63 / 124
ライゼン通りのお針子さん4 ~光と影の潜む王国物語~
十二章 伝説の冒険者ご来店
しおりを挟む
リゼットと出会ってから暫く経った頃、仕立て屋アイリスは今日もお客で大賑わいであった。
「失礼。アイリス、貴女の腕を見込んでまた仕事着を頼みたいの。アイアンゴーレムの噂は聞いているわよね? その討伐隊にあたしも加わる事になってね。それで今着ている服をカスタマイズできればと思って。マルセンも貴女なら木こりの森に出ると言われる伝説上の怪物。緑竜とだって渡り合えるほど丈夫でしなやかで頑丈で耐久性のある服を作ってくれるっていうものだから」
「マルセンさんは饒舌ですね。ですが、キリさんの命を守る大切な服。私に作らせてください」
「それじゃあお願いするわね」
キリとやり取りしているとマルセンが布袋を抱えて入って来る。
「よう、アイリス。元気そうだな。これ……仕事先で拾ったんだが素材として使えるか?」
「マルセンさん何時も有り難う御座います」
布袋を差し出してくる彼からそれを受け取るとアイリスはお礼を述べた。
「気にするな。俺も持って帰っても使い道に困るからな。それならアイリスのお店で素材として使ってもらえるなら有り難い」
「マルセンは本当にアイリスのお店が好きなのね」
「っ!? キリさんいらしていたんですね。まぁ、アイリスにはお世話になってるからな……恩返しだ、恩返し」
キリの存在に気付いた途端頬を赤らめ挙動不審になる様子にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「マルセンさん如何したんですか? 顔が真っ赤になってますよ」
「なっ、何でもない。気にするな」
「……ねぇ、君がこの店の主?」
彼女の言葉にマルセンが答えていると第三者の声が聞こえてきて皆驚いてそちらへと視線を向けた。
「……は、はい。私がこの仕立て屋の店主のアイリスです。あの、どのような御用でしょうか」
「君に服を作ってもらいたいんだ。冒険者の服百着。頼みたいんだけど」
アイリスが返事をすると少年にも少女にも見える人物が淡々とした口調で話す。
「っ!? 伝説の冒険者……セツナさん」
「!? この方が冒険者業界では有名なあの伝説の冒険者……」
マルセンが変な汗を流しながら緊張で垂直になる横でキリも初めて出会う伝説の冒険者に冷や汗を流す。
「伝説の冒険者って?」
「……冒険者の中で彼女の名前を知らない者はいないと言われるほどの腕を持つ伝説の女冒険者。それがセツナのことなんだ。彼女はその小柄な見た目に反して体の倍以上はある大剣を振り回し伝説上の生き物とされる鬼や邪竜と互角以上に渡り合ったと聞いている」
アイリスが不思議そうに呟くのでイクトが少女が如何に凄い人物であるかを説明した。
「そんな凄い人が……この子なんですか?」
「ば、ばか。この子なんてそんな軽々しく呼んで良い方じゃない。まぁ、アイリスは分からないかもしれないが……」
驚愕の表情をする彼女へとマルセンが慌てて注意する。
「どうでもいいけど、依頼受けてくれるのくれないの」
「は、はい。畏まりました。冒険者の服百着お作り致します。それでどのように作ればいいですか」
呆れるでも怒るでもなく話題に上がっている人物は淡々とした口調を崩さずに問いかけた。それにアイリスが慌てて答える。
「君の腕を見込んで頼んでいる。どのような服を作るかは君に任せる。……それじゃあ、ちゃんと頼んだからね。一週間後に取りに来るから」
「は、はい……なんだか不思議な方でしたね」
「どう見たってまだ十代だろう少女なのに、嫌に落ち着きすぎているだろう。だからどんなに熟練の冒険者や騎士でも彼女を前にすると震え上がると言われているほど、恐れられているお方だ」
少女が出て行ってしまうと彼女は一気に気が抜けたといった感じで呟く。それにマルセンが語った。
「とにかく急に忙しくなったね。お店の方は俺が見ているから、アイリスは……」
「はい、イクトさんよろしくお願いします。それでは作業部屋に行ってきますね」
「アイリスなら大丈夫だろうと思うけれど……」
「……セツナさんにまで頼られるなんてアイリスは凄いな」
キリが心配そうに作業部屋の方を見詰めると、マルセンが独り言を零す。
「逆にセツナの場合はアイリスを試しているような気がするけれどね。ソフィーがそうだったように」
「あ~……」
「?」
それを聞き拾っていたイクトの言葉に彼は酷く納得する。しかし一人だけ理解できていないキリが不思議そうに首を傾げた。
「ま、アイリスなら大丈夫だと思うからこそセツナも依頼を頼んだんだろうとは思うけれどね」
