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ー光ー 第三章 旅の後
第四十九話 老師
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「あっ!」
「うおっっと」
天光琳は急に立ち止まったせいで、天俊熙はぶつかってしまうところだった。
「老師のところに行きたい!」
「え?い、今から?」
そう言えば帰ってきてから一度も草沐阳の所へ行っていなかった。しかしもう少しで外は暗くなる。今から行くにしても、少ししか話せないだろう。
「もうすぐ夕食の時間になるし、外も暗くなってきてるし......今日はやめておかないか...?」
「えぇ......」
天光琳は嫌そうな顔をした。帰ってきてから草沐阳のところに一度も行っていないという事は、心配しているかもしれない。
無事に帰ってきているのか分からないからだ。
「危ないぞ?転んで怪我がまた悪化して治りが遅くなったら
どうする」
「確かに......」
草沐阳がいるところは山なのだ。
怪我人が行くようなところではない。
「じゃあ明日にする......」
「明日......」
「だめ?」
「怪我の治り次第だな......」
明日は今日より良くなっていると思うが、医術のことは全く分からないため、「明日行こう!」とは言いきれなかった。
だが、草沐阳は心配しているだろう。
明日には行けると良いな...と天俊熙は思った。
「さて、部屋に戻るか」
「そうだね」
二神はそう言ってまた歩き出したその時......
「天俊熙様、天光琳様」
と、後ろから声が聞こえた。振り返ると、護衛神の男神が立っていた。この者は玉桜山へ一緒に行った、天光琳が声をかけたあの食料持ちの男神だ。
「草沐阳様が中央出入口付近にいらっしゃいます。天俊熙様と天光琳様を呼んで来て欲しいとおっしゃっていましたので、お呼しにきました」
「老師が来ているんですか!?」
「はい」
なんと偶然にも草沐阳が城に来ていたとは...
とても良いタイミングだ。
二神は顔を合わせて笑顔で頷いた。
「早く行こうぜ!」
「うん!」
教えてくれた護衛神にお礼を言い、天光琳は走り出した。
「おい光琳!早く行こうとは言ったけど、まだ治ってないんだから走るなって!」
天俊熙も後ろから着いていく二神は走って中央出入口まで走っていった。
✿❀✿❀✿
中央出入口に向かって、廊下を真っ直ぐ進み、一番奥まで行き、右へ曲がる。そして真っ直ぐ進み、左へ曲がると...草沐阳と...天宇軒の姿が見えた。
「老師!......と、ち、父上...」
老師...と笑顔で言ったあと、天宇軒には緊張した表情で言った。
まさか天宇軒もいるとは...聞いていない。
「はっはっはっ、宇軒、息子に怖がられてるではないか」
「......」
草沐阳が笑うと天宇軒は視線を凝らした。
天光琳はそんなに顔に出ていたか...と頬をペタペタと叩いた。
「宇軒は笑わないからなぁ......もう少し笑ったら良いと思うのだが」
「笑う事がありません。...俺はもう戻ります。では」
別に怒ったり拗ねたりしている訳では無い。いつも通りだ。やはりノリが悪い......
「あぁ...行ってしまった...」
「あはは...」
天光琳は苦笑いした。
反抗期の息子と父親の用に見えた。
天光琳は天宇軒の父天俊杰を見たことがないため、どうしても草沐阳が天宇軒の父親に見えてしまう。
(父上とお祖父様って似ていたのかな...)
