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ライゼン通りのお針子さん6 ~春色の青春物語~
六章 ピクニックに行こう
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久々に晴たある日の仕立て屋。今日はお店が休業日の日でアイリスはゆっくりとした朝を過ごしていた。
「う~ん。やっぱりお天気がいいと気持ちがいいわね。さて、溜まった洗濯物でも干しておこうかしら」
「おはよう」
独り言を呟いていると一階から誰かの声が聞こえてきて彼女は玄関へと向かう。
「はい。って、キース如何したの?」
「……」
そこには神妙な顔で立っているキースの姿がありアイリスは不思議そうに首を傾げた。
「あ、あのさ。今日はお仕事お休みなんだろう。それで、僕も有給休暇なんだ。だから、その。天気もいい事だし気分転換に始まりの原っぱにピクニックに行かないかな」
「ピクニック?」
改まった態度でそうお誘いしてきた彼の言葉に彼女は目を瞬く。
「う、うん。実はイクトさんからアイリスの話を聞いて。ここの所働きづめだから心配だっていうものだからそれで、気分転換にピクニックにでも行かないかと思ってね」
「イクトさんがそんなことを……分かった。ピクニックに行きましょう」
「良かった。それじゃあ準備が出来たら早速行こう」
「うん」
ピクニックのお誘いを受けてくれたことに安堵しながらキースが言うとアイリスは早速身支度を整えて家を後にした。
「レイヴィン隊長達から話を聞いたんだけど。ここ始まりの原っぱはコーディル王国に住んでいる人達の憩いの場所でよくピクニックに来るんだとか」
「そう言えば前にイクトさんから同じような話を聞いたことがあるわ。何時だったかイクトさんと一緒にピクニックに行きたいなって話した事があったの」
「そ、そうなんだ。ごめんねイクトさんと行く前に僕と一緒に行くことになってしまって」
「うんん。キースと一緒にピクニックに来られて楽しいわ」
イクトの話を出されるとたじろいでしまう彼の様子に気付くことなく彼女は笑顔で答える。
「これ僕が作ったサンドウィッチなんだけど良かったら食べて。あ、お茶もあるからどうぞ」
「有難う。それではいただきます。う~ん。美味しい! キースって料理上手なのね」
「学生時代は寮暮らしだったから自然と覚えたんだよ」
「学食はなかったの?」
キースの言葉に驚いて尋ねると彼がまさかと言った感じに笑い口を開く。
「勿論学食もあったけれど休みの日は食堂もお休みだったから自分達で自炊するのが当たり前だったんだよ」
「そう。騎士養成学校の頃の話初めて聞くかも」
「そう言えば初めて話すね。今までは機会がなかったから。でもアイリスが知りたいならいくらでも話すよ。失敗した話ばかりだけれど」
アイリスの言葉にキースも納得した顔をしながら話す。
「泣き虫だったからちょっと心配していたのよ。学校で何かあって逃げ出したくなることもあったんじゃない?」
「そりゃあ、いろいろとあって逃げ出したいと思ったこともあったよ。だけど、憧れの騎士になるためにこれくらいでへこたれていてはいけないと、強くならないとって思って血のにじむ努力をしてきたんだ」
彼女の言葉に苦笑した彼が思い出を振り返りながら答える。
「そっか、私もお針子になるために勉強していた頃。何度も挫折してもう辞めようって思ったこともあった。でも仕立て屋アイリスでお針子として働くことが夢だったから諦めずに頑張ってこれたの。私が頑張ってこれたのはキースのおかげでもあるのよ」
「どういう事?」
アイリスが笑顔で言った言葉の意味が分からず首を傾げた。
「キースも今頃夢に向かって頑張っているだろうなって思ったら自然と力が沸いてきて、私も頑張ろうって思えたの。だからキースのおかげなのよ」
「そ、そんな。僕の方こそアイリスがお針子になる夢を諦めずに頑張っているだろうなって思ったから、だから騎士になる為の厳しい試練も乗り越えてこれたんだ」
「ふふ。それならお互い様なのね」
「うん」
二人して微笑み合うと晴れ渡る空を見ながら食事する。
「私ね、今新しい夢を持っているの」
「え?」
不意に口を開いたアイリスの言葉にキースが目を丸めた。
「仕立て屋アイリスでずっと仕事をする事。そしていつかそれを誰かに受け継いでもらう事。イクトさんが私のおばあちゃんから店を受け継いでくれたみたいに。私もいつか誰か信頼できる人にお店を受け継いでもらいたい。その為に今は私がお仕事を頑張るんだって」
「そうか。僕もささやかな夢があるんだ。と言ってもアイリスみたいに凄い夢じゃないけど。この国に派遣されて騎士団に入った。だけど願いが叶うならばずっとこの国で騎士としてアイリス達の生活を守り続けられるようなそんな騎士になれたらと」
夢を語る彼女の言葉につられるように彼も話す。
「どこがささやかな夢なのよ凄い夢じゃないの。私応援してるね」
「有難う。僕もアイリスの夢を応援してるよ」
二人で小さく笑いまた空を見上げた。
「そろそろ帰ろうか」
「そうね」
夕方の光が差し込む原っぱでキースがそう呟くとアイリスも頷く。
「今日はピクニックに誘ってくれて有難う。とても楽しかったわ」
「一緒にピクニック出来て嬉しかったよ。また……誘ったら来てくれる?」
仕立て屋まで送ってくれた彼へと笑顔で言う。そんな彼女へとキースが不安そうに尋ねた。
「? 勿論よ。また一緒にピクニックに行きましょうね。今度は私が美味しいお弁当作って持って行くから」
「それは楽しみだな。それじゃあ、今日は有り難う。またね」
彼が何を言いたいのか理解できなくて不思議そうに目を瞬いたが自分の気持ちを伝える。
その言葉に笑顔に戻った彼がそう言って帰って行った。
「ふふっ。キースとピクニック楽しかったな。……思い出すな。昔は私からいつもピクニックに誘っていたのよね。キースってば家に引きこもって本ばかり読んでいたから。心配で……そう言えば初めて連れ出した時にサンドウィッチを作って持って行ったんだったな。あ、そうか」
そこまで独り言を零して納得する。
「キース。私の事心配してくれていたんだ。おばさん達とのこともあったし、仕事が忙しくて家に引きこもってばかりだったし。それで、ピクニックに行こうって誘ってくれたんだわ」
キースの優しさに触れてアイリスは嬉しくて笑顔になった。
「イクトさんから話を聞いたなんて言っていたけれど本当は口実作りだったのね。なによ、もう。それならそうだって始めから言ってくれれば良かったのに」
この場にいない彼へと向けて独り言を零しながら部屋へと入る。
「今度は私から誘ってみよう」
そう呟くと今日一日の出来事を思い返して微笑んだ。
「う~ん。やっぱりお天気がいいと気持ちがいいわね。さて、溜まった洗濯物でも干しておこうかしら」
「おはよう」
独り言を呟いていると一階から誰かの声が聞こえてきて彼女は玄関へと向かう。
「はい。って、キース如何したの?」
「……」
そこには神妙な顔で立っているキースの姿がありアイリスは不思議そうに首を傾げた。
「あ、あのさ。今日はお仕事お休みなんだろう。それで、僕も有給休暇なんだ。だから、その。天気もいい事だし気分転換に始まりの原っぱにピクニックに行かないかな」
「ピクニック?」
改まった態度でそうお誘いしてきた彼の言葉に彼女は目を瞬く。
「う、うん。実はイクトさんからアイリスの話を聞いて。ここの所働きづめだから心配だっていうものだからそれで、気分転換にピクニックにでも行かないかと思ってね」
「イクトさんがそんなことを……分かった。ピクニックに行きましょう」
「良かった。それじゃあ準備が出来たら早速行こう」
「うん」
ピクニックのお誘いを受けてくれたことに安堵しながらキースが言うとアイリスは早速身支度を整えて家を後にした。
「レイヴィン隊長達から話を聞いたんだけど。ここ始まりの原っぱはコーディル王国に住んでいる人達の憩いの場所でよくピクニックに来るんだとか」
「そう言えば前にイクトさんから同じような話を聞いたことがあるわ。何時だったかイクトさんと一緒にピクニックに行きたいなって話した事があったの」
「そ、そうなんだ。ごめんねイクトさんと行く前に僕と一緒に行くことになってしまって」
「うんん。キースと一緒にピクニックに来られて楽しいわ」
イクトの話を出されるとたじろいでしまう彼の様子に気付くことなく彼女は笑顔で答える。
「これ僕が作ったサンドウィッチなんだけど良かったら食べて。あ、お茶もあるからどうぞ」
「有難う。それではいただきます。う~ん。美味しい! キースって料理上手なのね」
「学生時代は寮暮らしだったから自然と覚えたんだよ」
「学食はなかったの?」
