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ライゼン通りのお針子さん6 ~春色の青春物語~
八章 精霊の絹布と虹色蜘蛛の糸
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早朝の光が差し込むライゼン通りにノックの音が響いた。
「はい」
「アイリスおはよう。訪問販売復活~。ご依頼の品届けに来たよ」
慌てて玄関へと向かったアイリスが扉を開けるとポルトが笑顔で話す。
「昨日お願いした服の素材がもう見つかったの?」
「だから直ぐに用意できるって言っただろう。ほら、これが依頼の品ちゃんと受け取ってよ」
「は、はい」
彼女の方へと袋を差し出す精霊に返事をしながらそれを受け取る。
「……」
「?」
じっと見詰めてくるポルトの様子に如何したんだろうと不思議に思っていると精霊が口を開く。
「お代頂戴」
「あ、ちょっと待ってて。直ぐに持ってくるから」
言われるまで抜け落ちていたことに恥ずかしくなりながらアイリスはカウンターにある金庫からお金を取り出す。
「はい。無くさないようにね」
「無くさないよ。おいらこう見えてもう大人なんだからね。それじゃあ、またのご贔屓お待ちいたしております」
お金を渡すとポルトがそう言って立ち去る。
「さて、と。まだ開店の時間には早いしこれを作業部屋に置いたら朝食を食べてお店の準備でもしてようかな」
独り言を零すと作業部屋に品物を置いて二階へと上がっていった。
「おはよう」
「あ、イクトさんお早う御座います」
開店の準備をしているとイクトが出勤してくる。
「今朝ポルト君がやってきて昨日頼んだ品を届けてくれたんです」
「そうか。それじゃあ後は俺がやっておくからアイリスはウラちゃんの服を」
「はい」
彼が作業を引き継ぐと言ってくれたのでアイリスは服を仕立てるために隣の部屋へと入って行った。
「さて、素材を確認。あ、メモが入ってる。ご依頼された精霊の絹布と虹色蜘蛛の糸です。とても繊細な素材なので取り扱いにはご注意下さい……か。ウラちゃんが破いちゃったくらいだから本当に気を付けて取り扱わないとね」
メモを読み上げた彼女は言うと早速生地を裁断して破けてしまったところへと当てる。つぎはぎされたことが分からない程綺麗に布を当てると糸を針に通して縫い始めた。
「……よし。完成」
出来上がった服を広げて見て納得する。そこには新品そのものの姿に生まれ変わったワンピースがあった。
「アイリス入るよ。ちょっと来てくれないかな」
「はい?」
イクトの言葉に如何したんだろうと思いながら作業部屋を出る。
「あのぅ、あのね。梅雨明けされちゃうって聞いてこられなくなるから。だから今日取りに来ちゃった。……服出来てる?」
「さっき出来上がったところです。ちょっと待ってね」
もじもじとしながら申し訳なさそうに話すウラティミスにアイリスは微笑み服を取りに行く。
「こちらになります」
「有難う。これお金」
綺麗に仕立て直してもらえて嬉しそうに笑いながら妖精が言うとお金を差し出す。
「また、来年会いに来ます」
「またのご来店お待ちいたしております」
「ウラちゃんまたね」
「うん!」
ウラティミスの言葉に二人が柔らかく微笑み答えると妖精も嬉しそうにはにかみ店を後にした。
「また、来年の楽しみが出来ました」
「うん。そうだね」
笑顔で話すアイリスにイクトも優しく微笑み頷く。
「それにしても精霊の絹布と虹色蜘蛛の糸をポルト君はどうやって手に入れたんだろう? 精霊界では入手しやすい品みたいだけれど人間の世界と同じ様に物流の流れがあるのかしら」
「それは、想像するしかできないけれど。でも、彼等も俺達と同じ様に生きて生活している。それなら物流の流れがあってもおかしくないと思うよ」
「そうですよね。あ、いけない。精霊界の品だと保管方法も特殊な可能性もありますよね。保管方法聞いておけばよかった」
如何しようと慌てる彼女へと彼が落ち着いた態度で口を開く。
「それなら今から聞きに行ってくるよ。アイリスは心配しないでお店の事をやって待っていてくれないかな」
「すみません。私がちゃんと聞いておかなかったばかりに」
