上 下
29 / 71
〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編

【29】七日目――悪役王子様と、全部 −1− ★

しおりを挟む
 月下の一角獣ユニコーンのように美しい、銀色の髪。晴れた空の色の瞳。陽の光のような優しい眼差し。とろけるような甘い笑顔。「アリシア」と呼ぶ、声。
 今宵の彼女のお客様は――

「……――フィリップ様」
「ああ。アリシア」

 彼女の最愛のひと。幼き頃よりの婚約者。このミラフーユ王国の王太子――フィリップだった。前のようなお忍びルックではなく、今夜は王子らしさを隠さぬ豪華な姿で、彼は青楼ファリィサを訪れた。

(ああ、そうなのね。貴方様は、この国の未来の王であるだけでなく、きっと)

 彼が纏っている衣装は、見慣れた形と見慣れない色をしていた。祝祭の日の王子の礼服のように華やかな装飾をなされていながら、その色はしっとりと暗い。それは喪に服すときのような色合いでありながら、質感はそれよりもっと艶めいていて美しい。
 他に見覚えのあるもので例えるならば、彼は、王子様らしくも魔王様らしくもある衣装を纏っていた。
 アリシアの薄紅の髪を指に絡ませながら、彼は彼の声で彼女に囁く。

「今夜の役は、僕――〝悪役王子フィリップ〟だ。騎士、魔法士、富豪、魔王とは違って、ヒロインの婚約者であっても攻略対象ではない男」
「悪、役」
「異世界のオトメゲームの中では、たったひとつのエンディングでしか生き残れない、悲しい悪役。婚約者への想いを拗らせ、彼女への重すぎる愛に心を病み、他の男の影をちらつかせた彼女を時に。――ねえ、アリシア。僕はね」

 彼女の髪から細首へと指を滑らせた彼は、震えた手付きで、アリシアの喉元に触れた。怯えているようだった。

「きみを殺さないように、すっごく頑張ったんだよ……」
「っ、フィリップ、さま」

 首を絞めてもいない、絞められてもいない、それなのに苦しそうな息をする彼を見て。堪らずアリシアは彼に触れ返す。彼を抱き返す。
 アリシア・テリフィルアの胸に響く鼓動を、肌のやわらかさと熱を、彼女の無事を、生を、フィリップに感じてほしかった。
 彼はアリシアの首元に顔を寄せ、すんと小さく息を吸う。彼女の匂いを嗅いで言う。

「いっぱい頑張った僕に、ご褒美ちょうだい?」
「ええ、もちろんです。フィリップ様……貴方様は、殿下は、何をお望みですか」
「きみのすべてを。きみとすべてを」
「…………御心のままに」

 熱と切なさのこもったフィリップの声に、アリシアの何かの箍が外れた。すべてを彼に捧げたいと心の底から願った。今ここで処女をも差し出せと、心の中の悪魔が囁く。

(ああ、この夜を越えたなら、もう堕ちてしまっても構わないわ。だって、彼も――)

 ――ふたりの夜が始まった。

 ベッドの上でキスを交わしながら、フィリップはアリシアのナイトドレスを器用に脱がしていく。

 彼を最初に迎えた晩のように、シュルリ、シュルリと衣を剥がれ、一糸まとわぬ姿にさせられ。

「ん……っ」

 フィリップの温かな手は、アリシアの双丘をふにふにと揉みはじめた。

「今日も可愛いよ」
 と彼は彼女の膨らみに口づけ、ちゅうっと肌を吸う。いくつものキスの痕を咲かせていく。

「にゃっ、にゃ」
「本当に可愛い……」
「はぅん」

 右の先端を咥えられ、アリシアの身体はぴくんと跳ねた。ねっとりと熱い舌で舐められ、歯の先で小さく噛まれ、また色めいた声を上げてしまう。

「あぁっ、ああ、あぁん」
「ちょっと焦らしてみようか。こっちも舐めてあげるね」
「にゃぅんっ、んにゃ、はぁあん」

 さらに弱い左の乳嘴を食まれて、彼女の蜜壺はきゅんきゅんと動きはじめた。もうこんなに感じて、とアリシアは自分の身体の変化にまた驚く。
 しかし彼はそこで彼女を果てさせてくれることはなく、寸前で胸への愛撫をやめてしまった。