「アイリス……頑張れよ」
「あたしも応援しているわ」
イクトが小さく笑い言うと二人がアイリスを応援する。
その頃作業部屋へと入ったアイリスはまずはキリの服から仕立て直すことにした。
「カスタマイズって言っていたから前に私が作った服をもっと丈夫でしなやかで頑丈で耐久性のある物にすればいいのよね。となると……これこれ。鈍色のグリフォンの革で服を作って、オムール貝を使った革当てを……あとはこの鯉の髭糸とバクルムルの布をよしこれなら」
素材の山から必要な素材を手に取りキリの服をトルソーにかけるとさそく強固にするためカスタマイズしていく。
「出来た。次は冒険者の服百着よね」
「アイリス入るよ。これ、マルセンが冒険者の皆さんの服のサイズを書いてくれたんだ。これを参考に型紙を作れないかって言っていたよ」
アイリスがどうやって作ろうかと思っていると部屋へと入ってきたイクトがメモした紙を作業台に置く。
「マルセンさんが……」
「うん。マルセンもキリさんも君の事を応援していると伝えてくれって」
「はい。私必ず冒険者の服百着の依頼達成して見せます」
驚く彼女へと彼が微笑み優しい口調で話す。その言葉にアイリスは意気込んだ。
「うん、暫くの間店頭の方は俺に任せて。手が空いていたら服を縫い合わせるのを手伝うからいつでも声をかけてね」
「はい。有り難う御座います」
こうして彼女は冒険者の服百着を作る作業へと入っていった。
「失礼。アイリス、貴女の腕を見込んでまた仕事着を頼みたいの。アイアンゴーレムの噂は聞いているわよね? その討伐隊にあたしも加わる事になってね。それで今着ている服をカスタマイズできればと思って。マルセンも貴女なら木こりの森に出ると言われる伝説上の怪物。緑竜とだって渡り合えるほど丈夫でしなやかで頑丈で耐久性のある服を作ってくれるっていうものだから」
「マルセンさんは饒舌ですね。ですが、キリさんの命を守る大切な服。私に作らせてください」
「それじゃあお願いするわね」
キリとやり取りしているとマルセンが布袋を抱えて入って来る。
「よう、アイリス。元気そうだな。これ……仕事先で拾ったんだが素材として使えるか?」
「マルセンさん何時も有り難う御座います」
布袋を差し出してくる彼からそれを受け取るとアイリスはお礼を述べた。
「気にするな。俺も持って帰っても使い道に困るからな。それならアイリスのお店で素材として使ってもらえるなら有り難い」
「マルセンは本当にアイリスのお店が好きなのね」
「っ!? キリさんいらしていたんですね。まぁ、アイリスにはお世話になってるからな……恩返しだ、恩返し」
キリの存在に気付いた途端頬を赤らめ挙動不審になる様子にアイリスは不思議そうに首をかしげる。
「マルセンさん如何したんですか? 顔が真っ赤になってますよ」
「なっ、何でもない。気にするな」
「……ねぇ、君がこの店の主?」
彼女の言葉にマルセンが答えていると第三者の声が聞こえてきて皆驚いてそちらへと視線を向けた。
「……は、はい。私がこの仕立て屋の店主のアイリスです。あの、どのような御用でしょうか」
「君に服を作ってもらいたいんだ。冒険者の服百着。頼みたいんだけど」
アイリスが返事をすると少年にも少女にも見える人物が淡々とした口調で話す。
「っ!? 伝説の冒険者……セツナさん」
「!? この方が冒険者業界では有名なあの伝説の冒険者……」
マルセンが変な汗を流しながら緊張で垂直になる横でキリも初めて出会う伝説の冒険者に冷や汗を流す。
「伝説の冒険者って?」
「……冒険者の中で彼女の名前を知らない者はいないと言われるほどの腕を持つ伝説の女冒険者。それがセツナのことなんだ。彼女はその小柄な見た目に反して体の倍以上はある大剣を振り回し伝説上の生き物とされる鬼や邪竜と互角以上に渡り合ったと聞いている」
アイリスが不思議そうに呟くのでイクトが少女が如何に凄い人物であるかを説明した。
「そんな凄い人が……この子なんですか?」
「ば、ばか。この子なんてそんな軽々しく呼んで良い方じゃない。まぁ、アイリスは分からないかもしれないが……」
驚愕の表情をする彼女へとマルセンが慌てて注意する。
「どうでもいいけど、依頼受けてくれるのくれないの」
「は、はい。畏まりました。冒険者の服百着お作り致します。それでどのように作ればいいですか」
呆れるでも怒るでもなく話題に上がっている人物は淡々とした口調を崩さずに問いかけた。それにアイリスが慌てて答える。
「君の腕を見込んで頼んでいる。どのような服を作るかは君に任せる。……それじゃあ、ちゃんと頼んだからね。一週間後に取りに来るから」
