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ライゼン通りのお針子さん6 ~春色の青春物語~
十一章 心配事
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夏祭りも終り季節は移り変わって秋になった。ある日の昼下がり。
「はぁ……」
「まぁ、アイリスさん。溜息なんてついてどうしたのですか?」
「何か心配事でもあるのですか。それならば僕達がお話を聞きますよ」
盛大に溜息を吐いたアイリスに心配そうな声がかけられる。
「あ、ジョン様、シュテナ様いらっしゃいませ。久しぶりですね」
「次期国王として父の仕事を手伝うようになったので中々抜け出せなくなりましてね」
「わたしも婚約者とのお見合いだのどこどこの貴族との交流会だのと王族の務めとはいえいろんなところに顔を出さないと行けなくて大変で……」
お客の顔を見た彼女の言葉に二人がそれぞれ答えた。
「王族って大変なんですね」
「そうなんです。毎日忙しくてもうくたびれますよ」
「でも今日はようやく隙を見つけたのでこうしてアイリスさんの顔を見に来ました」
アイリスの言葉にジョルジュが答えるとシュテリーナが笑顔で言う。
「折角いらして下さったのですからゆっくりしていって下さいね」
「はい。それで溜息の理由は何だったのですか?」
彼女へと王子が尋ねる。その言葉に少し考えてからアイリスは口を開いた。
「実は、最近イクトさんの様子がおかしくて」
「おかしいとはどういう事ですか?」
彼女の言葉に王女が不思議そうに尋ねる。
「夏祭り以来私を避けているように感じるんです」
「まさか、イクトさんがアイリスさんを避けているだなんてそんな事」
「そうですよ。仲良しで微笑ましいと思うほどお二人の仲は良好ではありませんか」
アイリスの言葉に二人が驚いて尋ねるように言う。
「何だかよそよそしい感じなんです。この前もマーガレット様からコンサートのチケットが余っているからイクトさんと二人で行ってきたらと言って貰ったのですが、自分はいけないから代わりにキースを誘って行って来いって」
「まぁ」
「成る程」
彼女の言葉に二人は何かに気付いて微笑ましいと言わんばかりに笑う。
「ふふっ。イクトさんはアイリスさんと距離を置いているわけではないと思いますよ」
「きっと色々と事情がおありなのでしょう。イクトさんも忙しい人ですから」
「そう言えば確かにイクトさん役員になったから一年を通して忙しくなるって話していたような」
ニコニコと笑う二人の様子に気付くことなくアイリスは呟く。
「そうですよ。役員のお勤めで忙しいだけですよ。それに僕もアイリスさんはイクトさんに甘えすぎていると思うんです。ですからそろそろイクトさん以外の人とも遊ぶ方法を知ったほうがよろしいかと」
「えぇ。きっとそのほうのが楽しみが増えますわ」
「そ、そうかな。そう言われてみればこの国に来てから友達とどこかに遊びに行った経験てないかも」
ジョルジュとシュテリーナの言葉に彼女は言われてはじめて気づいたと言った顔で話す。
「イクトさんもその事を気にしていらっしゃるのだと思いますよ」
「えぇ。ですからキースさんと思いっきり遊んで楽しんでいらしたらよろしいのではないでしょうか」
二人の話を聞いていてそうかと納得すると悩みが解決して笑顔になる。
「ジョン様、シュテナ様お話聞いてくださり有り難う御座います。私、何となくイクトさんが距離を置いている理由が分かったかもしれません。もっと友達と遊んでほしかったんですね」
「そうだと思いますよ」
「心配事が解決して良かったです」
アイリスの言葉にジョルジュとシュテリーナがにこりと笑い答えた。
「失礼する。ジョン様、シュテナ様。やはりこちらでしたか」
「「ジャスティン」」
「あ、ジャスティンさんいらっしゃいませ」
そこにジャスティンがやってきて二人はぎょっとする。アイリスも気付き声をかけた。
「至急お城へとお戻りください」
「何かあったのか?」