「気にしないで。丁度俺もお礼を言いに行こうと思っていた所だから」
申し訳なさそうに話すアイリスへとイクトがそう言って笑う。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はい。お願い致します」
彼がお店を出て行くと彼女は溜息を吐き出す。
「もう。なんで気付かなかったんだろう。私ってば何年経ってもやらかしてばかりなんだから……」
落ち込んでいても仕方ないかもしれないが店長になってから六年も経っているというのにいまだにミスがある事に凹む。
「イクトさんに迷惑ばかりかけてしまって……こんなんじゃ駄目だよね。イクトさんが自慢できる立派な店長にならないと」
一人意気込みを語り握り拳を作る。
「よし、これからは気をつけよう」
「何を気を付けるんだ?」
「きゃあ~!?」
一人きりの空間だと思っていたが人の声が聞こえ驚く。
「マ、マクモさんいらしていたのですか?」
声の聞こえた方を見るとマクモが立っておりアイリスは尋ねる。
「おう。またオレの好きな夏がやってくるだろう。だからアイリスに服を仕立ててもらおうと思ってな。あ、今回はオレの服じゃないんだ」
「どういう事ですか?」
彼の言葉に不思議そうに首を傾げた。
「今年の夏はいっちょ派手にやろうという事で王宮の庭や一部の広間を解放して市民達が入れるようにするとか。それで国王や王子や王女も市民達の前に姿を現すからお披露目で着る服を仕立てて欲しいそうだ」
「どうしてそれをマクモさんが伝えに来たんですか?」
レオ達が直接来られない理由でもあるのだろうかと思い尋ねると彼が一瞬考えるように悩む。
「う~ん。ま、今王宮の方では夏祭りの件で連日会議が開かれていて、なかなか城を抜け出せないとか。王子と王女も国のお祭りの件だから参加しないといけなくて、それでお忍びで外に出ることも出来ないんだと。だから代わりにオレが伝えに来たんだよ」
「そうでしたか。畏まりました」
「そんじゃ、頼んだからな」
マクモの言葉に納得して返事をすると彼がそう言って忽然と姿を消す。
「……精霊様って本当に不思議ね。さて、イクトさんが帰って来るまで店番してないと」
また夏に向けて忙しくなりそうな予感にアイリスは小さく微笑んだ。
「はい」
「アイリスおはよう。訪問販売復活~。ご依頼の品届けに来たよ」
慌てて玄関へと向かったアイリスが扉を開けるとポルトが笑顔で話す。
「昨日お願いした服の素材がもう見つかったの?」
「だから直ぐに用意できるって言っただろう。ほら、これが依頼の品ちゃんと受け取ってよ」
「は、はい」
彼女の方へと袋を差し出す精霊に返事をしながらそれを受け取る。
「……」
「?」
じっと見詰めてくるポルトの様子に如何したんだろうと不思議に思っていると精霊が口を開く。
「お代頂戴」
「あ、ちょっと待ってて。直ぐに持ってくるから」
言われるまで抜け落ちていたことに恥ずかしくなりながらアイリスはカウンターにある金庫からお金を取り出す。
「はい。無くさないようにね」
「無くさないよ。おいらこう見えてもう大人なんだからね。それじゃあ、またのご贔屓お待ちいたしております」
お金を渡すとポルトがそう言って立ち去る。
「さて、と。まだ開店の時間には早いしこれを作業部屋に置いたら朝食を食べてお店の準備でもしてようかな」
独り言を零すと作業部屋に品物を置いて二階へと上がっていった。
「おはよう」
「あ、イクトさんお早う御座います」
開店の準備をしているとイクトが出勤してくる。
「今朝ポルト君がやってきて昨日頼んだ品を届けてくれたんです」
「そうか。それじゃあ後は俺がやっておくからアイリスはウラちゃんの服を」
「はい」
彼が作業を引き継ぐと言ってくれたのでアイリスは服を仕立てるために隣の部屋へと入って行った。
「さて、素材を確認。あ、メモが入ってる。ご依頼された精霊の絹布と虹色蜘蛛の糸です。とても繊細な素材なので取り扱いにはご注意下さい……か。ウラちゃんが破いちゃったくらいだから本当に気を付けて取り扱わないとね」
メモを読み上げた彼女は言うと早速生地を裁断して破けてしまったところへと当てる。つぎはぎされたことが分からない程綺麗に布を当てると糸を針に通して縫い始めた。
