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〈ヒーロー〉と〈悪役令嬢〉編
【58】シシリー・セルナサスと初夜 −5− ★
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「やっぱり嫌になった? やめてもいいよ。ん?」
「違う、違うの。今まで、我慢してくれて、ありがとう……? って、なんか、泣けてきちゃった……。おかしいわねっ」
「おまえは、男を、性欲のままに女を貪って当たり前の獣とでも思っているようだが。そういうのもいるが。セックスなんてしなくても、俺は、これまでも楽しかったよ」
ユースタスの手が頬に降り、腹を抱き、くい、と振り向くように導かれる。シシリーはおとなしく従い、彼と目を合わせた。
キスをした。
「ん……」
「一緒に勉強したり、美味いものを飲み食いしたり、オトメゲームのことで奔走したり。おまえがすくすくと成長して、綺麗な大人の女になっていくのを見守るのが、本当に楽しくて誇らしかった」
「ふ、ぁ……あっ」
角度を変えて、また重ねる。
「俺の妹はこんなに可愛くて美しくて、兄様とあれこれを実験する変態だろうと何だろうと、憧れの〝お姫さま〟や未来のために頑張る自慢の妹で。ああ、でも、もしも見かけが違っても可愛いんだろうな。どうせ可愛いんだよ、それが〝おまえ〟なら。……重いな、俺」
「…………ん……重く、ない……平気……」
「随分と歯切れが悪いが?」
「違っ、あの、本当に、嫌じゃなくて、本当に、平気……なんだけど、んっ……ちょっと、ごめんなさい……」
「ん、どうした」
彼のモノと彼の腿とを自分の脚の間に挟んだまま、シシリーは体勢をずらし、彼を抱き返した。
彼女のしたいことを察して程よく力をゆるめてくれるユースタスの優しさに、上手さに、なんだか悔しくもなる。
(実の兄妹で致すなんて、この世界でも、普通じゃないのに)
彼と裸でくっつく今が、嫌じゃない。
「兄様、あのね、さっき、イきそ、うで……」
「……なるほど」
「でも、胸、止められちゃって、今、焦らされているみたいに、苦しくて」
「ああ、そうか。悪い」
甘えた声でもどかしさを伝えて見上げたシシリーに、ユースタスはわざとらしく思案顔を見せた。
告白の恥ずかしさや照れにも熱を上げられ、シシリーは今にも茹でダコになってしまいそうだ。
そういえばこの国ではタコを食べる文化はないわね、なんてこの場にそぐわない変なことを思いつつ、彼を待つ。
「……何かしてほしいことは?」
「……乳首、また、さわって……?」
熱で馬鹿になったのか、こんなことまで口走ってしまった。ここまで来たら、もう勢いだ。
「ね、おねがい、兄様」
「今の言い方、めっちゃ可愛い」
「っ、やぁん……!」
先端をぎゅっと摘ままれ、びりびりとした刺激が走る。再燃する。
「あぁんっ……兄様の手、すごい……きもちいい……きもちいの……」
「……っ、おまえ、こんなふうになるんだな……本当に可愛い……」
「うぅ、あぅ、いく、イくっ、イく……!」
「ん……っ」
びくびくと跳ねるシシリーの身体を、ユースタスは、何かから守るようにぎゅっと抱きしめた。
ずっと抱きしめられているのに、今はより強く彼に守られているとシシリーは感じた。
「あっ、あー……」
「大丈夫か、シシリー。つらくないか」
「ええ、平気よ……。だいじょうぶ」
「あとは、ここを指でほぐして、ちゃんと――」
「兄様、もう、シましょう」
「へぁ?」
ちょっと間抜けな声が聞こえて、シシリーの心はふわりと楽になる。緊張がゆるむ。
(ユウ兄様……私の兄様……)
自分から誘うのは恥ずかしいなんてためらいよりも、自分がすべきなのだという強い直感が勝った。
「もう、私の方が……、我慢、できないの。来て」
