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ー光ー 第三章 旅の後

第五十三話 慣れ

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 今ここにいるのは天麗華と天光琳だけだ。

 本来ならば、天光琳は走って天麗華のところへ行っていたのだが......悪口を聞いてしまっため、何となく行きにくい。

 天光琳は柱にもたれかかった。


「......はぁ」


 ため息をつき、目を閉じて上を見上げる。


(今姉上が人間の願いを叶えに来た...ということは、僕が失敗したから......その分を補うために来たんだ......きっと)


 息を深く吸う。
 自分の舞が無駄だと思ってしまう。



「あ、麗華様!......あれ、光琳は?」


 天俊熙の声が聞こえ、天光琳は目を開け、声がする方を見た。


「見ていないわ......まだ舞をしてるのかと思っていたけれど......」

「そうだといいんですけど...いや、今全ての部屋が空いている.........まずい...」


 二神は辺りを見渡し、天光琳がいないと焦った。

 部屋の空き状況は、入口付近にある鏡に映し出されている。
 部屋には番号があり、中に誰かいると文字が赤色に光り、誰もいないと緑色に光るのだ。


「どこに行ったんだ......待ってろって言ったのに......」

「ごめん、ここにいるよ」


 天光琳は柱の後から姿を現した。
 先程のことがあり、今、天麗華の前には行きたくなかったのだが、仕方ない。


「なんでそんなとこにいるんだよ...マジで焦ったじゃん」

「ごめんごめん」


 天光琳は首に手を抑えながら苦笑いして言った。
 その様子を見て、天俊熙と天麗華は安心した。

 が、天麗華は少し暗い顔をした。


「ここにいたってことは......さっきの話、聞いていたのね」

「はい......ごめんなさい」


 天光琳は下を向きながら言った。
 結局バレてしまうなら、最初から姿を見せていれば良かったと思った。

 天俊熙は話とはなんだ...と思ったが、何となく理解した。


「謝ることでは無いわ。......むしろ、貴方のことが心配で......大丈夫?」

「大丈夫です。......もう慣れましたから」


 天光琳は平気だと笑顔で言ったが、その笑顔には複雑な感情が込められているようにも見える。

 天麗華と天俊熙はその笑顔を見て、心が痛んだ。


「光琳......」


 天麗華はゆっくり手を伸ばし、天光琳の肩に手を置く。
 そして天光琳の目を五秒ほど見つめたあと、視線を下に下ろした。


「.......?」


 こんな天麗華の表情は見たことがなかった。
 天光琳だけでなく、天俊熙も驚いている。

 その表情は花のように可愛らしいいつもの笑顔ではない。とても暗い顔をしている。
 この表情は天光琳が心配だ...という思いだけなのだろうか。...もっと何か......自分を責めている用でもあった。


「......姉上...?」



 天光琳は方に置かれている天麗華の手に触れると、天麗華はぱっと顔を上げ、「ごめんなさい」と言って手を離した。


「姉上、大丈夫ですか?顔色悪いですよ...?」

「悪くなわ、大丈夫。...私、そろそろ行くわね」


 微笑んだが、やはりいつもの笑顔では無かった。
 しかしこれ以上心配しても迷惑だろう。


「はい。姉上、頑張ってください!」

「頑張ってください」


 二神がそう言うと、天麗華は手振った。そして陣の上に立ち、桜と光に包まれ消えていった。

 二神は顔を合わせた。


「......麗華様......結構お前のこと心配してるみたいだな」

「うん...僕、あんな顔みたことない」

「俺も......」


 そんなことを話していると、外から声が聞こえてきた。
 塔に誰か入ってくるようだ。
 それも一神ではなく大勢だ。
 家族で来たのだろうか。


「そろそろ帰るか」

「そうだね」


 正直、天光琳は塔から出るのが怖かった。
 また外ですれ違った神々に笑われるかもしれないからだ。

 ...でもこれは毎回のこと。
 慣れてはいるが怖いものは怖い。

 だからと言って、ずっと等の中にいるのはいけない。


「なぁ......"忍びごっこ"......しないか?」

「...!!...うん!」


 天俊熙がそう言うと、天光琳は目を大きく開けて驚いたあと、笑顔で頷いた。

 忍びごっことは...神界で子供の神様の中で流行っている遊びだ。

 二神も小さい頃はよく忍びごっこをして遊んでいた。

『忍び』という者は神界にはいない。
 なぜ『忍び』が使われているかと言うと、
 神界で人間界をテーマにした大人気の子供向けの本に忍びが出てくるからだ。

 子供神様たちはその忍びに憧れたことにより、『忍びごっこ』という遊びが誕生した。

 ルールは簡単だ。
 目的地を決め、忍びのように見つからないように目的地に向かうのだ。
 声をかけられたり、見つかったり見られたりしたら即脱落。
 脱落した者は、他に忍びごっこをしている者を探しに行き、邪魔をする。そして見つけたら、見つかった者も脱落だ。

 そして誰にも見つからず、一番最初に目的地に着いた神が勝ち。

 見つかったかどうかは自己判断なのだが、神としてズルはいけない。そのため皆ズルはせず、見つかったり見られたりしたら直ぐに負けを認めるのだ。


「よーし、じゃあ、先に部屋に着いた方が勝ちだ!」

「おっけー!」


 二神は扇を腰に付け、走る準備をした。
 忍びごっこをしながらだと、見つからないように隠れて城に戻るため、いつものようにバカにされたり笑われたりする心配はない。


「準備はいい?」

「いいよっ!」


 二神は足に力を入れた。


「よーい、どんっ!」
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