「……よし。完成」
出来上がった服を広げて見て納得する。そこには新品そのものの姿に生まれ変わったワンピースがあった。
「アイリス入るよ。ちょっと来てくれないかな」
「はい?」
イクトの言葉に如何したんだろうと思いながら作業部屋を出る。
「あのぅ、あのね。梅雨明けされちゃうって聞いてこられなくなるから。だから今日取りに来ちゃった。……服出来てる?」
「さっき出来上がったところです。ちょっと待ってね」
もじもじとしながら申し訳なさそうに話すウラティミスにアイリスは微笑み服を取りに行く。
「こちらになります」
「有難う。これお金」
綺麗に仕立て直してもらえて嬉しそうに笑いながら妖精が言うとお金を差し出す。
「また、来年会いに来ます」
「またのご来店お待ちいたしております」
「ウラちゃんまたね」
「うん!」
ウラティミスの言葉に二人が柔らかく微笑み答えると妖精も嬉しそうにはにかみ店を後にした。
「また、来年の楽しみが出来ました」
「うん。そうだね」
笑顔で話すアイリスにイクトも優しく微笑み頷く。
「それにしても精霊の絹布と虹色蜘蛛の糸をポルト君はどうやって手に入れたんだろう? 精霊界では入手しやすい品みたいだけれど人間の世界と同じ様に物流の流れがあるのかしら」
「それは、想像するしかできないけれど。でも、彼等も俺達と同じ様に生きて生活している。それなら物流の流れがあってもおかしくないと思うよ」
「そうですよね。あ、いけない。精霊界の品だと保管方法も特殊な可能性もありますよね。保管方法聞いておけばよかった」
如何しようと慌てる彼女へと彼が落ち着いた態度で口を開く。
「それなら今から聞きに行ってくるよ。アイリスは心配しないでお店の事をやって待っていてくれないかな」
「すみません。私がちゃんと聞いておかなかったばかりに」
「気にしないで。丁度俺もお礼を言いに行こうと思っていた所だから」
申し訳なさそうに話すアイリスへとイクトがそう言って笑う。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はい。お願い致します」
彼がお店を出て行くと彼女は溜息を吐き出す。
「もう。なんで気付かなかったんだろう。私ってば何年経ってもやらかしてばかりなんだから……」
落ち込んでいても仕方ないかもしれないが店長になってから六年も経っているというのにいまだにミスがある事に凹む。
「イクトさんに迷惑ばかりかけてしまって……こんなんじゃ駄目だよね。イクトさんが自慢できる立派な店長にならないと」
一人意気込みを語り握り拳を作る。
「よし、これからは気をつけよう」
「何を気を付けるんだ?」
「きゃあ~!?」
一人きりの空間だと思っていたが人の声が聞こえ驚く。
「マ、マクモさんいらしていたのですか?」
声の聞こえた方を見るとマクモが立っておりアイリスは尋ねる。
「おう。またオレの好きな夏がやってくるだろう。だからアイリスに服を仕立ててもらおうと思ってな。あ、今回はオレの服じゃないんだ」
「どういう事ですか?」
彼の言葉に不思議そうに首を傾げた。
「今年の夏はいっちょ派手にやろうという事で王宮の庭や一部の広間を解放して市民達が入れるようにするとか。それで国王や王子や王女も市民達の前に姿を現すからお披露目で着る服を仕立てて欲しいそうだ」
「どうしてそれをマクモさんが伝えに来たんですか?」
レオ達が直接来られない理由でもあるのだろうかと思い尋ねると彼が一瞬考えるように悩む。
「う~ん。ま、今王宮の方では夏祭りの件で連日会議が開かれていて、なかなか城を抜け出せないとか。王子と王女も国のお祭りの件だから参加しないといけなくて、それでお忍びで外に出ることも出来ないんだと。だから代わりにオレが伝えに来たんだよ」
「そうでしたか。畏まりました」
「そんじゃ、頼んだからな」
マクモの言葉に納得して返事をすると彼がそう言って忽然と姿を消す。
「……精霊様って本当に不思議ね。さて、イクトさんが帰って来るまで店番してないと」
また夏に向けて忙しくなりそうな予感にアイリスは小さく微笑んだ。
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