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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉王都編

【45】ヒロインと悪役王子の告白 −5− ★

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「僕を捨てるな、アリシア」
「殿下には、向こうのアリシアがいるでしょう。どうしても欲しいなら、保存した記憶で補えばいいでしょう」
「それだけじゃ足りない。きみの全部が欲しい」
「貴方様は、いつも、私をおかしくさせる……。私に知らないことを教えて、もっと好きにさせて、求めさせて、私を欲張りにさせる」
「悪役だって、強欲なんだよ。もう我慢できないんだよ。僕は悪役王子になって、やり直しを知って。きみと生きる道を、きみの体を殺めてまで一緒になる道を」
「そのことは、もうっ、わかりましたから! おやめください。どうか、もう繰り返さないでください……私を殺したと言うのも、やめて」
「アリシア」
「っ、そのまま、ずっと。記憶を奪ったなら、そのまま、貫いてほしかったぁ……っ」
「……ああ」

 涙して告げる彼女の言葉は、尤もで。フィリップの言動は、結果的に、アリシアを振り回すばかりの身勝手なものだった。
 何でも聞くと彼女が言ったのであっても、何をどう伝えても大丈夫というわけじゃない。
 けれど。

(勝手に、して。勝手に、奪って。そのくせ、いまさら明かす。酷い男だ。屑野郎だ。でも、だって。僕は――これしか、知らないんだ。悪役王子は)

 フィリップは、伝えなければならなかった。悪役王子としても、ただの王太子としても、アリシアの婚約者としても。
 たとえやり方が間違っていても、もう、隠してはおけない。間違えたやり方で逃げた彼女に、間違えてでも、すべてをぶつけて向かい合わなくてはと。
 いつからだろう、彼にこそ、悪役らしさが染み付いていた。

(堕ちてほしかったのも、堕ちる他なかったのも、本当だ。僕の望みと最適解は、重なっていたはずなんだ。これでいいんだ)

「きみは……アリシアは。誰が、きみに、毒を盛ったのか。最初にきみを殺そうとしたのは誰なのか、知っている?」
「へっ?」

 いきなり予想外の問いを投げかけられ、驚いた、というような。彼女は毒気の抜けた顔をした。フィリップの思考と話の流れについていけず、よくわからないようだった。

「お、王弟殿下でしょう? 私と殿下を消そうとしたのは、いつも彼でしたから」
「違うよ、アリシア。多くの事件はそうだけど、始まりは、彼じゃない。――僕の父だ。国王陛下だ」
「……なんで?」

 それは、ひとりぼっちで道に迷った幼子のような声で。

「ごめんな、アリシア」

 彼女を追い詰める言葉を、フィリップは、自覚しながら吐いていく。

「きみがオトメゲームの〝ヒロイン〟だと解釈できる、秘密の神託があったらしい。僕を守るために、ゲームを始まる前に終わらせるために、父上はきみを消そうとした。だが、失敗した。
 僕が魔王と契約して、その力をもって、きみを目覚めさせてしまったせいだ。
 幼い頃に成した、人ならざるモノとの契約。きみにも覚えがないかな? きみも、僕に明かすべきことがないかな?」
「なに、を」
「なぜ、きみは、王弟に恐れられていた? なぜ、あいつは、最後にきみを〝魔女〟や〝化け物〟と言った?」
「……それ、は」
「僕を殺そうとした王弟を、かつて、十歳のきみが魔術で止めたからだろう」

 フィリップがアリシアを救うために魔王と契約したように、アリシアもまた、フィリップのために悪魔と契約を交わしていたのだ。

「きみは僕が魔王と契約したのと同じ歳に、あの悪魔を召喚して契約を交わした。きみはそれから黒魔術を身につけ、僕を魅了する魔術も使った。ああ、惚れ薬もだったっけ?」
「……ご存知、だったのですか」
「きみが心を切り離してから、調べ、知ったんだ」

 アリシアの抵抗が、止まる。その手から力が抜けていく。もう、堕ちる。堕ちてくる。

「とっくのとうに駄目なんだ。アリシア。おかしいんだ。壊れているんだ。僕らは。昔から、こうなんだよ。どっちも〝化け物〟なんだよ。
 僕は、人ならざる力を抱えた〝未来の魔王〟で。きみは、魔王の右腕なる悪魔を従えた〝黒魔術の女王〟だ。どうしようもなくお似合いで、どこまでも堕ちる素質をもったふたりなんだよ」

