9 / 15
Ⅱ章 好きとさよなら
二度目の彼女、ふたりの図書委員
しおりを挟む
「一年F組の、紫月桜子です。一年間よろしくお願いします」
爽やかに透き通った声が、鼓膜を震わせ、耳朶を撫でる。
続いてパチパチ、形式的な拍手。さらにはぴしぴし刺さる視線。
いくつもの目。いつもの目。目。目。
「二年A組、花咲薫です。よろしくお願いします」
また誰かに惚れられたのかな、とますます憂鬱な気分で腰を下ろせば、
「……」
彼女は今度も、初めて会った日とまったく同じ瞳をして、俺を見た。
――たった今、初めて俺の存在に気づいた、みたいな。ああ、その目、
実際に、そうなのだろう。
読書に夢中だった彼女の眼中に俺はいなかったし、彼女に一度目の世界の記憶はない。
――すごく、ぞくぞくする……! 好き!!
この瞳から、光が消えることを。一度は消えたことを。
紫月桜子が九月一日に死ぬことを、俺だけが、知っている。
過去改変治療法の被験者になることにより、俺は〝運命を変える契機〟を得た。
俺は〝来世提供者〟で、彼女は〝死験者〟。俺の魂に残っていた来世のひとつを彼女の死に繋ぐことで、彼女の中には生が戻り、生死の融合反応によって俺らの時間は逆向きに進む。……って、正直、俺自身も、よくわかってないんだけど。
とにかく俺は、17歳の9月18日から、16歳の8月18日へ、13カ月前の世界へと戻ってきた。厳密には、俺が過去に戻った時点でわずかながらに違う運命を辿った世界になっているから、〝花咲薫がタイムスリップした〟という事象が組み込まれた並行世界になるそうなのだけれども……俺が一度目の世界の記憶をもって生きていること以外は何も変わらないのだから、過去に戻って人生をやり直していると考えても差し支えはない。
この世界では、違う世界で起きたことを、俺だけが知っている。
この実験に俺を巻き込んだ、協力者とも言える〝先生〟でさえ、俺のように並行世界のことを記憶しているわけではない。彼女は特別なコンピュータに自分が診た全並行世界の患者のデータを保存はしているけれども、頭の中にそれがあるわけではない。
「わたしも火曜日です」
と、彼女が「火」と書かれたメモ紙を見せながら、こちらに歩み寄る。ちょっと早歩き。
両手で紙の端っこをちょこんとつまんだ仕草が、なんとなく女子っぽくて可愛い。
「じゃ、火曜日は、このメンバーっすね」
三年のサボり魔先輩もいるので、俺はゆるめの敬語で返す。くじ引きの結果は、二度目の世界でも変わらなかった。他の曜日のメンバー編成も同じだ。
――運命って、易々とは、変わらないんだ。そっか。
一緒の曜日になれたことに安堵すると同時に、彼女の死の運命を変えるには、相応の努力が必要そうだとあらためて気を引き締める。
今日までの日々を、俺は一度目の人生と同じように過ごした。頭の中で紫月さんのことを考えたりはしたけれど、表立ったアクションは一切していない。
――違う出会い方をするのは怖くて今日まで踏み出せなかったけれど、これからは!
密かに拳を握りしめ、己の心を奮わせる。どうしたら、彼女の自殺を阻止できるのか。
前のようにゆっくり軽く仲良くなるのでは、きっと彼女の心の闇は明かしてもらえない。
だから俺は、彼女と仲良くならなければならないんだ。
まだ四月だった、ある日の帰り道。横断歩道の向こう側に、彼女を見つけた。
同級生の女子三人と一緒に歩く紫月さんは、おどおどした様子ながらも、口元には軽い笑みを浮かべている。やっぱり友だちくらい居たんじゃないか。そう、迂闊にホッとした。
「なに見てんの、ハナ」
「……べつに」隣にいた陽一から面倒くさい空気を感じ、ぱっと紫月さんから目を逸らす。
けれどもその動きでバレたのか、陽一はにんまりニヤニヤしだした。
「ん? あのなかに気になる女子いるん? え? 一年生に一目惚れ?」
「違うし」決して一目惚れはしていない。第一印象は普通だったはずだ。
ばっさりと拒否しても、陽一のテンションは相変わらず。彼自身のことは嫌いではないが、こういうところはウザくて嫌だ。信号が変わって歩きはじめても、陽一は紫月さんたちの方を見ている。だんだんと、俺らと彼女らの距離は近づいていった。
「あ、おまえの好みっぽい子見っけた! 黒髪ロングの一番ちっちゃい子でしょ」
あのなかにいる黒髪ロングで一番ちいさい女の子は、言わずもがな、紫月桜子だ。
「べつに好きな子じゃないから」
「好みっぽいのは否定しないってことは、好きなひと候補ってことね」
「なんでそうなる」
「ほら。あの子、友だちは別方向みたいだし。声掛けてみればいいんじゃね?」
「やだよ。俺なんて、委員会一緒なだけだし」
