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ライゼン通りのお針子さん6 ~春色の青春物語~
三章 気になる噂
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暖かい陽気が照らすライゼン通り。今日も仕立て屋アイリスはお客で賑わっていた。
「よう。アイリス変わりはないか?」
「あ、マルセンさんいらっしゃいませ」
仕事帰りなのか服に汚れがついた姿でやってきたマルセンにアイリスは微笑む。
「お仕事されていたのですか?」
「あ、あぁ。ここ最近冒険者の仕事が忙しくてな。それよりイクトはいるかな」
「イクトさんでしたらレオ様に呼び出されて王宮に行ってますよ」
彼女の言葉に何かを濁すように返事をする彼へとアイリスは気にすることなく話した。
「そうか。ならまた今度会いに来るよ。あ、そうだ今度の仕事はとても大変になりそうなんだ。それで今着ている服の強化をしてもらいたいんだが頼めるか?」
「畏まりました。それではお洋服お預かりしますね」
「あぁ、よろしく頼む」
服を脱いで手渡すとそれを受け取ったアイリスはぎょっとした顔をする。
「マルセンさんその傷跡は?」
「ん、あぁ。これは昔まだ冒険者になりたての頃にミスをしてできた傷だ。もう傷口は塞がっているがどうしても跡が残ってしまってな」
右腕に残る古傷をまじまじと見詰めて話す彼女へとマルセンが気にした様子もなく軽い口調で説明した。
「……」
「気にするな。跡は残っているが痛んだりすることもないし、俺自身も今の今まで忘れていたからな」
きっと当時は相当痛かったのだろうと暗い顔をするアイリスに彼が笑い話のごとく語る。
「っ。あの。この服を着て行って下さい。さすがにその格好で外には出られないと思いますので」
「あぁ、勿論借りていくつもりだったぞ。上半身裸の男が街を歩いていたら騎士団に通報されてしまうからな」
慌てて商品の中から適当に一着取り出すと差し出す。その行為に小さく笑いマルセンが言った。
「それじゃあ、急かすつもりはないが仕事着だからな。なるべく早く仕立て直してくれよ」
「はい」
彼がそれだけ言うとお店を出ていく。
「ご機嫌よ。アイリ、スイクト様の足を引っ張っていなくって」
「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」
マルセンが出て行った後すぐに入って来たマーガレットにアイリスは微笑む。
「ふふっ。相変わらずお店が繁盛しているようですわね。この様子なら杞憂でしたかしら」
「何の話ですか?」
令嬢の言葉に彼女は疑問符を浮かべる。
「あの噂聞いておりませんの? 近頃街ではどこの国にも属さない自由の組織という集団が好き勝手に暴れているという話ですの。ご存じありません事」
「そんな噂が……知りませんでした」
マーガレットの話に目を丸めて驚く。
「ですからわたくし心ぱ……ではなくてイクト様のお店で好き勝手に暴れられては困りますので様子を見に来ましたの」
「その自由の組織という集団は一体何者なんでしょう?」
「さあ、わたくしには分かりませんわ。でも、アイアンゴーレムに続いてそのよく分からない組織といい。近頃物騒になりましたことね」
「……」
令嬢の話を聞いて不安になって来たアイリスは暗い顔をする。
「兎に角、その集団は何時も黒いローブを身に纏って仮面をつけているとか。そんな目立つ格好をしている人がこのお店にやってきたら気を付ける事ですわね」
「はい。マーガレット様わざわざ教えて下さり有り難う御座います」
「はっ。こうしてはいられませんわ。早く逃げないとあの人の気配が……わたくしこれで失礼します」
話を終えた途端マーガレットが急いで店を出ていく。
「お~。マイハニー。今日こそ私の愛を受け取ってください」
「絶対にお断りですわ!」
「……マーガレット様も大変ね」
途端に一人の男が令嬢を追いかける。速足で立ち去って行ったマーガレットに向けてアイリスは小さく苦笑した。
「さて、と」
気持ちを切り替えた彼女は作業部屋へと入る。
「マルセンさんから預かった服を強化するには……これ、これ。オールドゥムーンの糸にドラゴナイトの革布。さて、やるわよ」
素材の山から適切な糸と布を取り出すと裁断する。
「一番大事な心臓を守るように元々の服をレザージャケットに仕立てて。胸には極限にまで薄く延ばされた金の板を生地の間に忍ばせてっと出来た」
「ただいま」
「あ、イクトさんお帰りなさい」
作業に没頭しているといつの間にか夕方になっており帰って来たイクトの声に笑顔で答える。
「レオ様からのお話って何だったんですか?」
「うん。ここの所街に繰り出す隙が無いとかでお城に缶詰めだったから話し相手になって欲しいと」
「それだけですか?」
「うん、それだけ。昔の話で盛り上がってしまって帰りが遅くなってしまってすまなかったね」
国王に呼び出されたのだから何かしら重要な話し合いがあると思っていたアイリスは面食らった顔で尋ねる。それに彼が小さく笑い答えた。
「あ、そうだ。今日マルセンさんがいらしてイクトさんに用事があったみたいでしたよ」
「そうか。何だろうね」
マルセンの事を伝えるとイクトが不思議そうに首をかしげる。
「さあ、お話は聞いていないので分かりませんが……それより今日マーガレット様から気になる噂を聞いて。なんでも自由の組織だとかいう集団がこの街で好き勝手暴れていると……不安ですよね」
「そんな噂が街に広まっているんだね。……アイリス心配はいらないよ。この国には頼れる人達が沢山いるだろう」
今日聞いた噂話を思い出し暗い顔をするアイリスに彼が優しく安心させる口調で言う。
「そうですよね。レオ様もジョン様もジャスティンさんにマルセンさん。それからレイウィンさんにディッドさん。キリさんやちょっと頼りないけどキースだっている。多くの騎士様や冒険者の方達だっている。心配はいらないですよね」
「うん。だからアイリスは今まで通り普通に安心して暮らしていけばいいんだよ」
「はい」
今まで出会った人達の顔を思い浮かべながら笑顔になる彼女の様子にイクトが微笑み語る。
アイリスも安心した顔になり大きく頷いた。
「よう。アイリス変わりはないか?」
「あ、マルセンさんいらっしゃいませ」
仕事帰りなのか服に汚れがついた姿でやってきたマルセンにアイリスは微笑む。
「お仕事されていたのですか?」
「あ、あぁ。ここ最近冒険者の仕事が忙しくてな。それよりイクトはいるかな」
「イクトさんでしたらレオ様に呼び出されて王宮に行ってますよ」
彼女の言葉に何かを濁すように返事をする彼へとアイリスは気にすることなく話した。
「そうか。ならまた今度会いに来るよ。あ、そうだ今度の仕事はとても大変になりそうなんだ。それで今着ている服の強化をしてもらいたいんだが頼めるか?」
「畏まりました。それではお洋服お預かりしますね」
「あぁ、よろしく頼む」
服を脱いで手渡すとそれを受け取ったアイリスはぎょっとした顔をする。
「マルセンさんその傷跡は?」
「ん、あぁ。これは昔まだ冒険者になりたての頃にミスをしてできた傷だ。もう傷口は塞がっているがどうしても跡が残ってしまってな」
右腕に残る古傷をまじまじと見詰めて話す彼女へとマルセンが気にした様子もなく軽い口調で説明した。
「……」
「気にするな。跡は残っているが痛んだりすることもないし、俺自身も今の今まで忘れていたからな」
きっと当時は相当痛かったのだろうと暗い顔をするアイリスに彼が笑い話のごとく語る。
「っ。あの。この服を着て行って下さい。さすがにその格好で外には出られないと思いますので」
「あぁ、勿論借りていくつもりだったぞ。上半身裸の男が街を歩いていたら騎士団に通報されてしまうからな」
慌てて商品の中から適当に一着取り出すと差し出す。その行為に小さく笑いマルセンが言った。
「それじゃあ、急かすつもりはないが仕事着だからな。なるべく早く仕立て直してくれよ」
「はい」
彼がそれだけ言うとお店を出ていく。
「ご機嫌よ。アイリ、スイクト様の足を引っ張っていなくって」
