鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第六章 燦爛鳳条国

第八十九話 自分が

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 数日後。
 天光琳の怪我は良くなっていき、もう普通に歩けるようになった。

 たびたび、天万姫や天語汐、天浩然がお見舞いに来てくれた。
 天万姫は四神の無事を安心したが、焔光山であった出来事を聞いて酷く悲しんだ。

 そして今回も、治るまで燦爛鳳条国で休めということだ。

 一週間後、関係ないけれど、天麗華は一緒に残ってくれた。しかし、天李偉と天俊熙は桜雲天国へ帰ってしまった。
 天俊熙は天光琳の怪我の心配と、京極庵ともう少し話してみたい......という気持ちがあり、残りたいと言っていたのだが、天李偉に連れていかれてしまった。

 また天宇軒は神王星連杰に事情を伝え、人間の願いを叶える仕事の休みの許可をとった。

 天光琳は燦爛鳳条国の城の病室で大人しくしていた。
 そして一日に一回は京極庵のところへ行き、話をした。


 そして現在。怪我がある程度治った天光琳は、天麗華とともに、桜雲天国へ帰ることにした。

 二神は帰りの準備をしたあと、一旦荷物を置いて、鳳条眞秀の所へ行った。

 そういえば鳳条眞秀が普段いる場所を聞いていなかったため、二神は迷子になってしまった。

 フラフラと歩いていると、見覚えのある男神......清之介だっただろうか。鳳条眞秀の側近と鉢合わせた。
 ちょうど清之介は二神を呼びに行くところだったため、清之介と一緒に鳳条眞秀の部屋へ行った。



「もう少しゆっくりして行っても大丈夫ですよ......?」

「いえ......皆が心配しておりますので」


 天光琳はぺこりと小さくお辞儀をしながら言った。


「そうですか......。二神方、ありがとうございました。天光琳様、悪神...いや、鬼神を倒してくださって、本当に感謝いたします」


 鳳条眞秀が二神に向かって頭を下げたため、二神は焦って頭を上げるようにお願いした。
 鳳条眞秀は王だ。頭を下げるような身分では無い。
 それほど感謝しているのだろう。

 そういえば、鳳条眞秀や天麗華たちはあの戦いの時にいなかったため、悪神は鬼神だった......ということは知らないはずなのだが......。
 恐らく先に目覚めた京極庵が天麗華に伝え、そのまま鳳条眞秀に伝えたのだろう。


「あ...そうだ。清之介、あれを」

「はい」


 鳳条眞秀がそう言うと、清之介は赤色の布を鳳条眞秀に渡した。
 そして鳳条眞秀は布を広げた。


「......これは光琳さんの者でしょうか?」

「......?......あっ...」


 天光琳は鳳条眞秀の手にあるものを見て驚いた。
 それは......玲瓏美国で買った鬼灯の簪......鬼灯の部分が潰れ、壊れてしまっている。


「やはりそうですか......。光琳さんたちが帰ってきた次の日から、うちの護衛神が焔光山へ行き......ある調査をしていたのですが......その時に見つけたそうです」

「そうなのですね......。ありがとうございます......」

 調査......とは、おそらく、京極伽耶斗の遺品がないか探しに行っているのだろう。
 天麗華がいるため、あえて言わないようにしたのだ。

 天光琳は鳳条眞秀から壊れた鬼灯の簪を両手で受け取った。
 天光琳は受け取ると、悲しそうに簪を見つめ
 た。

 これは玲瓏美国で買った思い出の簪だ。
 他にも買ったのだが、これが一番お気に入りなのだ。
 焔光山に行く時、無事を祈ってこの簪をつけた。

 しかし無事ではなかった上に、この簪は壊れてしまった。
 つけなければよかったと天光琳は後悔した。

 その様子を見た天麗華は天光琳の肩に手を置いた。


「大丈夫よ。私が治してあげるから」


 天麗華はそう言うと、手を合わせた。そして手をゆっくりと離すと、手と手の間からピンク色の光が現れた。
 そして天麗華が両手を簪の上にかざすと、簪はひかり......簪は元通りになった。


「わぁ......姉上、ありがとうございます!」


 天光琳は嬉しそうに微笑み、天麗華は安心した。



 ✿❀✿❀✿


 そろそろ出発する時間だ。

 天麗華は城の四階にある部屋を借りているため、一階にある病室で過ごしていた天光琳と別れ、二神はそれぞれ荷物を取りに行った。


 天光琳は荷物を取りに行こうと階段を降りていると......


「!?」

「あなたっ!?」


 京極の母と鉢合わせてしまった。
 天光琳の心臓はドクンドクンと大きくなる。
 京極の母は目を真っ赤にし、目を大きく開けて天光琳を見つめた。


「何故そんなに平気そうな顔をしているの?歩けるようになって嬉しいの?怪我が治って嬉しいの?ウチの子はどうでもいいのっ!?」


 天光琳は何も言えなくなり頭を下げた。


「ごめんな、.........っ!」
「謝ったら許されると思ってるのっ!?」


 天光琳は京極の母に頬を叩かれた。
 頬は真っ赤に染まった。
 そうだ。謝っても許されない。謝れば良いという訳では無い。


「天国の未来の王だからってなによ!?何故あなたは無事で、ウチの子二神は無事ではないの!?返してよ、二神の幸せを!!」

「......っ」


 天光琳は何を言えばいいのか分からず、下を見つめた。


「お前は無能神様なんでしょ!?お前は何も出来ない国のお荷物なんでしょう!?だったらお前が死ぬべきだったんじゃないの?王子だからって、お前より身分が低いあの子が死んで当たり前か?じゃあ無能、無能で役たたず、国のお荷物で国の評価を下げてる王と天才の身分が低い神、どちらの命が大切なの!?」

「......!」


 天光琳はそうか...と思った。
 京極伽耶斗が言った言葉を思い出した。

『光琳!!......君は未来の王なんだろう!?僕たちはもともと......君を守るために派遣されたんだ!!頼むから......逃げてくれ!!』

 未来の王だから......自分がもし未来の王ではなかったら?
 そもそも、未来の王ではなかったら......もう少し低い身分だったら、自分を守るために派遣されることなんてなかったかもしれない。
 犠牲者は出なかったかもしれないのだ。

 未来の王だが何も出来ない無能神様の自分が、天才で信頼されている京極伽耶斗、どちらの命が大切だったのだろうか。
 間違えなく京極伽耶斗だ。
 むしろ、天光琳は『いなければよいのに』と言われたこともある。
 そんな天光琳が助かり、京極伽耶斗は犠牲になった。


「お前なんか死んでしまえ!!伽耶斗を返して!!庵の体を元に戻して!!なぁっ!?」

「......っ!?」


 天光琳は胸ぐらを捕まれ、そのまま階段から突き落とされてしまった。
 ものすごい速さで落ちていく。

 天光琳は後ろ向きで落ちていき、まずい......と思った瞬間。

 体がふわりと軽くなった。......浮かんでいる。


「......!?」


 上を見上げると鳳条眞秀と清之介が京極の母の後ろに立っていた。

 鳳条眞秀は右手を上にあげ、右手からは赤色の光が激しく燃えていた。

 鳳条眞秀が右手をゆっくり下げると、同時に天光琳もゆっくりと地面に着地した。


「いい加減にしなさいっ!!」

「眞秀様...!?」


 鳳条眞秀の聞いた事のない鋭い声を聞き、天光琳も驚いた。


「自分の息子の死を無駄にするつもりかっ!?このまま光琳さんが落ちて頭を打ち、死んだらどうするんだ?伽耶斗が命を犠牲にし、守りきったのが台無しではないかっ!?」

「......あ......あぁ......」


 鳳条眞秀がそう言うと、京極の母は両手で顔を隠し、泣き崩れた。
 この高さだと、間違えなく無事ではなかっただろう。
 もし鳳条眞秀が助けてくれなかったら......天光琳は死に、京極の母は封印される。そして京極伽耶斗の死が無駄になるところだったのだ。


「突然の息子の死......辛いことだと思うが、他神に当たってはいけない。清之介、どこか休めるところへ案内してやってくれ」

「分かりました。行きましょう」

「......」


 京極の母は清之介と共に、階段を登っていき、姿が見えなくなった。


「......ありがとうございます」

「礼を言われるほどではありませんよ」


 天光琳の聞きなれた優しい声に戻った。


「あの者には封印...までとは行かないけれど、罰を与えますので」

「...え、......で...ですがっ!」

「光琳さんは優しい方なので、だいたい言いたいことは分かっています。しかし、神界のルールで決まっているのです。できるだけ軽く済ませますよ」

「そう......ですか.........」


 天光琳は手に力を入れた。
 突然の息子の死に気が落ち着かず、このような事件になってしまったのだ。

 鳳条眞秀もできるのであれば罰は与えたくないと思っている。しかしこれは神界で決められたルールのため、変えることはできない。


「光琳さん。そろそろ行かなくて大丈夫ですか?麗華さんを待たせちゃいますよ」

「あっ......」


 天光琳は鳳条眞秀にお辞儀をし、急いで階段をかけおりて病室へ向かった。

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