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24話・あるがままであれ

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 さすがのアシュリーもエイプリルまで泣かせてしまったことに堪えてしまった。



(どうしよう……)



 やってしまったことは取り返しがつかない。でも、またうっかり屋敷の人たちを傷つけるのが怖い。



(やっぱり花園に帰れるよう何とかしなきゃ……)



 フェアリーたちは何か答えを見つけてくれただろうか。



(ジャンに会いに行こう)



 花園や温室のある北側の玄関に向かおうとした時、ホールでディーンと出くわしそうになった。アシュリーはエイプリルの話を思い出してつい隠れてしまう。



(ああ、もう!あたし、何やってるの)



 自分らしくないと思うけれど、どう振舞っていいか惑ってしまっている。



 ディーンが通り過ぎたのを見届けると、一気に温室に向かって駆けだした。





「ジャン……!!」



 温室でしばらく待っていると、午前の作業を終えたジャンが戻ってきた。



「アシュリー……」



 ジャンは微妙な顔でアシュリーに向き合った。



「あのね、ジャン……」

 アシュリーが口を開きかけた時、ジャンがアシュリーの口元に向かって手を上げた。



「アシュリー、俺も話がある」

「え?」

「先にいいか?」

「うん……」



 真剣な顔に少し不安になる。



「フェアリーたちが帰ってきたんだ」

「!!  ……ちょうどよかった」

「そうか……」

「みんなはなんて?」

「アドラスという街に長老格の古いフェアリーがいるらしい。その人にアシュリーの事情を尋ねに行ったと」

「聞いたことあるわ!」



 そこでジャンは少し言いづらそうな顔をするので、アシュリーは不安になる。



「お願い、教えて」

「ああ……。そのフェアリーからの言葉は、『嵐の子、あるがままであれ、なるべきようになる』。だそうだ」

「え……? それだけ? どういうこと?」

「無理に戻ろうとせず、流れに身を任せるということじゃないのか」

「そんなぁ……」



アシュリーは途方に暮れてしまう。



「それっていずれは戻れるってことなのかなぁ……」

「わからんな」

「……」

「……戻りたくなったのか?」

「戻るしかないの……あたし、エルナンもエイプリルも傷つけてしまった」



 うつむくアシュリーの背中にそっと手を当てると、ジャンは温室の裏の椅子に導いて座らせてくれる。そうして昨日からの出来事をアシュリーが全て話す間、黙って聞いていてくれた。



「そうか」

「あたし、もう屋敷にいちゃダメだよね……」

「いや……そんなことはないだろう?」

「……え?」



 アシュリーが驚いてジャンの顔を見ると、優しい顔で見つめ返してくれる。



「お前は、フェアリーだから、人間のことがわからないから、そのせいで相手を傷つけたと思っているかもしれないがな、たとえ人と人同士でも理解できず傷つけてしまうことはあるんだ」

「そう、なの……?」

「ああ。その度に逃げ出していたらキリがない」

「でも……」

「話し合って、そして許し合って人は付き合っていくもんだ。どうしても許せないこともあるが……。もっと話してみたらいい。お坊ちゃんもお嬢さんもお前を理解しようと思うから『アシュリーは悪くない』って言ったんじゃないのか?」



 ジャンの言葉を一生懸命理解しようと頑張ってみる。が、やはりアシュリーには人としての経験値が足りない。



「あたし、あたしには難しいよ……」

「あせらなくていい。もし、どうしても屋敷にいられなくなったら、俺がなんとかするから」



 なんとかできるのだろうか。ジャンがどういうことを考えているのかわからなかったが、ジャンがアシュリーの頭をポンポンと撫でるようにさわってから立ち上がったので、アシュリーも促されるように立ち、屋敷に戻ることにした。





「あ……」



 屋敷のホールに入った途端またディーンに会ってしまった。今度は正面から出くわして隠れる間もない。



「……なんだ?今度は隠れないのか?」

「えっ? あ、あの、違って、その……」

「……アシュリー、少し話せないか?」

「うん……話す」



 ジャンもみんなと話し合えと言っていた。ディーンとも話した方がいいかもしれない、そう思った。



 いつか話した芝生に出て、ふたりで腰を下ろす。



「今日はみんな様子がおかしいんだよな」

「うん……あたしのせいなの……」



 はぁ……とディーンがため息をつく。



「前も言ったけど。アシュリーの行動は目立ってるんだ。どこで見られてるかわからないってこと、覚えておいてほしい。いつもうわさの的になってるから……」

「はい……」

「僕はもう諦めるよ」

「え?」

「結婚したいって言ったこと、忘れてくれていい」

「……」



 アシュリーは何と返していいかわからず、少し黙っていた。



「前にさ、アシュリーに……その、くち、口づけられた時、僕は、アシュリーが僕と同じ気持ちだと思ったんだ」

「……同じ気持ち?」

「うん。僕はアシュリーが初恋だった。一時なぜかフェアリーを信じなくなって、記憶がおぼろげになったんだ。でも、アシュリーが人になって戻ってきてくれて、やっぱり好きだと思った」

「うん、あたしもディーンのこと大好き」

「そうか……うん、ありがとう」



 ディーンはスッと立ち上がった。



「でも、その『好き』は僕の『好き』とは違うんだ」

「ディーン……」

「大丈夫。君の『好き』に合わせるよ」



 アシュリーには好きの違いと言われてもわからなかった。ただ去っていくディーンの背中を見ていると無性に悲しくなった。
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