表情がひとつしかないと言っていいほどいつも不機嫌そうな顔をしている天宇軒の父親とは......一体どんな神だったのだろうか。
「ところで俊熙は?」
「あれ?」
天光琳は振り返った。しかし天俊熙の姿は見えなかった。
「置いてきました......あ、来ました!」
天光琳がそう言うと、奥から息を切らした天俊熙が走ってきた。
「はぁ...はぁ......速すぎだって......」
二神の前まで来ると、両手を膝に当て、疲れきった様子で言った。
「まだまだ修行が足りんな」
「ちがっ!...違いますよ!光琳が異常なんですって!!」
「冗談だ、はっはっは」
自分が遅い訳ではなく天光琳が速すぎるだけなのだ。
天光琳は天俊熙の背中を優しくさすりながら『ごめんね』と謝った。
「天宇軒から聞いたぞ。本当にお疲れ様。皆無事で良かった」
「「ありがとうございます」」
先程天宇軒が全て話したのだろう。
「光琳、怪我は大丈夫か?...その紙袋は薬か?」
「あー、あはは、大丈夫です」
先程医務室で貰った紙袋を持ったまま来てしまった。天光琳は苦笑いしながら言った。
(怪我のことは話さなくてもいいのに!)
天光琳はそう思ったが、玉桜山であったことを話すなら、言わない訳にも行かないだろう。
「そういえば、剣はちゃんと振れたか?」
草沐阳がそう聞くと、天光琳の表情は暗くなった。
「それが......」
悪神に一回も攻撃をすることが出来なかった。一回や二回は切り傷を入れることが出来ると思っていたのだが......自分の腕はまだまだだった...と天光琳は思った。
「ちゃんと振れてましたよ」
「えっ?」
天俊熙は笑顔で言うと、天光琳は驚いて天俊熙の方を見た。しかし嘘は良くない...と天光琳は首を横に振った。
「でも、僕は一度も悪神を斬ることは出来なかった...」
天光琳は下を向き、両手に力を入れ悔しそうに言った。
しかし天俊熙は「違う」と否定した。
「悪神は強かった。奇跡の神である麗華様ですら攻撃を与えることが出来なかったぐらいです。それなのに光琳は、弾かれても何度も素早く立ち直り剣を振った......攻撃を与えることは出来なかったけど、俺たちのことを庇って倒れるまで、諦めず頑張ってくれたんです。とても強かったんですよ」
「俊熙...」
天光琳はそう言われて涙が出そうになった。
天俊熙の言っていることは嘘ではなかった。全て本当のことだ。
攻撃を与えることが出来なかったのは悪神が強すぎただけなのだ。
草沐阳は天宇軒に全て聞いたため、悪神の強さは何となく分かっていた。
「さすが俺の教え子だ。光琳、相手に攻撃を与えられなかったからちゃんと剣を振れなかった...という訳ではないぞ。きちんと出来ているではないか。いや...完璧だ。悪神と戦い、弾かれても諦めることなく何度も剣を振った上に、仲間の命も守ったのだろう?」
天光琳は自信なさそうに小さく頷いた。
「お前は俺たちの命の恩人だよ、もう少し自信持ってもいいんだぞ」
そう言いながら天俊熙は天光琳の肩を二回軽く叩いた。
「二神の命を守った光琳は凄いぞ。今回の旅、本当にお疲れ様」
「ありがとうございます...!」
天光琳は自分は凄いことをしたんだとやっと自信がついた。
しかしまだまだだ。悪神に一度でも攻撃を与えられるように...これからも頑張ろうと思った。
「俊熙もお疲れ様。よく頑張った」
「ありがとうございます......ですが、俺の結界はすぐに壊され、二神を守れませんでした......なので!俺もこれから毎日...は難しいけれど、ほぼ毎日、また前みたいに修行と稽古を教えてください!」
天俊熙は力不足だったと悔しい気持ちでいっぱいだったため、草沐阳に頭を下げてお願いした。
