上 下
138 / 184
ー光ー 第十章 鬼使神差

第百三十七話 罠

しおりを挟む
「蒼海アジュール国って、こんな国だったんだ」


 天光琳は蒼海アジュール国の神々が攻撃してくる中、避けながらそう呟いた。
 神々は鼻が高く、顔立ちが少し違う。
 また、蒼海アジュール国は海に浮かぶ都市のようになっていて、そこらじゅうが青い。
 移動の際、桜雲天国や玲瓏美国は馬車か歩きだったが、蒼海アジュール国はほとんどボートを使っている。
 波の音がとても心地よい。
 しかし今はそれどころでは無い。
 神々の悲鳴と泣き叫ぶ声、鉄のような匂いが鼻に刺さる。


 (あの神と一緒に行ってみたかったな......)


 ん......?と天光琳は考え直した。
 "あの神"とは誰だ?
 思い出せない。"あの神"と言ったものの、名前も姿も浮かんでこない。


「おっと」

「......あ」


 天光琳の顔のすぐ横に、蒼海アジュール国の神が放った攻撃が通り過ぎて言った。
 落暗が攻撃をずらしたのだ。落暗がいなかったら、当たっていただろう。
 天光琳はずっと考えていたため、戦いには集中していなかった。


「考え事ですか?危ないですよ」

「ごめん」


 天光琳は考えるのをやめ、攻撃してくる神々をまとめて糸に絡めた。そして片手を動かすと地面から黒い針が出てきて、神々を突き刺した。


「また強くなりましたね」

「......」


 落暗は自分の息子が成長したかのように嬉しそうに微笑んだ。
 しかし天光琳は興味がなさそうに目を逸らし、こちらへ向かってくる蒼海アジュール国の神に目を向けた。


「天光琳!お前を殺す!」

「よくもアジュール国をめちゃくちゃにしたな!?」


 天光琳は扇を持ち、くるりと一回回った。
 すると黒い光の玉が沢山浮き上がり、素早く神たちに飛んでいく。
 そして当たると大きな音を立てて爆発した。
 当然、当たった神......いや、周辺にいた神々の命も散っていった。


「おや?また新しい能力!」

「うん」


 この能力の威力はとても高かった。
 鬼神の力の消費は大きいが、威力が高く、とても楽だ。
 それに、神を殺せば殺すほど高くなっていく鬼神の力は、国を一つ滅ぼせばかなり高くなる。
 そのため、既に数カ国滅ぼしている天光琳にとっては一カ国滅ぼすのに鬼神の力不足......というのはありえない。
 天光琳は容赦なく使っていく。


 勝ち目がないと悟った神々は皆攻撃をやめ、逃げ始めた。
 逃げている場所は......城だ。


「このままでは他国へ逃げてしまいますね。挟み撃ち......にしましょうか」


 落暗がそう言うと、天光琳は頷いた。
 皆城に逃げ込む......ということは、自国を捨て、他国へ逃げるということだ。
 落暗はふっと消えた。
 恐らく、他国へ移動するゲートがある所へ向かっているのだろう。
 落暗がそこに現れたら、皆はもう他国へ移動することが出来ない。
 さらに後ろから天光琳が狙えば......と、恐ろしい作戦だ。

 城の方へ逃げず、建物の裏に隠れている神々のことはドロドロの生物に任せれば良い。
 ドロドロの生物たちは、神が近くにいると分かるようで、隠れていてもいずれ見つかってしまう。
 そのため、隠れたって意味が無いのだ。
 今だって......悲鳴が聞こえる。

 天光琳は城の方へ向かっていく。
 修行を何年も続けてきた天光琳はとても早く、あっという間に先程逃げていた神々に追いついてしまう。


「追いついた」

「ひぃっ」


 神々はここで走り続けても、背後から狙われるか追いつかれて意味が無いと判断し、走るのをやめて、攻撃を始めた。
 そういえば蒼海アジュール国も舞のようだ。
 しかし桜雲天国や燦爛鳳条国のように扇や扇子を持っている訳ではなく、何も持たずに待っている。
 服には金色の輝く飾りが沢山ついており、動く度にシャラシャラと心地よい音をたてる。

 しかし今は皆激しく動き、ジャラジャラと耳障りな音が鳴り響いている。


「うるさ......」


 天光琳はそう呟き、舞い始めた。
 そして光の速さで神々の命を奪っていく。
 天光琳は返り血を浴びても表情を変えず、ずっと無表情のまま舞い続ける。


 (疲れた。早く戻ってこないかな)


 天光琳は城の方に目を向けた。
 できるのであれば、落暗に全て任せたい。
 しかし落暗は落暗で戦っているのだ。
 神々が他国へ逃げないように......重要なことをしているのだ。


「しつこいなぁ」







「次だ!!早く進め!」

「早く!!」

「無理だって!」


 蒼海アジュール国の神々は次から次へと他国へ移動していく。
 多くの神々は玲瓏美国へ行く。
 元蒼海アジュール国の姫、美ルーナがいるからだ。

 しかし一度に大勢の神が移動することは出来ない。
 紋を描くのにも時間がかかる。
 神々は早く移動したいと前にいる神を押し合って前へ前へと進んでいく。
 神だと言うのに、とてもはしたない行為だ。
 押しつぶされ、息ができず倒れてしまう神もいる。
 だが神は助けようとしなかった。
 助けていたら逃げ遅れてしまうからだ。


「定員オーバーだ!」

「お母さん!!お父さん!!」

「大丈夫よ、後から行くわ!」

「あぁ、父さんたちは後で行くから、先に行ってね」


 一度に移動できる神数は決まっているため、家族で離れてしまうこともある。
 子供は不安そうに親を見つめている。
 そして子供が光に包まれた......その時だ。


「ここまで」


 ズバッと大きな音がしたと思ったら、ベタと液体の飛び散る音が聞こえた。
 子供は目を丸くした。


「お父さん!!お母さん!!」


 子供は叫び声とともに光と消えていった。


「親子だったか」


 落暗はニヤリと微笑んだ。
 何が起こったか。それは、順番待ちをしていた神々を数名殺したのだ。
 光に包まれていた神は無事だった。
 そのため、子供は助かったが、目の前で両親が殺されてしまった。
 今ごろ子供は泣き叫んでいるだろう。


「はは、可哀想だなぁ」


 落暗がそう言うと、生き残っている神々に目を向けた。
 そしてこの状況を知らない、他国へ逃げようとしている神々が途切れることなく走ってくる。
 だが、落暗と血だらけの部屋を見て立ち止まる。
 しかし、後ろから次から次へと神が走ってくるため、先頭の神は前へ押し出されてしまう。


「お、押すなぁ!!」

「やぁ、こんにちは」


 落暗はそう言って順番に神の命を散らせていく。
 目の前で神が殺され、後ろへ逃げようとしても逃げられない。一向に前へ押し出されてしまう。
 そして落暗に命を奪われる。
 まるで餌しか見ておらず、罠にはまった動物のようだ。


「あはは、可哀想可哀想!」


 落暗は狂った笑を浮かべ、嬉しそうに殺していく。
 一体何が面白いのだろうか......。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻

季邑 えり
恋愛
 幼くして両親を亡くした雪乃は、遠縁で幼馴染の清隆と結婚する。だが、貧しさ故に清隆は兵士となって村を出てしまう。  待っていろと言われて三年。ようやく帰って来る彼は、旧藩主の娘に気に入られ、村のために彼女と祝言を挙げることになったという。  雪乃は村長から別れるように説得されるが、諦めきれず機織りをしながら待っていた。ようやく決心して村を出ようとすると村長の息子に襲われかけ―― *和風、ほんわり大正時代をイメージした作品です。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】ロザリアの秘蜜〜最愛の姉が僕だけに見せてくれるもうひとつの顔〜

夏ノ 六花
恋愛
連載中の【奈落に咲いた花】がcomico様主催の『ロマンスファンタジー漫画原作大賞』で奨励賞を受賞しました!! 受賞記念としまして、ヒーローのシリウスが愛読していた【ロザリアの秘蜜】を掲載させていただきます! 是非、【奈落に咲いた花】もよろしくお願いいたします! 〜あらすじ〜 艶やかな水色の髪に澄んだ水色の瞳を持つ美しい娘…ロザリアと、鮮やかな赤髪と輝くような金眼を持つアイバン。 性格も趣味も真逆でありながら、二人は仲の良い姉弟で有名だった。 ロザリアが六歳になった日の夜… プレゼントを持って部屋に訪れていたアイバンからのプロポーズを、ロザリアはおままごとの延長として受け入れてしまう。 お遊びの誓いから始まった二人の秘密… 歳を重ね、二人だけの秘密が増える度に姉弟の関係はより密やかに…より淫らに変化していき…────? 【全15話、完結まで予約済、毎日更新】 ★HOT女性向けで29位にランクイン! ありがとうございます!\( ´ω` )/ ★人気ランキング89位にランクイン!!(´▽`)

処理中です...