「接点あるんだ。じゃ、それ言い訳に話しかけに行こ。空気の読める親友様は、気を利かせてフェードアウトしてやるからさ」言って、陽一は俺の背中をバシッと叩いた。
「痛い。うざい」
「ん、ごめん。まあとにかく、進展あったら教えてくれよ。――じゃあな!」
自称空気の読める親友は、勝手な気遣いを残して去っていった。まったくマイペースな男だ。あいつの言った通り、紫月さんは友だちと別れたようで、ひとりぽつんと立っている。彼女はなぜか突っ立ったまま、ずっとその場から動かなかった。
「……紫月、さん?」迷いつつも名を呼ぶと、小さな肩がびくりと跳ねた。
「あ、えっと……」彼女はゆっくり振り返る。「図書委員の、花咲、先輩」
「うん。こんにちは、紫月さん。今から帰るとこ?」
「はい。そう、です」
一度目の彼女も、始めは随分と素っ気なかった。暗くて地味な感じで、コミュニケーションが苦手な子なのだとばかり思ったものだ。……けれど。
今日の彼女を見ると、前には気づけなかった、新たな感情を読み取った。その表情は、何かに怯えているようだったのだ。このままひとりで帰らせるのは得策ではない気がした。
「紫月さん、時間ある?」
「……一応」
「あそこの公園でちょっと喋らない? 暇つぶしに付き合ってよ」
「……いい、ですよ」怯えたような顔のまま、小さくこくりと頷く彼女。
あの夏の最後の日に会った彼女とは違う、嬉しさや楽しさがまったく見えない表情に、もしや今の俺は彼女に嫌われているのではないかとさえ思った。自分で立てた悪い予想にうっかり心が折れそうになり、ならばこれから好きになってもらうまでだと己を鼓舞して立て直す。
――紫月桜子。彼女の明るい笑顔をもう一度見たい。
いいや、一度だけじゃぜんぜん足りない。
何度も彼女の笑みを見て、そして九月に笑う彼女を何よりも見たい。
九月一日を越えた未来で、きみが笑う姿を見ていたい。
「じゃ、行こっか」
「はい。先輩」
おとなしい彼女は、俺の二歩後ろあたりを歩いた。俺は彼女の表情を見たかったが、彼女は見られたくないから後ろにいるのかもしれない。と。無理に見ようとはしなかった。
駅近くのこぢんまりとした公園で、ベンチにふたり腰を下ろす。
すると紫月さんは、俺と自分との間に鞄をドサリと置いた。近くに座ったからと言って変なことをするつもりは毛頭なかったが、心の壁を立てられたようでなんだか悲しい。
あらためて思うと、こんなふうに自分で女子を引き止めたのは、彼女に対してが初めてかもしれなかった。今までは女子には好かれて当たり前で、自分が彼女たちに興味を持つこともなかったから、どう思われるかを心配した記憶がまったくなかった。より正しく言えば、紫月さん以外の女子からの評価は、大して気にしたことがなかったのだと気づいた。
「紫月さん」
「はい、先輩」
「紫月さんは、あー……何の教科が好き?」
口から出たのは、新学期の自己紹介カードに書かされるような、お粗末な質問だった。特に彼女は一年生だ、こんなことは最近聞かれたばかりだったかもしれないのに。
「……国語、ですかね」俺のつまらない質問に、紫月さんは真面目に答えてくれた。
会話が成立したことに安堵して、俺はさらに会話を続けようと励む。
「そっか。俺は化学が好きかな。うん。……好きな食べ物ってある?」
「昔、おばあちゃんちで食べた……桜のチーズケーキが、美味しかったです」
「俺はケーキだったら、チョコレートケーキが好き。えーと、部活は入るの?」
「部活は入らないです。これからバイト始める予定なので」
「そっか。そうだったね――じゃなくて、そうなんだね。うん。……あははっ」
話すことがもう思いつかなくなって、乾いた笑いしか出なかった。
普段はもっとうまくやれているのに、どうして彼女の前ではこんなに口下手になってしまうのか。一度目の彼女との方が、ずっとうまく話せていた。
紫月さんは、言いづらそうに、けれど真摯に口を開く。
「……先輩は……どうして、わたしなんかに……話しかけて、くれるんですか?」
「え。なんか、気になったから……?」
本当のことは、口が裂けても言えるはずがなかった。
一度は死んだきみを、今度は死なせたくないから、仲良くしたいんだ。なんて。
「先輩、もしかして、わたしのこと知らないんですか?」
「一年F組、出席番号十四番、女子、紫月桜子ちゃん。図書委員」
「そういうこと聞いてるんじゃないんですけど。……まあ、知らないならいいです」
呆れと安心が混ざったように思える、静かなため息をして。紫月さんは、薄く笑った。
「もしかして、俺が知らないだけで有名人だったりした?」
「いいえ。……べつに。知らないなら、ずっと知らないままでいいですよ」
俺はいったい、彼女の何を知らずにいたのだろう。
