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ライゼン通りのお針子さん4 ~光と影の潜む王国物語~
九章 イリスVSルーク
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セミの鳴き声がけたたましく響き渡る蒸し暑い夏のある日。
「いらっしゃいませ、仕立て屋アリスへようこそ」
「はぁ……アイリスさん。今日も素晴らしいお仕事ぶりですわ」
お客がひっきりなしに訪れる仕立て屋の中忙しく働いているアイリスの様子を遠目から眺めるイリス。アイリスファンクラブの日課の一つである「遠くからアイリス様を愛でよう」を実行している最中である。
「はぁい、子猫ちゃん。今日も可愛いね」
「あ、ルークさんいらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
そこに侯爵家の問題児と言われるルークがやって来ると爽やかな微笑みを浮かべてアイリスへと近寄っていった。
「用事? ははっ。そんなこと決まっているだろう。子猫ちゃんに会いに来たのさ。あ、これ俺からのプレゼント。……ちゅ♡」
「!?」
白昼堂々投げキッスを送る彼の様子にイリスが驚きと怒りに体を震わせる。
「ひゃあ……あぁ~びっくりした。もう、驚かさないでくださいよ」
「あははっ、照れているのかい。そんな子猫ちゃんも可愛いね」
「……っ!」
ついに怒り心頭してしまった令嬢はズカズカと音を立てながら無言でルークの側へと近寄る。
「ちょっと、貴方……先ほどから黙ってみていたら、アイリスさんのお仕事の邪魔ばかりして……迷惑ですわ。さっさとこのお店から出て行って下さいな!」
「子猫ちゃん何を怒っているんだい? あ、もしかして君も俺にかまってもらいたかったのかな。ごめんね、君も十分素敵だよ。だから怒らないで、ね」
顔を真っ赤にして怒るイリスへと彼が爽やかな笑顔を浮かべたまま口説く。
「お黙りなさい。貴方みたいな女ったらしなんかわたくしの相手ではございませんのよ。このお店に似つかわしくありませんの、ですので二度とこのお店に来ないでくださいな」
「……そういわれてもね、それはできない相談だよ。だって俺アイリスに会いたいんだから」
「貴方みたいな人がアイリスさんと肩を並べられると思わないでくださいな」
あくまで女の子なので優しく対応するルークへと令嬢が怒鳴る。
「っぅ……さっきから女の子だと思って下手に出ていたらいい気になりやがって。君に何が分かるっていうんだい」
「貴方みたいな人がここに来るとこの店の品格が落ちますの。ですのでとっとと出て行ってくださらない」
「お店に来るのは俺の勝手だろうが」
「ち、ちょっと。イリスさん……ルークさんもやめて下さい」
ついにお互い怒りのままに火花を散らし始めた二人を止めようとアイリスが口を開く。
「アイリスさんは黙っていらして」
「子猫ちゃんは黙ってて」
「!?」
二人の気迫に負けてしまい彼女は口を噤む。
「こうなったら勝負ですわ。わたくしが勝ったら貴方はお店から出ていく」
「いいだろう。俺が勝ったら君に文句は言わせない」
「勝負は明日このお店で行います。内容はファッションショーですわ。アイリスさんに審査をして頂きどちらのコーディネートがより優れているかで勝敗を決めましてよ」
「分かった。覚悟しておくことだね」
「それはこちらの台詞ですわ」
「……なんだか、面倒なことになっちゃったなぁ」
勝手に勝負を決めてこのお店でやると言い出したイリスの様子にアイリスは盛大に溜息を吐く。
見かねたイクトやお客達が二人を諫めてこの日は帰ってもらったが、翌日再びこのお店で勝負をすると言い張って聞かない二人の気持ちを変える事は出来なかった。
仕方ないので次の日は臨時休業として二人が来るのを待つ。
「すみません、イクトさん。お店でこんな騒ぎを起こしてしまって」
「アイリスが謝ることはないよ。それに……イリスさんもルークさんもやり方は悪いけれどアイリスの事が好きだから譲れない想いがあるのだと思うよ」