彼の言葉に王子が尋ねるとちらりとアイリスを見たジャスティンが考えてから口を開く。
「国王陛下がお二人に大切なお話があるとか」
「「!?」」
彼の言葉に二人は険しい顔になり納得する。
「分かった。それではアイリスさんまた遊びに来ます」
「わたしも隙を見つけて遊びに来ますね」
「はい。またのご来店お待ちいたしております」
笑顔に戻った二人がアイリスに言うと店を出て行った。
「アイリス君にまた頼みがある。騎士団の服百着をお願いしたい」
「騎士団の服百着ですか。でもこの季節に何故?」
新人が入隊してくる春なら分かるが何故秋のこの時期にと不思議に思い尋ねる。
「あぁ。実は遠方訓練に行くことになってな。それで君の腕を見込んで隊員達の服を作ってもらいたいと思ったんだ」
「遠方訓練? つまり国の外に出ての訓練ってことですか」
ジャスティンの言葉に彼女はさらに不思議そうな顔で問いかけた。
「そうなるな」
「それは凄いですね。分かりました。騎士団の服百着心を込めて作らせて頂きます」
小さく頷いた彼へとアイリスは了承して微笑む。
「よろしく頼む。そうだなどんな感じに作るかは任せるが訓練の際にダメージを受けても破けたりしない丈夫な服が好ましいだろう。そう言う感じでお願いする」
「はい」
ジャスティンの要望をメモ用紙に走り書きをして記入する。
「遠方訓練は三週間後になるからそれまでにお願いしたい。では、俺はこれで失礼する」
「さて、百着か頑張って作ろう」
そう呟くと作業部屋へと籠る。
「深緑色のランサー・ジャケットにズボンはコンバット・パンツ。肩にはショルダー・ループをつけてっとこんな感じかな」
デッサン画を描き上げると今度は素材を探す。
「機能性を重視しつつも破れにくく丈夫でしなやかで耐久性のある生地……あったこれよこれ。ヴィオルームの布。それから糸はフェニックヌマズの髭糸でっとボタンは金色のアルミボタンをっと」
素材の山から必要な物を取り出すと続いて棚の中を見る。
「えっと騎士団の人達の型紙は確かこの辺りに……あ、あった」
探していた型紙を見つけると全て取り出し作業台の上へと置く。
「よし、始めるぞ」
意気込むと型紙を当てて布を裁断し始めた。
「ただいま。おや、アイリスお仕事が入ったんだね。ごめんね一人で任せてしまって」
「あ、イクトさんお帰りなさい。いえ、大丈夫です」
役員会議を終えて帰って来たイクトへとアイリスは答える。
「俺も手伝うよ。その様子じゃ大量注文を受けたんだろうから」
「有難う御座います。では縫い合わせをお願いします」
大量の生地が山積みになっている様子に彼が言うと彼女は頼んで裁断し終えた布をイクトへと渡す。
そこからは二人で黙々と作業を続け気付いたら閉店の時間になっていた。
「今日はここまで。続きはまた明日」
「はい。……イクトさん。私イクトさんが最近様子がおかしいと思って心配していたんです」
「うん?」
語り始めたアイリスの言葉にイクトが不思議そうに首をかしげる。
「イクトさんが何だかよそよそしくなった気がして。何か気に障る事をしてしまったのだろうかと不安で……でも今日ジョン様とシュテナ様とお話して気付いたんです」
「……」
彼女の言葉に彼が次の言葉を待った。
「イクトさんは私がお友達と遊んでいる姿を見たことがなくてそれで心配してあえて距離を置いてくれていたんですよね。私そんなことにも気付かなくて。イクトさんが離れて行ってしまうような気がして恐くて。不安になっていたなんて可笑しいですよね」
小さく笑いながら話すアイリスの様子にイクトは苦笑する。
「だからこれからはイクトさんが心配しないようにもう少しお友達と遊びに行ったりします」
「うん。友達と確り遊んできて欲しいと俺も思っていたんだ。だから幼馴染のキース君となら気兼ねなく遊びに行けるだろう」
「そうね。キースとなら私も緊張しないで遊びに行けると思います」
笑顔で語り切った彼女へと彼が優しく微笑み話す。アイリスは小さく頷いて答えた。
「それじゃあ私お店を閉めてきますね」
「うん。……お友達、か」
彼女が部屋を出て行った後イクトが小さく呟き困ったなと言った顔で笑う。
