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ー光ー 第五章 帰国

第七十話 王の目覚め

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「父上!」


 波浪が扉を開け、三神は部屋に入った。

 ベッドには体を起こした天宇軒がいて、その周りを囲んで天家一族が立っていた。
 そして、国峰と天万姫が天宇軒のそばで座っている。
 天万姫は天宇軒と仲直りしたのだろうか......。


「おかえりなさい」


 天宇軒のそばにいた天万姫が立ち上がり三神の方を向いて言った。
 他の天家の神々も挨拶し、三神は「ただいま」と言った。


「心配させてすまない。もう少し早く目覚めていれば、わざわざ帰還しなくても済んだのだが」

「いえ、美国にはいつでも行けます。父上は大丈夫ですか?」


 天麗華は天宇軒の近くへ歩いていったため、後ろから天光琳たちもついて行った。


「大丈夫だ」


 天宇軒がそう言うと、天光琳は安心した。

 しかし、気になることがある。


「原因は分かったのですか?」


 天光琳がそう言うと、国峰が立ち上がった。


「恐らく疲労じゃな」

「疲労......」


 原因は先程分かったらしく、ここにいた天家も神々も知らなかったようだ。

 やはり天光琳の予想は当たっていた。


「最近仕事が増えた訳ではないですよね。何か新しい仕事が増えたのですか?でしたら俺も手伝いますよ」


 天浩然がそう言うと、天宇軒は首を横に振った。


「大丈夫だ。それに仕事は増えていない」


 しかし天光琳は本当は仕事が増えたのではないかと考えている。
 何年も王をやっている天宇軒が突然疲労で倒れるなんておかしい。
 今までの積み重ねだとしても、王になってからもう何年も経っているのに、今まで倒れたことは一度もなかった。

 そしてあのげっそりとした様子......やはりなにかやっている可能性がある。


「宇軒様、国王なのですから、無理はしないでください。原因は疲労だけではありませんよ。......もう一つ、毎日神の力を使いすぎも原因の一つです。最近、本当は何かされているのでしょう?」

「......」


 皆は驚いた。
 さすが国峰だ。神の力をどれだけ使ったかなども分かってしまうとは。
 天宇軒は黙ったままだ。


「父上......」

「大したことでは無い」


 天麗華が聞いても言うつもりはないそうだ。


「兄上。言わなくても良いですが、もう無理はしないでくださいね」

「分かっている」


 天宇軒は下を向きながら小さくそう言った。
 何をやっているのか全く分からないが、これ以上聞くと失礼だろう。

 それにしても神の力を沢山消費しているとは......一体何をしているのだろうか。





 落ち着いたため、三神は部屋に戻って荷物を片付けることにした。
 天万姫が美梓豪に天宇軒が目覚めたと伝えてくれるそうだ。

 一旦天麗華と別れ、二神は部屋に戻った。


「はぁ~、久しぶりに帰ってきたー」

「二日戻らなかっただけだけどね」


 天俊熙は久しぶりそうに言ったが、出発してからそんな経っていない。
 天光琳は苦笑いした。


「あの温泉に入ってから帰ってくれば良かったな」

「気持ちよかったよねー!」


 温泉にしばらく入れないと思うと、なんだか悲しくなってきた。


「天国にも作って頼んでよー」

「そのつもりだったけど、父上怖いし......」


 温泉作って欲しいとお願いしたい気持ちは山々なのだが、神の力が使えず、国の評価を下げている自分が偉そうにお願いなんかできるか......と思ってしまう。


「宇軒様怖いけど、別にお前のこと嫌ってる訳では無いと思うよ」

「そうかなぁ......姉上や俊熙を見る時と、僕を見る時の目付きが違う気がする」

「そうか?」


 天光琳はため息をついた。


「でも良かった......。僕、父上が目覚めなくて...僕が王になることになったら、自害しようかと思ってたもん......」

「は?そんなと考えてたのか!?あっっぶねぇ......」

「じょーだんだよ」


 天光琳は苦笑いした。
 冗談のつもりで言ったのだが、天俊熙には本気だと思われたようだ。


「お前の冗談は全部本当に聞こえるんだよ」

「えー」


 確かに、王になりたくないと言っている天光琳が強制的に王になったら......国の神々に批判を受け、天光琳は耐えられないだろう。

 天光琳自身は、それを何とかしてみせる、早く神の力を使えるようにするんだ!と思っているのだが、何とかならなかったら大変だ。

 今回は天宇軒が目覚めたから良いものの、やはり今後何があるか分からない。


「ねぇ......今元気?」

「ん?どういうこと?」


 天光琳は片付けが終わったらしく、立ち上がって剣を持った。その瞬間、天俊熙はなんとなく察した。


「修行...しに行かない?」

「やっぱりな、言うと思った」


 天俊熙は服をしまいながら言った。


「だめ?」
「いーよ、三日間、ダラダラし過ぎたし、体動かそーぜ!」


 バッと片付けを終わらせ、整ったあと、二神は部屋を出て走って天桜山に向かった。

 廊下では天万姫と天語汐とすれ違った。


「どこ行くの?」

「天桜山です!」
「行ってきます!」


 天語汐は微笑んだ。


「本当に元気ね」

「無理していないかしら......」


 天宇軒のこともあり、天万姫は心配している。


「大丈夫よ、ほら見て、楽しそうだわ」

「...ふふ、そうね。なら大丈夫かな」


 二神はどっちが早く天桜山に到着するか競っている。
 当然天光琳なのだが......

 二神は楽しそうに走っていった。


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