鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第四章 玲瓏美国

第六十三話 温泉

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 疲れただろう?...城の近くにある温泉に行くと疲れがよく取らるぞ!」

「温泉ですか!」


 夕食を食べ終わったあと、汗を流したくて風呂を貸してくれないかと聞いた天光琳たちに、美梓豪は言った。

「ちょうど、朝阳たちが行くようだから、ついて行くと良い......朝阳、この三神も行くそうだ、一緒に行ってくれ!」

「分かりました、父上」


 廊下に荷物を持って立っていた美朝阳が返事をした。

 三神は急いで着替えを準備し、美朝阳がいる所へ行った。

 三神がそこへ行くと、美朝阳、美鈴玉、美暁龍、美雪蘭、美夢華が荷物を持って待ってくれていた。

 みんな準備できたことを確認し、皆は温泉へ向かった。



 外に出ると、街は街灯の暖かい光で照らされ綺麗だった。 
 明日、祭りの時に玲瓏美国の街を歩き回れるため、楽しみになってきた。


「今から行く温泉は去年ね、できたばかりなんですよ!」



 美朝阳と手を繋いでいる美夢華が言った。


「そうなんですね!」


 去年できたばかりということは、天麗華も行ったことないはずた。


「僕たち、温泉から毎日行っているんです。本当に素敵な温泉ですよ」


 美暁龍は着替えが入った荷物を両手に抱えながら言った。


「毎日!?いいなー」


 天俊熙は羨ましそうに言った。

 どうやら温泉は毎日決まった時間に行っているらしく、その時間は貸切しているようだ。

 ...とても贅沢だな...と天光琳は思った。



 しばらく歩いて、天光琳はふと思った。


「ところで...お祖父様たちは行かないのですか?」

「そうなんだよね。母上...じゃなくて、ルーナ様の足が悪いのは知ってる?」

「はい...」


 天光琳が聞くと、美朝阳は振り向き教えてくれた。


「ルーナ様の足が悪いため、梓豪様は行かないんだ......」

「みんな行っちゃうと、その間一神になってしまいますからね...」


 美鈴玉も付け足して説明してくれた。
 なぜ足が悪くなってしまったのか分からないが、とても可哀想だ。

 ...と、そう思っているウチに、温泉に着いたようだ。


 外観は中華な建物になっていて、とても綺麗だ。
 提灯が暗い外を照らし、辺りは赤色の温かい光に包まれている。

 そして人工...いや、神工的に作られた池と小さな滝が近くにあり、水の流れる音が心地よい。

 そして...とても大きい。

 こんな大きな温泉を貸切できるなんて...王一族にしかできないだろう。


 中に入りスリッパに履き替える。

 そして右に女湯、左に男湯に別れているため、女神と男神に別れた。

 天麗華、美鈴玉、美雪蘭、美夢華は右側へ行き、天光琳、天俊熙、美朝阳、美暁龍は左側へ行った。


 天光琳は男湯の脱衣所に入ると、荷物も置かず、そのまま走って湯の扉を開けた。


「わぁ~!!俊熙、来て来て!!」


 天光琳は子供のように飛び跳ねながら天俊熙を呼んだ。


「んー?おぉ、大きいな!」


 温泉にはたくさんの風呂があった。

 露天風呂に檜風呂、寝湯に座り湯、打たせ風呂など。そして奥の方に小さな洞窟のようなものがある。洞窟風呂だろうか。


「早く行こうぜ!」

「うん!」


 二神は走って荷物を置きに行った。



 ✿❀✿❀✿




「わぁ~気持ちいい~」

「幸せ~~」


 露天風呂に使ってる二神は幸せそうに言った。
 天俊熙は肩まで、天光琳は口元まで浸かっている。


「そういえば僕、温泉入るの初めてかも!」

「俺もそうかも...!」


 天光琳はガバッと肩まで上がってから言った。
 城の風呂は大きいが、温泉ほどでも無い。
 そもそも、桜雲天国に温泉は無いかもしれない。聞いたことがないからだ。


「帰ったら父上に作ってって頼みたいな~」

「頼もうぜ~」


 この気持ちよさを毎日味わえたら幸せだろう。


「いい湯だなぁ~」

「いい湯ですねぇ~~」


 二神がそう言っていると......


「ん......?」

「「?」」


 一緒に露天風呂に使っている美朝阳が天光琳の方を見た。
 その後ろでも美暁龍が心配そうに見ている。


「光琳くん、その傷跡...どうしたの?」


 美朝阳と美暁龍は天光琳の薄くはなっているが、大きくハッキリと残った傷跡に気になったようだ。


「あー...これは......悪神にやられちゃって」


 天光琳は苦笑いしながら言った。


「痛そう......」
「やっぱりそうか......。悪神って......あの噂になってるアイツだよね......」


 天光琳はコクンと頷いた。
 また、傷跡があまり目に入らないようにと深く浸かった。


「確か花見会の時に光琳くんの名を使って、神を人神殺し...大騒ぎしたあと、またなんか事件起こしたんだよね。......詳しくは知らないけど、かなり大変だったって聞いているよ。......その時に出来た傷だったりする......?」

「そうです。......でももう大丈夫ですよ」


 美朝阳は心配そうな顔をした。
 この大きさの傷跡は、見ただけで、どれぐらい重症をおったのか分かってしまう。

 軽い怪我では無い。天光琳は簡単に『大丈夫』というが、本当に大丈夫なのだろうか...。

 そして天万姫もすぐに『大丈夫』と言う癖があった。
 弟である美朝阳は、天万姫に似ているな...と心の中で思った。


「あの時の光琳、かっこよかったんですよ~」

「ちょっと俊熙、言わないでよ」

「なんでだよ」


 天光琳は止めたが、天俊熙は恥ずかしいことでは無いだろうと自慢するように美朝阳と美暁龍に話した。




「へぇ......すごいね、光琳。私だったら絶対に出来ないよ」

「そんなにすごくはないですよ」


 褒められることは慣れていないため、天光琳は嬉しかった。
 嬉しそうににこにこと微笑んでいると......

「あ......」と、美朝阳が言った。
 何が思い出したのだろうか。


「光琳くん、さっきの顔、もう一回できたりする?」

「...え?さっきの顔......?」


 天光琳は頬をペタペタと触りながら困ったように言った。


「あーごめん、そう言われても難しいよね」


 美朝阳は苦笑いした。


「どうしたんですか?」

「いや...、さっきの顔、姉上に似ていて......流石親子だなって思ってね」


 そういう事か!と天光琳は安心した。
 てっきりさっきの顔が面白くて...かと思った。
 そう言う美朝阳こそ、目元が似ているのだが...。


「父上のお姉さんってどんな方なんですか?」


 美朝阳の隣で浸かっている美暁龍が聞いた。
 まだ天万姫に会ったことがない美暁龍は、天万姫のことを知らない。


「面白い方だよ。......心配性で頑張り屋で......下戸で......。自分のことは大切にしない、危なっかしいけど優しい神だよ」


 話からすると、兄弟仲は良いのかもしれない。


「「「へー」」」


 美暁龍が「へー」と言うのは当たり前だが、天光琳、天俊熙までそう言ってしまった。
 そのため、美朝阳は不思議そうな顔をした。


「母上が下戸だってこと、知りませんでした」

「あ、そうなの?」


 天俊熙も知らなかったため、頷いた。

 通りで城の夕食などにお酒が出ない訳だ。

 王一族が飲むのはあまり良いことではない......という事だと思っていたのだが、今日の夕食の時間、美梓豪たちは普通に飲んでいた。

 天宇軒は花見会の時に飲んでいたところを見たため、恐らく、普段は天万姫と合わせているのかもしれない。


「十歳になった姉上は試しにお酒を飲んでみたんだけど、直ぐに酔いつぶれちゃってね。飲んだあと直ぐにぐっすり眠っちゃったよ」


 美朝阳は懐かしそうに笑いながら言った。
 天光琳たちも笑った。まさかあの天万姫が酔いつぶれて寝てしまうとは......。


「ちなみに光琳くんは飲めるの?」

「はい!」

「そこは姉上に似なかったんだね」


 よかったよかった...と美朝阳は言った。


「でもお前は万姫様と似て、ちょっとしか飲めないよな」

「違うよ、俊熙が飲み過ぎなだけだよ!」


 天光琳が飲めないのでは無い。天俊熙が飲み過ぎなだけなのだ。

 ......天光琳の体力が異常なのと同じように、天俊熙も飲む量が異常なのだ。


「あはは、俊熙くんはどれぐらい飲むの?」

「いーっぱいですよ!この前なんか、二升を一神で飲んだんですから!」

「普段は五升いけますよ」


 天俊熙はドヤ顔しながら言った。
 美朝阳は「ほんとに!?」と驚いた。
 神は先祖代々酒好きが多く、人間と違って飲める量が多い神は多くいる。

 しかし天俊熙はそれでも多い方だ。


「ちなみに暁龍は今年で十歳になったんだけど......飲めないよね」

「うん。苦いから嫌いです」

「まだまだ子供舌だな」


 天俊熙がそう言うと、天光琳と美朝阳は笑った。
 美暁龍は頬を膨らませて恥ずかしそうにしている。

 可愛く思って、天光琳は美暁龍の頬をつんつんと触った。


「いじるのはやめてください!」


 本気で嫌がってはなさそうだ。むしろ、照れ隠しで怒っているのかもしれない。

 三神は笑った。





 一方そのころ女子風呂では。


「声...結構響くんですね」

「そうなんですよ」

「父上たち楽しそう!」


 三神の笑い声が聞こえ、天麗華が楽しそう...と微笑みながら言うと、美鈴玉と美夢華はそう言った。


「お風呂は静かに入りたいわ」


 美雪蘭がそう言うと、天麗華は大人だな...っと思い苦笑いした。

 年下だとは思えないほど大人しい。


「雪蘭ちゃんは賑やかなの苦手?」


 天麗華は気になって聞いてみた。


「苦手では無いです。ですが、あんなふうに"男神が"大声で笑うのは苦手なのです」

「お姉様つまんなーい」


 美雪蘭の大人しい性格に美夢華は合わないだろう。

 天麗華と美鈴玉は苦笑いした。

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