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ライゼン通りのお針子さん5 ~店長就任以来の危機? 波乱を呼ぶ手紙~

九章 ミュゥからの招待状

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 夏祭りが近付いたある日の午後。お店の扉が開かれお客が入って来る。

「こんにちは、アイリスさん。お願があります」

「え? あ、ミュゥさん。凄く言葉が上手だったので違うお客様かと思いました」

とても綺麗な発音で話して来たミュゥリアムに驚いてしまう。

「私もこの国に来て五年になりますから、こちらの言葉覚えました」

「ふふ。片言で話していた頃が懐かしいですね」

にこりと笑い彼女が言うとアイリスも微笑む。

「それで、夏祭りで踊りを披露しますのでその時に着る衣装をお願いしたいです」

「分かりました」

「夏祭りの前ですので一週間後くらいにはお願いします」

「一週間後ですね。畏まりました」

やり取りを終えるとミュゥリアムはにこりと微笑みアイリスを見た。

「アイリスさんがどの様な衣装作るのかとても楽しみにしています。私アイリスさんの作る服大好きです。貴女と出会えて本当に良かったです」

「私もこの街に来たばかりの頃で不安で一杯だった時にミュゥさんと出会えてとても仲良くなってこの街で知り合いが出来てとても嬉しかったです。ミュゥさんがこの国を出て行ってしまうってなった時はとても悲しくて寂しくて。でも戻って来てくれて本当に嬉しかったです。これからもよろしくお願いします」

彼女の言葉にアイリスも微笑み答える。

「それでは、よろしくお願いします」

「さて、っとイクトさんが戻ってきたら作業部屋で作製開始ね」

ミュゥリアムが言うとお店を出ていく。アイリスは注文票に記入しながら店番へと戻る。

「ただいま。アイリス店番有難う。代わるよ」

「イクトさんお帰りなさい。一杯注文を受けたのでこれから作業部屋にこもりますね」

「うん。手伝いが必要だったら何時でも言ってくれ」

「はい」

商人の下に受注に行っていたイクトが戻って来るとアイリスは作業部屋へと向かった。

「さてと、まずはミュゥさんの衣装よね。今回はどんな感じにしようかな」

デッサン画を書きあげながらアイリスは踊り子の服をイメージする。

「よし、上はベアトップに胸元にビーズを散りばめて、スカートは踝の高さのマーメード・スカートで銀色のチェーンベルトと飾りに腰までの高さのチェーンや紐のアクセサリーを一杯つけて、紐の部分には羽やビーズを付けよう。透けるように薄いレース生地でアーム・ロングを作ってっと……こんな感じかな」

出来上がったデッサン画を見詰めながら生地や糸を選びに行く。

「今回はシルクのような肌触りでだけどしっかりとした生地のシルバーのフェアリークルクの布と銀色のドラゴテールの絹糸でっと」

素材の山から適した布と糸を取り出すと早速型紙にあてて裁断を始める。

「ここにアクセサリーを付けってっと……出来た」

「お疲れ様。アイリス少し休憩したらどうかな」

黙々と作業を続けようやくミュゥリアムの衣装が出来上がった時イクトの声が聞こえて来た。

「あ、イクトさん。見て下さい。ミュゥさんの衣装が出来上がりました」

「うん。これはまた見た事ない組み合わせだな」

マグカップとケーキの入った盆を目の前に置かれながらアイリスは話す。トルソーにかけられた服を見ながら彼が感想を述べた。

「この衣装を着て踊るミュゥさんの姿が目に浮かぶよ」

「私も作りながらミュゥさんの踊っている姿をイメージしていたんです。ふふ。気にいって貰えると嬉しいな」

イクトの言葉に彼女も小さく笑いながら話す。

「さて、休憩したらまた頑張らないとね」

「あんまり根を詰めすぎないようにね。俺も手伝うから」

「大丈夫です。今日受けた分の量なら一週間もあれば出来てしまうので」

紅茶を一口飲みながら話すアイリスへと彼が優しく言う。その言葉に彼女は笑顔で答えた。

「アイリスが大丈夫って言うのなら任せるけれど、でももう少し頼ってくれてもいいんだよ」

「騎士団や冒険者の服百着作る……みたいな時はお願いしますが、それ以外の時は私一人でやってみたいんです。私がどこまでやれるのか限界を知りたいのです」

「そうか。それなら俺は見守るけれど、でも無理はしないようにね」

「はい」

話ながら休憩を終えるとアイリスは仕立てに戻りイクトは店番をする。

そうして一週間後ミュゥリアムが店に来た。

「こんにちは、アイリスさん。頼んでいた衣装を頂きに来ました」

「はい。こちらになります」

彼女の言葉に籠を持って行って見せる。

「お~。やっぱりアイリスさんに頼んで良かったです。これ頂きます。そうだ、夏祭りの時に舞台で踊るので是非イクトさんと二人で見に来てください」

「これって舞台のチケット?」

「はい。あまりに人気で今年からチケット制になったそうです。私の友人達に配りたいと言ったら少し貰えたのです。是非見に来てくださいね」

「分かりました。イクトさんと二人で見に行きます」

招待状を貰ったアイリスはにこりと笑うと了承した。

夏祭りの日ミュゥリアムから貰ったチケットを持ちイクトと二人で舞台を見に行く。

「凄い人……人気だって言っていたけれどこんなにも人が多いだなんて」

「ミュゥさんのファンが大勢いるんだろうね」

「ミュゥさんの踊り素敵ですからね」

会場に行くと人混みの多さに驚く。イクトの言葉に納得して頷く。

「さ、中へ入ろう」

「はい」

チケットを用意して舞台の入口へと向かう。中へ入るとそこもまた人で埋め尽くされていて舞台が良く見える席は殆ど空いていなかった。

「端っこの方しか空いてなさそうだね」

「アイリスさん、イクトさん。こっちです」

「あれ、シュテナ様それにジョン様も」

周りを見回しイクトが言った時誰かの声がしてそちらを見やるとシュテリーナとジョルジュが椅子に座っていた。

「ミュゥさんの踊りを見に来たんですよね。良い席確保しておきました」

「こちらで一緒に見ましょう」

にこりと笑いシュテリーナとジョルジュが言う。

「それはわざわざ有難う御座います」

「それではお言葉に甘えて失礼します」

アイリスとイクトがそれぞれ答え彼等が確保してくれていた席へと座る。

「ここからなら舞台が一望できます」

「本当だ。良く見える」

王子の言葉にイクトも前を見やり頷く。

「あ、始まるみたいですよ」

「今宵はお集まりいただき誠に有難う御座います。お待たせいたしました。この国一の踊り子ミュゥリアムさんによるダンスを披露して頂きます。皆様拍手」

司会者の言葉に従い会場中から大きな拍手が巻き起こると舞台袖からミュゥリアムが現れ真ん中まで歩いてくると立ち止まった。

「皆さんこんばんは。今日は来てくださり有り難う御座います。私の踊りで楽しんでいって下さい」

彼女の言葉に会場中から温かな拍手や口笛が巻き起こる。

そうして静まり返ったタイミングでミュゥリアムが踊り出す。その魅惑的で妖艶なダンスに会場中が虜になった。

舞い終えた彼女の姿と一瞬の静寂の後に巻き起こる拍手喝采。

「有難う御座いました。以上ミュゥリアムさんによるダンスでした」

司会者の声を聞きながらアイリスはミュゥリアムに届けと言わんばかりに立ち上がって拍手を送る。

こうして夏祭りの夜は更けていった。
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