「…………いい、のか」
こくり、と頷く。「うん」と声を出し、彼を正面から見据える。
とても大きな、大変なことに挑むように。その決意を表すように。彼女の紫はギラリと煌めいた。
ユースタスは目を見張り、次いで何かに納得したように表情をふっとゆるめる。
「……おまえ、やっぱり俺の妹だな」
「何よ」
「その目付き、なかなか怖いぞ」
「む……って、どういうこと? うん?」
「俺もよく言われるので、きっと似ているんだろう。眼光鋭い兄妹ってことで」
「……ふーん」
「って、しれっと進めようとするな、おい、聞け」
ユースタスは焦った様子でシシリーの臀部を鷲掴むと、彼女の腰の動きを邪魔した。
「ちょっと、いきなりお尻もみもみしないで!」
「いきなり挿入しようとしたおまえに言われたくないが」
「この馬鹿力!」
「もういい、なんとでも言え」
「っ!」
まるで兄妹喧嘩のような流れで、ふたりの姿勢はくるりと変わる。
「…………兄様は、正常位派なの?」
「初めてなら、これだろ」
「ふーん……」
「なんだよ、後背位がいいのか?」
「べつに」
シシリーは彼に押し倒され、ユースタスは彼女に覆いかぶさって。
ふたりの間に流れる空気が、ぴんと張り詰めた。
「…………脚を、ひらいてくれますか、シシリー」
「もうひらいてるけど」
「もっと」
「はい」
ぐっと脚をひらいて、ひらかされ、彼と彼女の秘処がまた触れる。
ぴと、と小さな音がして、シシリーはベッドの敷布をきつく摘まんだ。
「おまえが花街行きになってから、何度も夢想して、こうなる覚悟もしていたつもりだが。予想以上に、グダグダしたな、俺ら」
「そうね」
「……挿れるよ」
「どうぞ」
「本当に、ヤるからな」
「くどいわ、兄様」
「ん」
ユースタスはシシリーの秘処に手を触れて、ゆっくりと、寄り添うように先端を花心にくっける。
深く息を吐き、そして、
「シシリー、愛してる」
雄茎に手を添え、真っ直ぐ、一気に押し込んだ。
「……んぁっ」
乙女の膜が破れ、シーツに血が滴る。白の上に赤が散る。
元の体格差からして破瓜時の出血は覚悟していたが、いざ感じると想像よりもっと恐ろしい。生々しい。
痛みがというよりも、これは。
「痛くないか」
「っ、痛いに決まってるでしょ、馬鹿ぁ」
「ああ、痛くしてごめんな」
(違う、そうじゃないでしょう、私)
涙で潤んだ青紫の瞳で、シシリーは今宵の相手を見上げた。そっくりの青紫の瞳は、ひどく心配そうに彼女を見つめている。
男に、兄に組み敷かれているのに、こんな瞳をされるなんて知らない。こんなに優しくされるなんて知らない。逆に怖くなってくる。
初めてなのに、処女を喪ったのに。どうして。
「ユウ兄様、ユウ兄様……」
「なんだ、シシリー」
はらはらとこぼれる涙を、彼の大きな手がそっと拭う。下を動かさないようにと気を遣ったらしい慎重な手付きに、シシリーの胸はまたきゅんと軋んだ。
(だめ、駄目……)
つい、逃げようとして腰が浮く。
「おい、逃げるな」
「やあ!?」
しかしユースタスの手にがっちりと捕まえられ、さらに深く、思いっきり串刺しにされたように感じた。
「あぐっ、う」
「悪いな。だが、動くと擦れて痛いだろ」
「あぅ、うぅ……」
「せっかく挿入したのに、ここで抜いたら、今度また挿れる時に痛くなるだろうから……。馴染むまで、じっとしていよう。な?」
「やぁ、だ……!」
「……強く痛むのか? つらいのか? 無理?」
ユースタスが優しすぎる口調で聞いて、彼女の瞳をじっと見る。まるで感情を読もうとするように。
シシリーは耐えられなくなって、目を逸らした。顔を横に向け、瞼を閉じた。
「伝えてくれないと、わからない……。本気で抜いてほしいなら、そっと抜くから、そうだな、右手をあげてくれ」
「兄様は、歯医者さんですか……?」
「おや、軽口は叩けるのか」
