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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編
【17】四日目――魔法士様と、魔法で −1− ★
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ぱちり。とアリシアは目を開いた。見えたのは幻想的な光景だ。
そろそろ見慣れたつもりでいた青楼の閨の天井に、今宵はどうしてか、綿菓子のような白雲が浮いている。ぴちょん、ぴちょん、と。お天気雨みたいに、その雲は彼女の身体をときどき濡らした。
アリシアの肌のすぐ上には、まるで祭りの灯籠飛ばしみたいに、輝く何かが飛んでいる。それは丸いガラス瓶に閉じ込められた花のようで、またその花びらは炎のように橙や青に揺らめいていた。
ベッドの上からは、何か、植物らしきものが生えている。ぬめりとした蔓は裸のアリシアの足先から太腿までに巻き付き、また葉は彼女の恥丘を撫でていた。植物に水をやるように、彼女の蜜はとろとろとあふれている。ひょっとしたら、潮も吹いてしまった後なのかもしれない。
ここに至るまでの行為があったはずなのに、アリシアはうまく思い出せなかった。
(これは、この状況は。今日のお客様は――……)
「ああ、目覚めたみたいだね。ボクのお姫様」
声のしたほうを見上げると、ソファに腰掛けて読書する、色白の少年らしい見目の男がいた。
真っ白な髪はひとつに束ねられており、紅い瞳を縁取る睫毛はうっとりするほど長い。その美しく華奢な姿から〝彼を知らぬ者は誰しもが彼を少女と見紛う〟と噂されるひと。
彼は、王宮に勤める魔法士――魔法の才能を認められ、国王に仕え、王命に従って様々な魔法の発現や研究をする男だった。アリシアは彼の〝今宵の名〟を思い出し、意図せずして甘えたような声で呼ぶ。
「カルノ……っ、様ぁ。カルノさま……」
中身がフィリップであることは知っている。閨で事を始める前に、声と耳で確かめあった。その触れ合いは記憶している。
「火の魔法、水の魔法、草の魔法、すべて楽しんでもらえたかな? じっくり温めて、ぴちょぴちょって刺激し続けて、ずっとなでなでしてあげてたんだぁ。――ああ、楽しませすぎてしまったのだったっけ? キミったら、びちゃびちゃに潮吹きして、いきなり眠ってしまうんだもの。壊してしまったかとビクビクしたよ」
分厚い魔導書らしき本を閉じ、魔法士らしくローブをひらひらさせながら、彼はアリシアのいるベッドへとやってくる。アリシアは浅い息をしながら、彼の到着を待ちわびていた。
「おはよ、イリス姫」
「おは、ふぁ、はあっん、あ、カルノ様、これぇ……っ!」
「うんうん。気持ちいいね? はい、気持ちいい、気持ちいい……。起きてすぐには、わからなかったかもしれないけれど。すごいでしょ? ボクの魔法」
ふふん、と得意げにする少年らしい笑顔は、一見すると、こんな状況でなければ褒めちぎってやりたいと思うほどに可愛らしかった。
しかし、この魔法士。実はアリシアよりも年上である。
朧げに蘇ってきた記憶が正しければ、フィリップが〝人間の中では最年長の攻略対象者〟と言っていたほどの年長者である。いつかシシリーが言っていた言葉を借りるなら〝ショタオジサマ〟である。
どちらも詳しい意味はわからないけれど。なんにせよ今はフィリップの変身した姿だから、彼の実年齢など関係ないのだけれど。
とにかくフィリップが演じているのは〝甘えん坊お子様かつ苦労性オジサマの二面性魔法士様〟らしい。
「ねえ、すごいでしょって? 黙ってないで褒めてよイリス。ほら、ねぇ――気持ちいいんでしょ? ほら」
「っ、ひゃあああっん――! やぁあっ!」
フィリップやユースタスのものより小さく見える彼の手に、するりと下腹部を撫でられたアリシアは、たったそれだけでビクンッと腰を大きく浮き上がらせ――たちまち絶頂した。
体が、おかしい。敏感すぎる。
「あぁあ! にゃあぁぁ!! んにゃあ!」
「あはははっ、猫ちゃんみたいで可愛い~! もっと鳴いてみて? にゃんにゃんして? ねっ」
少女然とした可愛らしい顔が、にっこりと娼妓を見おろす。あるいは、蟻を潰して無邪気にはしゃぐ少年の顔が。
得も言われぬ背徳感が、彼女の背筋を愛撫する。
「――せーのっ! にゃん、にゃん、にゃん」
「にゃあ、にゃあんっ、にゃ、にゃああぁぁっ――!」
果てたばかりの身体に、炎の花で温められた肌に触れられ。子宮の上をトントンと手で叩かれ、魔法の植物に陰核をも突かれ。アリシアはだらしなく喘ぎ、潮を吹きながら果てた。
「あーあ、もうイっちゃったの? 可愛いねぇ」
「にゃっ、にゃ、やぁん」
「まだ雌猫みたいに鳴いてるね。どうしたの……? あぁ、ボクの魔法のせいか。いっぱい気持ちいいんだね。可愛い可愛い」
そう、彼の魔法のせいで。
炎のランプに火照って感度を良くした肌へと天井の雲から水が落ちれば、彼女はその度にまた身体をビクビクと跳ねさせてしまう。もう気持ちいいのが止まらない。
(やだっ、こわい、きもちいい……。ずっと、きもちいいの……。ああ、きもちい……!)
