鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第一章 無能神様

第十二話 舞

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 天光琳は目が覚めた。


「痛っ」


 右手が痛む。右手を見ると、包帯が巻かれてた。


 (そういや昨日手を切っちゃったんだ......あれ?)


 天光琳は勢いよく起き上がった。自分の部屋のベッドで寝ていた。恐らくあの後、倒れてしまったのだろう。

 服はそのままだが、服や髪...そしてベッドは濡れていない。恐らく誰かが乾かしてくれたのだろう。

 時計を見た。時刻は朝食の時間の十分前だった。


 (そろそろ行くか...)


 天光琳はベットから下り、服を着替え、髪を整えてから食事部屋へ向かった。


 ✿❀✿❀✿


 食事部屋には、天宇軒と天麗華がいた。


「おはよう、光琳」

「......」


 天麗華は昨日と違い、いつも通り笑顔で挨拶をしてくれた。天宇軒もいつも通り黙ったままだ。


「おはようございます」


 天光琳は挨拶をした後、自分の席に座った。


 (気まずい......)


 昨日のことがあり、天光琳は居心地が悪かった。チラッと天宇軒の方を見ると、天宇軒は手に頭を乗せて窓の外を見ている。これもいつも通り。天光琳はホッとした。いつも通りにしていればいい。


 (あー...今日は舞をしなければ......)


 天光琳は人間の願いを叶えることを思いだし、一気に気が重くなった。
 そのせいで朝食は喉を通らなかった。



 朝食の時間が終わった。


「光琳、どうしたのその手......」

「しかも利き手...食べにくそうだったわ」


 天万姫と天麗華が天光琳の右手を見て心配そうに言った。
 天光琳は包帯を巻いてくれたのは母の天万姫か姉の天麗華のどちらかだと思っていたが......違うそうだ。

 右手は動かすとズキっと電気がはしったかのように痛み、利き手を怪我したため、食事の時は食べにくかった。


「昨日の夜滑って怪我しちゃった、大丈夫だよ」


 天光琳は苦笑いしながら言った。何があって怪我したのか、はっきりとは言わなかった。しかし言っていることは間違いでは無い。


「本当に...痛そうだわ」

「お大事に......それじゃあ私はこれで」


 そう言って天麗華は手を振りながら部屋を出た。今食事部屋にいるのは天万姫と天光琳だけだ。


「光琳......今日、人間の願いを叶えに行くのよね」

「はい」


 天万姫は心配そうに言った。


「失敗してもあまり落ち込まないこと。周りから何を言われようと、貴方は頑張っているのだから、堂々としていてもいいのよ」


 天万姫は天光琳の肩に手を置きながら話した。


「頑張って、成功することを祈るわ」

「はい、頑張ります。ありがとうございます」


 天光琳は真剣な顔をしながら言った。
 天万姫はニコッと微笑み、天光琳の肩から手を離し、部屋を出た。

 部屋に残された天光琳は手に力を込め、前を向いた。


 (大丈夫。きっと上手くいく......)


 ✿❀✿❀✿


 城を出て、一分ほど真っ直ぐ歩くと、大きな塔にたどり着く。桜雲天国の神々はこの塔で舞をし、人間の願いを叶えるのだ。

 この塔には部屋が沢山あり、一部屋に一神しか入れない。
 塔の中に入ると、真ん中に神術でしかれた大きな丸の陣がある。

 その上に立つと陣がひかり桜の花びらに包まれ、塔の空いている部屋の前まで移動する。

 天光琳は部屋の扉の前で深呼吸をした。
 緊張する。扇を抱きしめ、大きく息を吸って吐く。そして部屋に入った。


 部屋はそこそこ大きく、舞を舞っても手足が壁に当たる心配はない。

 部屋の奥には鏡がある。その前に神が立つと、神社にお願いごとをしている人間の姿が現れる。




 天光琳の鏡には二十代ぐらいの女性が現れた。


『旦那に頂いた髪飾りが無事に見つかりますように』


 その願いを聞いた天光琳はもう一度深呼吸をして、早速舞を始めた。

 舞をする時、曲に合わせて舞うのだが、この塔では不思議なことにこの塔では口に出さなくても、どの舞を舞うのか想像しただけで、その舞の曲が流れる。

 曲が流れ始め、大きな扇子をバサッと開き、全身を使って美しく舞い踊る。


 ......しかし、神の力は出てこなかった。


 (まだまだ...)


 諦めずに続ける。昨日の怪我をした右手が痛むが、そんな痛みは気にしない......が。


『...これ......私の旦那が私のために作ってくださった髪飾りなんです...』

『お嬢ちゃん。そうやって誤魔化してもダメだよ?欲しいならお金を払えばいいんだ』

『こんな高いの買えません......返してください!』

『返さねぇよ!』

『きゃあっ!』


 女性は商人の太ったおじさんに飛ばされ、そのまま泥水に顔から転んでしまった。

 女性の髪飾りはこのおじさんに盗まれ、売られてしまったのだ。

 女性の夫が作ったものなので、この髪飾りは女性のもので間違いない。
 結局この髪飾りは別の女性に買われてしまった。

 女性は泥水の中、手を強く握りしめ、大粒の涙を流しながら泣き続けた。

 周りの人間は泥だらけで泣いている女性の姿を見て、汚い女...と嫌な目で見るだけだった。


 ......失敗だ。

 人間界と神界では時空が違うため、結果はすぐに分かる。


「ごめんなさい......」


 神の声は人間に届かない。それでも天光琳は謝った。許されるはずがないのだが......。

 天光琳は胸が苦しくなった。しかし、あと二回やらなければいけはい。気を取り直してもう一度鏡の前に立った。




 次は七十代の男性だった。


『頼む!神様!!雪子の病気を治してくれ!!』


 雪子とはこの男性の妻のことだろう。
 天光琳は息を飲んだ。


 (これは人間の命に関わることだ...失敗する訳にはいかない......。)


 どの願いも失敗してはいけない。しかし今回は命に関わるのだ。

 手足が震える。けれどやらなければいけない。
 天光琳は気持ちを落ち着かせて、再び扇を開き舞い始めた。


『雪子......きっと大丈夫だ..』

『ゲホゲホ......えぇ。神様が......神様が助けてくれるわ...ゲホッ...』


 天光琳はだんだん不安になってきた。


 (どうして...!)


 全然神の力が出てこない。


『ゲホゲホッ......うぅ......』

『しっかりしろ!!』


 (やばい......!)


 息が荒くなる。そろそろ体力が限界だ。そして右手は傷口が開いて血が滲んできている。


『.........あなた...』

『雪子!!』


 雪子の体は完全に弱っている。

 天光琳は汗だくになりながらも舞を続けている。.........しかし。


『.........。』

『雪子......雪子ぉ.........いやだ...雪子!!』


「...っ!」


 天光琳は崩れ落ちた。失敗だ。
 雪子と言う女性は亡くなってしまった。


「はぁ......はあ......」


 天光琳は疲れきっていた。右手から流れている血も気にしていなかった。汗と涙が一緒に零れ落ちる。


 (また...ダメだった......!)


 この後しばらく休憩をし、残り一回を終わらせるために舞をしたが......これも失敗だった...。


 今日も成功することが出来なかった。
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