┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 19

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 結論から言うと、未曾有の大騒ぎとなった第一スタジオは使用中止に。収録は後日へと延期になり、一同は解散を余儀なくされた。理由は三つだ。
 一つ目は、体調不良を訴えた人が少なくなかったこと。安全な飲み物が入っていてしかるべき器からこぼれ出た液体。注目の的に、すでに飲み食いを始めていた人々の顔はほぼ全員が真っ青になったと言っても過言ではなかった。口元を押さえ、我先にと駆け出した先は間違いなくトイレだろう。いつも通りのまかないだと信じていたそれに、実は排泄物が混ざっていたとしたら。心中お察し案件である。
 二つ目は、飲み物の中身がいつ、どこで挿げ替えられたのかをスタッフが追うため。まだ手をつけていなかった面々と手分けして配給された飲食物をすべて確認し、異常の有無を調べた。結果、わかったことはハマルの飲み物にだけ不幸が起こったという事実だった。彼らは発注先や配達人などの関係者に電話なり直接来訪したりなどをして詳しく追求するらしい。
 そして、三つ目が。

「こ、こんなことになっちゃって、ハマルくんも気分が悪くなったでしょ? 気分が悪いままじゃあいやだと思うからさ……ま、また後日に改めて収録を再開しましょうぞ。も、もちろん今回の分もきっちりスコアは振りこんでおきますですから、はい。ハマルくんの要望もできるだけ通しますんで、だから、…………だからお願い! 降りるなんて言わないで!!!」

 冷や汗をかきまくった監督の強い希望……というか懇願によるものだった。土下座をしてまで頼みこむ姿には、さすがのハマルも呆れを禁じ得ない。
 ルクバトを通してまでヒロインのボイスを依頼したこだわりの強い監督は、ハマルが渋々役を引き受けたことを身をもって知っている。この件で気分を害し、担当キャラクターから手を引くことをなによりも危惧しているのだ。もっとも、ハマルとしては一度仕事を引き受けた以上、降板されない限り手を抜かずにやりきるつもりではあるのでまったくの杞憂なのだが。
 たしかに不快な気持ちにはなったが、ズベンのおかげで口にすることもなかった。引き続き声をあてる余力はあるが、周囲が被害者ハマル本人以上に精神的ダメージを受けてそれどころではないとくれば、従うしかない。

「それにしてもよくわかったねー。ハマルの飲み物に変なのが入ってたってこと」

 頭のうしろで指を組んだルクバトが感心した声を上げる。許可証を返却し、オフィスビルをあとにした三人は現在カロへと向かう道中だ。不意にできた空き時間、三人そろってこのあとの用事もないので、スピカの店に寄って気分転換の一時を交わす予定である。

「水の音やにおいにかすかな違和感を感じたものですから」

 立役者であるズベンはあくまで誉れにひかえめな姿勢だ。彼としてはあの程度、特別取り沙汰することでもないのだろう。

「礼を言う。お前のおかげであれを口にせずに済んだ。ありがとう」

「ハマル様……! なんというありがたきお言葉……!」

 ただ、ハマルが感謝の言葉を伝えた時だけは感極まったような声音と熱い視線を向けてくる。

「ほーんと、ズベンってハマルのこと好きすぎだよねぇ」

「当然です。私に永久に仕えたいと思わせる、ただ一人の主となるべきお方ですから。どうです、ハマル様。貴方の身の周りを懇切丁寧にお世話し、安心と安全を保証するこの私を永劫に雇う気にはなりませんか?」

「ならないし金輪際その予定はない」

「あははっ、ウケる! ズベン振られてるし!」

 冗談を交え、笑うこの二人が先ほどまで荒ぶっていたなどと、一体だれが信じるか。内心はともかく、表面上はいつも通りを装ったズベンとルクバトにハマルはひっそりと息を吐いた。
 スタジオのやり取りの中で一番肝を冷やしたのは、他ならない二人の怒りである。普段は飄々として自由に振る舞い、他人に広く浅く接するように見せるルクバトは、仕事の相棒に対するたちの悪いいやがらせに本気で激怒して武器まで具現化したし、ハマルばかりを案ずるズベンもまた、仮面の下の眼光を鋭くしてスタッフや声優たちの一挙手一投足を余さずに監視していた。
 ルクバトもズベンもランキングの上位席を軽々とつかむ大物である。そんな彼らににらまれて、あの場にいた者はハマルを除き、全員生きた心地がしなかったに違いない。
 ハマルとしても別の意味で考えることがある。もちろん、自分の飲み物に仕込まれていたという点だ。

「……」

 連日続く写真や手紙の投函とかけられそうになった液体、ばらまかれた偽画像。これらと密接に関わるとしたら、放っておくのはまずくなった。相手はついに仕事場まで手を伸ばし始めたのだ。自分一人、それもプライベートの範囲での害なら無視をして周囲から人を退けておけばいいが、こうなると無関係の人にまで危害を加えられる恐れがある。
 ハマルはまばたきに見せかけて瞼を閉じた。一秒ほどで開いた紅い目には苛烈に燃える炎が宿っている。


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