二人が来るまでの間アイリスはイクトに謝る。それに彼が苦笑して答えた。
「失礼いたします」
「やぁ、来たぜ」
ほぼ同時にお店へとやってきた二人はお互いに火花を散らし合う。
「それでは早速ファッションショーを始めますわよ。司会はこのわたくしマーガレットがして差し上げますわ。……お二人とも準備はよろしくって」
「いつでも大丈夫ですわ」
「勝つ準備ならとっくにできているよ」
アイリスの頼みで助っ人としてやってきたマーガレットが司会を務める。彼女の言葉にイリスとルークがそれぞれ頷いた。
「それでは先行はイリスさんのコーディネートを披露して頂きますわ」
「わたくしは夏らしいビビットなカラーで統一した爽やかさと爽快さをイメージした服ですわ」
そう言ってイリスがマントを脱ぐと現れたセクシーな衣装に身を包み微笑む。
「続きまして後行ルークさんのコーディネートを披露して頂きますわ」
「俺は、これ……俺の美しさを際立たせる夏らしく明るい色のカーディガンと海と空の色をイメージしたサテン柄のシャツこの赤と青の色の相性。如何だ、素晴らしいだろう」
マーガレットの言葉に今度はルークがマントを脱ぐと雑誌のトップを飾るモデルのようなスタイルで衣装を見せびらかせる。
「さぁ。お二方の衣装の披露が終わりましたわ。アイリス、審査をお願いします」
「は、はい」
彼女の言葉にアイリスは二人のファッションの何処が良かったかを考えた。
「決まりました……今回の勝負の結果は……」
「「「「……」」」」
彼女が次にどちらの名前を言うのかと皆は固唾を呑み見守る。
「結果は……イリスさんもルークさんもそれぞれどちらも素晴らしかったです」
「つまり、引き分けという事だね」
「はい、すみません……」
アイリスの言葉にイクトが言うと彼女は申し訳なさそうな顔で謝る。
「わたくしと互角の勝負をするとは、貴方なかなかやりましてね」
「そういう子猫ちゃんこそ。俺と肩を並べる戦いを繰り広げるとはなかなかだな」
お互い不敵に微笑み口を開くと賛嘆する。
「結果が引き分けでは仕方ありませんので、貴方がこのお店へと来ることを認めて差し上げましてよ」
「俺もこんなに熱い気持ちになったのは久しぶりだ。君の事認めてあげるよ」
二人はしっかりと握手を交わし合うと熱い友情が生まれたようで微笑み合う。
「はぁ……付き合っていられませんわ。アイリス、わたくしがファンクラブの会員の一員としてイリスの代わりに謝りますわ。こんな騒動を起こした事本当に申し訳ありません」
「そ、そんな。マーガレット様が謝ることはないですよ」
頭を下げるマーガレットへと慌ててアイリスは答えた。
「イリスには二度とこのようなはしたない騒動を起こさないようにきつく言っておきますわ。それじゃあ、彼女を連れてわたくしは帰ります」
「は、はい」
彼女が言うと未だルークと不敵に微笑み合っているイリスを連れて帰っていった。
「小鳥さん! 愚弟が迷惑かけたって聞いて飛んできたんだ。君達やお店に迷惑をかけてしまってごめんね。これ、お詫びの品だよ。……ルーク。小鳥さん達の店に迷惑をかけたらダメだって親父にも言われていただろう。親父カンカンに怒っていたぞ。さぁ、お前は今から家に帰って叱られて来い」
「いてっ……殴る事ないだろう。このバカ兄貴!」
フレイが飛び込んでくるとアイリスに菓子折りを渡してルークの頭をひっぱたく。それに彼が抗議の声を上げ兄を睨んだ。
「小鳥さん達の前だからこれで済んだこと有り難く思え。さぁ、お前は家に帰って親父にちゃんと事の次第を説明して来い」
「いてっ、引っ張るなよ。分かった、分ったから!」
ルークの耳を引っぱりながらお店から出ていくフレイ。
「「……」」
皆がいなくなり静かになったお店の中でアイリスとイクトはお互い顔を見合わせ小さく苦笑した。
「なんだか、一気に気が抜けましたね」
「そうだね。さ、アイリスせっかくだからフレイさんが持ってきてくれたお菓子を食べながら休憩しようか」