シシリーは右手を微動だにさせず、ただ彼の手に抗うように小さく腰を揺らす。動かそうとし続ける。
「……と、じゃあ、挿入はしたままでいいんだな。じゃあ、なんだ? 破瓜の傷が酷い? それとも他にどこか苦しい? 奥が怖い?」
訊き方は優しくて、気遣いにあふれているけれど。どれも違う。シシリーはふるふると首を振る。
「なあ、シシリー。わかんない……。兄様に、ちゃんと教えて?」
「……ん」
まるで甘えるようにそう言われ、シシリーは目を開けた。また彼を見た。
左手をあげて彼の頬へと指先を伸ばすも、今の姿勢では触れられない。届かない。
「ユウ兄、様」
「ああ」
彼が動いてくれて、――届いた。触れられた。
また熱い涙が眦を伝い、シーツに落ちる。
「ちゅー、して。ちゅー」
「……ああ」
唯々諾々と、ユースタスはシシリーに口づけた。
優しく触れるだけのキスに始まり、彼女の顔色を窺いながら、だんだん深くしてくれる。
「――っ!」
「シシリー……?」
彼女の反応に、様子の変化に、この兄は気づいてしまっただろう。
恥ずかしくて仕方なかった。いたたまれなかった。
「おい、シシリー、本当に平気か?」
「……イっ、ちゃった……兄様のせいでぇ……っ、ふぅ、うぅ……」
「シシリー」
「初めて、なのに、痛いのに、それより、もっと気持ちいいの……。なんで……? 兄様、あうっ、きもちいいよぅ……なんでぇ?」
ぼろぼろと涙を流すシシリーに、情欲を煽られたとでも言うのか。いじわるなのか。彼女の中を満たすユースタスの雄槍が、むくむくと大きくなった。
シシリーは目を見開き、叫ぶ。
「あっ、またぁ……! まだ、挿入ってる、だけなのにぃ……い、く、イく、やぁ!」
「ん。大丈夫。イっていいよ」
「怖いのっ、やだ、兄様ぁあ――っ!」
「大丈夫、シシリー。大丈夫」
ユースタスは、やだやだと泣くシシリーを慰めるように頬に口づけ、鼻や額にも口づけた。
それから、ふと、何かの糸が切れたかのように呟く。
「シシリー、可愛い。駄目だ、可愛い……」
「違う、違うの。今まで、我慢してくれて、ありがとう……? って、なんか、泣けてきちゃった……。おかしいわねっ」
「おまえは、男を、性欲のままに女を貪って当たり前の獣とでも思っているようだが。そういうのもいるが。セックスなんてしなくても、俺は、これまでも楽しかったよ」
ユースタスの手が頬に降り、腹を抱き、くい、と振り向くように導かれる。シシリーはおとなしく従い、彼と目を合わせた。
キスをした。
「ん……」
「一緒に勉強したり、美味いものを飲み食いしたり、オトメゲームのことで奔走したり。おまえがすくすくと成長して、綺麗な大人の女になっていくのを見守るのが、本当に楽しくて誇らしかった」
「ふ、ぁ……あっ」
角度を変えて、また重ねる。
「俺の妹はこんなに可愛くて美しくて、兄様とあれこれを実験する変態だろうと何だろうと、憧れの〝お姫さま〟や未来のために頑張る自慢の妹で。ああ、でも、もしも見かけが違っても可愛いんだろうな。どうせ可愛いんだよ、それが〝おまえ〟なら。……重いな、俺」
「…………ん……重く、ない……平気……」
「随分と歯切れが悪いが?」
「違っ、あの、本当に、嫌じゃなくて、本当に、平気……なんだけど、んっ……ちょっと、ごめんなさい……」
「ん、どうした」
彼のモノと彼の腿とを自分の脚の間に挟んだまま、シシリーは体勢をずらし、彼を抱き返した。
彼女のしたいことを察して程よく力をゆるめてくれるユースタスの優しさに、上手さに、なんだか悔しくもなる。
(実の兄妹で致すなんて、この世界でも、普通じゃないのに)
彼と裸でくっつく今が、嫌じゃない。
「兄様、あのね、さっき、イきそ、うで……」
「……なるほど」
「でも、胸、止められちゃって、今、焦らされているみたいに、苦しくて」