ぬるぬると動く植物はアリシアの小さな小さな穴の周りをこちょこちょとくすぐっており、潮を吹くことさえも、やめさせてくれない。ぴゅっ、ぴゅっ、と小刻みに吹く度に、彼女は軽く果てている。
淡く甘い絶頂は一種のもどかしさを連れて体内に降り積もり、皆で本気の絶頂を準備しているようだった。
「らぇえ、れへぇ……らひゅ、たしゅ……ぅあんっ、たひゅへれ……たしゅけれぇ、たしゅけてぇえ、フィリップしゃまぁあぁ……」
逃げようとした腰は新たに生えた植物の蔓に捕まり、蔓は彼女の臍や骨盤の上の肌を撫でていく。逃避を図ったことを罰するかのように、花芽への責めも強くなる。
「らめぇ、ぐりぐり……ぁっ、しちゃらめえぇ! ふぃりっぷさま、たしゅけて、ふぃりゅ、ああっ、フィリップ様あぁっ、助けてぇ……!」
頭をおかしくしそうな快楽に、つい、アリシアはフィリップの救いを求めた。この状況を作り出しているのは彼だと理解しながら、いつものように彼を呼んだ。
白髪の魔法士に変身した彼は、しかし、にこにことアリシアを見るだけで。
手を貸してくれることもなく、手を触れてくれることもなく、彼の魔法に犯されるアリシアをただただ見ていた。
「いきゅ、イきゅ、ふぃりっ、さま、イぐっの……やらぁ、やら、こわい、あぁんっ、イぐ、ふぃりゅう――っあ、イきゅうぅぅっ!」
ガクンッと腰が高く高く浮き上がり、決壊したように大量の潮を吹き出して。植物に恵みの雨を降らせるように。
「ふにゃあああぁぁぁ――っ!!」アリシアは深く、重い絶頂を迎えた。
(こんなの、知らない……! こわい、もう怖いっ、コワイ)
ひとりの娼妓として、男との交わり方の絵図を見たことはある。本物のユースタスに呪いを解いてもらった日の夜、姐と一緒に、他の客と娼妓の様子を覗き見たことも。
未来の王妃として、未来の王を歓ばせるため、健やかな王子を生むため、と。閨の教育を受けたこともある。未だ処女のままではあっても、彼女はもう、夜の営みについてをたくさん知っている。
それでも、
「でんかぁあ……ふぃりっぷさまぁ……! やらぁ、もぉやだぁぁ……。ふぃりっぷしゃまぁ……ぁ、イぐっ、イぐのやだぁ、やぁらあぁ……!」
こんなふうに魔法で弄ばれるなんてことは知らない。こんなのは知らない。魔法で絶頂させられ続けるのは、知らない。しらない。怖い。こわい。もう耐えられない。
「ひぃ、ふぃひゅ、ふぃる」
「今――そんなふうに、呼ばないで……?」
「ふぇっ……?」
炎の花がふっと消え、アリシアを責めていた魔法の雨水が、生きた植物が、すべてが一斉に動きを止める。蔓の絡まりが解け、彼女の腰や脚を自由にした。
「んあっ、あぁ、あん!」
ただアリシアの身体だけが動き続け、ひとりでに腰は跳ね、秘処はひくひくと動く。
(よば、よば……っ、呼ばないで、って……)
そして名を呼ぶことを初めて拒絶されたアリシアの心は、今、快楽の余韻とともに――強いショックを受けていた。
気持ちよすぎて泣くというのは我慢できていたのに、ついにぽろぽろと涙がこぼれていく。
フィリップとの〝すれ違い〟を感じはじめたのは、この夜からだった。
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