......城だ。


「このままでは他国へ逃げてしまいますね。挟み撃ち......にしましょうか」


 落暗がそう言うと、天光琳は頷いた。
 皆城に逃げ込む......ということは、自国を捨て、他国へ逃げるということだ。
 落暗はふっと消えた。
 恐らく、他国へ移動するゲートがある所へ向かっているのだろう。
 落暗がそこに現れたら、皆はもう他国へ移動することが出来ない。
 さらに後ろから天光琳が狙えば......と、恐ろしい作戦だ。

 城の方へ逃げず、建物の裏に隠れている神々のことはドロドロの生物に任せれば良い。
 ドロドロの生物たちは、神が近くにいると分かるようで、隠れていてもいずれ見つかってしまう。
 そのため、隠れたって意味が無いのだ。
 今だって......悲鳴が聞こえる。

 天光琳は城の方へ向かっていく。
 修行を何年も続けてきた天光琳はとても早く、あっという間に先程逃げていた神々に追いついてしまう。


「追いついた」

「ひぃっ」


 神々はここで走り続けても、背後から狙われるか追いつかれて意味が無いと判断し、走るのをやめて、攻撃を始めた。
 そういえば蒼海アジュール国も舞のようだ。
 しかし桜雲天国や燦爛鳳条国のように扇や扇子を持っている訳ではなく、何も持たずに待っている。
 服には金色の輝く飾りが沢山ついており、動く度にシャラシャラと心地よい音をたてる。

 しかし今は皆激しく動き、ジャラジャラと耳障りな音が鳴り響いている。


「うるさ......」


 天光琳はそう呟き、舞い始めた。
 そして光の速さで神々の命を奪っていく。
 天光琳は返り血を浴びても表情を変えず、ずっと無表情のまま舞い続ける。


 (疲れた。早く戻ってこないかな)


 天光琳は城の方に目を向けた。
 できるのであれば、落暗に全て任せたい。
 しかし落暗は落暗で戦っているのだ。
 神々が他国へ逃げないように......重要なことをしているのだ。


「しつこいなぁ」







「次だ!!早く進め!」

「早く!!」

「無理だって!」


 蒼海アジュール国の神々は次から次へと他国へ移動していく。
 多くの神々は玲瓏美国へ行く。
 元蒼海アジュール国の姫、美ルーナがいるからだ。

 しかし一度に大勢の神が移動することは出来ない。
 紋を描くのにも時間がかかる。
 神々は早く移動したいと前にいる神を押し合って前へ前へと進んでいく。
 神だと言うのに、とてもはしたない行為だ。
 押しつぶされ、息ができず倒れてしまう神もいる。
 だが神は助けようとしなかった。
 助けていたら逃げ遅れてしまうからだ。


「定員オーバーだ!」

「お母さん!!お父さん!!」

「大丈夫よ、後から行くわ!」

「あぁ、父さんたちは後で行くから、先に行ってね」


 一度に移動できる神数は決まっているため、家族で離れてしまうこともある。
 子供は不安そうに親を見つめている。
 そして子供が光に包まれた......その時だ。


「ここまで」


 ズバッと大きな音がしたと思ったら、ベタと液体の飛び散る音が聞こえた。
 子供は目を丸くした。


「お父さん!!お母さん!!」


 子供は叫び声とともに光と消えていった。


「親子だったか」


 落暗はニヤリと微笑んだ。
 何が起こったか。それは、順番待ちをしていた神々を数名殺したのだ。
 光に包まれていた神は無事だった。
 そのため、子供は助かったが、目の前で両親が殺されてしまった。
 今ごろ子供は泣き叫んでいるだろう。


「はは、可哀想だなぁ」


 落暗がそう言うと、生き残っている神々に目を向けた。
 そしてこの状況を知らない、他国へ逃げようとしている神々が途切れることなく走ってくる。
 だが、落暗と血だらけの部屋を見て立ち止まる。
 しかし、後ろから次から次へと神が走ってくるため、先頭の神は前へ押し出されてしまう。


「お、押すなぁ!!」

「やぁ、こんにちは」


 落暗はそう言って順番に神の命を散らせていく。
 目の前で神が殺され、後ろへ逃げようとしても逃げられない。一向に前へ押し出されてしまう。
 そして落暗に命を奪われる。
 まるで餌しか見ておらず、罠にはまった動物のようだ。


「あはは、可哀想可哀想!」


 落暗は狂った笑を浮かべ、嬉しそうに殺していく。
 一体何が面白いのだろうか......。


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