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ライゼン通りのお針子さん6 ~春色の青春物語~
プロローグ
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雪が解け始め少しずつ暖かくなってきたライゼン通り。
「ふぅ、イクトさん元気だったかな」
大きな荷物を引きずりながらコーディル王国へと戻って来たアイリスは久々に会えるイクトの姿を想像して微笑む。
「イクトさん。ただいま!」
「お帰り。手紙で元気だとは聞いていたけれどこうして顔を見れて安心したよ」
早く会いたいと思う気持ちで足を進め仕立て屋の扉を開けると優しく微笑む彼の姿があった。
「イクトさんも元気そうで安心しました。あ、これお土産です。それから聞いてください。おじさんの怪我思っていたより治りが早くて。ソフィーさんの作った薬を持って行って良かったです。今年の夏には仕事復帰が出来そうだってお医者さんにも言われたんですよ」
「そうか。ソフィーの薬が役にたったんだね。それを聞いたら彼女も喜ぶと思うよ」
「私、今度ソフィーさんに会ったらきちんとお礼を言います」
「うん」
久々に再会して嬉しくて話が止まらない彼女の姿を嬉しそうに見詰めながらイクトが相槌を打つ。
「それから、おばさんからのお手紙もあずかってきました。イクトさんに渡すようにと」
「有難う。……」
鞄の中から手紙を取り出すと差し出すアイリスからそれを受け取った彼が早速開いて読み始める。
「今日からまたイクトさんと一緒にお仕事が出来るんだ。私着替えてきますね」
「長旅で疲れていると思うから今日はゆっくり休んで、明日からよろしく頼むよ」
彼女は嬉しそうにはにかむと動き出す。その姿に手紙から顔を離したイクトが優しく言い聞かせるように話した。
「分かりました。荷物二階に持ってあがりますね」
「うん……」
荷物を持って二階へと上がっていくアイリスを見送ると再び手紙に視線を落とし読み返す。
『イクトへ。何時もアイリスの事を気にかけて面倒を見てくれて有難う。アイリスも伝えたと思うけれど旦那の怪我ねもう心配いらないみたい。貴方がくれた薬のおかげよ。……ねぇ、イクト。あの事そろそろアイリスに伝えてもいいころじゃないかしら? 貴方の口から伝えるのが辛いなら私達が伝えるから。ミラさんの事ちゃんとアイリスに伝えるべきだと思うから。お返事待ってます。 ライラ』
「……」
手紙を読み終え暗い顔で俯く。
「避けては、通れないのかな」
誰もいない空間で独り言を零すイクトの心情は複雑な物であった。
「ふぅ、イクトさん元気だったかな」
大きな荷物を引きずりながらコーディル王国へと戻って来たアイリスは久々に会えるイクトの姿を想像して微笑む。
「イクトさん。ただいま!」
「お帰り。手紙で元気だとは聞いていたけれどこうして顔を見れて安心したよ」
早く会いたいと思う気持ちで足を進め仕立て屋の扉を開けると優しく微笑む彼の姿があった。
「イクトさんも元気そうで安心しました。あ、これお土産です。それから聞いてください。おじさんの怪我思っていたより治りが早くて。ソフィーさんの作った薬を持って行って良かったです。今年の夏には仕事復帰が出来そうだってお医者さんにも言われたんですよ」
「そうか。ソフィーの薬が役にたったんだね。それを聞いたら彼女も喜ぶと思うよ」
「私、今度ソフィーさんに会ったらきちんとお礼を言います」
「うん」
久々に再会して嬉しくて話が止まらない彼女の姿を嬉しそうに見詰めながらイクトが相槌を打つ。
「それから、おばさんからのお手紙もあずかってきました。イクトさんに渡すようにと」
「有難う。……」
鞄の中から手紙を取り出すと差し出すアイリスからそれを受け取った彼が早速開いて読み始める。
「今日からまたイクトさんと一緒にお仕事が出来るんだ。私着替えてきますね」
「長旅で疲れていると思うから今日はゆっくり休んで、明日からよろしく頼むよ」
彼女は嬉しそうにはにかむと動き出す。その姿に手紙から顔を離したイクトが優しく言い聞かせるように話した。
「分かりました。荷物二階に持ってあがりますね」
「うん……」
荷物を持って二階へと上がっていくアイリスを見送ると再び手紙に視線を落とし読み返す。
『イクトへ。何時もアイリスの事を気にかけて面倒を見てくれて有難う。アイリスも伝えたと思うけれど旦那の怪我ねもう心配いらないみたい。貴方がくれた薬のおかげよ。……ねぇ、イクト。あの事そろそろアイリスに伝えてもいいころじゃないかしら? 貴方の口から伝えるのが辛いなら私達が伝えるから。ミラさんの事ちゃんとアイリスに伝えるべきだと思うから。お返事待ってます。 ライラ』
「……」
手紙を読み終え暗い顔で俯く。
「避けては、通れないのかな」
誰もいない空間で独り言を零すイクトの心情は複雑な物であった。
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