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ライゼン通りのお針子さん5 ~店長就任以来の危機? 波乱を呼ぶ手紙~

十三章 アイリスの兄妹がやって来た

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 冬に近づき寒さが厳しくなり始めたある日。アイリスは久々に店頭に出てマーガレット達と話をしていた。

「本当に心配していますのよ。アイリスこのお店を辞めてしまうなんて考えないでくださいね」

「アイリスさんこれ食べて元気出してください」

「マーガレット様、ミュゥさん心配かけさせて申し訳ございません」

二人の言葉に彼女は笑顔を作り答える。

「イクト様もお店と貴女の事とで大変なのですわよ。イクト様の足を引っ張るなといつも言っているでしょう」

「それは本当にごめんなさい。私、イクトさんに迷惑ばかり」

令嬢が困った顔で話すとアイリスは謝り俯く。

「迷惑だなんて思っていないから大丈夫だよ」

「イクト様は優しすぎますわ。もう少し厳しくしないとアイリスの為にもなりません」

その様子にイクトが優しい口調で言うとマーガレットが諭す。

「失礼する。アイリスここにいるんだろう」

「お姉さんやっと会えましたね」

「「「「!?」」」」

来客を知らせる鈴の音が鳴り響くと男性と少女がきつい口調で言い放った。突然現れた人物に皆驚く。

「え、アスベル兄さんそれにぺスも」

「お母さんからの手紙は読んだんだろう。なのに考える時間をくれだと? 家が大変な時なんだぞ。何を悩む必要があるんだ」

「お姉さんが直ぐに返事をしないからお母さんも困っているのよ」

アイリスは二人の存在に心底驚いている中彼等は口々に話す。

「俺は働いて家族を助けなくちゃならない。ぺスだって学業を休むわけにはいかない。だから頼れるのはアイリスだけなんだ」

「お姉さんが家に帰ってくれば済む話なのに何をしてるの? お店なんて辞めたってまたどこかで仕事ができるでしょう。家が大変な時くらい実家に戻って来てくれてもいいんじゃないの」

「……」

アスベルとぺスが口々に攻め立てる様子にアイリスは黙り込む。

「さっきから黙って話を聞いていたら身勝手な事……アイリスはねこのお店の店長なんです。そこらのアルバイトの店員とは違いますのよ。そう簡単に仕事を辞める事なんてできないんですの」

「そうですよ。アイリスさんがこのお店で築いてきた全てを捨てるなんて簡単にはできないです。自分達の都合だけを押し付けるの止めて下さい」

マーガレットとミュゥリアムが居ても立っても居られなくなり口出しする。

「兎に角、今日はこれで帰るけれど次に来る時また話をする」

「ちゃんと考えておいてね」

二人がそれだけ告げると店を出て行った。

「何ですのあの態度。あのお二人本当にアイリスの兄妹ですの?」

「アイリスさん大丈夫です。私達がついてます」

「マーガレット様、ミュゥさん有難う御座います。でも、大丈夫ですよ」

激怒するマーガレットに安心させるように微笑みミュゥリアムも言う。彼女は二人に笑いかけ大丈夫だと答える。

その頃店の外に出たアルベルトとぺスは小さく溜息を吐き出していた。

「せっかく久しぶりにお姉さんに会ったって言うのにお兄さんたらあんな言い方して、お姉さんに誤解されるわ」

「お前だって結構きついこと言っていたじゃないか」

妹の言葉に彼がぺスを責めるように話す。

「アイリスに嫌われたらどうしよう……」

「そうなったらお兄さんのせいだからね」

動揺するアスベルへとぺスが睨み付けて言う。

「兎に角今度出直そう」

「そうね。お姉さんとゆっくり話をしないといけないもの」

二人はそう言い合うと宿屋へと戻っていった。

翌日、朝からマルセンが店へと来店する。

「おい、聞いたぞ。アイリスの兄妹が来たって。それで大丈夫なのか? なんか揉めてたらしいじゃないか」

「揉めていた? う~ん。大丈夫じゃないかな」

彼の言葉に不思議そうに首をかしげならイクトが答える。

「何を暢気な……アイリス無理やり連れて帰られたらどうするんだよ」

「そんなことをするような人達には見えなかったから大丈夫だよ」

マルセンの言葉ににこりと笑い彼が答えた。

「また来るって話だったよな。その時は俺達皆でアイリスを護るからだから呼んでくれよ」

「大丈夫だと思うけれど、あの二人にも今のアイリスの状況を見てもらえば納得してもらえるだろうし今まで通りこの店に通ってもらえないかな」

彼の言葉に考え事をしていたイクトがそう言ってお願いする。

「分かった。皆に声かけて今まで通りこの店に通う。アイリスに直接話をしたがっている奴等一杯いるからな」

「うん。そうしてくれると助かる」

マルセンが頷いてくれたことに彼が嬉しそうに微笑んだ。

「つまり、今まで通りにアイリスと話せばいいのですわね」

「うん。あの二人に今のアイリスの姿を見てもらいたいんだ」

マーガレットが来店してきたのでマルセンにした話と同じことを頼むと令嬢は頷いた。

「あのお二人にアイリスがいかにこの店に必要な人物かを見せつければいいのですわね。分かりました。イリス達にも話して協力してもらいますわ」

「有難う御座います」

にこりと笑って了承したマーガレットにイクトがお礼を述べる。

「話は聞いた。俺も協力するぜ」

突然第三者の声が聞こえ令嬢が驚いて振り返るとそこにはルークが立っていた。

「ルーク、貴方何時からここにいましたの?」

「子猫ちゃんの様子を見に来たら話が聞こえてね。アイリスの為だ俺も協力する」

マーガレットの言葉に答えながら協力を買って出る。

「ルークさんも有難う御座います」

「あんまり気乗りしないが親父にも頼んでおいてやるよ。親父もアイリスの為なら力を貸してくれるだろうからな。それじゃ話してこないといけないから俺は帰る」

「はぁ……相変わらず神出鬼没な方ですわね。それでは、わたくしもイリス達に話をしてきますのでこれで失礼します」

ルークが眉間にしわを寄せて侯爵の姿を思い浮かべながら嫌そうに話しながらにも伝えるというと店を出ていく。令嬢もイリス達に話すと言って帰って行った。

「おう、兄ちゃん。話は聞いたぞ。今まで通りこの店に通って欲しいとか。レイヤ達にも話を通しておいてやったから安心しろ」

「それは、有難う御座います」

いきなり現れたマクモが笑顔で言うと出現したことに動じない様子でイクトが礼を述べる。

「アイリスがいかにこの国の人達に好かれているのか見せれば兄妹も分かってくれるさ。ってことで派手にやってやるぜ」

「ははっ。マクモさん店であんまり暴れないでくださいね」

精霊の言葉に彼が小さく笑いながらお願いする。

「しょうがないな。そんじゃ普通にやるか」

マクモはそう一言零して来た時と同じように忽然と消える。

アイリスの現状を理解すればアスベルとぺスも考えが変わるだろうとイクトは思っているようであるがどうなるかはまだ分からないのであった。
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