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ライゼン通りのお針子さん6  ~春色の青春物語~

十四章 その後のルークとイリス

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 冬に近づき少しずつ寒くなって来たある日の仕立て屋アイリス。

「やあ、子猫ちゃん」

「お邪魔致します」

来客を知らせる鈴の音が鳴り響きアイリスは扉の方を見た。

「いらっしゃいませって、あルークさんそれにイリス様も」

店内に入って来たのはイリスとルークで彼女はそちらへと近寄る。

「あれからどうなりましたか?」

「いや、イリスってさ付き合い始めたら思っていたよりも可愛くてね。勿論子猫ちゃんの事を考えると胸が痛むほど悩んでしまったけど今はイリスと付き合えてよかったなんて思っているよ」

「わたくしルーク様とデートしている時が一番幸せなのです。これからもこの関係が続いて行ったらと思いますの」

「なんだかんだ言ってラブラブなんじゃないですか」

二人の話にアイリスは小さく笑う。

「アイリスは俺にとって一番大事な人だ」

「わたくしにとってもアイリスさんはとても大切な人ですですから……」

ルークが言うとイリスもそう話し二人は頷き合う。

「アイリスを遠くから見守ろうファンクラブに入る事で同意したんだ」

「アイリスさんを遠くから見守ろうファンクラブに入る事で同意しましたの」

「え、え? 何それ。ファンクラブ?」

二人の言葉に盛大に驚いて口をあんぐりと開ける。

「ファンクラブ会員の掟としてアイリスとの恋愛は出来ないが、遠くから見守る事でいつでもアイリスを愛でることが出来る」

「アイリスさんを愛でる事でルーク様も心が休まりわたくしとのお付き合いにも身が入るという事ですわ」

「な、何か。う~ん」

ルークとイリスの言葉にアイリスは苦笑して黙り込む。

「と、言う訳で。今後もイリスと恋人として付き合いは続けて行くことになった」

「何時か結婚しましたらわたくし達の恋のキューピットであるアイリスさんは絶対に式にお誘いしますので招待状を楽しみにしていらして下さいね」

笑顔で話しを続ける二人の様子に彼女は「まぁ、良いか」と思い見守る。

「それじゃあ、またね子猫ちゃん」

「また会いに来ますわ」

ルークとイリスが口々に言うと店を出て行く。

「何だか変な展開になってしまいましたね」

「そうだね。ルークさんも今はまだ自分の本当の気持ちに気付いていないようだけれど、いつかちゃんとお嬢様と向き合って付き合えるようになるんじゃないかな」

カウンターにいるイクトへと声をかけると彼も小さく笑いながら頷いた。

「ルークさんイリス様のこと好きになってくれると良いですよね」

「好きではあると思うよ。ただ、まだ未練が残っているんだろうね」

「未練って?」

イクトの言葉にアイリスは不思議そうに首をかしげる。

「う~ん。まぁ、もう話してもいいかな。ルークさんはアイリスの事好きだったんだと思う。だからお嬢様の事好きになった自分に葛藤を抱いているんだと思う。まぁ、そのうちそれも無くなる日が来るだろうけれどね」

「ルークさんが私のこと好きだったって?」

「そうだよ。だからアイリスに会いに来ていたんだと思う」

彼の言葉に驚く彼女へとイクトが小さく笑いながら話す。

「私、全然気が付きませんでした」

「そう落ち込まないで。まぁ、あの様子なら気にしなくても大丈夫だと思うよ。ルークさんもようやく自分の道を歩き始めたみたいだ」

申し訳なさそうに落ち込むアイリスに彼が優しい口調で言った。

「ルークさんとイリス様結ばれると良いですね」

「そうだね」

気を取り直した彼女の言葉にイクトも小さく頷く。

「恋愛と言えばマーガレット様はどうなったんでしょうね」

「そうだね。ジョニーさんと仲良くやっていると良いけれど」

アイリスはそう言えばと思い出した様子で話す。その言葉に彼も呟いた。

「マーガレット様嫌がっていましたから今もジョニーさんの求婚を拒んでるんですかね」

「さて、それは本人に話を聞いてみないと分からないからね」

彼女の言葉にイクトが困った顔をして話す。

「今度マーガレット様がいらしたらお話聞いてみようかな」

「アイリスも恋の話は好きなのかな?」

アイリスの呟きに彼が問いかける。

「好きというか、このお店で出会った人達がどうなっていくのか気になるんです。私も友人の一人として見守っていきたいなって」

「そうか。それなら俺も見守って行こうかな。アイリスの恋愛を」

笑顔で語った彼女へとイクトもそう言って大きく頷く。

「へ?」

「はははっ。冗談ではないよ」

驚くアイリスへと盛大に笑いながら彼が言った。

「もう、イクトさんたら。私はこのお店でお仕事をしていたいんです。だから恋なんて……今はしないです?」

「アイリス。叔父として言わせてもらえるのであれば、君には幸せになってもらいたいと思っている。だから幸せを見つけて欲しいんだ」

「イクトさん……」

からかわれていると思いながら答えると真面目な顔になったイクトがそう語る。その言葉にアイリスは彼の瞳をじっと見詰めた。

「私、このお店で働けている今が一番幸せなんですよ」

「うん」

彼女の言葉に小さく頷く。

「だからこれ以上の幸せを貰ってしまったら欲張りです」

「欲張りでもいいんだよ。アイリスは、幸せであっていいんだ」

「イクトさん?」

何だかイクトの様子がおかしくて不思議に思い見詰めると複雑な表情をした彼の顔が見えてアイリスは息を呑む。

「俺は、君が結婚して幸せになる姿を見てみたい。わがままを聞いてもらえないかな?」

「……ごめんなさい。その想いに私は……今は、答えられません」

「うん、ごめん。困らせてしまったね。さ、仕事に戻ろう」

俯く彼女へと困らせてしまったことに謝り仕事に戻るイクト。

(……イクトさんは私が幸せになる事を望んでいるんだ。私、イクトさんの願いに答えられるかな?)

アイリスは一人考えてみたが自分が恋愛している姿も結婚している姿も思い浮かばなくて小さく首を振った。
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