「ああ、そうか。悪い」
甘えた声でもどかしさを伝えて見上げたシシリーに、ユースタスはわざとらしく思案顔を見せた。
告白の恥ずかしさや照れにも熱を上げられ、シシリーは今にも茹でダコになってしまいそうだ。
そういえばこの国ではタコを食べる文化はないわね、なんてこの場にそぐわない変なことを思いつつ、彼を待つ。
「……何かしてほしいことは?」
「……乳首、また、さわって……?」
熱で馬鹿になったのか、こんなことまで口走ってしまった。ここまで来たら、もう勢いだ。
「ね、おねがい、兄様」
「今の言い方、めっちゃ可愛い」
「っ、やぁん……!」
先端をぎゅっと摘ままれ、びりびりとした刺激が走る。再燃する。
「あぁんっ……兄様の手、すごい……きもちいい……きもちいの……」
「……っ、おまえ、こんなふうになるんだな……本当に可愛い……」
「うぅ、あぅ、いく、イくっ、イく……!」
「ん……っ」
びくびくと跳ねるシシリーの身体を、ユースタスは、何かから守るようにぎゅっと抱きしめた。
ずっと抱きしめられているのに、今はより強く彼に守られているとシシリーは感じた。
「あっ、あー……」
「大丈夫か、シシリー。つらくないか」
「ええ、平気よ……。だいじょうぶ」
「あとは、ここを指でほぐして、ちゃんと――」
「兄様、もう、シましょう」
「へぁ?」
ちょっと間抜けな声が聞こえて、シシリーの心はふわりと楽になる。緊張がゆるむ。
(ユウ兄様……私の兄様……)
自分から誘うのは恥ずかしいなんてためらいよりも、自分がすべきなのだという強い直感が勝った。
「もう、私の方が……、我慢、できないの。来て」
「…………いい、のか」
こくり、と頷く。「うん」と声を出し、彼を正面から見据える。
とても大きな、大変なことに挑むように。その決意を表すように。彼女の紫はギラリと煌めいた。
ユースタスは目を見張り、次いで何かに納得したように表情をふっとゆるめる。
「……おまえ、やっぱり俺の妹だな」
「何よ」
「その目付き、なかなか怖いぞ」
「む……って、どういうこと? うん?」
「俺もよく言われるので、きっと似ているんだろう。眼光鋭い兄妹ってことで」
「……ふーん」
「って、しれっと進めようとするな、おい、聞け」
ユースタスは焦った様子でシシリーの臀部を鷲掴むと、彼女の腰の動きを邪魔した。
「ちょっと、いきなりお尻もみもみしないで!」
「いきなり挿入しようとしたおまえに言われたくないが」
「この馬鹿力!」
「もういい、なんとでも言え」
「っ!」
まるで兄妹喧嘩のような流れで、ふたりの姿勢はくるりと変わる。
「…………兄様は、正常位派なの?」
「初めてなら、これだろ」
「ふーん……」
「なんだよ、後背位がいいのか?」
「べつに」
シシリーは彼に押し倒され、ユースタスは彼女に覆いかぶさって。
ふたりの間に流れる空気が、ぴんと張り詰めた。
「…………脚を、ひらいてくれますか、シシリー」
「もうひらいてるけど」
「もっと」
「はい」
ぐっと脚をひらいて、ひらかされ、彼と彼女の秘処がまた触れる。
ぴと、と小さな音がして、シシリーはベッドの敷布をきつく摘まんだ。
「おまえが花街行きになってから、何度も夢想して、こうなる覚悟もしていたつもりだが。予想以上に、グダグダしたな、俺ら」
「そうね」
「……挿れるよ」
「どうぞ」
「本当に、ヤるからな」
「くどいわ、兄様」
「ん」
ユースタスはシシリーの秘処に手を触れて、ゆっくりと、寄り添うように先端を花心にくっける。
深く息を吐き、そして、
「シシリー、愛してる」
雄茎に手を添え、真っ直ぐ、一気に押し込んだ。
「……んぁっ」
乙女の膜が破れ、シーツに血が滴る。白の上に赤が散る。
元の体格差からして破瓜時の出血は覚悟していたが、いざ感じると想像よりもっと恐ろしい。生々しい。