彼女の言葉に彼も同意すると二人は簡易台所へと向かいフレイが持ってきたお詫びの品であるお菓子と一緒に紅茶を注いでお茶を楽しんだ。
「いらっしゃいませ、仕立て屋アリスへようこそ」
「はぁ……アイリスさん。今日も素晴らしいお仕事ぶりですわ」
お客がひっきりなしに訪れる仕立て屋の中忙しく働いているアイリスの様子を遠目から眺めるイリス。アイリスファンクラブの日課の一つである「遠くからアイリス様を愛でよう」を実行している最中である。
「はぁい、子猫ちゃん。今日も可愛いね」
「あ、ルークさんいらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
そこに侯爵家の問題児と言われるルークがやって来ると爽やかな微笑みを浮かべてアイリスへと近寄っていった。
「用事? ははっ。そんなこと決まっているだろう。子猫ちゃんに会いに来たのさ。あ、これ俺からのプレゼント。……ちゅ♡」
「!?」
白昼堂々投げキッスを送る彼の様子にイリスが驚きと怒りに体を震わせる。
「ひゃあ……あぁ~びっくりした。もう、驚かさないでくださいよ」
「あははっ、照れているのかい。そんな子猫ちゃんも可愛いね」
「……っ!」
ついに怒り心頭してしまった令嬢はズカズカと音を立てながら無言でルークの側へと近寄る。
「ちょっと、貴方……先ほどから黙ってみていたら、アイリスさんのお仕事の邪魔ばかりして……迷惑ですわ。さっさとこのお店から出て行って下さいな!」
「子猫ちゃん何を怒っているんだい? あ、もしかして君も俺にかまってもらいたかったのかな。ごめんね、君も十分素敵だよ。だから怒らないで、ね」
顔を真っ赤にして怒るイリスへと彼が爽やかな笑顔を浮かべたまま口説く。
「お黙りなさい。貴方みたいな女ったらしなんかわたくしの相手ではございませんのよ。このお店に似つかわしくありませんの、ですので二度とこのお店に来ないでくださいな」
「……そういわれてもね、それはできない相談だよ。だって俺アイリスに会いたいんだから」
「貴方みたいな人がアイリスさんと肩を並べられると思わないでくださいな」
あくまで女の子なので優しく対応するルークへと令嬢が怒鳴る。
「っぅ……さっきから女の子だと思って下手に出ていたらいい気になりやがって。君に何が分かるっていうんだい」
「貴方みたいな人がここに来るとこの店の品格が落ちますの。ですのでとっとと出て行ってくださらない」
「お店に来るのは俺の勝手だろうが」
「ち、ちょっと。イリスさん……ルークさんもやめて下さい」
ついにお互い怒りのままに火花を散らし始めた二人を止めようとアイリスが口を開く。
「アイリスさんは黙っていらして」
「子猫ちゃんは黙ってて」
「!?」
二人の気迫に負けてしまい彼女は口を噤む。
「こうなったら勝負ですわ。わたくしが勝ったら貴方はお店から出ていく」
「いいだろう。俺が勝ったら君に文句は言わせない」
「勝負は明日このお店で行います。内容はファッションショーですわ。アイリスさんに審査をして頂きどちらのコーディネートがより優れているかで勝敗を決めましてよ」
「分かった。覚悟しておくことだね」
「それはこちらの台詞ですわ」
「……なんだか、面倒なことになっちゃったなぁ」
勝手に勝負を決めてこのお店でやると言い出したイリスの様子にアイリスは盛大に溜息を吐く。
見かねたイクトやお客達が二人を諫めてこの日は帰ってもらったが、翌日再びこのお店で勝負をすると言い張って聞かない二人の気持ちを変える事は出来なかった。
仕方ないので次の日は臨時休業として二人が来るのを待つ。
「すみません、イクトさん。お店でこんな騒ぎを起こしてしまって」
「アイリスが謝ることはないよ。それに……イリスさんもルークさんもやり方は悪いけれどアイリスの事が好きだから譲れない想いがあるのだと思うよ」
二人が来るまでの間アイリスはイクトに謝る。それに彼が苦笑して答えた。
「失礼いたします」
「やぁ、来たぜ」
ほぼ同時にお店へとやってきた二人はお互いに火花を散らし合う。
「それでは早速ファッションショーを始めますわよ。司会はこのわたくしマーガレットがして差し上げますわ。……お二人とも準備はよろしくって」
「いつでも大丈夫ですわ」
「勝つ準備ならとっくにできているよ」
アイリスの頼みで助っ人としてやってきたマーガレットが司会を務める。彼女の言葉にイリスとルークがそれぞれ頷いた。
「それでは先行はイリスさんのコーディネートを披露して頂きますわ」
「わたくしは夏らしいビビットなカラーで統一した爽やかさと爽快さをイメージした服ですわ」
そう言ってイリスがマントを脱ぐと現れたセクシーな衣装に身を包み微笑む。
「続きまして後行ルークさんのコーディネートを披露して頂きますわ」
「俺は、これ……俺の美しさを際立たせる夏らしく明るい色のカーディガンと海と空の色をイメージしたサテン柄のシャツこの赤と青の色の相性。如何だ、素晴らしいだろう」
マーガレットの言葉に今度はルークがマントを脱ぐと雑誌のトップを飾るモデルのようなスタイルで衣装を見せびらかせる。
「さぁ。お二方の衣装の披露が終わりましたわ。アイリス、審査をお願いします」
「は、はい」
彼女の言葉にアイリスは二人のファッションの何処が良かったかを考えた。
「決まりました……今回の勝負の結果は……」
「「「「……」」」」
彼女が次にどちらの名前を言うのかと皆は固唾を呑み見守る。
「結果は……イリスさんもルークさんもそれぞれどちらも素晴らしかったです」
「つまり、引き分けという事だね」
「はい、すみません……」
アイリスの言葉にイクトが言うと彼女は申し訳なさそうな顔で謝る。
「わたくしと互角の勝負をするとは、貴方なかなかやりましてね」
「そういう子猫ちゃんこそ。俺と肩を並べる戦いを繰り広げるとはなかなかだな」
お互い不敵に微笑み口を開くと賛嘆する。
「結果が引き分けでは仕方ありませんので、貴方がこのお店へと来ることを認めて差し上げましてよ」
「俺もこんなに熱い気持ちになったのは久しぶりだ。君の事認めてあげるよ」
二人はしっかりと握手を交わし合うと熱い友情が生まれたようで微笑み合う。
「はぁ……付き合っていられませんわ。アイリス、わたくしがファンクラブの会員の一員としてイリスの代わりに謝りますわ。こんな騒動を起こした事本当に申し訳ありません」
「そ、そんな。マーガレット様が謝ることはないですよ」
頭を下げるマーガレットへと慌ててアイリスは答えた。
「イリスには二度とこのようなはしたない騒動を起こさないようにきつく言っておきますわ。それじゃあ、彼女を連れてわたくしは帰ります」
「は、はい」
彼女が言うと未だルークと不敵に微笑み合っているイリスを連れて帰っていった。
「小鳥さん! 愚弟が迷惑かけたって聞いて飛んできたんだ。君達やお店に迷惑をかけてしまってごめんね。これ、お詫びの品だよ。……ルーク。小鳥さん達の店に迷惑をかけたらダメだって親父にも言われていただろう。親父カンカンに怒っていたぞ。さぁ、お前は今から家に帰って叱られて来い」
「いてっ……殴る事ないだろう。このバカ兄貴!」
フレイが飛び込んでくるとアイリスに菓子折りを渡してルークの頭をひっぱたく。それに彼が抗議の声を上げ兄を睨んだ。
「小鳥さん達の前だからこれで済んだこと有り難く思え。さぁ、お前は家に帰って親父にちゃんと事の次第を説明して来い」
「いてっ、引っ張るなよ。分かった、分ったから!」
ルークの耳を引っぱりながらお店から出ていくフレイ。
「「……」」
皆がいなくなり静かになったお店の中でアイリスとイクトはお互い顔を見合わせ小さく苦笑した。
「なんだか、一気に気が抜けましたね」
「そうだね。さ、アイリスせっかくだからフレイさんが持ってきてくれたお菓子を食べながら休憩しようか」
彼女の言葉に彼も同意すると二人は簡易台所へと向かいフレイが持ってきたお詫びの品であるお菓子と一緒に紅茶を注いでお茶を楽しんだ。
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