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第二章

31.彼の視点② 中編(1)

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──国境付近から王都へ向かうこと1週間。
ようやくシャンデリア王都へと到着する。

聖女様の戦闘狂ぶりは凄まじく、ノアの魔力探知によると帰路周囲の魔物は激減したとのことだ。

「経験値ィ、経験値ィ!!!」
と叫びながら魔物を狩っているが、経験値……とはスミレが言っていた別の世界に存在するゲームとやらのことだろうか。魔物討伐がゲーム感覚なのかもしれないと思うと聖女様は末恐ろしい。

でもまあ、彼女のお陰で兵は疲弊することなく王都までたどり着くことが出来たのでとてもありがたいことなのだが。


「──団長。なんだか街人が帰還を聞きつけて、大通りで待ち構えているらしいです」

ユキが複雑そうな顔で言い、それを聞いてノアとトランは嫌そうな顔をした。

第2騎士団の時と違って大分長期的な遠征となったので兵達の家族も待ち遠しかっただろうから仕方がないと思うが、歓迎ムードというのは余り目立ちたくない俺達にとっては少し複雑な気持ちになるのも分かる。


「……ラヴィ様の存在は未だおおやけには出来ませんし、俺とノア、聖女様の3名は裏道から王宮へと向かいましょう」
「そうだね。大通りは目立ちすぎるし裏道から行こう。それに僕も人前にはあまり出たくない」
「ええ~!!歓迎ムードとかオリンピックの選手団見たいじゃん!!!気持ちよさそうなのにぃ~!!!」
「お、おりん……ぴっくとやらは分かりかねますが、ラヴィ様は裏道から行きます。聖女様が召喚されたという事は現在のところは王宮内での極秘事項となっています。守れないのであれば、宰相のノーマンに言ってラヴィ様のお食事の量やデザートを減らしてもいいのですが」
「……わかったわよぉ。裏から行きます……」

トランは聖女様に振り回されっぱなしかと思いきや、第2騎士団の遠征時からの付き合いもあるからか意外と聖女様の扱いが上手い。


「──じゃあ、後で王宮で会おう」
「はい。兄さん」
「レイさん、また後で」
「レイ~!後でゆっくりお話しましょう?」


3人は裏道へと続く方向へと向かっていった。


「……団長。今回は長かったですね」
「ああ、そうだな。途中でノアやトラン、聖女様が来てくれなかったら今ここに帰ってきていなかったかもしれない」

今回、国境付近での魔物の活性化は過去に例がないほどであった。
倒しても倒しても湧いてくる魔物。
初日ほどの数が攻めてくることは無かったが、ノア達の増援がなければ第1騎士団だけでは処理しきれず大きな被害を被っていたかもしれない。

魔物の発生源となる根本の魔力の淀み……。

ノアはこれを浄化する術があれば、活性化は落ち着くと仮定できるそうだが、実際そんな事が出来るのだろうか。


「……団長。そ、その」
「どうした?」
「今度、休暇があれば一緒に街へ食事にでも行きませんか……」

 ユキからの珍しい誘い。
長い付き合いになるが彼女から食事に誘われるのは初めてだと思う。

「そうだな。前によく行った食堂にでも行くか?あそこはルーもトランも好きだし皆を誘っていこうか」
「……団長。皆で行くのもいいのですがこ、今回は……その。ちょっとオシャレな所というか、なんていうか……落ち着いたところに2人で行きたいと言いますか……」
「そうか。別に構わないが……」
「ほっ、本当ですか!?そ、そうしたらまた休暇が被った時にでも行きましょう!!」
「分かった。休暇を確認してから予定を決めようか」

強ばっていた顔が一瞬にして明るくなる。
ユキも働き詰めで久々の休暇だろうから、好きそうな店でも探してご馳走でもしてあげようと思う。



***


──街の中へと入り、馬を暫く歩かせると大通りに出た。
事前にユキから聞いたように道には人が溢れかえっている。


「おかえりなさーい!!」
「見てみて!氷の騎士様にユキ様よ!!」
「美しい方々だ……」
「水の女神様ーー!!」
「ユキ様ーーー!!!氷の騎士様ーー!!」


人々の歓声は想定よりも大きく、歓迎されているのが分かる。先を歩く騎士たちは街の人々へ手を振り返しており、それを見てユキは真顔なのに口角を少し上げてぎこちなくてを振り返していた。

俺も同様に手を振りながら、ある人物を探す。

……その探している人物とは、スミレだ。

王宮にいるかもしれないが、たまたま街に来ているかもしれない。もし来ていたとして、今この場に彼女が居たとしたら。すぐにでも会いに行きたい。彼女と会って話しがしたい、顔が見たい。

少し浮ついた気持ちで、人だかりの中に彼女を探すがそう簡単には見つからなかった。

もうすぐ大通りを抜けてしまう。王宮に戻ったら1番に会いに行こう……。
だなんて考えていると、

──見つけた。
シャルム王国では珍しい黒い髪に黒い瞳。
見間違えなんかじゃない。少し距離が離れていたってすぐに分かった。

人々の隙間からヒョコっと顔を覗かせている。

「……スミレ」

ちらっとしか見えないが、ぴょんぴょんとジャンプをしながらこちらを覗いているようだった。

……ずっと会いたかった。顔が見たかった。


異性に対してこんな気持ちになったのは初めてだった。


「ユキ、すまないが俺はここで降りる。後で王宮には向かうから馬を頼む」
「……えっ、団長?……ってちょっと!」

彼女と今すぐにでも話したいという衝動が身体を走り抜け、乗っていた馬を降りてスミレの元へと向かう。

「すまない、道を開けてもらえるか」

なんだなんだとザワつく人々をかきわけていく。

黒い髪に黒い瞳。
幼い可愛らしい顔立ち。
華奢で折れてしまいそうな身体。

1ヶ月前より少しふっくらして痩けている様子はない。

愛しい人。
その全てが恋しかった。

「……スミレ。会いたかった」
「えっ」


──気がつくと彼女を抱きしめていた。

甘い石鹸のような香りがする。
華奢な身体は抱きしめたことによって今にもひしゃげてしまいそうだ。


「──氷の騎士様に恋人がいたのか!?!?」
「あの珍しい黒髪はアシュク診療所の新人ちゃんじゃない!?」
「なんてロマンティックなの!?感動の再開かしら!?」
「ス、スミレ!?!?やっぱ彼氏いたの!?!?し、しかも氷の騎士様じゃない!」


ザワつく大衆の声でハッとする。
スミレの顔を見ると驚き固まっている。

周囲は俺の行動に大騒ぎだ。
このままではゆっくりも話ができないし、とりあえず場所を変えなければ。

「……すまない。とりあえず、場所を移動しよう」
「……あっ、うん……」

彼女の手を引き、大通りを離れた。



***



「──ここまで来れば誰もいないだろう」
「レイ。ひ、久しぶりだね……──って、どうしたの!頭を上げて!!」
「その……先程はすまなかった」


自分勝手な行動をしてしまった事と彼女への配慮の無さの申し訳なさから頭を深く下げて謝罪する。

……冷静じゃなかった。大衆を見ている中で、恋人でもない女性を抱きしめるだなんて。いくら彼女が愛しく恋しかったとしても、相手の気持ちを考えずに行動してしまった。彼女にだって想い人がいるかもしれないのに。

「ううん、大丈夫。その、それより、遠征
中大きな怪我とかしてない?」
「この通り何も無い、ありがとう。それより──」

何事も無かったのかのように、彼女は世間話をする。スミレは先程のことは触れようとしてこない。

「──それより、戻らなくていいの?」
「……そうだな。とりあえず戻って報告しないと。今日の夜……空いているか?」

とりあえず、今は顔だけでも見れてよかった。夜に彼女が空いていればゆっくり話がしたい。

「特に予定は無いし空いてるよ!」
「そうか。なら8時ぐらいにあの場所で会えそうか?」
「もちろん!じゃあ……後でね」


この勢いで今すぐにでも心の胸の内を彼女への告白したかったが、今はそのタイミングではない。



スミレと夜に庭園で会う約束をして、王宮へと向かった。
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