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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百三十五話 アタラヨ鬼神国

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「俊熙っ!!!」


 天俊熙がガラスで自分の首を切ったのは、"天光琳が殺した"ことにするのではなく"自ら命を絶った"という事にしたかったのだろう。
 せめて少しでも罪を軽くするためなのだろうか......。


「目を開けて......お願い、俊熙っ!!」


 どれだけ叫んでも、天俊熙は目を開くことはなかった。


「俊熙も......姉上も...老師もみんな......僕が......」


 記憶はある。しかしあの時の自分はどうも別人のように感じる。


「うっ......」


 天麗華や天宇軒、天万姫たちを殺した時の記憶が蘇る。
 今までそばにいた神たちの悲惨な姿。
 苦しくなってくる。
 何故殺してしまったのだろうか。

 天光琳は天俊熙が自分の首を切ったガラスを震える手に持った。
 手は血だらけだ。しかしこれは自分のでは無く天俊熙のものだ。
 こんな自分が生きていて良いのだろうか。
 皆を殺し、桜雲天国を滅ぼした自分が......このまま行き続けてよいのだろうか。
 このまま生きていたとしても......幸せに生きられない。なら......。

 ......と。


「光琳様......何を?」


 いつの間にか落暗が真後ろに立っていた。
 落暗はなんともない顔をしている。
 鬼神は転落ぐらいで死なないのだろうか。
 落暗はしゃがみ、天光琳の肩に手を置いた。


「っ!?」

「国を滅ぼす...とはこういうことも起こる。それを分かっていたのだろう?」

「......」


 国を滅ぼすとなると、関係ない神や、天俊熙や草沐阳などの大切な神の命まで奪ってしまうのだ。しかしもう戻れない。
 天光琳は首を横に振った。


「分かっていた......?なにが...?......勝手に僕に取り憑いて、神界を滅ぼそうとしてるのはお前じゃないかっ!?返せよ!僕の大切な仲間を......国を!!」

「仲間...か。仲間とは凄いな。洗脳を解かすことが出来るのか」


 落暗は天光琳の耳元に顔を近づけた。


「来るな、離れろ!!」

「コイツらはな、光琳様がこうなるまで助けなかった。いや、こうなっても助けない。光琳はずーーっと、ひとりぼっちだ」

「......ちが...う.........」


 落暗は天光琳の耳元でゆっくりと話している。そして肩に置いた手からは何かの術を使って天光琳に力を移している。
 すると、天光琳は涙が止まり、また目の色が黒色に戻った。
 天光琳は持っていたガラスを落とした。
 すると落暗はそのガラスを踏み潰し、粉々にした。


「大丈夫です。光琳様。これは復讐なんです。あなたが罪を償う必要は無いのですよ」


 そうだ。これは復讐なのだ。
 罪を償う必要なんてない。


「光琳様。桜雲天国は滅びました。次は別の国も滅ぼしましょうか......とその前に、新たに国を作りましょう」


 桜雲天国の神は全員死んだ。
 残っているのは天光琳と落暗、そしてドロドロの生物たちだけだ。


「光琳様は鬼神王です。あなたが名前を決めてください」

「......」




 そして、桜雲天国が滅び新たに誕生した国......"アタラヨ鬼神国(きじんこく)"。

 元は桜雲天国だったのだが、桜は枯れ、太陽は沈んだ。
 そして大きな月と星々がアタラヨ鬼神国を照らしている。

 天光琳はボロボロの城の最上階で国を見渡した。

 まだ建物は崩壊したままだ。また、殺された神々は数時間経つと光になって消えていく。
 そのため、現在倒れている神はおらず、血も全て消えている。
 しかし......何か物足りないような気がする。


「鬼神は増えたりしないの?」

「仲間が欲しいのですか?」

「僕たちだけじゃ寂しいからね」


 ドロドロの生物は仲間と言うよりは......飼い猫飼い犬などのような存在だ。
 話すことは出来ないし、神を殺すことしか出来ない。
 そんなのが沢山いても、仲間がいるとは思えないのだ。


「鬼神を増やすことは出来ます。ですが......光琳様も協力して頂けたら助かります」

「分かった。どうやって増やすの?」

「簡単です。人間の願いを叶えず、神へ対する怒りや不満の気持ちを増やしていけばよいのです。......ですが、神界は合計すると毎日何万回以上も人間の願いを叶える......それを私たち二神で邪魔をしていくのです」


 邪魔をするなら落暗一神でやるより二神でやった方が良いだろう。
 神界で暮らしている神々の数は数え切れないほどいる。全て邪魔することは出来ないが、ある程度邪魔をしていけば、そのうち新しい鬼神が生まれる。そして次は三神で邪魔をすれば威力は増す。
 そしてそれを繰り返せば時期に鬼神は増え、仲間は増えるだろう。
 仲間が増えれば国も滅ぼしやすい。
 そして神界を支配するのも楽になるのだ。


「どうやって邪魔するの?」

「光琳様は人間の願いを叶えるために舞をしていたじゃないですか。それと同じようにやれば良いのです」


 舞をして鬼神の力を使い、神々が神の力を使って人間の願いを叶えるのを邪魔をする。
 そして失敗させ、人間は願いが叶わず神に不満をぶつける。そうすることで鬼神は増え、さらに天光琳たちは強くなっていく......ということだ。

 すると落暗は手を合わせた。
 そして手を離すと黒色の光が現れた。
 落暗は光を眺めた。


「現在、神界の神々は桜雲天国滅び新たにアタラヨ鬼神国が出来たことにより、混乱しているようですね」


 国の状況を見ているのだろう。
 天光琳は落暗の光を覗き込んだ。
 落暗と天光琳の身長の差は結構あるため、天光琳が背伸びをして覗き込む。それに気づいた落暗は両手を下げ、天光琳が背伸びをしなくても見えるようにした。

 光は水晶玉のようになっていて、様々な国の状況が見える。
 皆慌てている。
 ......この見覚えのある神は......美梓豪。

 神王である美梓豪は頭を抱えていた。
 大切な娘は死に、仲の良かった桜雲天国は滅び......そして天光琳が鬼神と共に国を支配した。
 頭が痛い。突然過ぎて理解ができていない。
 まるで夢の中の出来事のように信じ難いことだ。


「さて、次はどこの国を滅ぼしましょうか」


 落暗がそう言うと、天光琳は光から目を離した。
 天光琳が目を離すと、落暗は光は炎が消える時のように儚く消えていった。


「どこの国でもいいよ。どうせ全国滅ぼすんだし」

「そうですね」


 落暗はニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
 天光琳は無表情のまま、また糸で遊んでいる。


「それ、最近よく遊んでいますね。気に入ったのですか?」


 天光琳は手元を見たまま「うん」と頷いた。
 変わってしまっても、子供らしさは抜けていない。
 そういえば......クマのぬいぐるみはどこへ行ったのだろうか。




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