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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編
【23】五日目――富豪様と、宝石で −2− ★
しおりを挟む「では――わたくしの玩具で、一緒に遊びましょうか。イリス」
「ええ、喜んで」
彼に手をとられ、性具をつけた淫芽にトクトクと甘い刺激をおぼえつつ歩き、彼女はベッドに腰をおろす。彼は布の包みをシーツの上で開き、芸術品のコレクションのようにきっちりと並べた玩具を見せた。
「とても……綺麗ですね」
アリシアは思わず呟き、それらを眺める。聞いていたとおりに金や銀、宝石でできた玩具たちは、貴婦人を彩る装飾品のようだった。
「そうですね。花街でも有名な、あの貴婦人――シエラ様がデザインした性具の商売にも、わたくしは関わっておりまして。これらは彼女の協力を得て、貴女のために準備したものなのです」
「そう、なんですか。はい……」
ここでもシシリーのことを会話に持ち出され、アリシアの胸はモヤッとする。
しかし、今は仕事中だ。中身は婚約者フィリップだと言えども、今の関係は、買われる娼妓と買う客なのだ。と。
彼女は自分を無理やり納得させ、余計な不満を漏らしてしまわないように努めた。にこりと笑って空元気で訊いた。
「エスト様っ、このお花の形の宝石は、どのように遊ぶのですか? 中に入れたり?」
「いえ、そちらは、胸を外から刺激するものですね。お付けしても?」
「……お願いします!」
花の形にカットされた真紅の宝石をふたつ。金色の石座のような金具、小さな球が連なった鎖、そしてピンク色のリボンも二対ずつ。それらを表に出すと、彼は「失礼します」とアリシアの両胸に触れ、やわやわと揉み、やがて右の先端にキスをした。
「はぅん……っ」
「ここも、濡らして、勃たせてから、付けることになっていますので……」
「はい……ひゃあんっ、にゃあ……――あっ」
舐められ、甘噛みされ、吸いつかれたそこに、ぴたりと硬質なものが触れる。宝石の花だった。「固定しますね」と彼は金具を嵌めて、鎖を彼女の肩や腰から背に掛けて、背後でキュッとリボンを結ぶ。
「お似合いですよ、イリス。では、左右対称にしてあげましょう」
「にゃあ……っ、やあん、やあ……にゃああっん――!」
耳も、胸も、脚も。アリシアの身体は、みんな左のほうが弱い。右をされた時よりも艶やかに喘ぎ、乳嘴を食まれて果ててしまってから――左胸にも、赤く輝く宝石が咲かせられた。
「あぁ、美しい……! はやく準備を終えて、震わせてみたいものですね」
(震わせる……?)
どういうことかしらと首を傾げるアリシアをよそに、彼はてきぱきと笑顔で支度を進めていく。
次に取り出されたのは、まるで姫君の冠のような、砂漠の国の女王の首飾りのような、大粒の青い宝石がいくつも付いた豪華な装飾品――のように見える、大人の玩具だった。
それはアリシアの下腹部から腰回りを覆うように取り付けられ、また数本の鎖やリボンで固定されていく。
「ふぅ……ぅん……っ」
「痛みはありませんか? イリス」
「大丈夫……です」
「次は……次の玩具は。ちょっと……」
彼は困ったように眉を下げながら、緑色の宝石を、奇妙な形の性具を持ち上げる。
「これまでより、さらに、異常性癖っぽいのですが……――っ、アリシア」
「きゃ!?」
彼は彼女の首元にいきなり抱きつき、今にも泣きそうな、フィリップの声で名を呼んだ。アリシアはびっくりしながらも、慌てて彼を抱き返す。むにゅりと彼に触れた胸には性具の宝石や鎖が食い込んで、ドキドキと鳴る心臓をさらにうるさくさせた。
「フィリップ様……? いっ、いかがなさいました?」
「ごめん。取り乱して、情けなくて……ごめん。これを……こんなことをしたら、きみを壊してしまわないかと、怖くて……っ」
「そんなにも、えーっと……変なものを? あっ、もしかして、ピアスのように……体に、穴でもあけるのでしょうか……?」
「穴は、あけないけど……――」
涙声のまま、フィリップはごにょごにょと耳元で囁く。アリシアは顔をほんのりと青くしたり赤くしたりしながら、その玩具の装着方法を聞いた。彼に渡された実物も見てみて、ぴきりと頬を引きつらせる。
「な、なるほど……」
その性具は、一輪の薔薇を模した宝石だった。蕾の時に摘み取られ、棘や葉を削がれ、そのまま水をもらえずに萎れてしまったような――ぐったりと頭を垂らして曲がった薔薇。
蕾の中央から茎の切り口までは管のように貫通していて、さらに蕾の中には何か小さなものを収められるように凹んでいる。一方、茎には小さな凹凸さえなく、つるりとしていて細い。薔薇全体の長さは、およそアリシアの人差し指ほどだ。
この小さな玩具に、フィリップが涙ぐむほど怯えているのは――茎を挿入する箇所が、いかにも異常性癖らしいからで。あけすけに言うなら尿道だからで。
(異世界でこの物語のシナリオを、オトメゲームを作った誰かさんは――神と転生者のみが知る〝もうひとつの世界〟が本当に存在していて、元の〝オトメゲーム〟は異世界の人間による創作物であるという話も、本当だったなら――きっと変態さんだわ)
どこか遠い世界にいるかもしれない誰かへため息をつきたくなるような気持ちを抱きつつ、アリシアは、試しにと性具を秘処に当ててみた。途端にフィリップは「だめぇ!」と叫び、アリシアを止め、ついにぽろぽろと泣き出してしまう。
「まだ、入れていませんよ?」
すっかりと演技の仮面が剥がれてしまったらしい彼に得も言われぬ愛おしさを感じ、その黒髪を撫でながら、アリシアは努めて優しい声で囁いた。フィリップは変身魔法のかかった黒い瞳から涙を流して、アリシアに甘えるように言う。
「僕は……っ、きみと結婚して、幸せな家庭と、より良い国を作りたいだけなのに……。もっと可愛い可愛いってしたいのに。子づくりえっちも、したいのに、まだできなくて……。生殺しで。なんで、そのうえ、きみにこんな酷いことをしないといけないんだ……っ」
「……念のため、お聞きしますが。回避はできないのですか?」
「宝石で大事なところが隠れるから、この場面は謎の白煙もなくて、まる見えの体勢なのだと。誤魔化しようがない……!」
「なるほど……です」アリシアは頷く。
「入るようには、なっているのですよね? その、太さや長さとしては」
「これは、きみの体型に合うよう計算して作られているけど……シシリーに試作品を突っ込まれたユースタスは、慣れるまで痛かったと……。男のものでも痛いのに、もっと小さくてやわらかい女の子のそこに入れるなんて、非道じゃないか……。無理。やりたくない……でも僕がやらなければ他の男にやられてしまう……。しんどい。世界は酷い……」
「では――私が手をお貸ししますので、一緒にしましょう……か?」
「えっ?」
きょとんと顔を上げた彼から、キラリと涙の粒が散る。アリシアの脳裏を、幼き頃の彼の顔が鮮明によぎった。
今の容貌は別人なのに、頭に浮かんだのは、しっかりとフィリップの顔だった。幼い彼はめそめそと泣いていた。
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