一度目のことも含めてしばらく考えてみたが、まったく見当がつかない俺だった。
「まあ、ずっとなんて無理でしょうけどね」と彼女は自嘲的にまた笑う。
その後は何も話すことなく、ただふたりで黙っているだけの時間が続いた。
だんだんと、あたりが暗くなってくる。
「そろそろ、帰る?」
「そう、ですね」
「暗いし、家まで送ろっか?」
「……いいえ。それは、大丈夫、です。……ひとり、で、たぶん、大丈夫」
「紫月さん?」
彼女の『大丈夫』は、まったくそうには聞こえなかった。
こちらを見た彼女は、今にも泣きそうな顔でくしゃりと笑う。
こんな笑みを見たのは、今日が初めてだ。見たかった笑みはこれではないのに、新たな彼女を知れて嬉しさを感じてしまう。俺って意外と意地悪なのかもしれない。
「先輩。『大丈夫だよ』って、言ってくれませんか」
「……大丈夫だよ、紫月さん」
「ありがとうございます、先輩。もう、帰れます」
心のこもっていない俺の言葉に、どれほどの価値があったのか。彼女にとっては「大丈夫」と言われること自体に意味があったようで、鞄を肩に掛けるとすばやくベンチから立った。もう彼女は泣きそうではなく、ただ暗くて地味で――俺が可愛いなと思う、普通の紫月さんだった。
ふたりで駅へと歩いて、別々のホームへと分かれていく。紫月さんの乗る電車はすぐに来て、彼女をあっという間に遠くに運んでいった。
紫月桜子。委員会が一緒の後輩。並行世界では、九月一日に自殺した後輩。
彼女がどうして自殺したのか、今日はまだまだわからなかった。
ゴールデンウィーク明けの五月の火曜日。
紫月さんと一緒に図書委員の当番になっている日。
俺は一週間の中で、火曜日がいちばん好きになっていた。
「紫月さん、こんにちは。久しぶり」
「こんにちは、花咲先輩」
一足先に図書室に来ていた彼女に声を掛け、隣の席に座る。
他の人が来なくて暇だからか、彼女は本を読んでいた。
「何読んでんの?」
「『源氏物語』の現代語訳版です」
「面白い?」
「はい。面白いです」簡素な返答の後、彼女はなんにも言わなかった。細い指がページをめくって、紙が擦れる軽い音を立てる。俺は黙って、彼女が本を読む姿を眺めた。
「……あの、先輩?」
「ん? なに?」
こちらを向いた紫月さんは、ちょっと困った顔をしていた。そういう表情も可愛いな、と俺は思う。会うたびにいつも、彼女を可愛いと感じている。
「視線が、気になります」
「ごめん」
「いや、謝ってほしかったわけじゃないですけど。先輩は、本、読まないんですか?」
「んー。俺、あんま読まないんだよね。なんかオススメの本ないの?」
「ないです。というか、本を読まないなら、なんで図書委員に?」
「図書委員って、けっこう楽じゃん。それに各クラスでひとりずつだし」
「なぜひとりずつなのが理由になるんですか?」
「俺モテるからさー。ふたり組になる委員会やろうとすると、揉めちゃって大変」
「……」
今日はなんとなくスムーズに会話できている気がして嬉しいな――と思った矢先、紫月さんが黙ってしまった。そっぽを向いて、また本ばかりに構ってしまう。
どうしたのかと顔を覗き込んでみると、彼女は死んだ魚のような目をしていた。
「紫月さん、どしたの?」
「べつに何も」
「なんか怒らせちゃった?」
「違います」
「あ、モテるって言ったからウザかった? 言っとくけど、俺、カノジョいないよ」
「……ほんと?」
紫月さんが本から顔を上げ、こちらを見つめる。死んでいた目に、かすかな光が戻っていた。心なし嬉しそうに見える。
「うん。今まで、ひとりもカノジョいたことない」
「へー、意外です。なら、先輩もわたしとおんなじ非リアってことですね!」
軽く弾んだ声に、小さく上がる口角。
二度目の彼女のなかでいちばん嬉しそうな顔を、見ることができた。
一度目の最後に会った日の彼女とすこし被って、胸がキュッと苦しくなる。
「俺が非リアなのが、そんなに嬉しい?」
「嬉しくないですけど」
「嬉しそうに見えるんだけど」
「じゃあ先輩の目が悪いんですね。眼科に行ってください」
「辛辣だね」
「……ごめんなさい」
紫月さんは沈んだ声で言うと、またまた本を読みだしてしまった。扱い方がよくわからない。正直ちょっと面倒くさい。けれど、そんなくだらない理由で、彼女を放っておくわけにはいかなかった。このままでは、紫月さんはまた自殺するかもしれないのだから。
「しーづきさん。ちょっと聞きたいことあるんだけど」
「……なんですか」
「『レモン哀歌』って、何の本に載ってる?」
「『レモン哀歌』ですか? 高村光太郎のですよね。『智恵子抄』に載ってるはずですけど。ああ、中三の国語の教科書にも載ってますよね」
「図書室にその『智恵子抄』? ってあるかな?」
「借りられていなければ、あるんじゃないですか」
「じゃ、ちょっと探してくるねー」
「はーい……」
いったい何なんだ、と言いたげな紫月さんを横目に、俺は本棚の日本文学のコーナーに行き『智恵子抄』を探しはじめた。まだまだ他の人が図書室に来そうな気配はなく、ここには俺と紫月さんのふたりきりだ。どこだろうかとしばらく本の背表紙たちを眺めていると、ふいに細い指が顔の横を通った。
「先輩、探すの遅いですね。それでも図書委員ですか?」
紫月さんが『智恵子抄』を本棚から抜いて、「はい」と俺に渡してくる。
「あ、ありがと紫月さん。まじ感謝……」
「どういたしまして」
さっさとカウンターに帰った彼女は、椅子に座って、また『源氏物語』を読み進めた。
俺は彼女の隣に戻ると『智恵子抄』の目次を見、「レモン哀歌」のページを開き、ゆっくりと黙読していく。なんとなく、やっぱり綺麗な詩で、彼女の声に似合いそうだ。
流れでなんとなく、紫月さんの横顔を見て、そして桜色の唇に視線を向けた。
ちっちゃくて、やわらかそうだ。あの唇にキスをしたら、どんな感じなんだろう、とも――って、しばらく眺めてから、今の俺めっちゃ変態っぽくない? と気づいた。キスをしたら、なんて、まるで彼女を恋愛対象として見ているようではないか。
「先輩。なんでそんな見てくるんですか」
「え、あ。いや、紫月さんが可愛いから、つい」
「は……?」
こちらを向いた紫月さんが、目をまんまるに見開いた。彼女の黒い瞳に俺の顔が映ってるの、なんか良い。萌える。
彼女の表情が、こいつ頭おかしいんじゃない? と言っているように見える――と思ったら、彼女の頬が紅に染まりはじめた。やわらかそうな頬が、美味しそうな林檎色になる。
「紫月さん、暑い? 顔、真っ赤なんだけど……」
「あ、これは違っ、あの、見ないでください!」
紫月さんは両手で頬を覆って、勢いよく真後ろに顔を逸らした。小さな肩が小刻みに震えている。もしや泣いているのだろうかと心配になり、その肩に軽く触れてみた。
「ひゃぁっ」
「うわ。あ、ごめん」
紫月さんが上げた声が妙に色っぽくて、驚いてさっと手を離す。
心拍数が上がって、なんだかちょっと変な気を起こしそうになった。あんな声も出せるのか、と先ほどの声を思い出す。また聞きたいな。とか。また変態っぽいかもしれない。
「先輩。ほんと、やめてください」
「ごめん。もう触んない」
「違う。そうじゃなくて……っ、いや、そうなんですけど。可愛いとか、気安く言わないでください。ほんと無理」
「うん。わかった。でも、可愛いと思ってるのは本当だよ」
「だから、それ……! やめてください。照れちゃって、ずっと、熱いままになっちゃうから。駄目です」
長い黒髪の隙間から覗く耳が朱色だから、きっと頬も朱いままなのだろう。
照れている顔を見たくてたまらなくなったが、そこまでしていい関係性だとは思えなかった。なんとなく、まだ、そこまでの関係ではない気がする。
ガラリと扉が開いて、眼鏡をかけた男子生徒が入ってきた。図書室が、ふたりきりの空間ではなくなったのだ。紫月さんはまだ熱が冷めないようなので、俺がカウンター業務をするべきだろう。『智恵子抄』を閉じて端に置き、バーコードリーダーの準備をする。
「返却ねがいします」
男子生徒の持ってきた本と学生証のバーコードを、ピッと読み取っていく。ディスプレイを確認するとき、こちらを振り返った紫月さんと、一瞬だけ目が合った。
「はい。どうぞ」
「あざっしたー」
男子生徒が去っていくと、紫月さんはしっかりと顔を上げて、前を向いて姿勢正しく座り直した。まだほんのりと顔が赤いが、多少は落ち着いたのだろう。
「お見苦しい姿をお見せして、すみませんでした」
「ううん。大丈夫。もう暑くない?」
「はい。大丈夫です」
彼女が『源氏物語』を机の隅に置き直すのを見て、ふたりとも、ただの「図書委員」に戻ったのだな、と思った。また扉が開いて、今度は女子生徒が入ってくる。そろそろ図書室が賑わいはじめる頃だろう。俺は紫月さんの隣で、真面目に図書委員の業務に励んだ。
爽やかに透き通った声が、鼓膜を震わせ、耳朶を撫でる。
続いてパチパチ、形式的な拍手。さらにはぴしぴし刺さる視線。
いくつもの目。いつもの目。目。目。
「二年A組、花咲薫です。よろしくお願いします」
また誰かに惚れられたのかな、とますます憂鬱な気分で腰を下ろせば、
「……」
彼女は今度も、初めて会った日とまったく同じ瞳をして、俺を見た。
――たった今、初めて俺の存在に気づいた、みたいな。ああ、その目、
実際に、そうなのだろう。
読書に夢中だった彼女の眼中に俺はいなかったし、彼女に一度目の世界の記憶はない。
――すごく、ぞくぞくする……! 好き!!
