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11話「噂話」 ☆ルタ視点
しおりを挟む「──ロレーヌ家の長女が婚約破棄されただと?」
ある日の早朝に何やら噂話で盛り上がっている部下たちより聞こえてきた話。
侯爵家のロレーヌ一族の長女、ケイ=ロレーヌが婚約者のラインハルト侯に婚約破棄されたという話だ。
「「団長!おはようございます!!」」
声を揃えて礼儀正しく挨拶をする部下達。
「あ、ああ。おはよう。それより、先程の噂話を私にも聞かせてくれないか?」
「ロレーヌ嬢の婚約破棄の話ですか?」
「そうだ」
「団長が噂話に耳を貸すなんて珍しいですね」
「……駄目か?」
「い、いえ!そんなことはありません!!……それでその話なんですが……」
部下によると、噂話は朝聞こえた通りの内容でロレーヌ家の長女のケイ=ロレーヌは婚約者のラインハルト侯に婚約破棄をされたという。
しかも唯の婚約破棄ではなく、腹違いの妹のロージュがラインハルト侯と関係を持ちその身に子を宿した為……との事だった。
一般の市民であれば稀にある話だとは思うがなんと言ってもロレーヌも侯爵家の中でも有数の権力を持つ家。
そんな家の長女が言い方は悪いが、“婚約者を腹違いの妹に寝盗られた“となれば噂話は波紋のように広がっていくだろう。
社交界だけではなく、こんな王宮内の騎士たちまで噂をしているぐらいなので話題の注目度はかなり高い。
「しかし、妹のロージュもやりますよねぇ。実の姉の婚約者を寝盗るなんて」
「まあロージュ様は大変美しいお方と聞く。それに対して姉の方は何も出来ずただ地味なだけで何の取り柄と無いらしい。ラインハルト侯も魅了されてしまっても仕方がないのかもな」
「………」
室内に響く笑い声。
しかしそんな話を聞いても全く面白くなかった。
何故なら、ケイ=ロレーヌは俺の初恋の人だからだ。
幼き頃に父親へロレーヌ領の森へ無理やり連れてこられた中で出会った1人の少女。
茶髪にライトグリーンの瞳を持ち優しげな顔でとても活発で明るい彼女は、自分が名乗らなかったのもあるが俺の事を“クロ“と呼び、大変親しくしてくれた。
幼いながらにして、彼女と生涯を添い遂げたいと思うほどに恋焦がれていた。
しかし、あの事件があってから彼女は森に来なくなってしまった。
誰も彼女を責めてはいなかった。
むしろ、ロレーヌ領の警備が以前よりも手薄になっていた事が魔物を増殖させ凶悪化させた原因だということが判明したのだ。
彼女に会ったのがあれが最後になってしまうなんて嫌だと思った俺は12歳の誕生日を迎えて親に婚約者はどうするかと問われた際に「婚約するならロレーヌ家のケイ様がいい」と伝えたが、既にフォルクング家の長男ラインハルトと婚姻の義を交わしたというので無理だと言われた。
あれから10年の時が経ち、それまでの間に数々の家の令嬢との縁談の話が持ち上がったが全て断った。
侯爵家の中でも高い地位を持つクラレンス家の長男との婚約。
それを目当てに要らない媚びを売る令嬢達に嫌気が差し、親には申し訳ないがもう生涯独身でもいいとさえ思っていた。
そんな最中で聞いた、初恋の人の婚約破棄。
我儘で横暴であるラインハルト侯の悪名は高く一部の界隈では有名であったが、幼き日より生涯を誓い合ったはずの婚約者までないがしろにしていたとは。
フツフツと湧き上がる怒りとケイはこれからどうなるんだろうという不安も込み上げてきた。
婚約破棄された能無しの令嬢。
彼女は噂ではそう言われてしまっている。
この国では、“婚約破棄された“という事実はその当人の名前に傷が付く。しかもされた側が令嬢となれば、その令嬢は“傷ありの残り物“とされてしまい貰い手が居なくなってしまう事が多いので婚約破棄というのは、余っ程の事がないとしないのだ。
それを平然とやってのけたラインハルト侯が許せない。
「──すまないが、今日は帰る」
「だ、団長?どうしたんですか?」
「……後は任せた」
「えっ!??」
俺は騎士団の仕事を放り出して、急いでクラレンス家へと向かった。
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