32 / 184
ー光ー 第二章 悪神との戦い
第三十一話 目覚めぬ仲間
しおりを挟む
その頃城では。
「光琳はまだ目を覚まさないのね...」
「......あぁ」
天光琳と天麗華が玉桜山に出発する前日の夜にいた、あのベランダで天宇軒と天万姫は話している。
天浩然は一時間前に城に到着し、今はゆっくりと休んでいるだろう。
「でも......誰も命を落とさなかったのは、本当に凄いわ......」
天万姫は遠くを見ながら言った。天宇軒は頷いた。
天光琳は重症だが、確かに全員命を落とさずに怪我だけで済んだ。
「光琳...」
「どうした?」
天万姫の表情は暗くなり、柵の上に置いている手が震えている。
「あっ......何でもないわ......!」
天万姫は顔を上げ、いつものさやしい表情に戻った。
その様子を見た天宇軒は......少し不機嫌そうな顔をしていた。
「何か隠してることはないか?」
「え......?」
天万姫は驚き目を丸くした。
先程まで優しく話していた天宇軒だったが、表情が変わり、少し怖くなった。最近よく休めていないからなのだろうか。
「あるなら今すぐ言え」
「......っ」
天宇軒は目を細めながら言った。天万姫は震える手を後ろに隠した。
「何も...ありません...」
天万姫は小さな声で言った。天宇軒を怒らせてしまったのだろうか......なぜ突然、こんなことを聞くのだろうか。
「......そうか。...俺はもう部屋に戻る」
天宇軒はそう言って、天万姫の側から離れて行った。
天万姫はこの状況を理解出来ず、そのまましばらく立ち尽くした。
なぜ急に機嫌が悪くなったのかさっぱり分からない。
何か天宇軒がいやがることをやってしまったのだろうか。
天万姫はしばらく考えた。
...しかしいくら考えても、原因は分からなかった。
天万姫は考えるのをやめ、小さく呟いた。
「早く帰ってきて...」
ここからでは見えないが、天万姫は玉桜山がある方向をしばらく眺めた。
✿❀✿❀✿
『......っ!』
『天光琳様!!しっかりしろ!!』
『やめ...て!!』
「......!」
天俊熙は目が覚めた。全身汗だくになっていた。ゆっくりと体を起こし、ベッドに座った状態で、両手で顔を隠した。
天光琳が二神を庇い、苦しみながら倒れていく......あの時の記憶が何度も蘇る。夢にも出てきてしまった。
(思い出したくないのに......)
天俊熙はため息をついた。
時計を見ると午前二時だった。
そんなに寝ていない。
しかしもう眠くない天俊熙はベッドから降り、すぐ横にある窓を開け、近くにある椅子に座って遠くを見つめた。
あの悪神はどこへ行ってしまったのだろうか。恐らくまた、
天光琳の前に現れるだろう。
......現れたらどうなるのだろうか。今回は悪神の方が不利な状況になり逃げていったが、次は今回みたいに上手くいかないだろう。
(もっと強くなるんだ)
天俊熙は手を強く握りしめた。
もう二度と、目の前で仲間が倒れていく姿を見たくない。結界が壊され、仲間を守れないことがないようにしたい。
天俊熙は外をじっと見つめた。
✿❀✿❀✿
外は明るくなった。午前七時ぐらいだ。
天俊熙はあれから眠っておらず、天光琳の様子を見つつ、外をずっと眺めていた。
「俊熙......?起きてる...?」
扉をノックする音が聞こえた。
天麗華の声だ。
「あ、起きてまーす」
天俊熙はそう言いながら扉を開け、天麗華は部屋に入った。
「おはよう 」
「おはようございます」
天麗華は疲れが取れたらしく、昨日の疲れきった顔ではなく、いつもの可愛らしい顔に戻っていた。天俊熙は安心した。
「...光琳......」
天麗華は昨日のように天光琳の横に座った。
「傷...まだ痛むのかしら...」
「かなり深く斬られていましたよね......」
二神は天光琳を心配そうに見つめながら言った。
「......そういえば...あの悪神、天光琳に力を移していたけれど......大丈夫なのでしょうか」
天俊熙は思い出した。天光琳が命を落とさずに済んだのは、あの悪神が力を移していたからでもある。
「私も思ったわ。......あの悪神、神界の者ではなかった場合、力を移された光琳はどうなってしまうのか...とても不安だわ」
「何も無いといいんですけど......」
天麗華は小さく頷いた。
ただの回復の能力だった...という事を祈るしかない。天光琳の体に影響がなければよいのだが。
「...あ、俊熙。貴方お腹空いていない?」
天麗華は立ち上がり、天俊熙の方を見ながら言った。
「実はめちゃくちゃ空いてます...」
天俊熙は苦笑いしながら言った。
目覚めてから何も食べていない。
「そうよね...ごめんなさい、昨日言い忘れてしまったわ。一階に下りれば、女将さんがいると思うの。女将さんに『ご飯を食べたいです』って言えば、食事部屋に案内してくれるわ、そこでご飯が食べられるわよ」
天麗華はゆっくり分かりやすく説明してくれた。
「ありがとうございます。......麗華様はお腹空いていないのですか...?」
「大丈夫よ。私は後でいただくから、貴方は先に食べに行って」
天麗華は微笑みながら言った。
天光琳のそばに一神はいた方が良いだろう。
そのため、天麗華は後で食べることにした。
「分かりました」
そう言って天俊熙は部屋を出て、一階へ下りて行った。
