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ライゼン通りのお針子さん6  ~春色の青春物語~

七章 雨の日の楽しみ

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 窓を叩く雨音を聞きながらアイリスは微笑む。

「今日も雨ですね」

「そうだね。だけどアイリス、何だかとっても楽しそうだね」

笑顔で話す彼女へとイクトが不思議そうに尋ねる。

「だって、雨の日ならもしかしたら会えるかもしれないじゃないですか」

「会える……あぁ。そうか。ウラちゃんだね」

アイリスの言わんとする意味に気付いた彼も柔らかく微笑む。

「はい。去年は心配かけてしまったのでそれを謝りたくて」

「そうか、会えるといいね」

二人が話していると鈴の鳴る音と共に誰かお客が来店してきた。

「あの、あのね。これ、破いちゃったんだ。だからね、直してもらいたいの」

「ウラちゃん?!」

「いらっしゃい」

噂をしていたら本人が来店してきて驚くアイリス。イクトがウラティミスへと微笑む。

「精霊界でもねアイリスさんがお店辞めないって話が広まってね。だから会えると思って来たの」

「そっか。去年はウラちゃんにも心配かけさせてしまってごめんね。もう大丈夫だから」

「うん」

彼女の言葉にアイリスは安心させるように微笑み語る。

「それで、これ直せる?」

「はい。お預かりいたします」

「それじゃあ、また今度取りに来ます」

ウラティミスから服を受け取ると彼女がそう言ってお店を出ていく。

「アイリス、イクト様の足を引っ張っていません事……あら、お客様がいらしていましたの?」

「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」

アイリスが持っている服を見て尋ねるマーガレットへと彼女は笑顔で出迎える。

「はい。ついさっき出て行ったのですれ違いませんでしたか」

「そう言えば女の子がお店から出て行ったような気もしますが……それにしても雨でも繁盛しているようですわね」

アイリスの言葉に令嬢が答えると微笑む。

「それで、今日はこの前のドレスのお礼を言いに来ましたの。どこで仕立ててもらったのかって聞かれましたからこのお店を宣伝しておきましたわよ」

「それは有り難う御座います」

マーガレットの言葉にアイリスは笑顔で答えた。

「今日はそれを伝えに来たかっただけですのでもう帰りますわ。それじゃあね」

「マーガレット様わざわざお礼を言いに来てくださるなんて」

「よっぽどアイリスが仕立てたドレスを気に入ったんだろうね」

令嬢が帰って行く姿を見送ると呟く彼女にイクトがそう言って笑う。

「さて、ウラちゃんから預かったこの服を手直ししないと。でもこの素材は?」

「精霊界にしかない素材で作られているみたいだね」

見た事のない素材で作られている服にアイリスは疑問符を浮かべる。その様子に彼も調べるとそう告げた。

「そ、それじゃあ手直しできないですよ」

「俺に任せて。ちょっと素材を貰えないか頼みに行ってくるから」

困った顔で話す彼女へとイクトがそう言って安心させるように微笑む。

「頼むって誰に?」

「アイリスもよく知っている人だよ」

「?」

彼の言葉の意味が分からず首をかしげるアイリスに小さく微笑むとイクトが店を出て行った。

「イクトさん誰に会いに行ったのかしら?」

一人になった空間で呟くと自分の知っている人の顔を一人ずつ思い浮かべながら考えてみる。

「マルセンさん……は冒険者だから色んな所に行く。精霊界の素材を手に入れられる可能性はあるのかな? でも精霊界って簡単に入ることが出来ないって聞いたけど。それならマーガレット様……は絶対に違うよね」

独り言を呟きながら違うと言って首を振う。

「となるとミュゥさんは? 踊り子としていろんなところで踊りを披露してきたからお礼の品で精霊界の物を貰っていてもおかしくないけれどそんな都合の良いことがあるのかしら。ジョン様とシュテナ様それにレオ様なら精霊界の品を持っていても不思議ではないけれど……」

頭を捻りうんうん唸って考え続ける。

「ジャスティンさんは精霊界の品を持っている可能性は低いし……キースは絶対にありえない。レイヴィンさんとかディッドさん。リゼットさんも持っていない気がするしなぁ」

それなら誰なんだろうと更にお客の顔を思い起こす。

「ルークさんはう~ん分からないな。でも持っているとしたらグラヴィス侯爵様の方が持っている気がするし。イリスさんはありえないだろうし……」

そこまで考えて何かを忘れている気がしてさらに頭をひねる。

「あ、マクモさんやレイヤさんやクラウスさんなら精霊だから精霊界の品を持っているかも。その可能性が一番高いわね」

そうかもしれないと思い手を叩く。

「そっか、マクモさん達なら持っているよね」

納得した顔をしてイクトが帰って来るのを待つ。

「だだいま」

「お邪魔しま~す」

「こんにちは」

数時間後二人のお客を連れて彼が戻って来た。

「イクトさんお帰りなさい。あれ、ソフィーさんとえっと確か貴方はポルト君?」

「イクトから話を聞いておいらの出番だと思ってやってきてあげたよ」

「アイリスちゃんその水の妖精さんから預かったって言う服見せてもらえるかしら」

「は、はい」

ソフィアの言葉にアイリスは服を持って行く。

「どう、ポルト」

「うん、うん。成る程ね。これなら直ぐに用意できるよ」

ソフィアが尋ねるとポルトが納得した顔で頷き笑顔で答える。

「明日の朝までには取り寄せておくからちょっと待ってて」

「はい。よろしくお願いします」

精霊の言葉にアイリスはお願いしますと頭を下げた。

「泥船に乗ったつもりでまっかせてよ」

「それを言うなら大船にでしょ」

「そうそれ。兎に角まっかせてよ!」

ポルトの言葉にソフィアが溜息交じりに訂正する。精霊が気にした様子もなく言うと胸を叩く。

こうして服の素材についてはポルトに任せることになった。
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