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ー光ー 第九章 鬼神と無能神様

第百十四話 命令

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 天光琳は天麗華と天俊熙と一緒に近くのベンチに座った。

 美梓豪は他国の王たちと話している。
 天宇軒と天浩然もそこにいる。


「つまり......玉風様は良い方で、光琳が殺されそうになっているのを知り、何度も助けたと......。それなのに玉風様はお前にだけ今日のことを伝え、知っていたお前は昨日から帰ってきてからずっと泣いていた......ということか......」


 天光琳は頷いた。
 天俊熙はやっと理解した。やはりまた会えるというのにあんなに泣くはずがない。
 しかしいくら聞いても天光琳は言わなかっただろう。
 この件に関しては、どうすることも出来なかった。
 それに星玉風は最初から今日で人生を終える気だったそうで、封印の儀から逃れることは出来なかった。


「玉風さんは星連杰が家族を殺したことをずっと知っていたのね。知らないふりを続けたって......凄いことよね」

「ですね。今は亡き家族に会えるだろうし、幸せになっているといいな」


 天光琳もそう思った。
 今は双子の妹たちと母、叔母に出会えているだろう。そしてどうか星連杰と星連杰の父には出会わず、幸せに......。


 そう思っていると見覚えのある神が走ってきた。


「おねー様たち!」

「こらこら夢華、今はダメだって言ったじゃないか......」


 美夢華と美朝阳、そして美暁龍と美雪蘭がいた。
 美夢華は天光琳が悲しんでいることを知らず、笑顔で走ってきて天麗華の前まできた。
 天麗華は笑顔を作り、美夢華の頭を撫でた。


「お久しぶりです。......鈴玉様はどちらに...?」

「ルーナ様と一緒にいます」


 美ルーナは足が悪いため自由に歩くことが出来ない。
 美梓豪は今広場にいるため、美鈴玉が一緒にいるのだろう。


「お兄様、なんで泣いているのですか?」


 美夢華は天光琳の顔をよく見ようとしゃがんだ。


「こら、夢華!」

「なんでもないよ」


 美朝阳が急いで美夢華を止めたが、天光琳は目を擦って作り笑いした。

 美朝阳は申し訳なさそうにしている。


「夢夢、大人しくしてなさいって、父上が言っていたでしょ?」


 美雪蘭が注意すると、美夢華は口を尖らせた。


「大人しくしてるもん」

「してないでしょ」


 美暁龍もそう言うと、美夢華は怒って美朝阳の後ろに隠れた。二神で言わなくても......と拗ねている。
 仲が悪いわけでは無さそうだが、兄弟というものはこういうことも起こるだろう。


 話が終わったようで、美梓豪と天宇軒と天浩然もこちらに向かってきた。
 天光琳たちが立ち上がろうとすると、美梓豪はそのままで良いと止めた。


「話は聞いたぞ。......星連杰は昔、良い神だったのは私も知っている。神王になってから変わってしまったからなぁ......」

  
 美梓豪は心配そうに言った。
 美梓豪も自分自身がそうなってしまうのではないかと怖くなってきたようだ。


「ずっと神王になりたいと思っていたのだが......これは突然過ぎてなんだか落ち着かないな」

「え?お祖父様、神王になったのですか?!」


 先程まで拗ねていた美夢華は「すごーい!」と言いながら飛び跳ねた。
 これは喜んでいい事なのかよく分からないが、神王になったことはめでたい事だ。


「まずは神界のルールを変えなければいけない。......もう少し、光琳が生きやすくなるようなルールにな!」

「......!」


 そうか。美梓豪が神王になれば、このおかしな神界のルールを変えられる。
 天光琳は一週間に三回、人間の願いを叶えなければいけないというルールが無くなることをずっと願っていた。
 それが叶うかもしれない。


「父上、無理はしないでくださいね」

「分かっているぞ!」




 五神は玲瓏美国から帰ってきた。
 天光琳は悲しかったが、星玉風が笑って欲しいと言っていたのを思い出し泣くのを辞めた。もう子供では無い。
 けれど、くまのぬいぐるみはいつまでも大切にしようと思った。
 時々悲しくなるが、その時は頑張って堪える。



 佳宵星国は滅びることとなった。
 佳宵星国の神々は各国へ移動しなければならない。
 星連杰のことがとにかく嫌いだった王の国は、佳宵星国の神々が来るのを受け入れなかったが、他の国は歓迎した。桜雲天国もその一つだ。

 佳宵星国の神々はやっと苦しい生活から解放されると安心したが、その国の人間の願いを叶える方法を覚えなければいけない。
 急なことで神界全体が忙しそうにしているが、何とかなるだろう。

 そして数日後。

 神王美梓豪はある命令をだした。
 神王になって初めての命令だ。


「神の力が低いものに、国の評価を上げたいからと無理やり人間の願いを叶えさせてはいけない」


 この命令と同時に「一週間に三回人間の願いを叶えなければいけない」というルールは無くなった。
 ......ということは美梓豪は天光琳のために出した命令だろう。
 天光琳は安心した。

 これで失敗して皆に笑われることは無い......と。


 ......しかし。

 天光琳を馬鹿にしたり笑ったりすることは無くならなかった。
 命令がなくなったとはいえ、やはり無能神様は無能神様だ。

 そのため、天光琳は変わらず修行と舞の稽古に励んだ。
 少し気が楽になったが、いつか王になるのに神の力が使えないという焦りは消えなかった......。



 ✿❀✿❀✿


 数日後の日が落ちた頃。


「明日さ、市場にいかない?」

「いいわね、さんせー!」


 十代ぐらいの女神が明日の予定について話している。
 すると......目の前の桜の木に目が止まった。


「......ねぇ、あの桜の木......枯れてきてない?」

「え?そんなことある?」


 よく見ると、桜の花弁が茶色くなっているものがあった。


「本当だ......」

「おかしくない......?桜雲天国の桜が枯れるなんて......」


 女神たちはだんだんと心配になってきた。

 すると突然。冷たい風が吹いた。
 冬になったため、冷たい風が吹くのは当たり前なのだが、この風は凍りついてしまうかもしれないほど寒かった。


「ね...ねぇ......アレって......」


 女神が顔を青ざめながら桜の木の方を指さした。

 あれは......


「に...逃げて!!」

「待って、そんなに早くはしれ.........っ!?」


 次の瞬間、女神たちの悲鳴が響いた。
 悲鳴が聞こえ、何事かと近くにいた神々は急いで駆けつけたが......そこには、血を体力に流して倒れている二神の女神の姿があった。

 何が起きたのだろう。

 ある男神は走って城へ向かった。天宇軒に報告するのだ。



 そして、これから何が起こるのか......天光琳たちはまだ知らなかった。




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