14 / 66
第一章
14.リハビリと遠征
しおりを挟む──朝にルー様とリハビリチームを立ち上げて、早数時間。王女様へどのようにリハビリをしていくかを計画していく。
計画していく……といっても、私は身体トレーニングやリハビリの経験が全くないので、朝昼晩少しづつのリハビリが必要であることをルー様へ説明し、後は一任したのだった。
ルー様曰く、騎士団には10歳前後の子供も入団してくることも珍しくないそうで体の鍛え方なら任せろとのことで、
私の出来ることといえば、そのトレーニングによって急激な血圧変化等が起こらないか予測したり、トレーニング中に見守ることだけであった。
そして、ルー様の子供向けの身体トレーニングのノウハウは頭に入っているらしく、早速昼食後よりリハビリが開始された。
「アンジェ、今日から俺様が体を鍛えてやるぞ」
「…るぅのトレーニングなら、がんばるの。」
二カッと笑い犬歯が見えるルー様に、なんとも緩い雰囲気の王女様。
「じゃあまずは足だ。体は下半身から造られると言っても過言ではないからな」
「……えいえいおー、なの」
この2人は性格は似ていないかもしれないが、なんだか息はピッタリで前から仲良しだったのが直ぐにわかった。
ルー様は、ベッド上での王女様の足の訓練から始めた。
前の世界でもPT(理学療法士:リハビリの専門職)の先生が長期臥床の患者さんは足の曲げる運動からしていたっけ。
詳しい知識はないが、ルー様は前の世界で見たリハビリと似通っているメニューをしているようだ。
私はただ見守るだけで何もすることがないが、実の兄妹の様な2人の様子に癒されていた。
「……だいぶ、つかれたの」
「よし。30分は頑張ったな、偉いぞアンジェ。
俺様もそろそろ兵団に戻って様子を見てくる。夕方にはまた戻ってくるからな」
「わかった。まってるの」
昼の訓練が終わるとすぐさま兵舎へ向かうルー様を見て、
『今現在、第1騎士団が魔物の討伐に重きを置いてくれている為、私の率いる第2騎士団は少しゆとりが出ている』とのルー様の言葉を思い出した。
現在、第2騎士団の代わりに第1騎士団が討伐の重きを置いている……と。
詳しくは分からないけど、第2騎士団は遠征に行っていたと聞いたので怪我人も沢山でたのだろうか。
その為に第1騎士団が代わりに魔物の討伐に追われているとかなのかな。
……レイは魔物の討伐には慣れていると言っていたけど、最近活性化しているというし部下の怪我も増えてきてるとも言っていたので心配だ。
まあ、団長を務めてることや街での知名度から実力はあるだろうし、余計なお世話かもしれない。
「……えっ!?」
翌日、王宮の食堂で会ったダヴィッドさんから第1騎士団が国境付近まで遠征に行ったことを知った。
国境への距離感はイマイチ理解していないが、それなりの距離だそう。
そういえばあの出かけた日以来、経管栄養の一般運用に向けた内職や、王女様の回復に合わせて今後どのようにしていくかなどのスケジュール調整などで忙しくて庭園へ行けていなかった。
レイに会いたくて会いたくて震える…とまではいかないが、会いに行きたいのを堪えてしなければならない仕事を全うしていたのだ。
まさかこんなに当然遠征が決まるなんて……。
暫く会えなくなってしまうのであれば、少しでも時間を作って会いに行くべきだった。
昼のリハビリの時間となり、ルー様と合流する。
「…ルー様。風の噂で聞いたのですが、国境付近の魔物討伐へ向かった第1騎士団はいつ帰って来るのでしょうか。」
第2騎士団長であるルー様なら内情を知っているだろうから、さりげなく聞いてみる。
「……あぁ、レイのことか。
あいつの事なら心配いらないぞ。
認めたくないが、アイツは俺様より全然強いからな」
そうなんですね!強いから心配いらないんですね!!……じゃない。
なんでお前がそんな事を聞くんだ?知り合いでもいるのか?ぐらいの返事が帰ってくるかと思っていたがまさかの回答。
素直に、欲しい答えがすぐに返ってきてよかったーとはならないのですよ犬耳モフモフ騎士団長。
だってルー様は私とレイに親交があることは知らないはずだよね?
などと考えていると、
「俺様がお前らの親交を知らないと思ったのか?
レイからスミレの話はよく聞いてるぞ。お前の話をする時はアイツはよく笑うな。
この前、街に2人で行ったそうじゃないか。楽しかったか?」
ルー様はお構い無しに話を進めていく。
「まっ、待ってください。ルー様とレイは仲が良いと聞いてはいましたが……」
「なら、色恋の話の一つや二つ、年頃の男同志ならするものだろう?」
ニカッと笑い犬歯が見えるルー様。
耳はピンと張り、ズボンから出ているシッポは横に揺れているのが見える。
……い、色恋!?
レイの色恋の話に私が出てきてるということでよろしいでしょうか、ルー様。
しかし、期待しすぎて違った時の悲しさと羞恥心は私の心をもみくちゃにしてしまいそうで、私のことですか?だなんてストレートに聞けない。
なんとも複雑な気持ちになり黙ってしまったが、ルー様の腰の当たりからなにかがブンブンと激しく横揺れしてるのが見える。
……よく見ると手入れされているであろうフワフワなシッポが激しく横に揺れていた。
「む…。ルー様、からかっていますね?」
「ははーん、……バレたか。鋭いな」
バレたかって……。
シッポが激しく横揺れしているからです。だなんてまだ言えない。
王女様が元気になってきてからのルー様は少しお調子者で皆の頼れる兄貴分っていう感じがする。
きっとこれが本来の彼の姿であって、あの時は王女様が心配過ぎて思い詰めていたのだろう。
最近このようにからかわれることが増えてきて、これで彼が年下だったらどうしようかと思っていたが私よりも上の28歳らしい。
白金の髪の毛にモフモフの耳とシッポがついているとはいえ、彼の野性味溢れる造形美とボタンを広めに開けたシャツから見える胸筋が色気満開で、度々、侍女さんを(病でなく健康な意味での)卒倒させている。
……彼の色気と美しさも人類にとって目に毒だと思う。
「……で、第1騎士団はいつ帰ってくるんでしょうか」
「今回の遠征はそこまで長期的ではないと聞いている。第2騎士団が長期遠征で討伐に当たっていたが怪我人が多くて帰還し、再度第1騎士団が行くことになったんだ。まあ1週間、長くて2週間程度だろう。まあレイがいるからそんなに長期間にはならないと思うが……。というか、直接聞いていなかったのか?」
「いつも夜に庭園で会えたら会うみたいな感じになっていたのですが、最近忙しくて行けてなくて」
「……ふーん、なるほどな。まあそんなこともあるだう。
しかしだな、レイの心配は要らないぞ。さっきも言ったがアイツは俺様より強い。
魔物なんてアイツの魔法で瞬殺だからな」
ルー様曰く、レイは騎士団最高戦力なのだとか。
彼の使用する魔法は圧倒的で1面の敵を一瞬のうちに壊滅させるほどの威力らしい。
そして、とても強力な氷魔法を使用することからついた異名は『氷の騎士』。
こちらを見る街の人々が氷の騎士様だとか言っているのが聞こえたのを思い出した。
……優しいだけではなく強いだなんて凄いなレイは。そして、あの大きな手のひらにある剣だこから、努力も惜しまない人なんだろう。
……彼の魅力にどんどん惹かれていく自分が怖い。
レイの存在はこの世界に来てからの私の精神安定剤ぐらいの役割を果たしてしまっていて、この想いを告げて叶わず彼との関係を失った時、私は立ち直れるのだろうか。
にしても、騎士団最高戦力を遠征に行かせるなんてよっぽど魔物の活性化が酷いのだろうか。
「そうですか……」
「そう心配するな。レイなら大丈夫さ。第1騎士団が帰還したらすぐ会いにいってくれないか。あいつも喜ぶだろう」
「……え、よろこ……」
自身の顔が赤くなっていくのがわかる。
同時に期待してしまう自分に恥ずかしくなる。
しかし顔を上げると、そこにら満面の笑みのルー様。
真に受けている私をからかっているのだろう。
「……は、早くお昼のリハビリを開始してください!!!」
「…ふはは!
分かった分かった、……よしアンジェ、朝の続きを始めるぞー!」
「はーい…なの」
……しばらくレイに会えないのは寂しいが、ルー様の話しぶりから彼なら大丈夫だそうなので、私は自分に出来ることを頑張ろう。
0
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
田舎暮らしの魔草薬師
鈴木竜一
ファンタジー
治癒魔法使いたちが集まり、怪我や病に苦しむ人たちを助けるために創設されたレイナード聖院で働くハリスは拝金主義を掲げる新院長の方針に逆らってクビを宣告される。
しかし、パワハラにうんざりしていたハリスは落ち込むことなく、これをいいきっかけと考えて治癒魔法と魔草薬を広めるべく独立して診療所を開業。
一方、ハリスを信頼する各分野の超一流たちはその理不尽さとあからさまな金儲け運用に激怒し、独立したハリスをサポートすべく、彼が移り住んだ辺境領地へと集結するのだった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる