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ライゼン通りのお針子さん4 ~光と影の潜む王国物語~
十四章 アイアンゴーレムの噂その後の話
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雪が降り積もる寒い季節がやってくる。仕立て屋アイリスは暫くの間のんびりとした時が流れていた。
「……今日もお客さん来ないですね」
「ここ最近降り積もった雪のせいだろう。皆この寒さで家の中にこもっているのだと思うよ」
窓の外を見詰めながらアイリスが言うとカウンターで作業をしていたイクトが答える。
「でも去年までは雪が続いても少しはお客さんがお見えになっていたのに……如何したんだろう」
「毎年必ずお客さんが来るというわけではないと思うよ。俺が一人でお店を切り盛りしていた時もそういう年もあったからね」
彼女の言葉に彼が答えるとアイリスはそれもそうなのかと納得して頷く。
「さ、お客さんがいない間に普段できない作業をして過ごそう」
「はい」
イクトの言葉にアイリスは返事をすると在庫のチェックを始めた。
それから暫く経つとお客が来たことを知らせる鈴の音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ……あ、ジャスティンさん。どうなさいました」
「あぁ、久しく顔を出せなくてすまない。実は国王陛下に頼まれた言伝を知らせるために全国民の家を訪ねて歩いているんだ」
やってきたのはジャスティンで彼の姿にアイリスは駆け寄る。イクトもカウンター越しから隊長の姿を見詰めた。
「伝言ですか?」
「あぁ……最近話題に上がっていたアイアンゴーレムの噂についてなのだが、国を挙げて調査をした結果、奴の姿は確認できなかった。見かけたという者も当時酒に酔っていたらしく幻覚を見たのではないかとの見解にいたった。色々と噂が発ってしまった為こうして王国騎士団が各家に周り事の真相を伝えているところなのだ」
不思議がる彼女へとジャスティンがすらすらと説明する。
「つまり、見間違いという事ですか?」
「そうなるな……不安にさせてしまい申し訳なかった。だが、今回の件で我々も常にどのような事が起るか分からないのだから、より一層仕事をきちんとこなしていくように意識を改革していこうという話になったのだ」
「そうですか。隊長わざわざ伝えにいらして下さり有り難う御座います」
目を丸くして驚くアイリスに隊長が淡々とした口調で答えた。イクトも笑顔でお礼を述べる。
「それでは、私はまだ他の家にも回らないといけないのでこれで失礼する」
「……まさかただの見間違いだったなんて」
「そうだね。でも、何も起こらなかったのならそれはそれでよい事ではないかな」
ジャスティンが出ていく姿を見送ると彼女がそう呟く。それに何かを考えていたイクトが笑顔に戻るとそう答えた。
「こんにちは」
「はい、あ。リリアさんいらっしゃいませ」
そこに再び扉が開き誰かが入って来るとそこには右目に眼帯を付けた男性と一緒に来店したリリアの姿がありアイリスは駆け寄る。
「実は私彼と一緒に暫くの間旅に出ることにしたのです。自分の記憶を辿って……だから今日はお別れを言いに来ました」
「……」
「「!?」」
彼女がそう説明するとアイリスはリリアの言葉に、イクトは無言で佇む男性を見て驚く。
「記憶を辿る旅に出るって……そんな急にどうして」
「私、いろいろと思い出したんです。自分の事も出会った人達の事も。だから隊長や彼が抱えている苦しみと同じ様に私も自分の記憶を辿っていろいろな事を整理したいと思うんです。これからの人生を……錬金術師のリリアになる前の自分の記憶を。ですから旅に出る事にしたのです。ソフィーさん達には申し訳ないですけれど、でもどうしてもやらないといけない事だから。だけどそれが終わったらまたこの国に帰ってくるつもりです。そうしたらまたお店を始めますのでよろしくお願いしますね」
彼女の言葉にリリアがにこりと笑い説明する。
「アイリス、寂しいかもしれないけれど、リリアに記憶が戻ったのならよい事だと思うよ。笑顔で見送ってあげよう」
「そうですね。リリアさんまたこの国に戻って来て下さいね」
「はい。必ず、必ずこの国に戻ってきます」
イクトの言葉にアイリスは涙で滲む視界でそう話す。彼女も笑顔で力強く答えてくれた。
そうしてリリアが男性と一緒にお店を出ていくと微妙な空気が流れる。
「さっきの男性は誰だったんだろう。リリアさんを迎えに来た人とか?」
「さぁ、それは分からないけれど。でも……リリアと一緒に旅に出る事は彼にとっても良い事なんだと思う。……すまないがアイリス。俺は少し出かけてくる。お店の方は頼んだよ」
彼女の言葉に彼が答えると出かける支度をして店を出ていく。
「行ってらっしゃい。……イクトさん、何だか慌てていたみたいだけれど如何したんだろう」
急いで支度を済ませて出ていってしまったイクトの様子にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「オ~。アイリスさんそんな顔しないデくださイ。お客さんいなくてモ大丈夫デス。私が連れてきましタ」
「!? ミュウさんいらっしゃいませ」
考え深げな顔をしているとミュゥリアムがいつの間にかお店の中にいて驚いて出迎える。
「この人がアイリスさんデス。この人腕の良イ職人さん。きっと良い服を作ってくれまス」
「ミュウさんがとても腕の良い職人さんを紹介してくれるというからねぇ。ついてきたんだよ。孫の誕生日にマフラーをプレゼントしてあげたくてね。頼めるかい」
「分かりました。どのような感じでお作り致しましょう」
彼女が説明すると後ろについてきていたお婆さんが依頼を頼む。その言葉にすぐに対応してメモ帳を取り出し話を聞く。
「アイリス、イクト様の足を……って、こんなにお客がいないなんてどうしましたの」
「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」
お婆さんの話を聞いていると今度はマーガレットが入って来る。しかし閑古鳥が鳴く店内の様子に驚いた顔をした。
「今年はお客様が少なくて、イクトさんはそんな年もあるって言っていたのですが」
「このお店に人がいないだなんて……きっと例の噂のせいですわね。アイアンゴーレムがどうのとかっていう。近頃その噂のせいで街の中はピリピリしていましたもの。わたくしも家から出してもらえませんでしたものね。でも、ただの見間違いだって分かったのですから、これからはまたいつも通りの賑わいに戻ると思いますわ」
アイリスの言葉に令嬢が話す。
「あ、それでお客さんが少なかったのか」
「アイアンゴーレムがどれほど脅威なのか知りませんが、大人達は皆警戒していましたの。それで町中不穏な空気に包まれていたのですわ。アイリスご存じありませんの」
「そう言えばイクトさん達も何だか様子がおかしかったです。そうか、アイアンゴーレムの噂のせいだったんですね」
アイアンゴーレムの噂のせいで客足が途絶えていたのだと気付いて驚く彼女へとマーガレットが呆れた様子で話す。それにアイリスはそう言えばといった感じで答えた。
「とにかく、もうその変な噂も解決したのですから。心配なくてよ」
「そうデすよ。アイリスさんのお店ニまたお客さん戻っテきます。私も協力いたしまス」
「有り難う御座います。私またこれからも皆さんの為に頑張りますね」
令嬢が言うと話を聞いていたミュゥリアムもにこりと笑い語る。
こうして優しいお客達に励まされてアイリスは笑顔で答えた。
「……今日もお客さん来ないですね」
「ここ最近降り積もった雪のせいだろう。皆この寒さで家の中にこもっているのだと思うよ」
窓の外を見詰めながらアイリスが言うとカウンターで作業をしていたイクトが答える。
「でも去年までは雪が続いても少しはお客さんがお見えになっていたのに……如何したんだろう」
「毎年必ずお客さんが来るというわけではないと思うよ。俺が一人でお店を切り盛りしていた時もそういう年もあったからね」
彼女の言葉に彼が答えるとアイリスはそれもそうなのかと納得して頷く。
「さ、お客さんがいない間に普段できない作業をして過ごそう」
「はい」
イクトの言葉にアイリスは返事をすると在庫のチェックを始めた。
それから暫く経つとお客が来たことを知らせる鈴の音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ……あ、ジャスティンさん。どうなさいました」
「あぁ、久しく顔を出せなくてすまない。実は国王陛下に頼まれた言伝を知らせるために全国民の家を訪ねて歩いているんだ」
やってきたのはジャスティンで彼の姿にアイリスは駆け寄る。イクトもカウンター越しから隊長の姿を見詰めた。
「伝言ですか?」
「あぁ……最近話題に上がっていたアイアンゴーレムの噂についてなのだが、国を挙げて調査をした結果、奴の姿は確認できなかった。見かけたという者も当時酒に酔っていたらしく幻覚を見たのではないかとの見解にいたった。色々と噂が発ってしまった為こうして王国騎士団が各家に周り事の真相を伝えているところなのだ」
不思議がる彼女へとジャスティンがすらすらと説明する。
「つまり、見間違いという事ですか?」
「そうなるな……不安にさせてしまい申し訳なかった。だが、今回の件で我々も常にどのような事が起るか分からないのだから、より一層仕事をきちんとこなしていくように意識を改革していこうという話になったのだ」
「そうですか。隊長わざわざ伝えにいらして下さり有り難う御座います」
目を丸くして驚くアイリスに隊長が淡々とした口調で答えた。イクトも笑顔でお礼を述べる。
「それでは、私はまだ他の家にも回らないといけないのでこれで失礼する」
「……まさかただの見間違いだったなんて」
「そうだね。でも、何も起こらなかったのならそれはそれでよい事ではないかな」
ジャスティンが出ていく姿を見送ると彼女がそう呟く。それに何かを考えていたイクトが笑顔に戻るとそう答えた。
「こんにちは」
「はい、あ。リリアさんいらっしゃいませ」
そこに再び扉が開き誰かが入って来るとそこには右目に眼帯を付けた男性と一緒に来店したリリアの姿がありアイリスは駆け寄る。
「実は私彼と一緒に暫くの間旅に出ることにしたのです。自分の記憶を辿って……だから今日はお別れを言いに来ました」
「……」
「「!?」」
彼女がそう説明するとアイリスはリリアの言葉に、イクトは無言で佇む男性を見て驚く。
「記憶を辿る旅に出るって……そんな急にどうして」
「私、いろいろと思い出したんです。自分の事も出会った人達の事も。だから隊長や彼が抱えている苦しみと同じ様に私も自分の記憶を辿っていろいろな事を整理したいと思うんです。これからの人生を……錬金術師のリリアになる前の自分の記憶を。ですから旅に出る事にしたのです。ソフィーさん達には申し訳ないですけれど、でもどうしてもやらないといけない事だから。だけどそれが終わったらまたこの国に帰ってくるつもりです。そうしたらまたお店を始めますのでよろしくお願いしますね」
彼女の言葉にリリアがにこりと笑い説明する。
「アイリス、寂しいかもしれないけれど、リリアに記憶が戻ったのならよい事だと思うよ。笑顔で見送ってあげよう」
「そうですね。リリアさんまたこの国に戻って来て下さいね」
「はい。必ず、必ずこの国に戻ってきます」
イクトの言葉にアイリスは涙で滲む視界でそう話す。彼女も笑顔で力強く答えてくれた。
そうしてリリアが男性と一緒にお店を出ていくと微妙な空気が流れる。
「さっきの男性は誰だったんだろう。リリアさんを迎えに来た人とか?」
「さぁ、それは分からないけれど。でも……リリアと一緒に旅に出る事は彼にとっても良い事なんだと思う。……すまないがアイリス。俺は少し出かけてくる。お店の方は頼んだよ」
彼女の言葉に彼が答えると出かける支度をして店を出ていく。
「行ってらっしゃい。……イクトさん、何だか慌てていたみたいだけれど如何したんだろう」
急いで支度を済ませて出ていってしまったイクトの様子にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「オ~。アイリスさんそんな顔しないデくださイ。お客さんいなくてモ大丈夫デス。私が連れてきましタ」
「!? ミュウさんいらっしゃいませ」
考え深げな顔をしているとミュゥリアムがいつの間にかお店の中にいて驚いて出迎える。
「この人がアイリスさんデス。この人腕の良イ職人さん。きっと良い服を作ってくれまス」
「ミュウさんがとても腕の良い職人さんを紹介してくれるというからねぇ。ついてきたんだよ。孫の誕生日にマフラーをプレゼントしてあげたくてね。頼めるかい」
「分かりました。どのような感じでお作り致しましょう」
彼女が説明すると後ろについてきていたお婆さんが依頼を頼む。その言葉にすぐに対応してメモ帳を取り出し話を聞く。
「アイリス、イクト様の足を……って、こんなにお客がいないなんてどうしましたの」
「あ、マーガレット様いらっしゃいませ」
お婆さんの話を聞いていると今度はマーガレットが入って来る。しかし閑古鳥が鳴く店内の様子に驚いた顔をした。
「今年はお客様が少なくて、イクトさんはそんな年もあるって言っていたのですが」
「このお店に人がいないだなんて……きっと例の噂のせいですわね。アイアンゴーレムがどうのとかっていう。近頃その噂のせいで街の中はピリピリしていましたもの。わたくしも家から出してもらえませんでしたものね。でも、ただの見間違いだって分かったのですから、これからはまたいつも通りの賑わいに戻ると思いますわ」
アイリスの言葉に令嬢が話す。
「あ、それでお客さんが少なかったのか」
「アイアンゴーレムがどれほど脅威なのか知りませんが、大人達は皆警戒していましたの。それで町中不穏な空気に包まれていたのですわ。アイリスご存じありませんの」
「そう言えばイクトさん達も何だか様子がおかしかったです。そうか、アイアンゴーレムの噂のせいだったんですね」
アイアンゴーレムの噂のせいで客足が途絶えていたのだと気付いて驚く彼女へとマーガレットが呆れた様子で話す。それにアイリスはそう言えばといった感じで答えた。
「とにかく、もうその変な噂も解決したのですから。心配なくてよ」
「そうデすよ。アイリスさんのお店ニまたお客さん戻っテきます。私も協力いたしまス」
「有り難う御座います。私またこれからも皆さんの為に頑張りますね」
令嬢が言うと話を聞いていたミュゥリアムもにこりと笑い語る。
こうして優しいお客達に励まされてアイリスは笑顔で答えた。
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