キースの言葉に驚いて尋ねると彼がまさかと言った感じに笑い口を開く。
「勿論学食もあったけれど休みの日は食堂もお休みだったから自分達で自炊するのが当たり前だったんだよ」
「そう。騎士養成学校の頃の話初めて聞くかも」
「そう言えば初めて話すね。今までは機会がなかったから。でもアイリスが知りたいならいくらでも話すよ。失敗した話ばかりだけれど」
アイリスの言葉にキースも納得した顔をしながら話す。
「泣き虫だったからちょっと心配していたのよ。学校で何かあって逃げ出したくなることもあったんじゃない?」
「そりゃあ、いろいろとあって逃げ出したいと思ったこともあったよ。だけど、憧れの騎士になるためにこれくらいでへこたれていてはいけないと、強くならないとって思って血のにじむ努力をしてきたんだ」
彼女の言葉に苦笑した彼が思い出を振り返りながら答える。
「そっか、私もお針子になるために勉強していた頃。何度も挫折してもう辞めようって思ったこともあった。でも仕立て屋アイリスでお針子として働くことが夢だったから諦めずに頑張ってこれたの。私が頑張ってこれたのはキースのおかげでもあるのよ」
「どういう事?」
アイリスが笑顔で言った言葉の意味が分からず首を傾げた。
「キースも今頃夢に向かって頑張っているだろうなって思ったら自然と力が沸いてきて、私も頑張ろうって思えたの。だからキースのおかげなのよ」
「そ、そんな。僕の方こそアイリスがお針子になる夢を諦めずに頑張っているだろうなって思ったから、だから騎士になる為の厳しい試練も乗り越えてこれたんだ」
「ふふ。それならお互い様なのね」
「うん」
二人して微笑み合うと晴れ渡る空を見ながら食事する。
「私ね、今新しい夢を持っているの」
「え?」
不意に口を開いたアイリスの言葉にキースが目を丸めた。
「仕立て屋アイリスでずっと仕事をする事。そしていつかそれを誰かに受け継いでもらう事。イクトさんが私のおばあちゃんから店を受け継いでくれたみたいに。私もいつか誰か信頼できる人にお店を受け継いでもらいたい。その為に今は私がお仕事を頑張るんだって」
「そうか。僕もささやかな夢があるんだ。と言ってもアイリスみたいに凄い夢じゃないけど。この国に派遣されて騎士団に入った。だけど願いが叶うならばずっとこの国で騎士としてアイリス達の生活を守り続けられるようなそんな騎士になれたらと」
夢を語る彼女の言葉につられるように彼も話す。
「どこがささやかな夢なのよ凄い夢じゃないの。私応援してるね」
「有難う。僕もアイリスの夢を応援してるよ」
二人で小さく笑いまた空を見上げた。
「そろそろ帰ろうか」
「そうね」
夕方の光が差し込む原っぱでキースがそう呟くとアイリスも頷く。
「今日はピクニックに誘ってくれて有難う。とても楽しかったわ」
「一緒にピクニック出来て嬉しかったよ。また……誘ったら来てくれる?」
仕立て屋まで送ってくれた彼へと笑顔で言う。そんな彼女へとキースが不安そうに尋ねた。
「? 勿論よ。また一緒にピクニックに行きましょうね。今度は私が美味しいお弁当作って持って行くから」
「それは楽しみだな。それじゃあ、今日は有り難う。またね」
彼が何を言いたいのか理解できなくて不思議そうに目を瞬いたが自分の気持ちを伝える。
その言葉に笑顔に戻った彼がそう言って帰って行った。
「ふふっ。キースとピクニック楽しかったな。……思い出すな。昔は私からいつもピクニックに誘っていたのよね。キースってば家に引きこもって本ばかり読んでいたから。心配で……そう言えば初めて連れ出した時にサンドウィッチを作って持って行ったんだったな。あ、そうか」
そこまで独り言を零して納得する。
「キース。私の事心配してくれていたんだ。おばさん達とのこともあったし、仕事が忙しくて家に引きこもってばかりだったし。それで、ピクニックに行こうって誘ってくれたんだわ」
キースの優しさに触れてアイリスは嬉しくて笑顔になった。
「イクトさんから話を聞いたなんて言っていたけれど本当は口実作りだったのね。なによ、もう。それならそうだって始めから言ってくれれば良かったのに」
この場にいない彼へと向けて独り言を零しながら部屋へと入る。
「今度は私から誘ってみよう」
そう呟くと今日一日の出来事を思い返して微笑んだ。
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