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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉王都編
【48】悪役王子とヒロインの結婚 −式と夜− ★
しおりを挟む――扉が開き、美しい花嫁が現れる。
ヴェールの向こうには髪の薄紅色が透け、華奢な身体はふんわりと純白に包まれていた。スカートはたっぷりのシルクとレースで丸く膨らみ、彼女に豊かな威厳と可愛らしさを同時に纏わせている。
父であるテリフィルア侯爵にエスコートされ、アリシアは花嫁の道を歩いた。
親愛なる母や兄、可愛い妹たちも、この晴れ舞台を見守ってくれている。顔を隠したヴェールの中で、アリシアはゆるく微笑んだ。
シシリーやユースタスは、ここにはいない。
けれど、ふたり一緒に、遠くからでも祝福の想いを送ってくれると言っていた。
ユースタスは休暇をとって、花街で暮らすシシリーに、今日も会いにいっているのだ。
(どうか、おふたりにも幸せになってほしい――)
願うアリシアのヴェールが、ふわりと揺れる。
離れゆく父の温もりと涙の気配を感じた。
(いよいよね)
胸がじんと熱くなり、アリシアは小さく息を吸う。
彼女は、無事に、新郎の隣へと送り届けられた。
(ああ、殿下……――フィリップ様)
ヴェール越しに見ても彼は素敵で、かっこよく、アリシアは心臓をドキドキさせる。ときめいてしまう。
ステンドグラスの光が、色鮮やかに新郎新婦を照らす。白いドレスや礼服に、花びらのような光が落ちている。彼の銀糸の髪も、きらきらと輝く。
儀式が進み、言葉を交わし、名を綴り。
ついにフィリップは、アリシアのヴェールをはらりとあげた。
誓いのキスの時だった。
「――アリシア」
小声で呼んで、アリシアの頬に手を添える。
「……はい。殿下」
目を瞑ったアリシアの唇に、ふ、とやわらかな熱が触れた。
幼き頃に、初めて交わしたキスのような。
甘くて、優しい、幸せな口づけだった。
アリシアとフィリップの婚儀は、未来の王と王妃の式らしく、盛大に執り行われた。
婚礼衣装姿のアリシアを、フィリップはいっぱい褒めて可愛がってくれた。
「世界でいちばん綺麗だ。アリシア。最高に可愛い。素敵だ。可愛い。可愛い……」
「あ、ありがとうございます。貴方様も素敵です、殿下」
「殿下じゃない、フィリップだ。もう名前で呼んでも誰にも咎められない。ほら、呼んで?」
「フィリップ様――」
「ああ、可愛い。可愛いね。大好き」
ちゅっ、ちゅと額や頬にも口づけられて。神殿での式も、お披露目の宴も、城下でのパレードも無事に終わって。王宮での支度を済ませたら。
(今度は、ついに、初夜の儀式を――……)
***
女官たちやヘレンにお支度をされた身体で、夜の白い衣装に包まれたアリシアは、夫婦の寝室にて彼を待つ。
ドキドキと胸を高鳴らせていると、扉が開き、大好きなひとが顔を出した。
「アリシア、お待たせ」
フィリップはゆるく微笑んで言う。アリシアよりも、いくらか余裕のありそうな様子だった。
「あっ、こんばんは……ふぃ、フィリップ様」
ふたりは寄り添い、抱きしめあい、キスを交わす。
頬を撫でられ、髪を掬われ、アリシアの緊張もいくらか和らいだ。
「では、始めようか」
「はい――」
青楼での水揚げの儀式の時のように、夫婦の初夜の儀式でも、男女は薬酒を飲ませあうことになっている。
色欲を煽る香の焚かれた寝室で、あの日のように。アリシアとフィリップは互いに酒を口移しした。
ふたりの唇を舞台に水音が鳴り、花嫁の嬌声が小さく漏れる。
「ん……んんっ、ん」
「可愛いよ、アリシア」
「ふぅ……んっ」
最後のひとくちを交わし終えると、フィリップは、アリシアにふつうのキスをする。彼女の左耳をくすぐって、可愛い可愛いと幸せそうに囁いて、彼女の花を濡らしてしまう。
「ふゃ、にゃ……ぁ」
「お耳、気持ちいい?」
「ぅん……」
「ふふ、可愛い……大好き。ベッドまで抱っこしたげるね……」
フィリップの逞しい腕にお姫様抱っこをされ、嬉しくなったアリシアは、彼の首に腕を絡める。「好きです」とあふれた想いを呟くと、額に彼からのキスが降ってきて、さらにふわふわと嬉しくなった。
香のせいか、酒のせいか、――いや、きっと。大好きなひとと結ばれる純粋な歓喜なのだろう。これは。
花婿は花嫁をベッドへと優しく降ろし、白の衣を手ずから剥いた。真珠の肌を露わにした妃に、王子は幸せそうに触れていく。
――あの幸福感も、恥辱感も、何もかも。
もう二度と感じることはないと思っていた――
薄紅の髪をシーツの上で遊ばせ、甘い責めに身を跳ねさせ、彼女は思う。青楼で過ごした一週間と、王都に帰ってきてから今日までのことを。
娼妓として生き、身に余るほどの快楽を知り、淫らになって。もう王妃の道を外れたと諦めた。
色欲に侵された心をなくし、未来の王妃として育てられた体だけ、みんなの求めるアリシア・テリフィルアだけが居ればいいと決めつけた。
理想像だけを残して去れば、愛するひとも幸せになれると捻くれて。
そうして、一時はここから逃げてしまった……けれど。
「にゃう……んにゃ、や」
「綺麗だよ、アリシア」
「んぅ……ふぁ、フィリップ、さまも、お綺麗……」
「ん。ありがとう」
ちゅっと啄むキスをくれたフィリップに微笑みを返し、アリシアは彼の引き締まった肉体へと手を触れる。魔法にも剣術にも長けた彼の筋肉は、彫刻のように美しい。
やわやわと両胸をほぐすように揉まれながら、彼女は、大好きなひとの鍛えられた裸体に見惚れた。しばらくぺたぺた楽しく触っていると、彼は「余裕そうだね?」と意地悪げに笑う。
「……フィリップ様のお体に、触れていると。愛おしくて、幸せです。ずっと触ってたい……」
「きみというひとは、まったく可愛いことを言う」
「きゃうんっ」
と。胸の先端を不意打ちで摘ままれ、つい、アリシアは子犬のような声を上げてしまった。「にゃんにゃんじゃないの?」と彼はまた愛しい意地悪を言って、アリシアの胸をさらに責める。手の指で乳嘴を捏ねつつ、唇で、胸のやわらかなところやお腹にキスマークをつけていく。紅い花が咲く。
「ふぁん、ゃん、にゃあ……」
「可愛くにゃんにゃんできて偉いね、いい子」
「んにゃあ――っあ!」
ふるりと腰が震え、胸から背、足先へと痺れが走る。軽く果ててしまう。じゅわりとあふれた蜜が内腿を濡らした。
「あぁ……ゃあっ」
「アリシア、好きだよ」
「ん……」
唇を食むキスと一緒に、彼の手は下腹部へと伸びていく。子宮の上をゆるりと撫で、もうすこし先の恥丘へと指を滑らせる。
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