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ー光ー 第六章 燦爛鳳条国

第八十八話 遺言

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「......あ、そういえば、麗華さんに...伝えたか?」

「......あ...」


 天光琳は思い出した。京極伽耶斗から大切な遺言を預かっていたのだ。
 二神はその遺言を預かった時、焦っていたため、遺言のことは気にしていられなかった。
 しかし今考えてみると......結構心に響くことを言っている。


「伽耶兄......格好つけやがって......。あんなこと言ったの、初めてなんだぜ」

「...そうなんだ......。......とても......かっこよかったよ」


 天光琳がそう言うと、ふふっと京極庵は笑った。
 京極庵は今どう思っているのだろうか。


「バカ兄......」


 京極庵は目に涙を浮かべて微笑んだ。


 ✿❀✿❀✿



「お前はそろそろ部屋に戻れ。そこで座ってるの、きついだろう...?」

「...うん」


 天光琳はゆっくりと立ち上がった。


「......というか...帰れるのか?」

「行けたんだから......帰れるはず......」


 そう言ってフラフラと歩いた......が、天光琳は足の痛みのせいで、立っていられなくなり、転んでしまった。


「ちょっ......大丈夫か...?」

「だい...じょうぶ......」


 京極庵は助けたい気持ちで山々なのだが、動けない。そのため見ているだけしか出来なかった。

 天光琳は再び立ち上がり、壁にもたれた。


「ありがとう、庵くん。......おやすみなさい」

「お......おやすみ......」


 天光琳はズルズルと壁にそって外へ出ていき、姿が見えなくなった。


 (本当に大丈夫か......)



 ✿❀✿❀✿



 隣の部屋に戻るだけなのに、遠く感じてしまう。

 (あと......ちょっと......)


 天光琳は痛みに耐えながら歩いていると......


「光琳!?」


 天麗華の声が聞こえた。天光琳は口から心臓が飛び出てしまいそうなほど驚いてしまい......


「うわぁっ!?」

「ちょっと!!」


 後ろにひっくり返るところだった。何とか天麗華が受け止めてくれたため、転ばずにすんだ。


「なぜこんなところにいるの!?......というか足!!」

「え......?あ、あぁっ!?」


 いつの間にか足からドロドロと血が流れていた。傷口が開いてしまったのだ。

 天麗華は天光琳を横抱きにした。


「あ...姉上......あの......」

「いいから」


 横抱き......お姫様抱っこだ。
 天光琳は顔を真っ赤に染めた。
 まさか男の天光琳が女の天麗華に横抱きにされるとは......。
 しかし天麗華はそれどころではなかった。

 走って天光琳の病室へ行き、天光琳を寝かせると、急いで治療できる神を呼んできた。
 そしてなんとか傷口が閉じ、落ち着いた。
 治療ができる神が部屋を出たあと、

 天麗華は天光琳が寝転がっているベッドに座った。


「鬼神は光琳が倒したし、もう襲われることはないから一神でも大丈夫かな......って思っていたのに......。心配になって様子を見に行ったら......まさか痛みを我慢して歩いているとはね.....」

「ご...ごめんなさい......」


 天麗華は天光琳の頭を撫でた。


「庵くんに謝っていたのでしょう?」

「はい......」


 すると、天光琳はあることを言わなければいけないと思った。


「姉上......伽耶斗さんのことなのですが......」


 天光琳がそう言うと、天麗華の顔色が一気に暗くなった。
 その表情は...とても寂しそうだった。


「ごめんなさい......姉上......」

「なぜ謝るの?貴方は悪くないわ」


 天麗華は悲しい気持ちを実施に堪えながら微笑み、天光琳の頭を撫で続けた。


「私ね......伽耶斗さんのこと、好きになっちゃったの。......あんな短時間しか一緒に居られなかったけれど、とても良い方なんだなって思って......」


 やっぱり...と天光琳は思った。
 あの様子はわかりやすかった。
 今まで多くの男神から告白されてきた天麗華だが、一度も男神を好きになったことがなく、毎回断っていた。そんな天麗華を短時間で落とすとは。


「少しおかしなところはあるけれど、優しくて、頼りになって、......ギャップを感じられたの。話もよく合うし...本当に良い男神だったわ」


 そして天麗華は下を向いた。


「あの時......私の気持ちを...伝えておけばよかったかもしれない......」


 天麗華はすごく後悔しているようだ。
 亡くなると知っていればあの休憩時間中に伝えておけばよかった...と。
 できるのであればあの頃に戻りたい。しかし戻れない。天麗華は手を強く握った。


「姉上......伽耶斗さんが、姉上に遺言を残しましたよ」

「え?」


 天麗華は顔を上げ、天麗華の方を見た。


「伽耶斗さんは...『君は今まであったどの女神より美しいと.........』と姉上に伝えて欲しいって言っていましたよ」

「...!?」


 天麗華は口を押さえ、顔をリンゴのように真っ赤にして驚いた。
 好きだ......と直接言っていないけれど、これは告白として受け取れる。


「あ......あんな数時間一緒にいただけよ...?」

「姉上もその数時間で好きになっちゃったんですよね...?それと同じだと思います」


 天麗華はしばらく驚いたあと、微笑んだ。


「......神は死んだあと...神心しんしんだけが残り、肉体は無くなっても、神心だけは生き続けるって...言うわよね」


 神心とは、神の魂のことだ。そして神の心臓である。この神心は死んでも消えず、見えないけれど神界のどこかでさまよっている......と言われている。
 実際はどうか分からない。
 しかし、神々は亡くなった先祖や家族を思い、その言い伝えを信じている。


「ありがとう。弟を守ってくれて。貴方は素晴らしい神よ」


 天麗華は手を合わせて祈るように言った。
 そして......小さな声で何か言った。
 なんと言ったか聞こえなかったが、天光琳が聞くようなことではないだろう。

 そして天光琳も手を合わせ、心の中で思った。


 (伽耶斗さん......貴方のおかげで僕たちは無事帰ってくることができました。......本当にありがとうございます)

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