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ライゼン通りのお針子さん5 ~店長就任以来の危機? 波乱を呼ぶ手紙~

エピローグ

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 真冬の雪がちらつく寒い日。この日仕立て屋の前にアイリスとイクトの姿があった。

「それでは、行ってきます」

「ゆっくり骨休みしておいで」

旅支度を整えたアイリスが言うとイクトが笑顔で見送る。

「お家の御手伝いがありますからゆっくりはできませんよ」

彼女は約束通り正月休みを利用して家の手伝いのためにおばさんの家へと帰って行くのだ。

「そうだね。でも、久しぶりに実家に帰るんだからこっちの事は心配しないでゆっくり休むんだよ」

「はい」

イクトの言葉に笑顔で返事をする。

「ライラさん達によろしく伝えておいてくれ」

「はい。手紙もちゃんと持ちましたので大丈夫です」

彼の言葉にアイリスは笑顔で返事をすると手荷物の中に手紙が入っていることを確認した。

「向こうに着いたら手紙を出しますね」

「うん、楽しみに待っているよ」

「あ、お土産も買ってきます」

「うん」

彼女の言葉にイクトが笑顔で頷く。まるでお別れを惜しむかのようにこの数秒のやり取りを続けようとする。アイリスもイクトもお互い後ろ髪を引かれる思いを断ち切れないまま一歩も動けないでいた。

「それでは、本当に行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

これ以上ここに留まると乗合馬車の時間に間に合わなくなってしまうのでアイリスは大きな荷物鞄を手に持って歩き出す。

その背中を見送るイクトは小さくなっていく彼女の姿が見えなくなるまでずっとそこに立ち続けた。

また来年の春に再会するまで暫くの間お別れである。春が来たらまた二人で仕立て屋の仕事をやっていく。その日をお互い楽しみにしながらイクトは店の中へ戻り、アイリスはコーディル王国を旅立って行った。

コーディル王国の下町。ライゼン通りと呼ばれる職人通りに小さなお店【仕立て屋アイリス】がある。そこには育ててくれたおばさん達の事を思い仕事が手につかなくなってしまうほど悩んでしまった店長の女性と、彼女を優しく見守り支えた店員とお客達がいた。優しくて暖かなこの街で彼女はこれからもお針子として働いて行くのである。

======
あとがき
 これにて波乱を呼んだ手紙の物語は幕を閉じました。これからもアイリスはこのコーディル王国のライゼン通りで仕立て屋の店長としてお針子のお仕事を続けていくことでしょう。そこに少しの変化を加えながら……ね。
お針子さん書き続けていてアイリスずっと順調だよね。多少は挫折を味わった方がいいよね。よし、育ての親から手紙が着て帰って来いって言われる話を書こう。それで仕事が手につかなくなって……スランプっぽくとか考えていたんですが出来上がった話を見たらあれ、なんか違うぞ? ま、いいか。となりました。番外編も見て頂けると嬉しいです。
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