「喜んで教えるぞ。落ち着いたらまたいつでも来い。沢山教えてあげるからな」
「ありがとうございます!!」
天俊熙は顔を上げ、笑顔で言った。
...という事はこれから、天俊熙も一緒に修行と稽古をすることになる。
再びライバルが現れ、修行は特に楽しくなるだろう。
しかし怪我が治るまで修行と稽古は出来ない。
楽しみが増えたな...と天光琳は嬉しくなった。
「うおっっと」
天光琳は急に立ち止まったせいで、天俊熙はぶつかってしまうところだった。
「老師のところに行きたい!」
「え?い、今から?」
そう言えば帰ってきてから一度も草沐阳の所へ行っていなかった。しかしもう少しで外は暗くなる。今から行くにしても、少ししか話せないだろう。
「もうすぐ夕食の時間になるし、外も暗くなってきてるし......今日はやめておかないか...?」
「えぇ......」
天光琳は嫌そうな顔をした。帰ってきてから草沐阳のところに一度も行っていないという事は、心配しているかもしれない。
無事に帰ってきているのか分からないからだ。
「危ないぞ?転んで怪我がまた悪化して治りが遅くなったら
どうする」
「確かに......」
草沐阳がいるところは山なのだ。
怪我人が行くようなところではない。
「じゃあ明日にする......」
「明日......」
「だめ?」
「怪我の治り次第だな......」
明日は今日より良くなっていると思うが、医術のことは全く分からないため、「明日行こう!」とは言いきれなかった。
だが、草沐阳は心配しているだろう。
明日には行けると良いな...と天俊熙は思った。
「さて、部屋に戻るか」
「そうだね」
二神はそう言ってまた歩き出したその時......
「天俊熙様、天光琳様」
と、後ろから声が聞こえた。振り返ると、護衛神の男神が立っていた。この者は玉桜山へ一緒に行った、天光琳が声をかけたあの食料持ちの男神だ。
「草沐阳様が中央出入口付近にいらっしゃいます。天俊熙様と天光琳様を呼んで来て欲しいとおっしゃっていましたので、お呼しにきました」
「老師が来ているんですか!?」
「はい」
なんと偶然にも草沐阳が城に来ていたとは...
とても良いタイミングだ。
二神は顔を合わせて笑顔で頷いた。
「早く行こうぜ!」
「うん!」
教えてくれた護衛神にお礼を言い、天光琳は走り出した。
「おい光琳!早く行こうとは言ったけど、まだ治ってないんだから走るなって!」
天俊熙も後ろから着いていく二神は走って中央出入口まで走っていった。
✿❀✿❀✿
中央出入口に向かって、廊下を真っ直ぐ進み、一番奥まで行き、右へ曲がる。そして真っ直ぐ進み、左へ曲がると...草沐阳と...天宇軒の姿が見えた。
「老師!......と、ち、父上...」
老師...と笑顔で言ったあと、天宇軒には緊張した表情で言った。
まさか天宇軒もいるとは...聞いていない。
「はっはっはっ、宇軒、息子に怖がられてるではないか」
「......」
草沐阳が笑うと天宇軒は視線を凝らした。
天光琳はそんなに顔に出ていたか...と頬をペタペタと叩いた。
「宇軒は笑わないからなぁ......もう少し笑ったら良いと思うのだが」
「笑う事がありません。...俺はもう戻ります。では」
別に怒ったり拗ねたりしている訳では無い。いつも通りだ。やはりノリが悪い......
「あぁ...行ってしまった...」
「あはは...」
天光琳は苦笑いした。
反抗期の息子と父親の用に見えた。
天光琳は天宇軒の父天俊杰を見たことがないため、どうしても草沐阳が天宇軒の父親に見えてしまう。
(父上とお祖父様って似ていたのかな...)