「光琳はまだ目を覚まさないのね...」
「......あぁ」
天光琳と天麗華が玉桜山に出発する前日の夜にいた、あのベランダで天宇軒と天万姫は話している。
天浩然は一時間前に城に到着し、今はゆっくりと休んでいるだろう。
「でも......誰も命を落とさなかったのは、本当に凄いわ......」
天万姫は遠くを見ながら言った。天宇軒は頷いた。
天光琳は重症だが、確かに全員命を落とさずに怪我だけで済んだ。
「光琳...」
「どうした?」
天万姫の表情は暗くなり、柵の上に置いている手が震えている。
「あっ......何でもないわ......!」
天万姫は顔を上げ、いつものさやしい表情に戻った。
その様子を見た天宇軒は......少し不機嫌そうな顔をしていた。
「何か隠してることはないか?」
「え......?」
天万姫は驚き目を丸くした。
先程まで優しく話していた天宇軒だったが、表情が変わり、少し怖くなった。最近よく休めていないからなのだろうか。
「あるなら今すぐ言え」
「......っ」
天宇軒は目を細めながら言った。天万姫は震える手を後ろに隠した。
「何も...ありません...」
天万姫は小さな声で言った。天宇軒を怒らせてしまったのだろうか......なぜ突然、こんなことを聞くのだろうか。
「......そうか。...俺はもう部屋に戻る」
天宇軒はそう言って、天万姫の側から離れて行った。
天万姫はこの状況を理解出来ず、そのまましばらく立ち尽くした。
なぜ急に機嫌が悪くなったのかさっぱり分からない。
何か天宇軒がいやがることをやってしまったのだろうか。
天万姫はしばらく考えた。
...しかしいくら考えても、原因は分からなかった。
天万姫は考えるのをやめ、小さく呟いた。
「早く帰ってきて...」
ここからでは見えないが、天万姫は玉桜山がある方向をしばらく眺めた。
✿❀✿❀✿
『......っ!』
『天光琳様!!しっかりしろ!!』
『やめ...て!!』
「......!」
天俊熙は目が覚めた。全身汗だくになっていた。ゆっくりと体を起こし、ベッドに座った状態で、両手で顔を隠した。
天光琳が二神を庇い、苦しみながら倒れていく......あの時の記憶が何度も蘇る。夢にも出てきてしまった。
(思い出したくないのに......)
天俊熙はため息をついた。
時計を見ると午前二時だった。
そんなに寝ていない。
しかしもう眠くない天俊熙はベッドから降り、すぐ横にある窓を開け、近くにある椅子に座って遠くを見つめた。
あの悪神はどこへ行ってしまったのだろうか。恐らくまた、
天光琳の前に現れるだろう。
......現れたらどうなるのだろうか。今回は悪神の方が不利な状況になり逃げていったが、次は今回みたいに上手くいかないだろう。
(もっと強くなるんだ)
天俊熙は手を強く握りしめた。
もう二度と、目の前で仲間が倒れていく姿を見たくない。結界が壊され、仲間を守れないことがないようにしたい。
天俊熙は外をじっと見つめた。
✿❀✿❀✿
外は明るくなった。午前七時ぐらいだ。
天俊熙はあれから眠っておらず、天光琳の様子を見つつ、外をずっと眺めていた。
「俊熙......?起きてる...?」
扉をノックする音が聞こえた。
天麗華の声だ。
「あ、起きてまーす」
天俊熙はそう言いながら扉を開け、天麗華は部屋に入った。
「おはよう 」
「おはようございます」
天麗華は疲れが取れたらしく、昨日の疲れきった顔ではなく、いつもの可愛らしい顔に戻っていた。天俊熙は安心した。
「...光琳......」
天麗華は昨日のように天光琳の横に座った。
「傷...まだ痛むのかしら...」
「かなり深く斬られていましたよね......」
二神は天光琳を心配そうに見つめながら言った。
「......そういえば...あの悪神、天光琳に力を移していたけれど......大丈夫なのでしょうか」
天俊熙は思い出した。天光琳が命を落とさずに済んだのは、あの悪神が力を移していたからでもある。
「私も思ったわ。......あの悪神、神界の者ではなかった場合、力を移された光琳はどうなってしまうのか...とても不安だわ」
「何も無いといいんですけど......」
天麗華は小さく頷いた。
ただの回復の能力だった...という事を祈るしかない。天光琳の体に影響がなければよいのだが。
「...あ、俊熙。貴方お腹空いていない?」
天麗華は立ち上がり、天俊熙の方を見ながら言った。
「実はめちゃくちゃ空いてます...」
天俊熙は苦笑いしながら言った。
目覚めてから何も食べていない。
「そうよね...ごめんなさい、昨日言い忘れてしまったわ。一階に下りれば、女将さんがいると思うの。女将さんに『ご飯を食べたいです』って言えば、食事部屋に案内してくれるわ、そこでご飯が食べられるわよ」
天麗華はゆっくり分かりやすく説明してくれた。
「ありがとうございます。......麗華様はお腹空いていないのですか...?」
「大丈夫よ。私は後でいただくから、貴方は先に食べに行って」
天麗華は微笑みながら言った。
天光琳のそばに一神はいた方が良いだろう。
そのため、天麗華は後で食べることにした。
「分かりました」
そう言って天俊熙は部屋を出て、一階へ下りて行った。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる