上 下
37 / 49

36話・アシュリーの相手

しおりを挟む
 二日ぶりにアーネスト先生の授業が受けられることになった。



「こんにちは、アシュリー」

「こんにちは、先生」



 先生は椅子に座ると、気遣わしげにアシュリーを見つめた。



「体調はどうだ?」

「もう大丈夫です!」

「そうか、初めての風邪はどうだった?」

「……もう懲りました」



 アシュリーがそう言うと、先生はふっと笑った。



「でもまたやりそうだな。君は」

 結構その台詞は鋭い、とアシュリーは思う。風邪は辛かったが、雨の中でジャンと抱き合うのは癖になりそうなほど興奮した。



「雨の中で何をしていたんだ?」

 先生は鋭い目で見てくる。



 アシュリーがかぁっと赤くなると、先生はやれやれといった顔をする。



「あの、話を聞いてきました」

「ん?」



「いなくなった庭師のこと……」

「そうか……」

 先生の目に少しだけ怯えるような色が浮かんだ気がした。それでも「聞かせてくれ」と促され、コビーから聞いた話をすべて伝える。



「なるほど嫉妬、か……その、ジムさんと家族には申し訳ないことをしてしまったな」

「そんな……」



 アーネスト先生は生まれる前のことだし、アーネスト家の人々も没落して苦労したはずだ。



「それを言うならあたしたちフェアリーだって……」



 加護を与えて、そのあと結局奪ってしまうなら、それはいいことと言えるのか……。



「あ!でもジムさんは不幸じゃなかったはずだって言ってました!恨み言も聞いたことがないって」

「そうか、そうならいいが……」

 先生は納得はしていないようだが、それについてアシュリーと議論する気はなさそうだ。



「フューシャは……」

「ん?」

「フューシャはどうして、人間になったんでしょう……」

 アシュリーは心に引っかかっていた疑問を口にした。



「そうだな……彼女もうっかり何か食べた可能性もなきにしもあらずだが」

「ええ……?」



 たしかにないとは言い切れない。アシュリーはフェアリーたちの中でも特に破天荒だとか、変わり者だとは言われていたが、元来フェアリーたちはみんな好奇心旺盛で気ままな存在だから……。



「まあ、冗談はさておき」

「えっ」

「私もその理由について考えていた。庭師がいなくなり、荒れ果てたときにフェアリーたちがいなくなったことを思えば……フューシャやアシュリーは、フェアリーの花園を守るように行動しているのではないかと」

「花園を、守る……?」



 花園の持ち主には繁栄を、手入れをする庭師には緑を守る力を、加護として与えることで、共存しているのではないか、というのが先生の推論だった。



「あたし、そんなこと何も……」

「君がそう考えて行動していると言っているわけではないが、そう動くように何かに仕向けられている、運命づけられているのでは?」

「そういえば……」



 アドラスの街の古い妖精が言った『嵐の子よ、あるがままであれ、なるべきようになる』という言葉……あれはそういう意味だったのか……。



 その話をすると「あるがままであれ……」と先生はつぶやいて考えこんでいた。



「まあ、なるべきようになる、というならそうなんだろう」

「えっ」

 先生の少し投げやりな言い方にアシュリーはびっくりする。



「君の相手はやはり私ではないかもしれないな」

 そう言って立ち上がった先生が、なぜだか少し寂しそうに見えて、アシュリーは思わずその手を取った。



「先生……あたし、運命とかよくわからない……だけど、あたしは多分ずっとこの屋敷にいると思います」

「そうか……」

「でもあたしは先生も好き……」

 そう言ってアシュリーは立ち上がり、アーネスト先生の背中に手を回した。



「ありがとう、アシュリー」

 先生はしばらくそのままで、アシュリーの背中を撫でていたが「時間だ」と言って帰って行ってしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

処理中です...