 黙り込んだアリシアを、そっと、小さな力で揺らがせて。フィリップは、彼女の左の耳元で囁いた。

「――隣にいてくれ、アリシア」

 心の彼女も、体の彼女も、何も言わない。魔界は一時、呼吸の音だけに満たされる。張り詰める。
 その静寂を破ったのは、フィリップの顔をしたもうひとり。悪魔であった。

『契約王子。時間が迫ってきたが、大丈夫か』
「……黙れ」

 回り道をしたフィリップに、残り時間は少ない。落ち得る砂は、もう半分を切っている。

『そなただけが、彼女を助けられるわけではない――きっと魔王様の方が、彼女を幸せにしてくださる。もういいではないか。どうせ、そなたは次期魔王だ。こちらにとっても王太子。パパに寝取られるようなものだろう? 古今東西よくある話だ』
「黙れ、黙れッ」
「殿下……」

 体のアリシアが、どこか心配そうな声でフィリップを呼ぶ。そういう心まで、もう育ったのかもしれない。心の大部分を失っても、彼女は。

(僕が、もう、諦めるべきなのか? 最初から、望むべきではない恋だったのか? いや、自問するまでもない。最初から、そう――)

 最後の最後まで、この手段に頼るのか、と。半ば失望する気持ちを抱えて、けれど隠して。
 フィリップは、攻略対象の誰からしい男を演じた。
 アリシアにも悪魔にも気づかれぬよう、諦めたふりをして。

「なあ、アリシア。本当に、きみの心が変わらないのなら。契約の不成立を起こせないなら。もうわかったから、最後に、お願いだ。……もう一度だけ、きみと愛しあわせて」
「…………女の穴には、入ってこないで。青楼でしたことまでしか、許しません」
「ああ」

 もうひとりの体のアリシアに目配せをし、下穿きの前をくつろげ、フィリップはアリシアの心を抱き上げる。ぐちゅぐちゅにとろけた秘処を何度か擦り、雄茎に蜜を纏わせる。

「ふぅ……んっ」
「愛してるよ、アリシア」
「んっ、はぁん……っ。あぁ」

 ぬるついた先端を後ろの穴に触れさせ、みりみりと割り拓き、進んだ。

「ぁあっ!」

(……挿入った)

 彼女のなめらかな臀部を撫で、フィリップは呟く。

「アリシア。今日も可愛いよ」

 青楼で致した特殊な行為の数々も、これも、オトメゲームの場面を演じなければ、経験しなかったであろうものだった。

(歪んでいるよな。抑えられない欲を、こんなふうに、って。シながらでないと、心を通わせられる気がしないなんて)

 花芽を指で扱きながら、フィリップはアリシアの後ろを穿つ。彼女のそこは、もうフィリップの雄茎を根元まで咥え込めてしまう。まだ子づくりに至る行為は未経験なのに。
 この世界は、彼と彼女は、歪んでいた。

(そうだ、あれも、言わなければ……)

「なあ、アリシア。僕が、きみを、最後まで抱かなかった理由なんだけど」

 どちゅ、どちゅっという音とアリシアの喘ぎ声とが、フィリップの声に重なる。

「魔王との、契約で。エンディングの、結婚の前に、孕ませてしまったら。その子を、魔王に捧げる、ことになっていて。赤ちゃんができても、奪われてしまうから、できなかった……」
「はぁ、あっ、にゃぁぁ……な、んで。いつも、何も、教えて、くださらず……っあぁぁ、にゃあ――っ!」

 喘ぎ声の中に悔しげな言葉を漏らし、あっさりと果ててしまうアリシア。フィリップは、やっぱり今も、その姿をひどく可愛いらしいと感じた。拗れた愛だ。

「ごめん。隠し事ばかりで、ごめん。……きみの身も心も、守りたかったんだ。でも、僕が間違えた。もっと話しあうべきだったな」
「ん……ゃんっ。ずっ、と……寂しかった、の。ほんとうに、寂しかった……ぁあ」
「寂しくさせて、ごめん。好きだよ。アリシア。誰よりも愛おしい。もう同じ過ちはしない。寂しくさせないから、いっぱい話すから、一生、僕の隣にいて?」
「私も、大好きでした、けど……あっ。もう、わからないの……わからないぃ……やあぁっ、イ、く、イく、ああっ」
「ん。いいよ」
「ひゃああぁぁぁ――っ!」

 フィリップに左の耳を食まれ、淫芽を強く摘ままれ、アリシアはまた果てる。彼は砂時計を見やり、彼女のドレスの背中に手を触れた。

「きみのすべてを見たい、アリシア」
「……御心の、ままに」

 そうして彼は、彼女のドレスを脱がしていく。いかにも〝最後〟らしく、しんみりと。
 アリシアは浅い息をして、切なげに、フィリップに愛の言葉をくれた。
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