この瞳から、光が消えることを。一度は消えたことを。
紫月桜子が九月一日に死ぬことを、俺だけが、知っている。
過去改変治療法の被験者になることにより、俺は〝運命を変える契機〟を得た。
俺は〝来世提供者〟で、彼女は〝死験者〟。俺の魂に残っていた来世のひとつを彼女の死に繋ぐことで、彼女の中には生が戻り、生死の融合反応によって俺らの時間は逆向きに進む。……って、正直、俺自身も、よくわかってないんだけど。
とにかく俺は、17歳の9月18日から、16歳の8月18日へ、13カ月前の世界へと戻ってきた。厳密には、俺が過去に戻った時点でわずかながらに違う運命を辿った世界になっているから、〝花咲薫がタイムスリップした〟という事象が組み込まれた並行世界になるそうなのだけれども……俺が一度目の世界の記憶をもって生きていること以外は何も変わらないのだから、過去に戻って人生をやり直していると考えても差し支えはない。
この世界では、違う世界で起きたことを、俺だけが知っている。
この実験に俺を巻き込んだ、協力者とも言える〝先生〟でさえ、俺のように並行世界のことを記憶しているわけではない。彼女は特別なコンピュータに自分が診た全並行世界の患者のデータを保存はしているけれども、頭の中にそれがあるわけではない。
「わたしも火曜日です」
と、彼女が「火」と書かれたメモ紙を見せながら、こちらに歩み寄る。ちょっと早歩き。
両手で紙の端っこをちょこんとつまんだ仕草が、なんとなく女子っぽくて可愛い。
「じゃ、火曜日は、このメンバーっすね」
三年のサボり魔先輩もいるので、俺はゆるめの敬語で返す。くじ引きの結果は、二度目の世界でも変わらなかった。他の曜日のメンバー編成も同じだ。
――運命って、易々とは、変わらないんだ。そっか。
一緒の曜日になれたことに安堵すると同時に、彼女の死の運命を変えるには、相応の努力が必要そうだとあらためて気を引き締める。
今日までの日々を、俺は一度目の人生と同じように過ごした。頭の中で紫月さんのことを考えたりはしたけれど、表立ったアクションは一切していない。
――違う出会い方をするのは怖くて今日まで踏み出せなかったけれど、これからは!
密かに拳を握りしめ、己の心を奮わせる。どうしたら、彼女の自殺を阻止できるのか。
前のようにゆっくり軽く仲良くなるのでは、きっと彼女の心の闇は明かしてもらえない。
だから俺は、彼女と仲良くならなければならないんだ。
まだ四月だった、ある日の帰り道。横断歩道の向こう側に、彼女を見つけた。
同級生の女子三人と一緒に歩く紫月さんは、おどおどした様子ながらも、口元には軽い笑みを浮かべている。やっぱり友だちくらい居たんじゃないか。そう、迂闊にホッとした。
「なに見てんの、ハナ」
「……べつに」隣にいた陽一から面倒くさい空気を感じ、ぱっと紫月さんから目を逸らす。
けれどもその動きでバレたのか、陽一はにんまりニヤニヤしだした。
「ん? あのなかに気になる女子いるん? え? 一年生に一目惚れ?」
「違うし」決して一目惚れはしていない。第一印象は普通だったはずだ。
ばっさりと拒否しても、陽一のテンションは相変わらず。彼自身のことは嫌いではないが、こういうところはウザくて嫌だ。信号が変わって歩きはじめても、陽一は紫月さんたちの方を見ている。だんだんと、俺らと彼女らの距離は近づいていった。
「あ、おまえの好みっぽい子見っけた! 黒髪ロングの一番ちっちゃい子でしょ」
あのなかにいる黒髪ロングで一番ちいさい女の子は、言わずもがな、紫月桜子だ。
「べつに好きな子じゃないから」
「好みっぽいのは否定しないってことは、好きなひと候補ってことね」
「なんでそうなる」
「ほら。あの子、友だちは別方向みたいだし。声掛けてみればいいんじゃね?」
「やだよ。俺なんて、委員会一緒なだけだし」
「接点あるんだ。じゃ、それ言い訳に話しかけに行こ。空気の読める親友様は、気を利かせてフェードアウトしてやるからさ」言って、陽一は俺の背中をバシッと叩いた。
「痛い。うざい」
「ん、ごめん。まあとにかく、進展あったら教えてくれよ。――じゃあな!」
自称空気の読める親友は、勝手な気遣いを残して去っていった。まったくマイペースな男だ。あいつの言った通り、紫月さんは友だちと別れたようで、ひとりぽつんと立っている。彼女はなぜか突っ立ったまま、ずっとその場から動かなかった。
「……紫月、さん?」迷いつつも名を呼ぶと、小さな肩がびくりと跳ねた。
「あ、えっと……」彼女はゆっくり振り返る。「図書委員の、花咲、先輩」
「うん。こんにちは、紫月さん。今から帰るとこ?」
「はい。そう、です」
一度目の彼女も、始めは随分と素っ気なかった。暗くて地味な感じで、コミュニケーションが苦手な子なのだとばかり思ったものだ。……けれど。
今日の彼女を見ると、前には気づけなかった、新たな感情を読み取った。その表情は、何かに怯えているようだったのだ。このままひとりで帰らせるのは得策ではない気がした。
「紫月さん、時間ある?」
「……一応」
「あそこの公園でちょっと喋らない? 暇つぶしに付き合ってよ」
「……いい、ですよ」怯えたような顔のまま、小さくこくりと頷く彼女。
あの夏の最後の日に会った彼女とは違う、嬉しさや楽しさがまったく見えない表情に、もしや今の俺は彼女に嫌われているのではないかとさえ思った。自分で立てた悪い予想にうっかり心が折れそうになり、ならばこれから好きになってもらうまでだと己を鼓舞して立て直す。
――紫月桜子。彼女の明るい笑顔をもう一度見たい。
いいや、一度だけじゃぜんぜん足りない。
何度も彼女の笑みを見て、そして九月に笑う彼女を何よりも見たい。
九月一日を越えた未来で、きみが笑う姿を見ていたい。
「じゃ、行こっか」
「はい。先輩」
おとなしい彼女は、俺の二歩後ろあたりを歩いた。俺は彼女の表情を見たかったが、彼女は見られたくないから後ろにいるのかもしれない。と。無理に見ようとはしなかった。
駅近くのこぢんまりとした公園で、ベンチにふたり腰を下ろす。
すると紫月さんは、俺と自分との間に鞄をドサリと置いた。近くに座ったからと言って変なことをするつもりは毛頭なかったが、心の壁を立てられたようでなんだか悲しい。
あらためて思うと、こんなふうに自分で女子を引き止めたのは、彼女に対してが初めてかもしれなかった。今までは女子には好かれて当たり前で、自分が彼女たちに興味を持つこともなかったから、どう思われるかを心配した記憶がまったくなかった。より正しく言えば、紫月さん以外の女子からの評価は、大して気にしたことがなかったのだと気づいた。
「紫月さん」
「はい、先輩」
「紫月さんは、あー……何の教科が好き?」
口から出たのは、新学期の自己紹介カードに書かされるような、お粗末な質問だった。特に彼女は一年生だ、こんなことは最近聞かれたばかりだったかもしれないのに。
「……国語、ですかね」俺のつまらない質問に、紫月さんは真面目に答えてくれた。
会話が成立したことに安堵して、俺はさらに会話を続けようと励む。
「そっか。俺は化学が好きかな。うん。……好きな食べ物ってある?」
「昔、おばあちゃんちで食べた……桜のチーズケーキが、美味しかったです」
「俺はケーキだったら、チョコレートケーキが好き。えーと、部活は入るの?」
「部活は入らないです。これからバイト始める予定なので」
「そっか。そうだったね――じゃなくて、そうなんだね。うん。……あははっ」
話すことがもう思いつかなくなって、乾いた笑いしか出なかった。
普段はもっとうまくやれているのに、どうして彼女の前ではこんなに口下手になってしまうのか。一度目の彼女との方が、ずっとうまく話せていた。
紫月さんは、言いづらそうに、けれど真摯に口を開く。
「……先輩は……どうして、わたしなんかに……話しかけて、くれるんですか?」
「え。なんか、気になったから……?」
本当のことは、口が裂けても言えるはずがなかった。
一度は死んだきみを、今度は死なせたくないから、仲良くしたいんだ。なんて。
「先輩、もしかして、わたしのこと知らないんですか?」
「一年F組、出席番号十四番、女子、紫月桜子ちゃん。図書委員」
「そういうこと聞いてるんじゃないんですけど。……まあ、知らないならいいです」
呆れと安心が混ざったように思える、静かなため息をして。紫月さんは、薄く笑った。
「もしかして、俺が知らないだけで有名人だったりした?」
「いいえ。……べつに。知らないなら、ずっと知らないままでいいですよ」
俺はいったい、彼女の何を知らずにいたのだろう。
一度目のことも含めてしばらく考えてみたが、まったく見当がつかない俺だった。
「まあ、ずっとなんて無理でしょうけどね」と彼女は自嘲的にまた笑う。
その後は何も話すことなく、ただふたりで黙っているだけの時間が続いた。
だんだんと、あたりが暗くなってくる。
「そろそろ、帰る?」
「そう、ですね」
「暗いし、家まで送ろっか?」
「……いいえ。それは、大丈夫、です。……ひとり、で、たぶん、大丈夫」
「紫月さん?」
彼女の『大丈夫』は、まったくそうには聞こえなかった。
こちらを見た彼女は、今にも泣きそうな顔でくしゃりと笑う。
こんな笑みを見たのは、今日が初めてだ。見たかった笑みはこれではないのに、新たな彼女を知れて嬉しさを感じてしまう。俺って意外と意地悪なのかもしれない。
「先輩。『大丈夫だよ』って、言ってくれませんか」
「……大丈夫だよ、紫月さん」
「ありがとうございます、先輩。もう、帰れます」
心のこもっていない俺の言葉に、どれほどの価値があったのか。彼女にとっては「大丈夫」と言われること自体に意味があったようで、鞄を肩に掛けるとすばやくベンチから立った。もう彼女は泣きそうではなく、ただ暗くて地味で――俺が可愛いなと思う、普通の紫月さんだった。
ふたりで駅へと歩いて、別々のホームへと分かれていく。紫月さんの乗る電車はすぐに来て、彼女をあっという間に遠くに運んでいった。
紫月桜子。委員会が一緒の後輩。並行世界では、九月一日に自殺した後輩。
彼女がどうして自殺したのか、今日はまだまだわからなかった。
ゴールデンウィーク明けの五月の火曜日。
紫月さんと一緒に図書委員の当番になっている日。
俺は一週間の中で、火曜日がいちばん好きになっていた。
「紫月さん、こんにちは。久しぶり」
「こんにちは、花咲先輩」
一足先に図書室に来ていた彼女に声を掛け、隣の席に座る。
他の人が来なくて暇だからか、彼女は本を読んでいた。
「何読んでんの?」
「『源氏物語』の現代語訳版です」
「面白い?」
「はい。面白いです」簡素な返答の後、彼女はなんにも言わなかった。細い指がページをめくって、紙が擦れる軽い音を立てる。俺は黙って、彼女が本を読む姿を眺めた。
「……あの、先輩?」
「ん? なに?」
こちらを向いた紫月さんは、ちょっと困った顔をしていた。そういう表情も可愛いな、と俺は思う。会うたびにいつも、彼女を可愛いと感じている。
「視線が、気になります」
「ごめん」
「いや、謝ってほしかったわけじゃないですけど。先輩は、本、読まないんですか?」
「んー。俺、あんま読まないんだよね。なんかオススメの本ないの?」
「ないです。というか、本を読まないなら、なんで図書委員に?」
「図書委員って、けっこう楽じゃん。それに各クラスでひとりずつだし」
「なぜひとりずつなのが理由になるんですか?」
「俺モテるからさー。ふたり組になる委員会やろうとすると、揉めちゃって大変」
「……」
今日はなんとなくスムーズに会話できている気がして嬉しいな――と思った矢先、紫月さんが黙ってしまった。そっぽを向いて、また本ばかりに構ってしまう。
どうしたのかと顔を覗き込んでみると、彼女は死んだ魚のような目をしていた。
「紫月さん、どしたの?」
「べつに何も」
「なんか怒らせちゃった?」
「違います」
「あ、モテるって言ったからウザかった? 言っとくけど、俺、カノジョいないよ」
「……ほんと?」
紫月さんが本から顔を上げ、こちらを見つめる。死んでいた目に、かすかな光が戻っていた。心なし嬉しそうに見える。
「うん。今まで、ひとりもカノジョいたことない」
「へー、意外です。なら、先輩もわたしとおんなじ非リアってことですね!」
軽く弾んだ声に、小さく上がる口角。
二度目の彼女のなかでいちばん嬉しそうな顔を、見ることができた。
一度目の最後に会った日の彼女とすこし被って、胸がキュッと苦しくなる。
「俺が非リアなのが、そんなに嬉しい?」
「嬉しくないですけど」
「嬉しそうに見えるんだけど」
「じゃあ先輩の目が悪いんですね。眼科に行ってください」
「辛辣だね」
「……ごめんなさい」
紫月さんは沈んだ声で言うと、またまた本を読みだしてしまった。扱い方がよくわからない。正直ちょっと面倒くさい。けれど、そんなくだらない理由で、彼女を放っておくわけにはいかなかった。このままでは、紫月さんはまた自殺するかもしれないのだから。
「しーづきさん。ちょっと聞きたいことあるんだけど」
「……なんですか」
「『レモン哀歌』って、何の本に載ってる?」
「『レモン哀歌』ですか? 高村光太郎のですよね。『智恵子抄』に載ってるはずですけど。ああ、中三の国語の教科書にも載ってますよね」
「図書室にその『智恵子抄』? ってあるかな?」
「借りられていなければ、あるんじゃないですか」
「じゃ、ちょっと探してくるねー」
「はーい……」
いったい何なんだ、と言いたげな紫月さんを横目に、俺は本棚の日本文学のコーナーに行き『智恵子抄』を探しはじめた。まだまだ他の人が図書室に来そうな気配はなく、ここには俺と紫月さんのふたりきりだ。どこだろうかとしばらく本の背表紙たちを眺めていると、ふいに細い指が顔の横を通った。
「先輩、探すの遅いですね。それでも図書委員ですか?」
紫月さんが『智恵子抄』を本棚から抜いて、「はい」と俺に渡してくる。
「あ、ありがと紫月さん。まじ感謝……」
「どういたしまして」
さっさとカウンターに帰った彼女は、椅子に座って、また『源氏物語』を読み進めた。
俺は彼女の隣に戻ると『智恵子抄』の目次を見、「レモン哀歌」のページを開き、ゆっくりと黙読していく。なんとなく、やっぱり綺麗な詩で、彼女の声に似合いそうだ。
流れでなんとなく、紫月さんの横顔を見て、そして桜色の唇に視線を向けた。
ちっちゃくて、やわらかそうだ。あの唇にキスをしたら、どんな感じなんだろう、とも――って、しばらく眺めてから、今の俺めっちゃ変態っぽくない? と気づいた。キスをしたら、なんて、まるで彼女を恋愛対象として見ているようではないか。
「先輩。なんでそんな見てくるんですか」
「え、あ。いや、紫月さんが可愛いから、つい」
「は……?」
こちらを向いた紫月さんが、目をまんまるに見開いた。彼女の黒い瞳に俺の顔が映ってるの、なんか良い。萌える。
彼女の表情が、こいつ頭おかしいんじゃない? と言っているように見える――と思ったら、彼女の頬が紅に染まりはじめた。やわらかそうな頬が、美味しそうな林檎色になる。
「紫月さん、暑い? 顔、真っ赤なんだけど……」
「あ、これは違っ、あの、見ないでください!」
紫月さんは両手で頬を覆って、勢いよく真後ろに顔を逸らした。小さな肩が小刻みに震えている。もしや泣いているのだろうかと心配になり、その肩に軽く触れてみた。
「ひゃぁっ」
「うわ。あ、ごめん」
紫月さんが上げた声が妙に色っぽくて、驚いてさっと手を離す。
心拍数が上がって、なんだかちょっと変な気を起こしそうになった。あんな声も出せるのか、と先ほどの声を思い出す。また聞きたいな。とか。また変態っぽいかもしれない。
「先輩。ほんと、やめてください」
「ごめん。もう触んない」
「違う。そうじゃなくて……っ、いや、そうなんですけど。可愛いとか、気安く言わないでください。ほんと無理」
「うん。わかった。でも、可愛いと思ってるのは本当だよ」
「だから、それ……! やめてください。照れちゃって、ずっと、熱いままになっちゃうから。駄目です」
長い黒髪の隙間から覗く耳が朱色だから、きっと頬も朱いままなのだろう。
照れている顔を見たくてたまらなくなったが、そこまでしていい関係性だとは思えなかった。なんとなく、まだ、そこまでの関係ではない気がする。
ガラリと扉が開いて、眼鏡をかけた男子生徒が入ってきた。図書室が、ふたりきりの空間ではなくなったのだ。紫月さんはまだ熱が冷めないようなので、俺がカウンター業務をするべきだろう。『智恵子抄』を閉じて端に置き、バーコードリーダーの準備をする。
「返却ねがいします」
男子生徒の持ってきた本と学生証のバーコードを、ピッと読み取っていく。ディスプレイを確認するとき、こちらを振り返った紫月さんと、一瞬だけ目が合った。
「はい。どうぞ」
「あざっしたー」
男子生徒が去っていくと、紫月さんはしっかりと顔を上げて、前を向いて姿勢正しく座り直した。まだほんのりと顔が赤いが、多少は落ち着いたのだろう。
「お見苦しい姿をお見せして、すみませんでした」
「ううん。大丈夫。もう暑くない?」
「はい。大丈夫です」
彼女が『源氏物語』を机の隅に置き直すのを見て、ふたりとも、ただの「図書委員」に戻ったのだな、と思った。また扉が開いて、今度は女子生徒が入ってくる。そろそろ図書室が賑わいはじめる頃だろう。俺は紫月さんの隣で、真面目に図書委員の業務に励んだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
歌にかける思い~Nコン最後の夏~
ユキウサギ
青春
学校の中でも特に人気のない部活、合唱部。
副部長の時田 優良(ときた ゆら)は合唱部がバカにされるのが嫌だった。
気がつけばもう3年生。
毎年出てたNコンに参加するのも、もう今年で最後。
全部員11名、皆仲がいい以外に取得はない。
そんな合唱部の3年生を中心に描いた、Nコンにかける最後の夏の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる