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ライゼン通りのお針子さん7 ~幸せのシンフォニア~
十五章 告白の時
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二人の姿はレストランにあった。
「ねえ、このレストラン高いんじゃないの?」
「大丈夫だよ。ほら親子連れも多いだろう。ここはそこまで高くないから心配しなくていいよ」
心配して尋ねるアイリスへとキースが笑顔で答える。
「ご注文はお決まりですか」
「はい。このステーキセット二つお願いします」
ウエイトレスがやって来ると尋ねた。それに彼がメニューを指さしながら答える。
「お飲み物のご注文は宜しかったでしょうか?」
続けてウエイトレスが尋ねる。
「では炭酸レモンを二つ」
「畏まりました炭酸レモンを二つですね」
キースの言葉に復唱すると彼女は厨房の方へと立ち去って行った。
「ステーキセットなんてそんな高そうな料理……本当に無理していない?」
「大丈夫だよ。心配ならほらメニューを見てごらんよ」
彼女の言葉に彼が笑顔で答えメニュー表を差し出す。
「本当だ。ちょっと値ははるけれど手が出せない額ではないわね」
「だから言っただろう。大丈夫だって」
自分の目で見たことでようやく納得するアイリスへとキースが小さく笑う。
「お待たせいたしました。ステーキセットになります」
暫くするとカートを引きながらウエイトレスがやって来る。
机の上に並べられるステーキセットにアイリスは目を丸くした。
「す、凄い。あの値段でパン三つにステーキにミニサラダ。ちょっとしたデザートがついてるなんて」
「さ、アイリス食べよう」
驚いている彼女へと彼が言ってナイフとホークを手に取る。それを見たアイリスも早速ステーキを一口分にカットして口へと放り込む。
「うん。美味しい! お肉が柔らかくて口の中でとろける」
「アイリス遠慮しないでたくさん食べてね」
「うん」
こうして楽しい昼食を取った後二人は噴水広場へと向かう。
「噴水広場では何をするの?」
「この近くにお店があるんだ。そこならアイリスが欲しい物も見つかるかもしれない」
アイリスの言葉にキースが答える。
「私が欲しい物なんて何も無いわよ」
「まぁ、そう言わずに。行こう」
二人はお店へと向けて歩き出す。辿り着いたお店は噴水広場の中心にあり、出来てから数年しかたっていないまだ新しいお店だった。
「いらっしゃいませ――っ!?」
「あ、あれ? ここってハンスさんのお店」
「アイリス知っているお店だったの?」
アイリスの姿に驚く店主へと彼女も目を丸くして呟く。知り合い同士であることに気付いたキースが尋ねる。
「え、えぇ。仕立て屋に納品してもらう品はここから買い付けているの」
「そ、そうだったんんだ」
「う、うぅん。アイリスさんよくいらして下さいました。本日はどのような御用で?」
二人のやりとりを見ていた店主が小さく咳払いをして落ち着きを取り戻すと、癖なのかズレてもいないモノクルをくいっとあげながら話しかけてきた。
「あ、えっと。今日はお仕事とは関係なくて……」
「僕が連れてきたんです。アイリスに好きなものを買ってあげたくて」
「そうでしたか。どうぞゆっくりご覧になってください」
アイリスの言葉にキースも続けて説明する。それに納得した店主が微笑み店の奥へと戻っていった。
「アイリス。好きな物選びなよ」
「好きなのって言われても……」
何しろ女の子らしく着飾ったりなんてしないアイリスは何を買えばいいのだろうとお店の中をぐるりと見渡す。
「あ、これなら仕事に使えそうね」
「本当にアイリスはお仕事の事しか頭にないんだね」
と、裁縫コーナーにある待ち針のケースを手に取り微笑む。その様子に彼が小さく笑い呟く。
「それじゃあそれを買おうか」
「えぇ」
キースの言葉にアイリスも頷くと会計へと進む。
「これを下さい」
「はい。あ、それとアイリスさんこちらは何時も贔屓にして頂いているお礼です。どうぞお持ちください」
彼がカウンターに商品を置くと店主が棚の奥からクッキーを持ってきて差し出す。
「え、でも」
「お気になさらず。どうぞお持ちください」
躊躇う彼女へと店主が微笑みクッキーをさらに差し出して来た。
「アイリスこういう時は貰っておくのが礼儀だと思うよ」
「それでは、有難う御座います」
キースの言葉に頷きクッキーを貰う。
「またのご来店お待ちいたしております」
店主の声を聞きながら二人はお店を出て今度は朝日ヶ丘テラスへと向かって歩いて行った。
「……」
「朝日ヶ丘テラスからは夕日が見れないのが残念よね」
朝日ヶ丘テラスまでくると何故か緊張した様子で黙り込むキース。彼の様子に気付かずにアイリスはそう声をかけた。
「……」
「キース?」
返事がない様子に不思議に思い隣にいる彼の方へと顔を向けるとそこに姿がなく驚いて周りを探すと背後に佇むキースがいて彼女はそちらへと振り返る。
「キース如何したのよ?」
「あ、あのさ。アイリス。僕達付き合い始めてまだ一年も経っていないんだけどさ。でもお互いの気持ちは本物だと思うんだ」
「うん」
アイリスの言葉に彼がようやく口を開くがその内容がよく分からなくて彼女はあいまいに返事をした。
「そ、それで。その。これ以上待っていてもこの関係が変わることはないと思うんだよね」
「そうね。それで、何が言いたいの」
彼の言わんとすることがよく分からなくてアイリスは首をかしげる。
「アイリス。ぼ、僕……僕と……っぅ」
「何?」
喉元まで出かかった言葉を伝えられず頬を赤らめ黙り込む様子に彼女は怪訝そうに眉を寄せた。
「だ、だから。その……ぼ、僕と結婚して下さい!」
「!?」
キースが言うと片膝をついてどこから取り出したのか指輪の入ったケースをアイリスへと向けて差し出す。
「……」
「ア、アイリス?」
黙り込んだまま時間が進んでいき不安に思い彼女の顔を見上げるキース。
「そ、そんなの。答えは勿論はい! 喜んで」
そこには顔から湯気が出そうなくらい高揚した笑顔を向けるアイリスの姿があってキースは言われた言葉に一瞬固まる。
「ほ、本当に。良いんだね?」
「えぇ」
「っ、じ、じゃあ。この指輪をはめても?」
「勿論」
ぎこちないやり取りをしながら彼が立ち上がると彼女の指へとリングをはめた。
「ふふ……断られたらどうしようかと思ったよ」
「断るわけない。だって私キース以外の人からこんなこと言われたらって考えても全然心が動く事なさそうなんだもの」
キースの言葉にアイリスも笑いながら答える。
こうして二人は結婚することとなった。
「ねえ、このレストラン高いんじゃないの?」
「大丈夫だよ。ほら親子連れも多いだろう。ここはそこまで高くないから心配しなくていいよ」
心配して尋ねるアイリスへとキースが笑顔で答える。
「ご注文はお決まりですか」
「はい。このステーキセット二つお願いします」
ウエイトレスがやって来ると尋ねた。それに彼がメニューを指さしながら答える。
「お飲み物のご注文は宜しかったでしょうか?」
続けてウエイトレスが尋ねる。
「では炭酸レモンを二つ」
「畏まりました炭酸レモンを二つですね」
キースの言葉に復唱すると彼女は厨房の方へと立ち去って行った。
「ステーキセットなんてそんな高そうな料理……本当に無理していない?」
「大丈夫だよ。心配ならほらメニューを見てごらんよ」
彼女の言葉に彼が笑顔で答えメニュー表を差し出す。
「本当だ。ちょっと値ははるけれど手が出せない額ではないわね」
「だから言っただろう。大丈夫だって」
自分の目で見たことでようやく納得するアイリスへとキースが小さく笑う。
「お待たせいたしました。ステーキセットになります」
暫くするとカートを引きながらウエイトレスがやって来る。
机の上に並べられるステーキセットにアイリスは目を丸くした。
「す、凄い。あの値段でパン三つにステーキにミニサラダ。ちょっとしたデザートがついてるなんて」
「さ、アイリス食べよう」
驚いている彼女へと彼が言ってナイフとホークを手に取る。それを見たアイリスも早速ステーキを一口分にカットして口へと放り込む。
「うん。美味しい! お肉が柔らかくて口の中でとろける」
「アイリス遠慮しないでたくさん食べてね」
「うん」
こうして楽しい昼食を取った後二人は噴水広場へと向かう。
「噴水広場では何をするの?」
「この近くにお店があるんだ。そこならアイリスが欲しい物も見つかるかもしれない」
アイリスの言葉にキースが答える。
「私が欲しい物なんて何も無いわよ」
「まぁ、そう言わずに。行こう」