「にゃ……?」
「今日は僕色に染まってね」

 アリシアから離れたかと思うと、フィリップは空中で手のひらをサッと動かし、何かをする。

「きゃ!?」

 その一瞬で――彼女の胸の先には、富豪様との夜のように宝石の花が装着されていた。魔法士様の魔法のようにベッドから生えた植物は、彼女の耳と手首に絡まっていた。そのすべての花は空色を、フィリップの瞳の色をしている。

「あ、あぁ……」
「こうして花に囲まれていると、小さい頃のことを思い出さない? 初めて出会った日に、僕が花の腕輪を贈ったこと。きみも覚えてる?」
「ひゃ、はい。覚えて……おります」
「ん。嬉しい。大好き」
「にゃあぁっん……!」

 宝石の花が魔力で震えはじめ、アリシアの胸をぷるぷると繊細な力で刺激する。その石を固定する鎖は銀色で、フィリップの髪を思わせた。
 花をつけた魔法植物は、まるで耳飾りのように彼女にくっついている。多肉植物のような葉は耳朶を舐めるように責め、蔓は耳の中をくすぐった。
 また、幼き頃に贈られた花の輪のように愛らしい見た目をした植物の葉は、彼女の手首を触れないか触れないかのあの絶妙な加減で撫でていた。

「はぁ、あぁ、やあぁん」

 気持ちよさに喘ぐアリシアをころんと押し倒し、フィリップは彼女の脚を大きく開かせる。「アリシアのおまんこは可愛いね」と騎士様のような言葉を吐いたかと思えば、あの夜のように彼女の秘処をぺろりと舐めた。

「ひゃあっ」

 焦らすように、花びらを一枚ずつ愛でるように陰唇を食み、まだ今夜は吹かされていない潮の穴をこちょこちょと舌先で弄る。

「らめぇ、しょこ、されたらっ、漏らしちゃうぅ」
「ふふ、してもいいんだよ? 全部やわらかくて、舐めているだけで気持ちいい……。よければ、あとで飲ませてね」
「飲ま……??」
「ああ、そうだ、可愛いおまんこへのご褒美にリングをあげよう」
「ふゃ……っ!」

 アリシアの目にも見えるように腰を上げさせ、まる見えにさせ、彼はその花芽をくりくりと舌で転がす。幼馴染のユースタスの顔をして舐められた時も恥ずかしかったが、今はもっと恥ずかしかった。あの時よりも敏感な身体になった自覚があるからかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました

Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。 そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて―― イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)

子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。 ※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。 ※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。  伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。  すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。  我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。 ※R18に※

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません

冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件 異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。 ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。 「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」 でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。 それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか! ―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】 そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。 ●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。 ●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。 ●11/12番外編もすべて完結しました! ●ノーチェブックス様より書籍化します!

【完結】R-18乙女ゲームの主人公に転生しましたが、のし上がるつもりはありません。

柊木ほしな
恋愛
『Maid・Rise・Love』  略して『MRL』  それは、ヒロインであるメイドが自身の体を武器にのし上がっていく、サクセスストーリー……ではなく、18禁乙女ゲームである。  かつて大好きだった『MRL』の世界へ転生してしまった愛梨。  薄々勘づいていたけれど、あのゲームの展開は真っ平ごめんなんですが!  普通のメイドとして働いてきたのに、何故かゲーム通りに王子の専属メイドに抜擢される始末。  このままじゃ、ゲーム通りのみだらな生活が始まってしまう……?  この先はまさか、成り上がる未来……? 「ちょっと待って!私は成り上がるつもりないから!」  ゲーム通り、専属メイド就任早々に王子に手を出されかけたルーナ。  処女喪失の危機を救ってくれたのは、前世で一番好きだった王子の侍従長、マクシミリアンだった。 「え、何この展開。まったくゲームと違ってきているんですけど!?」  果たして愛梨……もとい今はルーナの彼女に、平凡なメイド生活は訪れるのか……。  転生メイド×真面目な侍従長のラブコメディ。 ※性行為がある話にはサブタイトルに*を付けております。未遂は予告無く入ります。 ※基本は純愛です。 ※この作品はムーンライトノベルズ様にも掲載しております。 ※以前投稿していたものに、大幅加筆修正しております。

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

処理中です...