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ー光ー 第一章 無能神様

第十九話 休憩時間

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「老師!ただいま!」

「はぁ...はぁ...しんど......」


 小屋の近くに来ると、草沐阳の姿が見えた。

 天光琳は大きな声で草沐阳を呼んだが、天俊熙はそんな余裕は無い。


「大丈夫...?」

「あぁ...なんとか...」


 ちなみに時間は十八分。下りは登りより楽なので早く着くことが出来た。


「おかえり、お疲れ様。......俊熙は随分と疲れてるようだな」

「疲れていない光琳がおかしいんです、俺は普通だ!!」


 天俊熙の言う通りである。普通は疲れている。天俊熙もよく着いてこられた。すごい方なのだ。


「ははは、そうだな。よし、次の修行に移るとするか」

「いや待ってくださいよっ!!」

「あははっ」


 草沐阳という神は実に恐ろしい神だ。
 ......いや、天光琳はいつも二周終わらせたあと、休憩せずに次の修行に移る。

 今修行と舞の稽古をしている天家の神は天光琳しかいない。一番年下の天李静は十五歳なので、草沐阳は五年間以上、天光琳にしか教えていない。そのため基準がおかしくなってきている。天光琳の方が恐ろしい神なのだ。

 天俊熙は叫び、天光琳は笑った。


「そうだったな、休憩時間を取らねば」

「そうですよ...昔は毎回休憩していたじゃないですか......」


 休憩は小屋の近くに流れている川の近くで休憩する。

 天俊熙は木でできたベンチに座り、天光琳は立った状態で、天俊熙とは真反対を向き、ベンチの背もたれにもたれかかった。


「ここ、久しぶりに来たな...八年ぶりかも」

「僕も最近来てないな......」


 小さい頃、二神はよくこの川に足をつけて涼しんでいた。たまに水の掛け合いが始まり、一緒に修行していた天家の神に水を掛けてしまったことが何度もある。

 天麗華とは五歳差の為、一年しか一緒に修行出来なかったが、三回も水を掛けてしまっている。
 二歳年上の天李偉と三歳差年下の天李静にはもっと掛けている。

 天麗華の場合は、笑いながら仕返しをしてくる。
 しかし天李偉は天俊熙には許し、天光琳には怖い怖い顔をして許してくれない。

 天李静は何事も無かったかのようにスルーしていた。


「麗華姉様も一緒にやってくれたよな!...俺の姉と妹なんて一回も掛け合いしてくれなかったなぁ」

「李偉様は濡れるの嫌いだもんね...」

「そうなんだよ。李静は...アイツノリ悪いからな」


 二神は思い出話で盛り上がった。


「よくずぶ濡れになってよな」

「ね~、結構楽しかった!」


 天光琳は天俊熙の方を向きながら言った。
 濡れても、この後も修行を続けるから大丈夫、乾くだろうだろう...と言って風邪をひいたこともあった。天麗華はきちんと着替えていたため、風邪をひいたことがないのだが......実に男神らしい二神である。


「今は遊ばないのか?」


 ゆっくりと歩いてきた草沐阳が言った。


「さすがにこの歳では遊びませんよ」


 天俊熙が苦笑いをしながら言った。
 天光琳も頷いた。


「そうかそうか......成長したな。あの頃は休憩時間だと言うのに遊んで...それでその後の修行で疲れたとか言うから...俺も何回か叱ったことがあったなぁ」

「そんなこともありましたね」

「懐かしいなー」


 草沐阳はあの光景がもう見ることが出来ないと少し寂しそうな顔をしながら言った。

 二神は思い出し笑った。
 この後、しばらく小さい頃の話をして、休憩時間が終わった。
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