「は、はい……なんだか不思議な方でしたね」
「どう見たってまだ十代だろう少女なのに、嫌に落ち着きすぎているだろう。だからどんなに熟練の冒険者や騎士でも彼女を前にすると震え上がると言われているほど、恐れられているお方だ」
少女が出て行ってしまうと彼女は一気に気が抜けたといった感じで呟く。それにマルセンが語った。
「とにかく急に忙しくなったね。お店の方は俺が見ているから、アイリスは……」
「はい、イクトさんよろしくお願いします。それでは作業部屋に行ってきますね」
「アイリスなら大丈夫だろうと思うけれど……」
「……セツナさんにまで頼られるなんてアイリスは凄いな」
キリが心配そうに作業部屋の方を見詰めると、マルセンが独り言を零す。
「逆にセツナの場合はアイリスを試しているような気がするけれどね。ソフィーがそうだったように」
「あ~……」
「?」
それを聞き拾っていたイクトの言葉に彼は酷く納得する。しかし一人だけ理解できていないキリが不思議そうに首を傾げた。
「ま、アイリスなら大丈夫だと思うからこそセツナも依頼を頼んだんだろうとは思うけれどね」
「アイリス……頑張れよ」
「あたしも応援しているわ」
イクトが小さく笑い言うと二人がアイリスを応援する。
その頃作業部屋へと入ったアイリスはまずはキリの服から仕立て直すことにした。
「カスタマイズって言っていたから前に私が作った服をもっと丈夫でしなやかで頑丈で耐久性のある物にすればいいのよね。となると……これこれ。鈍色のグリフォンの革で服を作って、オムール貝を使った革当てを……あとはこの鯉の髭糸とバクルムルの布をよしこれなら」
素材の山から必要な素材を手に取りキリの服をトルソーにかけるとさそく強固にするためカスタマイズしていく。
「出来た。次は冒険者の服百着よね」
「アイリス入るよ。これ、マルセンが冒険者の皆さんの服のサイズを書いてくれたんだ。これを参考に型紙を作れないかって言っていたよ」
アイリスがどうやって作ろうかと思っていると部屋へと入ってきたイクトがメモした紙を作業台に置く。
「マルセンさんが……」
「うん。マルセンもキリさんも君の事を応援していると伝えてくれって」
「はい。私必ず冒険者の服百着の依頼達成して見せます」
驚く彼女へと彼が微笑み優しい口調で話す。その言葉にアイリスは意気込んだ。
「うん、暫くの間店頭の方は俺に任せて。手が空いていたら服を縫い合わせるのを手伝うからいつでも声をかけてね」
「はい。有り難う御座います」
こうして彼女は冒険者の服百着を作る作業へと入っていった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

転生先は美少女パイロットが乗るロボットのAIでした。
美作美琴
ファンタジー
いじめられっ子の少年、瑞基(みずき)は事故死して女神に出会う。
彼女は瑞基を転生させようとするが瑞基はかたくなに拒否。
理由は人間に転生してまたいじめられるのが嫌だから。
しかし実績の為どうしても瑞基を転生させたい女神は瑞基にある提案をする。
それは瑞基を人間ではないもの……科学技術が進歩した世界のAIに転生させるというものだった。
異世界転生はファンタジー世界に転生するだけに在らず……異例のロボ転生、刮目してみよ!!

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉
陣ノ内猫子
ファンタジー
神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。
お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。
チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO!
ーーーーーーーーー
これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。
ご都合主義、あるかもしれません。
一話一話が短いです。
週一回を目標に投稿したと思います。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。
誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。
感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる