鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第九章 鬼神と無能神様

第百十一話 耐えられぬ涙

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「おかえりーっ!」


 目を開けると、天俊熙が立っていた。
 しかし天光琳はその場で泣き崩れた。


「......えっ?」

「......」


 天麗華は何も言わず、天光琳の傍でしゃがみ、背中をさすった。
 天俊熙は何が何だか全く分からないが、何となく察し、黙って二神の荷物を持った。


「玉風様......玉風様......」

「大丈夫よ。会えるから......とりあえずお部屋に戻りましょう。報告は私がしておくから......俊熙、光琳を部屋まで連れて行ってくれない?」

「あ......分かりました」


 天麗華は「ありがとう」と言って天俊熙から自分の荷物を受け取り、天宇軒のところへ向かった。

 残されたのは大泣きし、くまのぬいぐるみを抱きしめている天光琳と、状況が全く分からない天俊熙だ。


「とりあえず......部屋に行こう...?」


 天光琳は頷き、ゆっくりと立ち上がった。
 二神はゆっくり部屋まで戻って行った。



 部屋に戻ると天光琳は直ぐにベッドに行き、そこから出てこなくなった。

 天俊熙は、二神が昼食の時間までには帰ってくると聞き、この後三神で街へ行き昼食を食べようかと思っていたのだが......それどころでは無いようだ。

 天俊熙はとりあえず二神分のお茶を用意し、ソファに座った。


 (何があったんだ......)


 天光琳がこんなに泣くことは珍しい。
 そしてあのくまのぬいぐるみはなんだろう。


 (玉風様......って言ってたけど......神王の息子の星玉風さんの事だよな......)


 天俊熙はてっきり、佳宵星国から帰ってきて「やっと帰って来れて嬉しい」と笑顔、もしくは疲れきった様子で帰ってくるのかと思っていたのだが......まさかの大泣きで帰ってくるとは。

「うーん......」



 三十分後、扉をノックする音が聞こえ、天俊熙は扉を開けた。
 天麗華だ。

 来ると思っていた。
 天俊熙は天麗華を入れ、急いでお茶を用意した。
 天光琳の分のお茶はもう冷めている。
 天俊熙の分も考えていて二口ぐらいしか飲めていないため、勿体ないことをしてしまった。

 天麗華は天光琳の側まで行き様子を見た。


「何かあったんですか......?」


 天俊熙がお茶お用意しながら恐る恐る聞くと、天麗華は天俊熙の側まで戻ってきた。


「星玉風様と離れるのがいやだったそうよ」

「......そうなんですね......」


 天俊熙は本当にそれだけなのか疑った。
 佳宵星国へ行けばまた会えるというのにこんなに子供のように泣き叫ぶのだろうか。

 天麗華も疑っている様子だ。
 二神はお茶を飲みながら何も話さなかった。
 お互い考えているのだ。



 夕食の時間になっても天光琳はベッドから出てこなかった。

 二神は天宇軒に天光琳の事情を伝え、天光琳抜きで夕食を食べた。
 そして天麗華はサンドイッチを作り、天俊熙は用意しておいたプリンを持ち、部屋に戻ってきた。

 部屋に戻ると天光琳はソファに座っていた。


「落ち着いたか?」

「......うん」


 天光琳はそう言ったが、すぐ後に首を横に振った。


「どっちだよ」

「わかんない」


 天光琳はぎゅっとくまのぬいぐるみを抱きしめた。
  

「とりあえず軽く食べなさい。昼も何も食べていないのだから」

「わざわざ用意して下さったのですね......すいません、迷惑かけちゃって」


「いいのよ」と天麗華は微笑んだ。
 食欲がないのだが、せっかく作ってくれたのだから食べるべきだろう。
 天光琳はサンドイッチをかじった。

 二神は天光琳がちゃんと食べたことに安心した。

 明日のこの時間。星玉風が星連杰を殺す。
 そう思うと胸が苦しくなってくる。

 しかしその事を二神には言ってはいけない。
 だからいつまでも泣いてはいられない。

 天光琳は目を真っ赤にしながらサンドイッチとプリンを完食した。



 その日の夜は眠れなかった。
 星玉風は今どんな気持ちなのだろう。
 きっと星玉風も眠れないだろう。

 もし天光琳が神の力を使えれば......今頃連絡することが出来ただろう。
 しかし神の力を使えないため天麗華たちのように連絡が出来ない。
 天光琳は悔しくてたまらなかった。

 天光琳は外で散歩しようと起き上がった。
 そしてベッドから降り、羽織を取ろうとしたら後ろから手を掴まれた。


「どこ行くんだ?」

「俊熙......」


 暗闇で顔がよく見えないが、心配されているだろう。


「散歩しに行くだけだよ」

「麗華様が『今日の夜きっと光琳は眠れないからって散歩しに行くかもしれない。危ないから止めてほしい』って言ってた。だから行くな」


 予想は当たっていたようだ。
 天光琳は「分かった...」といい、天俊熙は天光琳の手を離した。


「本当に別れるのが寂しいからってだけなのか?何かあるんじゃないのか......?」

「なんでもないよ」


 天光琳は下を向きながら言った。


「じゃあなんでそんな顔してんだよ」

「なんで俊熙は最近そんなに焦ってるの?」


 天光琳が聞き返すと天俊熙は黙り込んだ。
 最近天俊熙がおかしい。
 なにかあるのか分からないが焦っている。
 天光琳が落ち込むと直ぐに焦りだす。


「...そっとして欲しいのに......」

「......ごめん」


 天光琳はそう思いながらベッドに戻った。
 天俊熙も黙ってベッドに戻って行った。

 天俊熙は寝転がり腕で顔を隠した。

 ..."嫌なこと"が頭に浮かんできた。
 それは天光琳が.........。









 黒いマントをつけた長い髪の男神が立っている。
 その男神の片腕は黒かった。
 そして一神、浅い湖の中心に立ち、どこか寂しそうな顔をして光り輝く月を眺めていた......。



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