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ライゼン通りのお針子さん6  ~春色の青春物語~

十章 夏祭りと少しだけ縮む距離(前編)

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 夏祭り当日。ライゼン通りも朝から大賑わいを見せていた。

「アイリス」

「キース。こっちよ」

人混みを掻き分けやって来たキースにアイリスは笑顔で手招きする。

「話は聞いていたけれど凄い人だね」

「ふふ。毎年夏祭りになると観光客も押し寄せてくるからどこに行っても人が沢山いるのよ」

人の多さに驚く彼へと彼女は小さく笑い話した。

「あ、あのさ。人が多いから離れ離れになると困るから手を繋いでいこう」

「そうよね。それじゃあ……」

頬を赤らめながらそう提案してくるキースへとアイリスはそれもそうだよなと思い了承する。

「アイリスの手……」

「針仕事するからカサカサでしょ」

「うんん。とっても柔らかくて優しい手をしている。それより僕の方がゴツゴツしてて硬いだろう」

「うんん。頑張り屋さんの手をしているわ」

二人で小さく笑い合いながらライゼン通りを巡る。

「屋台が一杯だね」

「はいよ。そこ行く若いカップルに炒め焼きそば二つオレから奢りだ」

「「え?」」

軒並み連なる屋台を見てキースが呟くと誰かの声が聞こえ二人の前に炒め焼きそばが差し出された。

「って、マクモさん?」

「マ、マクモさんがどうしてこんなところでお店のお手伝いを?」

目を白黒させるアイリスとキースの目の前には鉢巻き姿のマクモがいて驚く。

「いや~。この国に着た頃にアイリスとイクトの代わりに屋台の手伝いしただろう。そうしたら気前のいい声だって気に入られて毎年手伝うようになったんだよ」

「そうだったんですか」

説明してくれた言葉に納得して頷く彼女の横でいまだに驚いたままのキースが口を開く。

「あ、あの。この炒め焼きそばちゃんと買います。それから僕達はカ、カップルではありませんよ」

「ん? 細かいことは気にするな。オレ様からの奢りだ有り難く食え」

「あははっ。相変わらずマクモさんは面白いですね」

頬を赤らめ話す彼の様子なんて気にも留めずにマクモが言う。アイリスは小さく笑った。

「そうだ、噴水広場でも何かイベントやっているって話を聞いたぜ。せっかくだから見に行ったらどうだ」

「それじゃあ、次は噴水広場を見に行きましょう」

「うん」

精霊の言葉に彼女は話す。それに彼も頷いて次の目的地は噴水広場となった。

「お、アイリスじゃないか」

「マルセンさん。こんなところで何をしているんですか?」

噴水広場へとやって来るとマルセンに声をかけられ驚く。

「冒険者もお祭りの時はイベントの運営に駆り出されているんだ。まぁ、副収入になるからな。参加する者が多い」

「そ、そうなんだ。冒険者も警護とか警備に忙しいものだと思っていました」

彼の言葉にキースが驚いて呟く。

「まぁ、警護や警備もするがほとんどの冒険者は運営の手伝いに回らされるんだよ。騎士団だって催し物やってるだろう」

「え、そうなの?」

マルセンの言葉にアイリスは驚いて隣を見る。

「えっと。あ、剣舞の事かな? あれって催し物だったんだ。てっきりセレモニーの一つだと思っていたよ」

「おいおい。新人君一年もこの国にいたのに知らなかったのか?」

「お、覚えないといけないことが多すぎてそれどころでは……いや~お恥ずかしい」

キースの言葉に彼が苦笑しながら尋ねた。それにたじろぎながら答える。

「兎に角。祭り楽しみながら覚えてこい」

「有難う御座います」

マルセンの言葉に彼が笑顔で返事をした。

「それで噴水広場でやっているイベントって……」

「あぁ。バザーの事だな。家庭から出た不用品を捨てるのはもったいないから使える物はそのままに修理しないといけない物はソフィーが手直ししてお値打ち価格で販売しているんだよ」

アイリスの言葉に彼が説明すると噴水広場の中央を指し示す。

「本当だ。いろんな物を販売している」

「見に行こう」

「えぇ」

彼女の言葉にキースが興味を持った様子で話すと二人は広間の中央へと向かって行く。

「確り楽しんで来いよ」

その背を見送りながらマルセンが笑顔で声をかけた。

「服に食器に生活雑貨他にもいろいろな物があるね」

「あ、こっちはアクセサリーね」

「アイリス気に入ったものがあったら一つ買ってあげるよ」

「え、でもアクセサリーは私は使わないわ。お仕事している時には付けられないもの」

「なら、これなら使うんじゃないかな」

彼の言葉に困った顔で断るアイリスへとキースが何かを指し示し話す。

「指輪?」

沢山の指輪が並ぶ箱の中の一つを指さす彼の意図が分からず不思議そうに目を瞬く。

「よく見て小さな穴が幾つもあるだろう。これ、アイリスなら見たことあると思うよ」

「これってもしかして指ぬき」

答えに行き付き成程と納得して笑顔になる。

「これなら仕事中でも使えるだろう」

「えぇ。有難う」

指ぬきをアイリスの指へと試しに嵌めてみる。するとぴったりだった為即購入した。
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