まだイクトの考えに気付いていない様子のアイリスだが、何時か彼の本当の気持ちを知る日が来るのであろう。
「はぁ……」
「まぁ、アイリスさん。溜息なんてついてどうしたのですか?」
「何か心配事でもあるのですか。それならば僕達がお話を聞きますよ」
盛大に溜息を吐いたアイリスに心配そうな声がかけられる。
「あ、ジョン様、シュテナ様いらっしゃいませ。久しぶりですね」
「次期国王として父の仕事を手伝うようになったので中々抜け出せなくなりましてね」
「わたしも婚約者とのお見合いだのどこどこの貴族との交流会だのと王族の務めとはいえいろんなところに顔を出さないと行けなくて大変で……」
お客の顔を見た彼女の言葉に二人がそれぞれ答えた。
「王族って大変なんですね」
「そうなんです。毎日忙しくてもうくたびれますよ」
「でも今日はようやく隙を見つけたのでこうしてアイリスさんの顔を見に来ました」
アイリスの言葉にジョルジュが答えるとシュテリーナが笑顔で言う。
「折角いらして下さったのですからゆっくりしていって下さいね」
「はい。それで溜息の理由は何だったのですか?」
彼女へと王子が尋ねる。その言葉に少し考えてからアイリスは口を開いた。
「実は、最近イクトさんの様子がおかしくて」
「おかしいとはどういう事ですか?」
彼女の言葉に王女が不思議そうに尋ねる。
「夏祭り以来私を避けているように感じるんです」
「まさか、イクトさんがアイリスさんを避けているだなんてそんな事」
「そうですよ。仲良しで微笑ましいと思うほどお二人の仲は良好ではありませんか」
アイリスの言葉に二人が驚いて尋ねるように言う。
「何だかよそよそしい感じなんです。この前もマーガレット様からコンサートのチケットが余っているからイクトさんと二人で行ってきたらと言って貰ったのですが、自分はいけないから代わりにキースを誘って行って来いって」
「まぁ」
「成る程」
彼女の言葉に二人は何かに気付いて微笑ましいと言わんばかりに笑う。
「ふふっ。イクトさんはアイリスさんと距離を置いているわけではないと思いますよ」
「きっと色々と事情がおありなのでしょう。イクトさんも忙しい人ですから」
「そう言えば確かにイクトさん役員になったから一年を通して忙しくなるって話していたような」
ニコニコと笑う二人の様子に気付くことなくアイリスは呟く。
「そうですよ。役員のお勤めで忙しいだけですよ。それに僕もアイリスさんはイクトさんに甘えすぎていると思うんです。ですからそろそろイクトさん以外の人とも遊ぶ方法を知ったほうがよろしいかと」
「えぇ。きっとそのほうのが楽しみが増えますわ」
「そ、そうかな。そう言われてみればこの国に来てから友達とどこかに遊びに行った経験てないかも」
ジョルジュとシュテリーナの言葉に彼女は言われてはじめて気づいたと言った顔で話す。
「イクトさんもその事を気にしていらっしゃるのだと思いますよ」
「えぇ。ですからキースさんと思いっきり遊んで楽しんでいらしたらよろしいのではないでしょうか」
二人の話を聞いていてそうかと納得すると悩みが解決して笑顔になる。
「ジョン様、シュテナ様お話聞いてくださり有り難う御座います。私、何となくイクトさんが距離を置いている理由が分かったかもしれません。もっと友達と遊んでほしかったんですね」
「そうだと思いますよ」
「心配事が解決して良かったです」
アイリスの言葉にジョルジュとシュテリーナがにこりと笑い答えた。
「失礼する。ジョン様、シュテナ様。やはりこちらでしたか」
「「ジャスティン」」
「あ、ジャスティンさんいらっしゃいませ」
そこにジャスティンがやってきて二人はぎょっとする。アイリスも気付き声をかけた。
「至急お城へとお戻りください」
「何かあったのか?」
彼の言葉に王子が尋ねるとちらりとアイリスを見たジャスティンが考えてから口を開く。
「国王陛下がお二人に大切なお話があるとか」
「「!?」」
彼の言葉に二人は険しい顔になり納得する。
「分かった。それではアイリスさんまた遊びに来ます」
「わたしも隙を見つけて遊びに来ますね」
