上 下
48 / 184
ー光ー 第三章 旅の後

第四十七話 悪化した傷

しおりを挟む
 部屋に着くと、先程のように座り、お茶会を始めた。


「お祖父様の国......楽しみだなぁ」


 怪我が治らなければ行けない。
 とにかく治るまで安静にしていようと天光琳は思った。


「とても綺麗なのよ」

「麗華様って今まで何回美国に行ったことがあるんでしたっけ?」


 天麗華は人差し指と中指を上げ、二回と表した。


「二回よ。あなた達みたいに初めての他国は美国だったし......去年ぐらいにもう一回行ったわ」


 美梓豪は天麗華を自分の国の神にしようだなんて一ミリも思っていない。可愛い孫に会いだけなのだ。


「それなら姉上にずっと着いて行けば安全ですね...!」

「だな!」

「今は悪神のこともあって離れることはないと思うけれど、美国の神々は優しい方ばかりだから大丈夫よ。一神でも安心して過ごせたわ」


 ...と言っても、ずっと美梓豪がそばにいる為、一神でいる時間は少ないのだが。




「そう言えば光琳、怪我はどうなった?」


 お茶を飲もうとティーカップを持ち上げたが、天麗華に聞かれたため、一度ティーカップを置いた。


「大丈夫ですよ、治ってきています」


 (あっ......)


 天光琳はそう言ったあと、天俊熙の顔を見た。
 細い目でこちらを見ている。


「良かったわ...。昨日の夜のことで、悪化していないか心配だったのよ」

「あー...えっと......は、はい。大丈夫です...多分......」


 天俊熙が嘘つけっという顔で見てくるが、天麗華は天万姫と似て心配性な為、「悪化しちゃいました」なんて言ったらものすごく心配されてしまう。


「た...多分?」

「あ、いえ、大丈夫です!」


 曖昧な返事をしてしまったため、天麗華は心配そうな顔をしたが、天光琳は両手を横に振り、笑顔で答えた。


「大丈夫?早く治ると良いわね」

「はい。早く美国に行きたいです!」


「はぁ......」


 天俊熙は眉間を押さえ、やれやれと小さくため息をついた。




 三神はお茶を飲みながら話をした。
 天麗華が玲瓏美国であった出来事を話し、二神は真剣に聞いている。

 話を聞いていると、更に行き気持ちが高くなった。


「...でね、その時、お祖父様がー......」



 ...と、トントンっと扉をノックする音がした。


「はーい」


 天俊熙がそう言うと扉の向こうから男神の声が聞こえた。


「天麗華様、天万姫様がお呼びです」

「分かった、今行くわ」


 話途中だったが、天万姫を待たせる訳には行かない。
 天麗華はティーカップを置き、立ち上がった。


「ごめんね...。途中だったけれど、行ってくるわ」


 両手を合わせ、申し訳なさそうに言った。


「はい、行ってらっしゃい!」

「ティーカップはそのまま置いておいて大丈夫ですよ、行ってらっしゃい」


 自分の分のティーカップを片付けようとしていたため、天俊熙はそういった。


「ありがとう。行ってきます」


 そう言い、笑顔で手を振り部屋を出た。





「......」

 二神になり部屋は急に静かになった。
 天光琳はとりあえずお茶を一口飲む。


「嘘つけ!」

「あだっ」


 急に天俊熙は天光琳の右頬をツネった。
 地味に痛く、直ぐに離してくれたがジンジンする。天光琳は右手で頬をスリスリと撫でた。


「痛いよぉ......。何、急に...」

「何...じゃない。お前って本当に隠す癖があるよな......。さっき確認しなかったけど、どれぐらい悪化しちゃったんだ?」


 怪我のことか...と天光琳は理解した。

 そういや細い目で見てきたな...と思い出した。...見てくるだけで終わって欲しかったのだが...やはり天俊熙は心配していたのだろう。


「そんなに悪化してないし、大丈夫だよ。ほら、元気でしょ?」

「はぁ...」


 天俊熙はため息をついた。


「ほら、行くぞ」

「えっ?どこに?」

「医務室だ」

「ひぃっ!」


 そう言って天俊熙は天光琳の右腕を引っ張った。しかし天光琳は嫌そうな顔をした。


「やだっ!あのおじさん嫌い!」

「はいはい、行きますよー」


 天光琳はその場から離れまいと、踏ん張った。...まるで嫌がる弟を無理やり連れていく兄のようだ。......いや、何故かその場から離れない犬を引っ張る飼い主の方の方が近いか...。


「いや!いやいやいや!!ぜっったいにいやだ!......あのおじさん痛いんだもん!怪我人だって言うのに、全然優しくしてくれない......悪魔のような神なんだもん!」

「そんな訳ないだろ。ほら怪我人、これ以上悪化したら美国に行けなくなるぞ。いいのか?」


 それを聞くと、天光琳はしゅんとした顔をした。そして下を向きながらボソッと小さな声で呟いた。


「だったら姉上にお願いする...」

「お前の優しい姉ちゃんは今忙しいから無理だ」

「なら俊熙...」

「残念ながら俺には医術の能力はありません」

「じゃ...じゃあ姉上が帰ってきたら!」

「麗華様も医術の能力は持っていないだろ」


 医務室に行くことを避けられないと分かり天光琳はしょんぼりした。
 そこまで嫌がるほどのことだろうか...と天俊熙は思った。

 医務室にいるおじさんとは、国峰グオフォン
 といい、六十代ぐらいの桜雲天国の中で有名な医者だ。

 国峰にかかれば病や怪我は必ず良くなるため、神々からは
『三途の川に渡った者ものでも無理やり引きずり返すことができる名医』と呼ばれている。
 ...と言うものの、そこまで怖い医者ではない。

 優しく、笑顔が素敵なおじいさんだ。
 そのため、天俊熙は天光琳が嫌がる意味が分からなかった。


  天俊熙は天光琳の右手首を掴み、医務室へ向かった。
 国峰は常に城の医務室にいる。城の医務室は一階にあり、医務室なら天家以外の神でも自由に行くことが出来る。

 そのため城周辺に住んでいる神々は皆国峰に診てもらっているのだ。


「今日は薬草取りに外出してるといいんだけど......」

「さぁ、どーだろうね」


 天光琳は左手を胸に当て、祈った。 

 しかしその願いは叶わなかった。
 医務室の近くまで来ると、話し声が聞こえた。
 国峰の声だけではなく、桜雲天国の神々の声も聞こえてくる。

 一神や二神ではなく、何十神もいるだろう。


「残念でした」


 天俊熙が苦笑いしながらそう言うと、天光琳の顔色が悪くなった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...