二人はお店へと向けて歩き出す。辿り着いたお店は噴水広場の中心にあり、出来てから数年しかたっていないまだ新しいお店だった。
「いらっしゃいませ――っ!?」
「あ、あれ? ここってハンスさんのお店」
「アイリス知っているお店だったの?」
アイリスの姿に驚く店主へと彼女も目を丸くして呟く。知り合い同士であることに気付いたキースが尋ねる。
「え、えぇ。仕立て屋に納品してもらう品はここから買い付けているの」
「そ、そうだったんんだ」
「う、うぅん。アイリスさんよくいらして下さいました。本日はどのような御用で?」
二人のやりとりを見ていた店主が小さく咳払いをして落ち着きを取り戻すと、癖なのかズレてもいないモノクルをくいっとあげながら話しかけてきた。
「あ、えっと。今日はお仕事とは関係なくて……」
「僕が連れてきたんです。アイリスに好きなものを買ってあげたくて」
「そうでしたか。どうぞゆっくりご覧になってください」
アイリスの言葉にキースも続けて説明する。それに納得した店主が微笑み店の奥へと戻っていった。
「アイリス。好きな物選びなよ」
「好きなのって言われても……」
何しろ女の子らしく着飾ったりなんてしないアイリスは何を買えばいいのだろうとお店の中をぐるりと見渡す。
「あ、これなら仕事に使えそうね」
「本当にアイリスはお仕事の事しか頭にないんだね」
と、裁縫コーナーにある待ち針のケースを手に取り微笑む。その様子に彼が小さく笑い呟く。
「それじゃあそれを買おうか」
「えぇ」
キースの言葉にアイリスも頷くと会計へと進む。
「これを下さい」
「はい。あ、それとアイリスさんこちらは何時も贔屓にして頂いているお礼です。どうぞお持ちください」
彼がカウンターに商品を置くと店主が棚の奥からクッキーを持ってきて差し出す。
「え、でも」
「お気になさらず。どうぞお持ちください」
躊躇う彼女へと店主が微笑みクッキーをさらに差し出して来た。
「アイリスこういう時は貰っておくのが礼儀だと思うよ」
「それでは、有難う御座います」
キースの言葉に頷きクッキーを貰う。
「またのご来店お待ちいたしております」
店主の声を聞きながら二人はお店を出て今度は朝日ヶ丘テラスへと向かって歩いて行った。
「……」
「朝日ヶ丘テラスからは夕日が見れないのが残念よね」
朝日ヶ丘テラスまでくると何故か緊張した様子で黙り込むキース。彼の様子に気付かずにアイリスはそう声をかけた。
「……」
「キース?」
返事がない様子に不思議に思い隣にいる彼の方へと顔を向けるとそこに姿がなく驚いて周りを探すと背後に佇むキースがいて彼女はそちらへと振り返る。
「キース如何したのよ?」
「あ、あのさ。アイリス。僕達付き合い始めてまだ一年も経っていないんだけどさ。でもお互いの気持ちは本物だと思うんだ」
「うん」
アイリスの言葉に彼がようやく口を開くがその内容がよく分からなくて彼女はあいまいに返事をした。
「そ、それで。その。これ以上待っていてもこの関係が変わることはないと思うんだよね」
「そうね。それで、何が言いたいの」
彼の言わんとすることがよく分からなくてアイリスは首をかしげる。
「アイリス。ぼ、僕……僕と……っぅ」
「何?」
喉元まで出かかった言葉を伝えられず頬を赤らめ黙り込む様子に彼女は怪訝そうに眉を寄せた。
「だ、だから。その……ぼ、僕と結婚して下さい!」
「!?」
キースが言うと片膝をついてどこから取り出したのか指輪の入ったケースをアイリスへと向けて差し出す。
「……」
「ア、アイリス?」
黙り込んだまま時間が進んでいき不安に思い彼女の顔を見上げるキース。
「そ、そんなの。答えは勿論はい! 喜んで」
そこには顔から湯気が出そうなくらい高揚した笑顔を向けるアイリスの姿があってキースは言われた言葉に一瞬固まる。
「ほ、本当に。良いんだね?」
「えぇ」
「っ、じ、じゃあ。この指輪をはめても?」
「勿論」
ぎこちないやり取りをしながら彼が立ち上がると彼女の指へとリングをはめた。
「ふふ……断られたらどうしようかと思ったよ」
「断るわけない。だって私キース以外の人からこんなこと言われたらって考えても全然心が動く事なさそうなんだもの」
キースの言葉にアイリスも笑いながら答える。
こうして二人は結婚することとなった。
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