表情がひとつしかないと言っていいほどいつも不機嫌そうな顔をしている天宇軒の父親とは......一体どんな神だったのだろうか。
「ところで俊熙は?」
「あれ?」
天光琳は振り返った。しかし天俊熙の姿は見えなかった。
「置いてきました......あ、来ました!」
天光琳がそう言うと、奥から息を切らした天俊熙が走ってきた。
「はぁ...はぁ......速すぎだって......」
二神の前まで来ると、両手を膝に当て、疲れきった様子で言った。
「まだまだ修行が足りんな」
「ちがっ!...違いますよ!光琳が異常なんですって!!」
「冗談だ、はっはっは」
自分が遅い訳ではなく天光琳が速すぎるだけなのだ。
天光琳は天俊熙の背中を優しくさすりながら『ごめんね』と謝った。
「天宇軒から聞いたぞ。本当にお疲れ様。皆無事で良かった」
「「ありがとうございます」」
先程天宇軒が全て話したのだろう。
「光琳、怪我は大丈夫か?...その紙袋は薬か?」
「あー、あはは、大丈夫です」
先程医務室で貰った紙袋を持ったまま来てしまった。天光琳は苦笑いしながら言った。
(怪我のことは話さなくてもいいのに!)
天光琳はそう思ったが、玉桜山であったことを話すなら、言わない訳にも行かないだろう。
「そういえば、剣はちゃんと振れたか?」
草沐阳がそう聞くと、天光琳の表情は暗くなった。
「それが......」
悪神に一回も攻撃をすることが出来なかった。一回や二回は切り傷を入れることが出来ると思っていたのだが......自分の腕はまだまだだった...と天光琳は思った。
「ちゃんと振れてましたよ」
「えっ?」
天俊熙は笑顔で言うと、天光琳は驚いて天俊熙の方を見た。しかし嘘は良くない...と天光琳は首を横に振った。
「でも、僕は一度も悪神を斬ることは出来なかった...」
天光琳は下を向き、両手に力を入れ悔しそうに言った。
しかし天俊熙は「違う」と否定した。
「悪神は強かった。奇跡の神である麗華様ですら攻撃を与えることが出来なかったぐらいです。それなのに光琳は、弾かれても何度も素早く立ち直り剣を振った......攻撃を与えることは出来なかったけど、俺たちのことを庇って倒れるまで、諦めず頑張ってくれたんです。とても強かったんですよ」
「俊熙...」
天光琳はそう言われて涙が出そうになった。
天俊熙の言っていることは嘘ではなかった。全て本当のことだ。
攻撃を与えることが出来なかったのは悪神が強すぎただけなのだ。
草沐阳は天宇軒に全て聞いたため、悪神の強さは何となく分かっていた。
「さすが俺の教え子だ。光琳、相手に攻撃を与えられなかったからちゃんと剣を振れなかった...という訳ではないぞ。きちんと出来ているではないか。いや...完璧だ。悪神と戦い、弾かれても諦めることなく何度も剣を振った上に、仲間の命も守ったのだろう?」
天光琳は自信なさそうに小さく頷いた。
「お前は俺たちの命の恩人だよ、もう少し自信持ってもいいんだぞ」
そう言いながら天俊熙は天光琳の肩を二回軽く叩いた。
「二神の命を守った光琳は凄いぞ。今回の旅、本当にお疲れ様」
「ありがとうございます...!」
天光琳は自分は凄いことをしたんだとやっと自信がついた。
しかしまだまだだ。悪神に一度でも攻撃を与えられるように...これからも頑張ろうと思った。
「俊熙もお疲れ様。よく頑張った」
「ありがとうございます......ですが、俺の結界はすぐに壊され、二神を守れませんでした......なので!俺もこれから毎日...は難しいけれど、ほぼ毎日、また前みたいに修行と稽古を教えてください!」
天俊熙は力不足だったと悔しい気持ちでいっぱいだったため、草沐阳に頭を下げてお願いした。
「喜んで教えるぞ。落ち着いたらまたいつでも来い。沢山教えてあげるからな」
「ありがとうございます!!」
天俊熙は顔を上げ、笑顔で言った。
...という事はこれから、天俊熙も一緒に修行と稽古をすることになる。
再びライバルが現れ、修行は特に楽しくなるだろう。
しかし怪我が治るまで修行と稽古は出来ない。
楽しみが増えたな...と天光琳は嬉しくなった。
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