「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」
マルセンが出て行った後すぐに入って来たマーガレットにアイリスは微笑む。
「ふふっ。相変わらずお店が繁盛しているようですわね。この様子なら杞憂でしたかしら」
「何の話ですか?」
令嬢の言葉に彼女は疑問符を浮かべる。
「あの噂聞いておりませんの? 近頃街ではどこの国にも属さない自由の組織という集団が好き勝手に暴れているという話ですの。ご存じありません事」
「そんな噂が……知りませんでした」
マーガレットの話に目を丸めて驚く。
「ですからわたくし心ぱ……ではなくてイクト様のお店で好き勝手に暴れられては困りますので様子を見に来ましたの」
「その自由の組織という集団は一体何者なんでしょう?」
「さあ、わたくしには分かりませんわ。でも、アイアンゴーレムに続いてそのよく分からない組織といい。近頃物騒になりましたことね」
「……」
令嬢の話を聞いて不安になって来たアイリスは暗い顔をする。
「兎に角、その集団は何時も黒いローブを身に纏って仮面をつけているとか。そんな目立つ格好をしている人がこのお店にやってきたら気を付ける事ですわね」
「はい。マーガレット様わざわざ教えて下さり有り難う御座います」
「はっ。こうしてはいられませんわ。早く逃げないとあの人の気配が……わたくしこれで失礼します」
話を終えた途端マーガレットが急いで店を出ていく。
「お~。マイハニー。今日こそ私の愛を受け取ってください」
「絶対にお断りですわ!」
「……マーガレット様も大変ね」
途端に一人の男が令嬢を追いかける。速足で立ち去って行ったマーガレットに向けてアイリスは小さく苦笑した。
「さて、と」
気持ちを切り替えた彼女は作業部屋へと入る。
「マルセンさんから預かった服を強化するには……これ、これ。オールドゥムーンの糸にドラゴナイトの革布。さて、やるわよ」
素材の山から適切な糸と布を取り出すと裁断する。
「一番大事な心臓を守るように元々の服をレザージャケットに仕立てて。胸には極限にまで薄く延ばされた金の板を生地の間に忍ばせてっと出来た」
「ただいま」
「あ、イクトさんお帰りなさい」
作業に没頭しているといつの間にか夕方になっており帰って来たイクトの声に笑顔で答える。
「レオ様からのお話って何だったんですか?」
「うん。ここの所街に繰り出す隙が無いとかでお城に缶詰めだったから話し相手になって欲しいと」
「それだけですか?」
「うん、それだけ。昔の話で盛り上がってしまって帰りが遅くなってしまってすまなかったね」
国王に呼び出されたのだから何かしら重要な話し合いがあると思っていたアイリスは面食らった顔で尋ねる。それに彼が小さく笑い答えた。
「あ、そうだ。今日マルセンさんがいらしてイクトさんに用事があったみたいでしたよ」
「そうか。何だろうね」
マルセンの事を伝えるとイクトが不思議そうに首をかしげる。
「さあ、お話は聞いていないので分かりませんが……それより今日マーガレット様から気になる噂を聞いて。なんでも自由の組織だとかいう集団がこの街で好き勝手暴れていると……不安ですよね」
「そんな噂が街に広まっているんだね。……アイリス心配はいらないよ。この国には頼れる人達が沢山いるだろう」
今日聞いた噂話を思い出し暗い顔をするアイリスに彼が優しく安心させる口調で言う。
「そうですよね。レオ様もジョン様もジャスティンさんにマルセンさん。それからレイウィンさんにディッドさん。キリさんやちょっと頼りないけどキースだっている。多くの騎士様や冒険者の方達だっている。心配はいらないですよね」
「うん。だからアイリスは今まで通り普通に安心して暮らしていけばいいんだよ」
「はい」
今まで出会った人達の顔を思い浮かべながら笑顔になる彼女の様子にイクトが微笑み語る。
アイリスも安心した顔になり大きく頷いた。
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