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ー光ー 第三章 旅の後

第三十六話 内緒

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 お菓子を食べながらしばらく昔のことや最近あった出来事を話した。

 ...すると突然、天俊熙は何か思い出したかのような顔をした。

「そういえばお前、扉を開けた時、手が震えてたけど......どうしたの?」
「...え?......あー...あはは」

 天光琳はティーカップを持ちながら苦笑した。出来れば言いたくない。雰囲気を悪くしたくないからだ。

「隠すなって。...まさか俺が起こしたから怒ってたのか...!?」
「あ、うんん!!違う違う!!」

 天俊熙が心配そうに言ったため、天光琳は両手を横に振りながら笑顔で言った。
 しかし天俊熙はまだ心配そうな顔をしている。
 天光琳は話そうか話さないか少し躊躇(ためら)ったが、ずっと心配されては困るので話すことにした。

「...嫌な夢を...見たんだ...」
「嫌な夢...?」

 天俊熙は首を傾げた。

「母上と姉上が...僕の悪口を言っている夢......光琳なんて消えちゃえばいいのに...いなくなればいいのに......って。すごく怖かった...」

 天光琳はティーカップを起き、手を強く握りながら言った。

「なんだよその夢......万姫様と麗華様は絶対そんなこと言わないよな」
「そうだといいんだけど...。こんな夢、初めて見たから怖くて......」


「アイツのせい...じゃないよな...」

「え?」

 天俊熙はボソッと言ったため、天光琳には聞こえていなかった。

「ん?あーいや、なんでもない」

 天俊熙は心の中で言っていたつもりだったのだが...口に出ていたようだ。
 心の中で聞こえてなくて良かったと思った。

「なに、教えてよ」
「なんでだよ!」

 天光琳は気になって仕方がなかった。

「俊熙だって隠してるじゃん!僕はさっきちゃんと言ったんだから、次は俊熙の番。教えてよ」
「別に隠してるわけでは......。うーん...まぁ...いつか教えるよ」

 天俊熙は隠している訳では無い。余計なことを言って天光琳を混乱させてしまったら大変だ。

「あーまた言った、『いつか教えるよ』って!花見会の時も言ってたじゃん!えーっと......なんだっけ...」
「覚えてないのかよ」

 二神は笑った。天光琳は笑いながら必死に記憶を辿り思い出している。

「えーと...うーん......と......あ、そーだ、能力だ!あと一つ、どんな能力があるのって聞いた時も言ったよね......で、結局どんな能力なの?」
「えー...」

 天俊熙は目を逸らした。

「また今度...教えるよ」
「あ、また言った!」
「今のは"今度教える"ですー、さっきのは"いつか教える"。違うだろ?」

 天俊熙は自信満々に言った。しかし天光琳は納得していないようだ。

「言い換えてもダメです!意味は同じなんだから!!」

 天光琳は笑いながら怒った。
 なぜそんなに言いたくないのか天光琳には分からなかった。

「今は...言えないんだ。本当に...」

 天俊熙が苦笑いしながら言うと天光琳は頬をふくらませた。

「なんで教えてくれないの...」

  天光琳は拗ねた。机の上で伏せ、頬を膨らませたまま窓の外をじーっと見つめている。その様子を見た天俊熙は天光琳の肩をツンと人差し指で軽く押した。

「なーに...?」

 顔を合わせずにそのままの姿勢で言った。

「能力のこと...知りたい?」
「え、うん!知りたい!!」

 切り替えが早いこと。
 天光琳は勢いよく姿勢を整えた。
 すると天俊熙はニヤリと怪しげに笑った。

「それはな......他神の好きな神が分かっちゃう能力だ。お前の好きな女神ちゃん、知ってるぞ~」

 天俊熙は口を手で隠し、天光琳が恥ずかしい思いをしたかのように笑った。......しかし。

「嘘だ、僕好きな女神居ないもん」
「うっ......」

 即冗談がバレてしまった。天俊熙は上手くいくと思っていた。顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするかと思っていたのだが......まさかの好きな女神がいないとは......。

「じゃ...じゃあ、隠しごとが分かっちゃう能力!お前が隠していること、なんでも知ってるぜ...!」
「"じゃあ"ってなんだよ!それも嘘でしょ!」
「バレるか......」
「バレバレだよ!」

 二神は笑いながら言った。。

 しばらく笑い、天俊熙は一度深呼吸をした。そしてまた話し始めた。

「まだ...教えることが出来ない。けど、いつかちゃんと教える」

 さっきまで笑っていた天俊熙は少し暗い顔をしながら言った。
 恐らく先ほど言っていた冗談のような、聞いたら天光琳自信が恥ずかしい思いをする能力ではないのだろう。
 ......もっと...大切な......命に関わるようなことなのだろうか...。

「分かった。その言葉、覚えたからね。忘れたとか言わないでよ!」
「はいはい」

 暗い顔をしていた天俊熙は微笑み頷いた。

「お前が...元気なうちに必ず教えるから」

 ...と、ボソッと呟いた。
 天光琳には聞こえなかったようだ。天光琳は今お菓子に夢中だった。
 天俊熙はそれでもいいか...と思い、言い直すのは辞めた。


「これ初めて見た...美味しそう...!!」

 天光琳はそう言って丸いチョコレートの塊を食べた。すると、目を大きく見開き、同じチョコレートをもう一つ手に取った。

「...このチョコレートめちゃくちゃ美味しいよ!!食べてみて!」

 天俊熙も食べたことがなかった。
 天光琳から一つ受け取り、食べてみた。

「んん!ほんほは!(ほんとだ)」
「でしょ!......さすが人間だよね、こんなに美味しいものを思いつくなんて!」

 天光琳はそう言いながらもう一つ口に入れた。
 これは人間界で言うトリュフチョコレートだ。
 神界の食べ物は、神々が考えたオリジナル料理や神界にしか出来ない野菜などもあるのだが、ほとんどが人間が生み出した料理や人間界で採れる野菜など人間界の食べ物ばかりだ。
 人間界で有名な食べ物は直ぐに神界へ伝わる。
 また、神界と人間界の時空は異なるため、様々な時代の食べ物が神界に伝わってくる。
 そのため神界には様々な食べ物があり、十八年生きている天光琳たちも見たことがない食べ物は多い。

「これも初めて見た...!なんだろう...」
「俺はこれ食べたことある、マカロンだ!美味しいぞ...!」
「へ~.........んっ!固いかと思ったら柔らかくて甘い...美味しい!」
「だろ~」


 二神は夕食の時間まで楽しくお菓子を食べた。
 ......夕食は入る程度に......。





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