鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

文字の大きさ
上 下
93 / 184
ー光ー 第七章 焦る仲間

第九十二話 焦り

しおりを挟む
 数日後。

 天光琳にとって地獄の日がやってきた。
 それは......今日は人間の願いを叶えなければいけない。

 朝から気が重かった。
 天光琳は廊下をゆっくりと歩いている。


「大丈夫か...?俺も行こうか......?」

「うんん、へーき、大丈夫だよ......」


 先程昼食を一緒に食べていた、天俊熙が心配してくれたが、天光琳は断った。
 天俊熙は昨日、天光琳と修行と稽古をしに行っていたため、仕事がたまっているのだ。
 今日もサボってしまったら大変なことになる。
 王一族は本当に大変だ。......天光琳もそうなのだが。


 (早く......神の力を使えるようにならなきゃ......)


 天光琳は自分の手の平を見つめた。自分の手は天麗華のように綺麗ではなく、タコや傷痕などでボロボロだ。
 京極庵に言われたことを思い出した。
 努力の結果は出ていないけれど、頑張りは自分の手に現れているのだ。......しかし。


 (普通......じゃないよね......。沢山頑張ってるのに......みんなより頑張ってるつもりなのに......)


 胸が苦しくなる。何故自分だけみんなと違うのか。


 (......僕は何者なんだろう......)


「おーい」

「!」


 天俊熙に頬をつんつんとされ、天光琳はようやく我に返った。


「本当に大丈夫か?......お前の姉ちゃんもすごく心配してたぞ」

「...心配......?怪我のこと...?」

「違う」


 天俊熙は首を横に振った。


「最近ぼーっとしてること増えてるし、元気ないし、笑ってるところもあんまり見なくなったし。......伽耶斗さんのこと、まだ自分を責めてるのか......?」


 天光琳は驚いた。心配されているとは思っていなかった。いつも通り過ごしていたつもりなのに。


「......大丈夫だよ......」

「ほらまた『大丈夫』って......」


 京極伽耶斗のことで、自分を責めている...ということは嘘では無いため、否定は出来なかった。
 天光琳はいつも通りの笑顔のつもりでニコッと微笑みながら行ったのだが、ダメだったようだ。天俊熙は更に険しい顔になった。


「あのさ......頼むから......話してくれないか?小さなことでもいい。嫌なこと、困ってることとかあったら、我慢するんじゃなくて相談して欲しいんだ。......もしかして...そんなに俺に言うのが嫌なのか...?」

「いや......そういう訳じゃ......」


 何故だろう。天俊熙はとても焦っているように見えた。


「...なぁ......話してくれよ......」

「わ...分かったよ。でも...今は本当に大丈夫なんだ......本当に。......だからまた今度、何かあったら相談してもいいかな......?」


 しかし天俊熙は納得していないようだ。

 しかし天光琳はそのまま後ろを向き、歩いていった。
 天俊熙はどんどん小さくなっていく天光琳の姿を眺めていた。
 そして小さい声で呟いた。


「大丈夫じゃないくせに........なんで隠すんだよ......」


 天俊熙は地面に座り込んだ。


「......俺......どうすればいいんだ......」


 天俊熙は考えすぎて頭が痛かった。
 何故こんなに焦っているのだろうか。
 天俊熙が頭を抱えていると、後ろから何者かの足音が聞こえてきた。


「......俊熙?」

「......麗華様......」


 天麗華は心配している様子だ。


「どうしたの......?話なら聞くわよ?」

「......ちょうど良かった......。麗華様に話したいことがあるんです」


 天俊熙は立ち上がり真剣な顔をした。


「......信じられないかもしれないんですけど......」

「いいわよ。とりあえず、場所を変えましょう。私も言いたいことがあるの」



 ✿❀✿❀✿




 天光琳は白い布で顔を隠しながらゆっくりと歩いて塔へ向かった。
 どんどん地獄の時間が近づいてくる。


 (......今日こそ......)


 毎回同じようなことを考えて歩いているとあっという間に塔に着いてしまう。
 天光琳は塔の中に入り、個室へ移動した。


 天光琳は鏡の前に立ち、自分の姿を眺めた。
 鏡には無能神様が映っている。


「......」

 眺めていると、無能神様は歪んでいき、じわっと消えていった。
 そして神社で願っている人間の姿に変わった。


『私の頑張り......認められますように』


 選んだ舞は雲外蒼天之舞(うんがいそうてんのまい)
 努力をし続けて行けば、きっと良い未来が待っている...という思いを込めて。

 しかし神の力は出てこない。

 失敗だ。......次。


 天光琳は気分を切りかえた。


 無病息災之舞......雨過天晴之舞.........


「......っ」


 しかし成功することは無かった。
 分かっていた......こうなることを。


 (今日も......また笑われるんだろうな。外出禁止になるんだろうな)


 天光琳はこれから起こることを予想した。


『また失敗したんだってよー』

『姉とは全然違うな』

『可哀想』


「......」


 笑われる所が浮かんできた。
 天光琳は首を横に振った。
 しかし、まだ浮かんでくる。


『無能無能ー!』

『だっせぇ』

『この国の恥だ!!』

『約た立たずめ!!』


「......っ!!」


 ガシャンと大きな音が部屋の中に響いた。
 天光琳は......扇を投げ飛ばしたのだ。
 神として、人間の願いを叶えるための道具を乱暴に扱ってはいけない。ましてや投げ飛ばすなどやってはいけないのだ。


「はぁ......はぁ......」


 扇は強く地面に叩きつけられ、折れてしまった。
 しかし天光琳の怒りはおさまらなかった。


「......して......やる.........」


 天光琳は小さな声でボソッと何か呟いた。
 息を荒くし、目を大きく見開き、折れた扇を見つめている。その目には光がなかった。


「......殺す.........みんな......殺してやる......」


 天光琳の怒りはおさまらず、言ってはいけない言葉を呟いた。
 そして、折れた扇を蹴飛ばし、大声で言った。


「みんな消えてしまえ......死ねっ!」


 (......っ!?)


 天光琳は大声で言ったあと、ようやく我に返った。


「......あれ......僕、今............なんて言った......?」


 天光琳は自分でもよく分からず、混乱している。


 (扇が......)


 そして折れた扇を両手で拾った。
 こんな大切なものを壊して......天宇軒に怒られてしまうだろう。
 とりあえず、扇をしまい、先程のことについて考えた。


「殺したいなんで......そんなこと...思ってない......のに......」


 まるで自分ではない何者かが言ったように感じた。......何者かに取り憑かれてしまったかのようだ。


 (鬼神......?いや違う......鬼神は倒したはずだ......。倒した......倒したんだよね......)


 天光琳は怖くなって振り返った。

 ...が、何もいない。
 しかし恐怖はおさまらなかった。

 しかし突然耳鳴りがした。


「!?」


 天光琳は走って部屋から出た。
 何者かに追いかけられているような感じがしたのだ。


 (早く!!)


 結界の上にたち、早く下へ降りなければと焦った。

 結界の上に立って、五秒で光に包まれ、下へと移動したのだが、とても長く感じた。


 塔の一階へ到着すると、そのまま走って塔から出た。
 そして走りながら急いで白い布を被った。


 (...気のせい......気のせいだ......)


 そう自分を言い聞かせ、城まで走って向かっていく。


「ねー、また失敗したって」

「天光琳やばいよね、この前天宇軒様に会った時、すごく疲れてそうだったよ、天光琳のせいじゃない?」

「そうなんだ、見てなかったなー」


 悪くが聞こえてくるが今はそれどころでは無い。
 しかし気にしてしまう。耳に入らないようにしているのだが、どうしても聞いてしまうのだ。

 聞こえない聞こえない...と思いながら走っていると......


「っ!!」

「わっ!?」


 天光琳は何者かにぶつかってしまった。


「......す...すいません......」

「いたた........ぐ....光琳...!?」


 少し低い男神声が天光琳の名前を呼んだ。
 なんと白い布が外れてしまい、バレてしまった。
 この男は......千秋(チェンチウ)だ。


「...千秋...くん......」


 天光琳の心臓はドクンドクンと大きくなった。
 天俊熙が言っていたことを思い出したのだ。
 今も毒針を持っているのではないか...と天光琳は三歩下がった。


「......光琳......」


 千秋は何か言いたいことがあるようで、近づいてきた。
 そして天光琳の腕を掴んだ。
 しかし天光琳は殺されると思い、手を振り払って逃げ出した。


「ちょっと!待ってよ!!」

「ごめんなさいっ!」


 そう言って天光琳は振り返らず走っていった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

滅亡世界の魔装設計士 ~五体不満足で転生した設計士は、魔装を設計し最強へと成り上がる~

高美濃 四間
ファンタジー
凶霧と呼ばれる瘴気が蔓延し、人類滅亡に瀕した異世界。 現代で設計士をしていた『柊吾』は、目覚めると少年に生まれ変わっていた。 それも両腕両足を魔物に喰われた状態で。 彼は絶望の中でひたすら魔術や鍛冶を学び、前世の知識をもってある設計図を完成させる。 十年かけて素材を集め、それを完成させたシュウゴは圧倒的な力を発揮し、凶暴な魔物たちへ挑んでいく。 やがて、新たな仲間を増やしながら最強のハンターとして成り上がっていき、誰もが認める英雄へと至る。 討伐と設計を繰り返し成長する、ハイスピードハンティングアクション! ※小説家になろう様、エブリスタ様、ノベルアップ+様、カクヨム様、たいあっぷ様にも連載しております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...