「はい。またのご来店お待ちいたしております」
笑顔に戻った二人がアイリスに言うと店を出て行った。
「アイリス君にまた頼みがある。騎士団の服百着をお願いしたい」
「騎士団の服百着ですか。でもこの季節に何故?」
新人が入隊してくる春なら分かるが何故秋のこの時期にと不思議に思い尋ねる。
「あぁ。実は遠方訓練に行くことになってな。それで君の腕を見込んで隊員達の服を作ってもらいたいと思ったんだ」
「遠方訓練? つまり国の外に出ての訓練ってことですか」
ジャスティンの言葉に彼女はさらに不思議そうな顔で問いかけた。
「そうなるな」
「それは凄いですね。分かりました。騎士団の服百着心を込めて作らせて頂きます」
小さく頷いた彼へとアイリスは了承して微笑む。
「よろしく頼む。そうだなどんな感じに作るかは任せるが訓練の際にダメージを受けても破けたりしない丈夫な服が好ましいだろう。そう言う感じでお願いする」
「はい」
ジャスティンの要望をメモ用紙に走り書きをして記入する。
「遠方訓練は三週間後になるからそれまでにお願いしたい。では、俺はこれで失礼する」
「さて、百着か頑張って作ろう」
そう呟くと作業部屋へと籠る。
「深緑色のランサー・ジャケットにズボンはコンバット・パンツ。肩にはショルダー・ループをつけてっとこんな感じかな」
デッサン画を描き上げると今度は素材を探す。
「機能性を重視しつつも破れにくく丈夫でしなやかで耐久性のある生地……あったこれよこれ。ヴィオルームの布。それから糸はフェニックヌマズの髭糸でっとボタンは金色のアルミボタンをっと」
素材の山から必要な物を取り出すと続いて棚の中を見る。
「えっと騎士団の人達の型紙は確かこの辺りに……あ、あった」
探していた型紙を見つけると全て取り出し作業台の上へと置く。
「よし、始めるぞ」
意気込むと型紙を当てて布を裁断し始めた。
「ただいま。おや、アイリスお仕事が入ったんだね。ごめんね一人で任せてしまって」
「あ、イクトさんお帰りなさい。いえ、大丈夫です」
役員会議を終えて帰って来たイクトへとアイリスは答える。
「俺も手伝うよ。その様子じゃ大量注文を受けたんだろうから」
「有難う御座います。では縫い合わせをお願いします」
大量の生地が山積みになっている様子に彼が言うと彼女は頼んで裁断し終えた布をイクトへと渡す。
そこからは二人で黙々と作業を続け気付いたら閉店の時間になっていた。
「今日はここまで。続きはまた明日」
「はい。……イクトさん。私イクトさんが最近様子がおかしいと思って心配していたんです」
「うん?」
語り始めたアイリスの言葉にイクトが不思議そうに首をかしげる。
「イクトさんが何だかよそよそしくなった気がして。何か気に障る事をしてしまったのだろうかと不安で……でも今日ジョン様とシュテナ様とお話して気付いたんです」
「……」
彼女の言葉に彼が次の言葉を待った。
「イクトさんは私がお友達と遊んでいる姿を見たことがなくてそれで心配してあえて距離を置いてくれていたんですよね。私そんなことにも気付かなくて。イクトさんが離れて行ってしまうような気がして恐くて。不安になっていたなんて可笑しいですよね」
小さく笑いながら話すアイリスの様子にイクトは苦笑する。
「だからこれからはイクトさんが心配しないようにもう少しお友達と遊びに行ったりします」
「うん。友達と確り遊んできて欲しいと俺も思っていたんだ。だから幼馴染のキース君となら気兼ねなく遊びに行けるだろう」
「そうね。キースとなら私も緊張しないで遊びに行けると思います」
笑顔で語り切った彼女へと彼が優しく微笑み話す。アイリスは小さく頷いて答えた。
「それじゃあ私お店を閉めてきますね」
「うん。……お友達、か」
彼女が部屋を出て行った後イクトが小さく呟き困ったなと言った顔で笑う。
まだイクトの考えに気付いていない様子のアイリスだが、何時か彼の本当の気持ちを知る日が来るのであろう。
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