痛みがというよりも、これは。
「痛くないか」
「っ、痛いに決まってるでしょ、馬鹿ぁ」
「ああ、痛くしてごめんな」
(違う、そうじゃないでしょう、私)
涙で潤んだ青紫の瞳で、シシリーは今宵の相手を見上げた。そっくりの青紫の瞳は、ひどく心配そうに彼女を見つめている。
男に、兄に組み敷かれているのに、こんな瞳をされるなんて知らない。こんなに優しくされるなんて知らない。逆に怖くなってくる。
初めてなのに、処女を喪ったのに。どうして。
「ユウ兄様、ユウ兄様……」
「なんだ、シシリー」
はらはらとこぼれる涙を、彼の大きな手がそっと拭う。下を動かさないようにと気を遣ったらしい慎重な手付きに、シシリーの胸はまたきゅんと軋んだ。
(だめ、駄目……)
つい、逃げようとして腰が浮く。
「おい、逃げるな」
「やあ!?」
しかしユースタスの手にがっちりと捕まえられ、さらに深く、思いっきり串刺しにされたように感じた。
「あぐっ、う」
「悪いな。だが、動くと擦れて痛いだろ」
「あぅ、うぅ……」
「せっかく挿入したのに、ここで抜いたら、今度また挿れる時に痛くなるだろうから……。馴染むまで、じっとしていよう。な?」
「やぁ、だ……!」
「……強く痛むのか? つらいのか? 無理?」
ユースタスが優しすぎる口調で聞いて、彼女の瞳をじっと見る。まるで感情を読もうとするように。
シシリーは耐えられなくなって、目を逸らした。顔を横に向け、瞼を閉じた。
「伝えてくれないと、わからない……。本気で抜いてほしいなら、そっと抜くから、そうだな、右手をあげてくれ」
「兄様は、歯医者さんですか……?」
「おや、軽口は叩けるのか」
シシリーは右手を微動だにさせず、ただ彼の手に抗うように小さく腰を揺らす。動かそうとし続ける。
「……と、じゃあ、挿入はしたままでいいんだな。じゃあ、なんだ? 破瓜の傷が酷い? それとも他にどこか苦しい? 奥が怖い?」
訊き方は優しくて、気遣いにあふれているけれど。どれも違う。シシリーはふるふると首を振る。
「なあ、シシリー。わかんない……。兄様に、ちゃんと教えて?」
「……ん」
まるで甘えるようにそう言われ、シシリーは目を開けた。また彼を見た。
左手をあげて彼の頬へと指先を伸ばすも、今の姿勢では触れられない。届かない。
「ユウ兄、様」
「ああ」
彼が動いてくれて、――届いた。触れられた。
また熱い涙が眦を伝い、シーツに落ちる。
「ちゅー、して。ちゅー」
「……ああ」
唯々諾々と、ユースタスはシシリーに口づけた。
優しく触れるだけのキスに始まり、彼女の顔色を窺いながら、だんだん深くしてくれる。
「――っ!」
「シシリー……?」
彼女の反応に、様子の変化に、この兄は気づいてしまっただろう。
恥ずかしくて仕方なかった。いたたまれなかった。
「おい、シシリー、本当に平気か?」
「……イっ、ちゃった……兄様のせいでぇ……っ、ふぅ、うぅ……」
「シシリー」
「初めて、なのに、痛いのに、それより、もっと気持ちいいの……。なんで……? 兄様、あうっ、きもちいいよぅ……なんでぇ?」
ぼろぼろと涙を流すシシリーに、情欲を煽られたとでも言うのか。いじわるなのか。彼女の中を満たすユースタスの雄槍が、むくむくと大きくなった。
シシリーは目を見開き、叫ぶ。
「あっ、またぁ……! まだ、挿入ってる、だけなのにぃ……い、く、イく、やぁ!」
「ん。大丈夫。イっていいよ」
「怖いのっ、やだ、兄様ぁあ――っ!」
「大丈夫、シシリー。大丈夫」
ユースタスは、やだやだと泣くシシリーを慰めるように頬に口づけ、鼻や額にも口づけた。
それから、ふと、何かの糸が切れたかのように呟く。
「シシリー、可愛い。駄目だ、可愛い……」
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